「施設や在宅でも良質な慢性期医療に」 ── 8月9日の会見で武久会長

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TOP_武久洋三会長20180809

 日本慢性期医療協会は8月9日、老健と介護医療院を主なテーマに定例記者会見を開きました。会見の冒頭で武久洋三会長は「日本で主に慢性期医療が行われている所であれば、病院でなくとも施設や在宅においても良質な慢性期医療にしていく責務が当会にはある」と述べ、老健や介護医療院、在宅などで提供されるケアの質向上に意欲を示しました。会見では、老健に関する調査結果を示したほか、日本介護医療院協会の新会長に鈴木龍太常任理事が就任したことを報告しました。

 この日の会見には、武久会長のほか、日本介護医療院協会の前会長である江澤和彦常任理事(倉敷スイートホスピタル理事長、日本医師会常任理事)、鈴木龍太会長(日慢協常任理事、鶴巻温泉病院理事長兼病院長)、田中志子常任理事(日慢協老健委員会委員長、医療法人大誠会理事長)が同席。司会進行を池端幸彦副会長が務めました。

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20180809会見全体
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 会見で武久会長は、「今回の同時改定では特養などの施設への医療の介入が評価された」としながらも、「特養、老健など居住系施設で提供される医療の質を懸念している」との認識を提示。このうち老健について、「37万床ある老健のすべてを同一機能に集約することはかなり難しいのではないか」との考えを示しました。その上で武久会長は、介護医療院の創設が老健の運営にも影響を及ぼすことに触れながら、「地方で人口の少ない地域のほか、特養や病院のない地域での老健はどうするべきか」と問題提起しました。

 続いて、日慢協の老健委員会で委員長を務める田中志子常任理事が「平成30年度介護老人保健施設の運営状況に関するアンケート」の結果を報告。「老健は在宅復帰施設としての機能を高めていかなければ、この先の運営は厳しい」と分析しました。田中常任理事は今回の調査結果を踏まえ、「さらなる質の向上を目指したい。『強化型』を取りたくても取れないが、頑張っている老健を応援するセミナーを企画したい」との意向を表明しました。

 最後に、日本介護医療院協会の前会長である江澤和彦常任理事が介護医療院の理念や役割などについて説明した後、新会長に就任した鈴木龍太常任理事があいさつしました。鈴木会長は「これからの医療、介護はダイナミックに変わっていくと思うし、介護医療院の開設もどんどん増えてくると思うので、今後の動きを注視して、皆さんと一緒に勉強しながら『介護医療院があってよかった』と思われるような施設にしてきたい」と抱負を述べました。

 以下、同日の会見要旨をお伝えいたします。会見資料は、日本慢性期医療協会のホームページ(http://jamcf.jp/chairman/2018/chairman180809.html)に掲載しておりますので、こちらをご参照ください。

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施設や在宅でも良質な慢性期医療にしていく

 
[武久洋三会長]
 本日は、①日本慢性期医療協会老健委員会における調査報告、②日本介護医療院協会の会長人事──の2つについて、ご報告したい。
 
 まず、①についてご説明する。現在、日本慢性期医療協会の会員は7対1等の一般病床や地域包括ケア病棟、回復期リハ病棟、医療・介護療養病棟を持ち、在宅医療や施設運営など多機能な活動をしている会員が多い。日本慢性期医療協会は、日本で主に慢性期医療が行われている所であれば、病院でなくとも施設や在宅においても良質な慢性期医療にしていく責務がある。

 特に、今回の同時改定では特養などの施設への医療の介入が評価された。日本慢性期医療協会は特養、老健など居住系施設で提供される医療の質を懸念している。

 日本慢性期医療協会は、会員病院や施設での医療が良くなればいいだけではなく、日本中の慢性期医療が良質で確実なアウトカムとなるよう努力している。病状やリハビリテーション、低栄養、脱水、認知症などの改善に関与し、入所だけでなく通所や訪問にも医療の提供を評価していただいている。

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老健すべてを同一機能に集約、「かなり難しい」

 老健は、日本慢性期医療協会の会員約1,200のうち約半分の会員が運営している。厚労省の調査によると、全国の老健はすでに37万床を超えている。

 老健は、「病院併設型」「福祉施設併設型」「単独型」「都市型・地方型」などに分類される。現状では、地域特性によって機能が全く異なる老健がある。今、37万床ある老健のすべてを同一機能に集約することはかなり難しいのではないかと考えている。

