療養病棟入院基本料の医療区分について見解 ── 中医協総会で池端副会長

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20231222中医協総会

 当会の池端幸彦副会長は12月22日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第557回会合に診療側委員として出席し、療養病棟入院基本料の医療区分などについて見解を示した。

 池端副会長の発言要旨は以下のとおり。
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048_入院(その9)

■ 療養病棟入院基本料の医療区分について
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【池端幸彦副会長】
 資料「総─5」入院(その9)の43ページ以降に療養病棟入院基本料の医療区分に関するデータが示されている。医療区分の大きな見直しについて、おそらく最後の機会になる可能性もあると思うので、少しお時間を頂戴して意見を述べる。その前に、3点ほど質問させていただいて、その回答を踏まえてコメントさせていただく。
 まず1点目は48ページ。「医療区分3と、疾患・状態と処置等の組合せによる医療資源投入量の比較」にあるように、今回、医療資源投入量をもとに医療区分の大幅な見直しを考えておられる。確かに、医療資源投入量は入院料に関する評価項目の1つではあると思う。しかし、入院基本料の構成要素は医療資源投入量のみではない。医療資源投入量が唯一無二のものでもない。看護の手間や療養環境など、医療資源投入量以外の要素がある。 
 そこで、まず48ページの見方を教えていただきたい。縦軸が「病日」で、横軸の一番左端「0─25」から一番右端の「1,475以上」まである。この点数はおそらく出来高の点数ではないか。DPCデータから引き出した出来高の医療資源投入量の点数だろうと思うが、それでよろしいか。療養病床でも算定できる手術やリハビリ、あるいは包括外の薬剤などの出来高点数がこの医療資源投入量に入っているのかどうか。これがまず1点目の質問である。
 2点目は、医療区分が導入された経緯について。私の記憶では、中医協の診療報酬調査専門組織「慢性期入院医療の包括評価調査分科会」で実施した「タイムスタディ調査」の結果を踏まえて導入された。慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教授(当時)の池上直己先生が分科会長を務め、 医師・看護師等の1分間タイムスタディを取って、それを精緻化し、医療資源投入量と置き換えて、現在に至る医療区分、9区分が決まった。その際、「処置」という医療資源投入量は考慮されていなかったと記憶しているが、それで正しいか。
 3点目は、「タイムスタディ調査」がその後も実施されたかどうか。医療区分の見直しについては、2006年度改定で導入されてから20年近く、改定のたびに見直しが検討されたが、私の知る限りにおいては、例えばDPCデータをもとに重症度等を照らし合わせても比較的、現行の医療区分との大きな差異はないということで、同じ9区分のまま維持されてきたと認識している。20年前、最初の立てつけに用いた1分間タイムスタディのデータを再度、見直すことはなかったと記憶しているが、それで正しいか。以上の3点を先にお伺いしたい。その上で、意見を述べる。

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【厚労省保険局医療課・眞鍋馨課長】
 48ページと過去の経緯に関するお尋ねであると承知した。まず、48ページ目。こちらが包括範囲の出来高点数かどうかというと、そのとおりである。48ページ目に、医療区分1・2・3で、この縦の棒グラフをずっと並べているが、それぞれ包括範囲の出来高点数の積み上げとなる。一方、この包括範囲外のものは、ここに含まれていない。そういう理解で結構である。
 次に、平成18年の時の経緯については申し訳ないが、今日は資料を用意していないので、私の記憶の限りで、若干、不正確な部分はあるかもしれないが、そのときに行ったタイムスタディ調査をもとに、この医療区分をつくったのは事実だと承知している。
 また、そのときに、そのタイムスタディにおける、直接処遇時間とか、その分布、それぞれの疾病名、それから処置などに応じて、どのように分布するかということを統計的に解析して、その手間のかかり具合とか、あるいは医療資源投入量。ここで「医療資源投入量」というのは「診療報酬点数表」なのか、あるいは「人のコスト」なのかというところで申し上げると、「人のコスト」について着目した分類になったということも事実だと思っている。その後、この医療区分を変えるためにタイムスタディは行われていない。

