消費税対応、「赤字の事業所に温かな対応を」 ── 社保審分科会で武久会長
来年10月に予定されている消費税率10%への引上げに向け、日本慢性期医療協会の武久洋三会長は7月4日に開かれた厚生労働省の会議で、「事業所にしわ寄せがくるような対応だけはしていただきたくない。結果的に、いろいろなサービスの面で利用者にしわ寄せがいくと非常に困る」と指摘した上で、「赤字化している事業所に対する温かな対応を期待したい」と述べました。
厚労省は同日、社会保障審議会(社保審)の介護給付費分科会(分科会長=田中滋・埼玉県立大理事長)を開き、武久会長が委員として出席しました。
厚労省はこの日の分科会で、「消費税率10%への引上げ時における対応に関する論点(案)」を提示。これまでの検討状況などを振り返った上で、「特に、今後の検討に当たっては事業所等の実態の把握が必要になる。このような中で、①から③までの事項の把握について、どのように考えるか」と意見を求めました。
具体的には、①介護サービスの課税割合、②介護サービス施設・事業所における設備投資の状況、③食費・居住費の平均的な費用額──の3点について今後の方向性を示しました。
このうち②については、消費税率8%への引上げに向けた対応時の調査結果を挙げ、「介護サービス施設・事業所の高額な投資は、建物が太宗を占めており、医療と比べて、総額、件数ともに小さい傾向にあること(中略)が明らかとなった」と指摘。「この調査結果を基本としつつ、直近の状況については、介護給付費分科会において関係団体のヒアリングを実施することにより把握することとしてはどうか」と提案しました。
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代払いの継続、「ボディブローのように効く」
質疑で武久会長は、「損税とならないように最大限の努力をしていただくことが必要」との認識を示した上で、「事業者が代払いするようなことが継続すると、ボディブローのように効いてくる。介護保険施設では、非常に運営が厳しくなっている」と指摘しました。また、高額な投資への対応にも言及し、「建築が『太宗を占める』と書いてありながら、建築に対して何かするということは一言も書いてないのはアンバランス。『太宗を占める』のに何もしない」と苦言を呈し、今後の対応を求めました。
【武久会長の発言要旨】
当然のことだが、消費税は最終消費者が支払うものという大前提があるわけだが、医療や介護などに関しては課税対象としないということで、最終消費者は支払わなくていい。すなわち、事業者が代払いするような形になっているのが現状である。そのため、事業者が代払いする場合に損税とならないように最大限の努力を担当部局にしていただくことが必要である。介護報酬による補てんがほんの少しなされても、事業者が代払いをするようなことが継続すると、ボディブローのように効いてくる。
介護保険が2000年に始まって以来、最近では介護報酬が実質的に下がっている可能性が非常に高い。このため、介護保険の施設では非常に運営が厳しくなっている。特養などはかつて優等生だったのに、だんだん厳しくなってきているという現状も明らかになっている。
論点案に「建築が『太宗を占める』と書いてありながら、建築に対して何かするということは一言も書いてない。このアンバランスは、この文章を読むと非常に分かりにくいところがある。「太宗を占める」のに何もしない。こういう論拠はどこから来ているのか。
結局、10万円以上の高額な投資については、介護報酬で補填をするとは言いながら「少しはみなさいよ」と言うのであれば、それはそれなりに運営ができるようにしていただかなければいけないと思う。医療保険に準じて介護保険も対応していただけるとは思うが、事業所にしわ寄せがくるような対応だけはしていただきたくない。
結果的に、いろいろなサービスの面で利用者にしわ寄せがいくと非常に困ったことになる。われわれは医療に対する消費税がどうなるかということを注目しながら、同時に並行して介護保険に対する消費税にどう対応するか。赤字化している事業者が多いので、ぜひ担当部局には、赤字化している事業所に対する温かな対応を期待したい。
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多くの施設がこれから建て替えの時期
高額な投資への対応については、他の委員からも発言がありました。東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)は「老人保健施設の場合、創設から20年から30年経っており、多くの施設がこれから建て替えの時期を迎えていると会員からも聞いている」と指摘。「建て替えの際には、かなり高額な費用が掛かり、消費税負担も大変大きいと考えられるので、ぜひ今後はそういうところも考慮していただきたい」と要望しました。