 介護医療院の創設により、老健は病院からの在宅復帰先から外れることとなった。特に、地方の人口の少ない地域のほか、特養や病院のない地域での老健はどうするべきか。

 日本慢性期医療協会は、医療機関や施設、在宅まで良質な慢性期医療を提供できるようにこれからも努力し続ける。日本慢性期医療協会の会員施設の老健の中で、まじめに運営しているにもかかわらず、制度によって運営が厳しい状況におかれているのであれば、日本慢性期医療協会は会員のために最大限の努力を惜しまない。

 今回の同時改定を踏まえて日本慢性期医療協会は7月下旬、老健を運営している会員に緊急アンケートを行ったので報告する。担当の田中常任理事からご報告をさせていただく。

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「強化型」の老健の割合が高い

[田中志子常任理事(医療法人大誠会理事長)]
田中志子常任理事_20180809 今回、老健委員会でアンケートを実施した。平成30年度介護老人保健施設の運営状況に関するアンケートをまとめたので、集計結果を発表する。当協会の老健150施設より回答を得ている。

 ほとんどが医療法人立の老健であるが、そのうち併設病院の状況について確認をした。療養病床と併設しているところが大変多いが、地域包括ケア病棟や急性期病院に併設している老健もある。

 17ページをご覧いただきたい。私たち日本慢性期医療協会の会員が運営している老健(協会老健)のタイプ別の数である。全老健の調査と比較した。協会老健では、「強化型」の老健の割合が高い。

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17_2018年8月9日の会見資料

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 回答施設の職員について、定員100名に対する常勤換算数を示す。基準配置と比較して、リハビリスタッフが7.2と多く、看護職員や介護職員も手厚く加配されている。それぞれの相談員等の配置も多い。協会老健では、特にリハビリスタッフの増強、看護・介護職員の加配や介護支援専門員などの配置にも力を入れていることが分かる。

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リハビリの配置について老健において二極化

 20ページは、今回の介護老人保健施設の算定のあり方に関する資料である。在宅復帰・在宅療養支援等の指標について、協会老健がどういったところで算定をしているかをアンケート調査した。

20_2018年8月9日の会見資料

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21_2018年8月9日の会見資料

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 在宅復帰率はそれぞれ30%ずつの算定であった。また、ベッド回転率については稼働の高い老健が多い。入所前後訪問、退所前後訪問のいずれも積極的に訪問をしている。居宅サービスの実施数は2サービス以上が多くなっており、グループ内のそれぞれの事業との連携によっていくつかの居宅サービスを持っている。

 リハ専門職の配置の割合であるが、「3以上」のところで41.8%となっている。先ほどの常勤換算の職員加配と少しだけ数字に齟齬が出ているが、分析すると、リハビリの配置については老健において二極化が進んでいると思われる。

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「充実したリハ」の算定がなかなか難しい

 22ページをご覧いただきたい。

22_2018年8月9日の会見資料

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 支援相談員も多く配置されている。また、要介護4または5の割合が35%以上の施設が約85%となっており、大変高い割合で重度の人をみている。喀痰吸引、経管栄養についても、ある一定数の利用者を受け入れていることが分かる。

 23ページをご覧いただきたい。

23_2018年8月9日の会見資料

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 在宅復帰、在宅療養支援等の指標を届出別の老健で分類した。「超強化型」「在宅強化型」「加算型」「基本型」「その他型」がそれぞれの点数で取っていることが分かるが、「加算型」であり、かつ60点から70点というところを算定している老健については、ポイント数から見ると「在宅強化型」が取れるにもかかわらず、実際の算定を「加算型」で取っていることが分かる。

 この原因は何か。分析したところ、「充実したリハ」の算定がなかなか難しいのではないかということが、先ほどのリハの配置数から分かった。

24_2018年8月9日の会見資料

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すべてのタイプの老健で稼働率が低く

 25ページをご覧いただきたい。

25_2018年8月9日の会見資料

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 上段が社会保障審議会の介護給付費分科会の資料から作成したグラフである。

 右側の青色は、高い稼働率を示している。こちらと比較して、下段の協会老健は稼働率の高い老健が大変多く頑張っていることが分かる。

 26ページをご覧いただきたい。

26_2018年8月9日の会見資料

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 介護報酬上の届出別の稼働率である。「加算型」「基本型」「介護療養型」「その他型」では基本報酬が下がってくるわけだが、この中でも、赤で囲ったように、なかなか稼働がうまくいっていない老健がある。そして、3年前の平成27年と比較した稼働率の推移に関する問いに対しては、すべてのタイプの老健で「稼働率が低くなっている」と回答している。