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【池端副会長】
 ご回答を踏まえて意見を述べる。まず、48ページ以降の資料では、「疾患・状態」と「処置」の組み合わせで分けて、それぞれ医療資源投入量の目線で、この棒グラフができている。総じて、当然、「処置」のほうが医療資源投入量は多く出る。「疾患・状態」では医療資源投入量が低く、「処置」が多い。すなわち、「処置」が多ければ多いほど高く点数を設定すべきではないかというグラフに読み取れる。
 しかし、そもそも医療区分というのは、医療資源投入量「以外」も合わせたものである。例えば、医師の指示の見直しや診察頻度、看護師の手間、あるいは看護師が患者さんたちに携わる頻度などが含まれた重症度ということで、この医療区分が出来上がっている。医療資源投入量以外の「汗のかき方」というものが、ちゃんと医療区分に入っている。
 ところが、今回の医療資源投入量だけのグラフで見て、これを27区分にしようとすると、当然ながら「処置」区分の医療資源投入量が多い。「処置」をすれば高い。「処置」をしなければ低い。そうなると、この究極は出来高払いになってしまうと思う。したがって、本来、包括的にちゃんと患者さんをみるということが重要な療養病床において、慢性期の患者さんの見方として、かなり偏ったものになってしまうのではないか。具体的には「疾患」の医療区分。パーキンソン病関連疾患等が急性期から送られてきて慢性期でみる場合、肺炎を起こしたり酸素を投入したり抗生剤を使ったりすれば「処置」区分が上がるだろう。そういうことがなくて、薬の調整でオンオフがあって、日々、非常にADLが変わっていくことに対して、毎日、診察をして、そして状況を見て、薬の調合を変えたり、あるいは生活支援をしたり、いろいろ看護の必要量を提供したりということをやっているだけでは、おそらく、この見方だと、疾患の医療資源投入量は非常に低いままという可能性がある。27区分にすることに対して私はちょっと違うのではないかという印象を持った。
 今さらと思われるかもしれないが、私は昨日、ずっとこの図を見て、何かすごく、現在の病院の中の患者像と、ここに出てきた状態がむしろ合わない。イメージが合わない。何か違和感をすごく感じた。その違和感は何かと考えたら、今述べたようなことに気づいたので、今日、ここでお話しさせていただいた。もちろん、今さらということで、「ガラガラポン」にするのは、なかなか難しいかもしれないが、「疾患」で医療区分2・3になっているところの重要性もしっかり加味していただいた上で、重みづけについては慎重に、慎重を重ねて検討していただきたいということを私の意見として言わせていただきたい。
 27区分になることによって、おそらく特に処置区分が非常にデリケートになってくる。例えば、3日間は医療区分3で、その次は「2」あるいは「1」ということが常に出てくるとなると、27区分を毎日毎日チェックする。電子カルテが入っている医療機関ならいいが、200床以下の療養病床における電子カルテの導入率は50%未満なので、事務的な負担がものすごく膨大になってくることが想定される。そこで事務局に質問する。この事務量について何か想定しているお考えがあるか。相当な手間がかかるだろう。私どもの協会でも、いろいろなシミュレーションをしているが、総じて「大変だ」という声が聞かれる。
 いずれにしても、療養病棟入院基本料に関しては、このままでは大幅な上げ下げがある。上がることは少なくて、下がることが多いのだろう。相当な激変緩和も一方で考えていただかないと、本当に療養病床が成り立たなくなるどころか、急性期病院から今まで受け入れていた患者さんを受け入れることができなくなってしまう。「処置」が一切なくて「疾患」で受け入れた患者さんの場合には大幅に点数が下がってしまい、とても経営は成り立たないから受け入れないということになってしまうと、その患者さんはどこに溜まるか。むしろ出来高で、それ以上高い急性期病院に溜まってしまうという逆の現象が起きてしまう。それは医療費全体としても決していいことではないと思う。その辺のシミュレーションもしていただきながら、ぜひ再度、ご検討をいただきたいと思っている。
 今回、新たに示していただいたシミュレーションも大事だが、私たちが求めているシミュレーションは経営面への影響である。療養病床の管理者の方々が一番気にしているのは、現在の医療区分で収入がこれだけあるのが、新しい27区分になって激変して下がるのか、下がらないのか、少し上がることもあるのかということ。非常に不安定な状況になっている。新しい医療区分で、どれだけの経営資源が増えるのか減るのかが一番心配なところ。そういうシミュレーションをぜひ示していただきたい。もちろん病院名は出せないと思うが、これぐらいの中に収まりますよというシミュレーションをお示しいただかないと、賛成しますとは言い切れない。非常に難しいシミュレーションかもしれないが、検討していただきたい。