また、日本医師会委員の代理として出席した当協会常任理事の江澤和彦参考人(倉敷スイートタウン理事長、日本医師会常任理事)は、「武久委員と東委員からもご意見があったが、特に建物に対する高額投資の対応が非常に重要な論点だと思っている」と切り出し、「介護事業所は経営規模がかなり小さかったり、経営体力が必ずしも高くない所が多いと感じているので、そのあたりの配慮が必要と思う。これに関しては医療保険と足並みをそろえていくことが大前提だと思うので、そのあたりを検討していただきたい」と求めました。
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処遇改善加算、「勤務場所によって処遇が変わる」
この日の会合では、介護職員の処遇改善についても議論がありました。武久会長は、同じ介護職員でありながら病院の介護職員は処遇改善加算の対象になっていないことを指摘。「病院の中にも非常に多くの高齢者がいて、介護が必要な人が非常に多くなっているにもかかわらず、介護にだけ、こういう優遇をする。勤務する場所によって大きく処遇が変わるようなシステムを考え直していただけるとありがたい」と不均衡の是正を求めました。これに厚労省老健局老人保健課の鈴木健彦課長は「診療報酬を担当する医療課とも連携を取り、ご意見があったことを伝えたい」とコメントしました。
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介護療養の処遇改善、「足りない結果が出ることを恐れる」
厚労省は同日の分科会で、「平成30年度介護従事者処遇状況等調査の実施(案)」を示し、大筋で了承を得ました。キャリアパス要件(Ⅰ)または(Ⅱ)を満たすことが困難と回答している事業所について、さらに具体的な事情を調査するなど一部の項目を変更して今年10月に実施する予定です。
前回の調査では、介護職員処遇改善加算を取得している事業所は全体で91.2%でした。施設別に見ると、介護老人福祉施設が最も高い99.0%でしたが、介護療養型医療施設は69.1%と最低の取得率になっています。武久会長は「今回の(平成30年度)調査をしても、介護療養型医療施設は処遇改善に対する配慮が十分に足りないという結果が出ることを恐れている」と指摘しました。
【武久会長の発言要旨】
毎年の調査で、大変ご苦労さまでございます。これまで介護療養型医療施設の処遇改善加算の取得が高くない結果が出ているのはご承知のとおりである。介護職員の処遇改善と言いながら、介護保険担当の部署と医療保険がある。病院が処遇改善加算の対象になっていない。介護療養型医療施設は病院内にある。ほかの病棟の介護職員に対してバランスを取らなければいけないので、病院の経営者からすれば、病院職員のお金は国から出していただけないので、自助努力ということになる。残念ながら介護療養型医療施設はその影響を受けて、十分に処遇改善が行われてないという現状がある。
政府は、10年以上勤務している介護福祉士に対して月額8万円相当の処遇改善という措置をとる方針だが、いずれも介護保険施設である。しかし、病院の中にも非常に多くの高齢者がいて、介護が必要な病棟がある。急性期病院の中でも介護が必要な人が非常に多くなっているにもかかわらず、なぜ介護施設にだけ、こういう優遇をするのだろうか。
厚労省内には、医療と介護の連携を推進する(医療介護連携政策)課が設置されている。今回の同時改定では介護に対する医療のサポートを評価していただいており、医療と介護が非常に密接になろうかというところだが、残念ながら、制度的には全く違う数字で出ている。
病院の中の介護療養型医療施設は今度、介護医療院に変わる。病院併設の老健や特養等もある。病院の介護職員も同じように給与を上げるために、病院経営者は苦労しているのが現状である。ここはやはりトータルで見る必要がある。日本の介護職員がだんだん少なくなってきている中で、病院でも介護職員は必ず必要なスタッフなので、このあたりの処遇の差をもう少しお考えいただけたら非常にありがたいと思う。
たぶん今回の調査をしても、介護療養型医療施設は処遇改善に対する配慮が十分に足りないという結果が出ることを私としては恐れている。その背景には、いま申し上げましたようなことがある。同じ介護職員でありながら、勤務する場所によって大きく処遇が変わるようなシステムというのは考え直していただけるとありがたいと思う。
(取材・執筆=新井裕充)
この記事を印刷する2018年7月5日