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満床稼働していても減収になっている

 27ページのスライドをご覧いただきたい。

27_2018年8月9日の会見資料

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 平成25年度と調査時点直近の決算期を比較した収支の推移についてのアンケートである。すべてのタイプの協会老健で、「収支が悪くなっている」という回答だった。

 この要因として、「参考」の数字をご覧いただきたい。平成30年度の介護報酬単位に対する平成24年度の報酬単位の比率である。「超強化型」の老健を除いては、すべての老健でマイナス報酬となっていることが分かる。

 従って、平成25年度に満床稼働しており、現在も満床稼働している同じ条件であっても減収になっている。老健は、在宅復帰施設としての機能を高めていかなければ、この先の運営は厳しいと言える。

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「強化型」と「強化型以外」で別々の課題

 続いて、その他のアンケート項目に対しての結果に対するコメントをご紹介する。今回、当協会では委員会の設置について確認した。感染症委員会、安全管理委員会等については、ほとんどの老健が設置していた。一方、倫理委員会、第三者委員会についてはまだまだ設置が進んでいないことが分かる。

 最後に、自由記載欄から抜粋した意見をご紹介したい。

 ・通所リハビリテーションの算定時間の変更により経営が厳しくなっている。
 ・医師の協力のもとで行うリハビリテーションマネジメント加算等の評価が高いが体制等の構築が困難である。
 ・所定疾患施設療養費にインフルエンザ・ノロウイルス感染症を入れてほしい。
 ・有料老人ホームなどが質を上げてきているので、競合先が増えている。
 ・田舎なので、退所させる先がない。
 ・人材不足のため、取りたい加算が取れない。
 ・病院からの紹介がなくなった
 ・「その他型」「基本型老健」から介護医療院への転換も可能にしてほしい。
 ・同一法人内で地域包括ケア病床と老健で患者様・利用者様の獲得合戦に発展するのではないか。
 また、「認知症ケアの評価が不十分」という意見もあった。

 これらの会員の意見をまとめて分析をした。
 「強化型」と「強化型以外」で別々の課題が見えた。
 「強化型」の課題については、「病院からの在宅先として認められなくなった」「稼働率が低下した」という意見に集約した。
 「強化型以外」の老健の課題としては、「田舎なので退所先がない」「人材が不足している」「介護医療院への移行を期待する」という意見に集約された。

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さらなる質の向上を目指したい

 今回の調査などを踏まえ、老健委員会の今後の予定をお示しする。まず、さらなる質の向上を目指したいと思っている。具体的には、設置が不十分である倫理委員会、第三者委員会の設置を推奨していきたい。また、アドバンス・ケア・プランニングを行うことができる協会老健を目指したいと思う。

 今回のアンケートから経営分析についても協会としてできることがあるのではないかと感じたので、経営セミナーを開催したい。「強化型」を取りたくても取れないが頑張っている協会老健を支援するセミナーを企画したいと思う。同一法人の病院等との効果的な連携モデルを構築し、セミナーにて紹介したい。

 さらに、これらを踏まえて政策提言をしていきたいと思っている。病院からも在宅復帰先として認可していただきたい。「強化型」になれない過疎・田舎の老健については、介護医療院への移行も検討してほしいという提言も発信していきたい。私からは以上である。

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日本介護医療院協会の新会長に鈴木氏

[司会(池端幸彦副会長)]
池端幸彦副会長_20180809 田中先生、ありがとうございました。いろいろご質問もあろうかと思うが、議題を進めさせていただき、最後にまとめてご質問等をお受けしたいと思う。

 次のページをめくっていただきたい。介護医療院に関することである。介護医療院については、ご存じのとおり、日本慢性期医療協会の会員が運営する介護療養型医療施設や、医療療養病床から移行することになる。日本慢性期医療協会の主要マターである。

 ご存じのとおり、江澤前会長はこのたびの日本医師会の役員選挙により、医療介護担当の常任理事となった。今後は、主に日本医師会の業務に専念していただくことになり、江澤先生が会長を辞任することを先ほどの理事会で正式に了解させていただいた。

 ただし、江澤先生については介護医療院制度に熱心に努力されてこられたので、引き続き副会長として、新会長を側面から援助して日本介護医療院協会の業務を果たしてほしいと思っている。