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【眞鍋課長】
 事務手続きについて、現場でチェックする項目が増えるのではないか、それを毎日、観察することで負担が増えるのではないか、そこに対する配慮は、というお尋ねである。
 私どもが今回ご提案しているものは、現行の医療区分の中に、既に「疾患・状態」としてあるもの。そしてまた「処置」として掲げられているもの。この項目自体をそれぞれ変更するということは想定してないということはご説明を申し上げており、それを組み合わせて評価をしましょうというふうに提案している。そのため、現在、療養病床でチェックいただいている、それぞれの患者さんがどの「疾患・状態」で該当するか、それから、どの「処置」をしている、していないということに関しては、正直なところ、私どもとしては、これまでやっていただいている手間の中で吸収できる範囲のものだろうと思っている。つまり、新しく何か追加して項目を増やすということは今のところ想定しておらず、それを組み合わせましょうということである。
 一方で、平成18年のときにも、確か患者さんへ提供する、日々どの状態に該当しているかというマークシートのような書式があって、そこには医療機関で必ずチェックをしていただいて患者さんに交付していただいているものだと思う。あれからも、27区分というのは、すぐにつくれるものだったと承知している。
 私どもとしては、今回は考え方をより精緻にするということで、現場のご負担、そのチェックの負担というのはあまり増えない方向でいけるのではないかなと思っている。

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【池端副会長】
 ということは今、やっている表を超えて、いろいろとさらに精緻化するものを求めるものではないということで理解させていただいてよろしいだろうか。承知した。それであれば、一定程度、対応ができる可能性は高いと思う。
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■ 病院における歯科の機能に関する評価について
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 11月17日の総会では、「回復期医療、慢性期医療を担う病院の歯科機能を強化するにあたり、慢性期療養病床入院患者に対する歯科治療の必要性などについてエビデンスを示すべき」との指摘があった。それを踏まえ、今回の資料では「慢性期病棟における患者の口腔状況と歯科の連携状況」などが示されている。それによると、慢性期病棟を主とする病院において、歯科医師による摂食嚥下障害への対応と歯科衛生士による口腔機能管理、及び多職種連携による経口維持計画の作成等を行うことにより、経口摂取患者の割合が増加した。また、慢性期病棟を有する病院に勤務する看護師が病棟に勤務してほしいと考える専門職について、療養病棟では介護福祉士に次いで歯科衛生士が多い。慢性期病棟と歯科が連携する上で歯科衛生士が非常に有効で要望も多いことがわかる。
 しかし、歯科衛生士の採用が難しい。人材が非常に不足している状況にあり、常勤で慢性期病棟に入っていただける歯科衛生士は少ない。そうした中で、比較的、少し余裕があるというか、入っていただきやすいのが言語聴覚士である。口腔ケアについては歯科医の指導のもとで言語聴覚士が歯科衛生士に代わって担当している慢性期病棟も多い。
 資料13ページ(看護師が病棟に勤務してほしいと考える専門職)を見ると、歯科衛生士は医療療養80.3%、介護療養79.7%と多いが、言語聴覚士に対する要望も医療療養76.1%、介護療養71.6%と多い。口腔ケアにおける言語聴覚士が果たす役割も大きいし、非常に有効であるということをコメントさせていただく。

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