 そこでまず、江澤先生からごあいさつを頂く。日本介護医療院協会の理念や提供するサービス、役割などについて、お話しいただく。続いて、日本介護医療院協会の新会長にご就任された鈴木龍太先生からごあいさつを頂戴したい。先ほど、日本慢性期医療協会の理事会で鈴木先生に会長にご就任いただくことを議決した。

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引き続き側面から応援していきたい

[江澤和彦常任理事(倉敷スイートホスピタル理事長)]
江澤和彦常任理事_20180809 この春、日本慢性期医療協会の中に協会内組織として日本介護医療院協会が設立された。武久会長より、日本介護医療院協会の設立や理念の構築等に協力してほしいとの依頼があり、会長をお引き受けした。

 しかしながら、6月23日の日本医師会の代議員の選挙において、日本医師会の常任理事に立候補することになった。日本医師会の選挙への立候補に伴い、日本介護医療院協会の会長職を辞任させていただいたが、今まで関わってきたので、私のできる範囲で今後もご協力申し上げたいということで、武久会長から心温まるご配慮を頂き、本日の運びになった。

 そういう状況のなかで、正式に本日の当協会の常任理事会において、鈴木龍太先生が日本介護医療院協会の会長にご就任いただきまして、鈴木龍太先生には本当に感謝の気持ちしかない。

 今後、日本介護医療院協会の発展に鈴木先生が陣頭指揮をとって頑張ってくださることとなり、私も引き続き側面から応援していきたいと思っている。

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病院にとっては新しいチャレンジになる

 日本介護医療院協会では、理念をすでに掲げてホームページで公開している。本日、日本慢性期医療協会の常任理事会において、この理念についても当協会の正式なご承認を賜ったので、少しだけお時間を頂戴して、日本介護医療院協会の理念についてご説明させていただきたい。

 お手元に、「介護医療院の創設経緯と将来展望」という資料をお配りしている。一番右上に「ワーキンググループ座長 江澤和彦」とある。これは平成29年度老人保健健康増進等事業「介護療養型医療施設等から長期療養を目的とした介護保険施設等に移行する際の課題とその対応のあり方等に関する研究事業」の報告書の一部であり、私が執筆させていただいた介護医療院に関する総括になっている。

 それから「尊厳の保障」という資料がある。4年前、私が岡山県医師会の理事であった当時、私のライフワークである尊厳の保障というものについて書かせていただいた。岡山県医師会の会報の巻頭言であり、これも参考文献として付けている。これらを踏まえながら、本日は介護医療院の理念についてご説明させていただく。

 おさらいになるが、介護医療院とは介護保険上の介護保険施設で、生活機能あるいは生活施設という視点を持つ側面が一点、もう一つ、医療法上の医療提供施設、すなわち長期療養を行う施設ということで、介護医療院にはこの大きな役割、機能として2つの大きな柱がある。長期療養というのは、今までおそらく長年培ってきた、ある意味では得意技である。一方で、生活施設という視点では、もしかすると病院にとっては新しいチャレンジになるケースもあるだろう。

 従って、「尊厳を保障する介護医療院」を掲げ、おそらく要介護度4・5の重度な方が利用者の中心になるかと思うが、その重度要介護者に応じた自立支援の考え方、排泄であったり、嚥下であったり、いろいろな基本的な日常生活の自立を支援するということも非常に重要な役割である。

 一方で、介護医療院には、通所リハ、訪問リハ、短期入所療養介護、いわゆる通所・訪問・ショートという在宅の三本柱が備わっている。従って、在宅療養を支援することも可能であるので、終末期に在宅と介護医療院を行き来するケースもあるだろうし、いろいろなバリエーションが想定される。

 それから地域に貢献する施設である。地域住民に介護予防教室を開いたり、健康づくり教室を開いたり、あるいは介護医療院自体が認知症カフェを開催するということが期待されている。そして、地域に開かれた交流施設ということで、移行定着支援加算があるが、その要件にも「本人、家族、住民に説明すること」とあるので、例えば地域の住民の方にボランティアで入ってもらったり、あるいは地域住民と利用者の合同のイベントを開催するなどして、地域に開かれた透明性の高い施設を目指していくことが重要ではないかと考えている。

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病院側が介護施設の好事例を学んで実践する

 では、介護医療院にはどういうサービスの提供が期待されるのか。介護医療院は、病床から純粋な介護保険施設になる点が大きなポイントである。例えば看板が介護医療院に変わったが、提供しているサービスが全く一緒では、介護医療院の将来が不透明になってくる。

私がよくお話しさせていただいているのは、自院あるいは自法人の目指す介護医療院の姿というのを経営者から現場の職員まで共有していただき、それを目指して継続的に頑張っていく、継続的に努力していくことが重要だと思っている。当然これは一足飛びにできるわけではなく、介護でも質の高いケアの実現には年単位で時間がかかりますので、継続的に1年1年ステップアップして目指していただくところを、ちゃんと組織的に取り組んでいただきたいと思っている。

 介護医療院は生活施設となるので、利用者の意思・趣向・習慣を尊重するために、個別ケアを展開、実践することも一方策だと思っている。なお、誤解していただきたくないのは、今日ここでお示しするものはイメージであり、「こうでなければいけない」ということを求めているわけではなく、事業者の取組のヒントになればいいと思っている。

 個別ケアついては、例えば「利用者全員が同じ時間に起きて、同じ時間にご飯を食べる」という集団ケアをすでに脱却して個別ケアを行っている施設が多数ある。あるいは、要介護度4、5であっても檜のお風呂に入っていただくなど、そういった、いろいろな生活感あふれるケアの好事例が蓄積しているので、今回は病院側が介護施設の好事例を学んで、吸収して実践することがポイントである。

 ACP(Advance Care Planning)、すなわち人生の最終段階における医療ケアにおける取組みにおいては、ACPの介入時期が早すぎても失敗するし、遅すぎても役に立たない。ACPの話し合いをする介入時期にふさわしい状態の入所者が介護医療院に多くいらっしゃるのではないかと想定しているので、そういうことも重要な役割になる。

 その他、生活期リハビリテーション、廃用症候群の脱却、自立支援介護、それから、今回の同時改定で新加算として導入された摂食嚥下・栄養・口腔機能・口腔ケア・褥瘡防止、こういったものに関するニーズも多く存在するし、先ほど申し上げた在宅の三本柱、それから地域貢献活動も介護医療院の役割であると思っている。

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「ハード+ソフト」のプライバシー尊重も重要

 介護医療院における生活支援施設の役割について述べる。プライバシーの尊重については、決して間仕切りするだけではない。病院というのはどちらかというと治療や管理が中心であるが、介護保険施設というのは生活施設であるから、生活する本人の趣味、趣向、あるいはライフスタイルをきちんと尊重することとなるので、「ハード+ソフト」のプライバシーの尊重も重要になる。

 また、居場所づくりということ。個室ユニットケアなどでは、愛着のある物や長年使った物、写真、思い出のある物、あるいは仏壇等を持ち込んでいるが、今回はたぶん多床室型が多いと思うので、多床室でもそうした居場所づくりにどう取り組むのかが課題だと思っている。それから、いま一度生活環境、車いすの方たちが使いやすい施設になっているかどうか。移行定着支援加算も一定程度金額があるので、こういったハードのほうにも資金を投入することが可能であろうと思う。

 すでに国の基準には、「地域交流すること」「レクリエーションを開催すること」が明確に記載されている。生活感あふれる取組も今後期待されるところである。

 最後に、日本慢性期医療協会あるいは日本介護医療院協会の掲げる5つの理念である。いまお話ししたことをまとめると、尊厳を保障する施設、自立支援施設、入所・在宅療養施設、生活施設、地域貢献施設であり、当協会としてこの5つの理念を掲げている。

[司会(池端副会長)]
 ありがとうございました。では最後に、本日付で日本介護医療院協会の会長にご就任された鈴木龍太先生からごあいさつしていただく。

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「あってよかった」と思われるような施設に

 
[鈴木龍太会長]
鈴木龍太会長_20180809 このたび日本介護医療院協会の会長を拝命した鈴木龍太である。本当に役不足であるが、お受けすることになったので、今後ともよろしくお願いしたい。

 介護医療院は、すでに2,000床程度開設されている。介護療養病床、転換型老健、それから医療療養病床2であったところの数を考えると、これから数年のうちに5万から10万床になる可能性があるのではないかと私は思っている。それだけニーズの高いものであると思う。

 今、江澤先生のお話にあったが、今までの介護療養病床との大きな違いは、医療の提供だけでなく、住まいとしての機能だと思っている。自立、参加、そして地域との交流、これが大きなキーワードになってくると思っている。それを今、発表があった理念にも盛り込み、それに則って進めていきたいと思っている。

 今後、ダイナミックに変わっていくと思うし、介護医療院の開設もどんどん増えてくると思うので、今後の動きを注視して、皆さんと一緒に勉強しながら、「介護医療院があってよかった」と思われるような施設にしてきたいと思っている。よろしくお願い申し上げる。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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