医療DXの基金、「早い時期に示して」 ── 中医協総会で池端副会長

審議会 役員メッセージ

池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_2023年4月26日の中医協総会

 電子カルテ情報の標準化や改定時期の後ろ倒しなどを盛り込んだ「医療DX」の議論が始まった厚生労働省の会合で、医療機関の費用負担を懸念する声が相次いだ。日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は基金の運用に言及し、「できるだけ早い時期に示してほしい」と求めた。

 厚労省は4月26日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第543回会合をオンライン形式で開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 厚労省は同日の総会に「医療DXについて(その1)」と題する資料を提示。「医療DX」の内容や方向性を示した上で5項目の論点を挙げ、委員の意見を聴いた。

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64_【総-4】医療DXについて(その1)_2023年4月26日の中医協総会

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負担軽減が最も有効な普及推進策

 1番目の論点に示された「3文書6情報」の普及促進について長島公之委員(日本医師会常任理事)は「より質の高い医療提供が今以上に可能になる」と期待しながらも、「医療現場の業務や費用の負担が増大し、肝心の医療提供に支障をきたすようでは本末転倒」と指摘した。

 その上で、長島委員は「医療DXの新しい機能が追加される場合には、医療機関側の導入時および毎日の業務負担ができるだけ小さくなるようなシステムを構築すべき」とし、「費用に関しては必要かつ十分な支援がされるべき。負担軽減が最も有効な普及推進策」と述べた。

 池端副会長は「地域医療を担う200床未満の病院や有床診療所等の現場が大変な思いをしている」と伝え、「電子カルテ導入には数千万円の資金がかかるため、二の足を踏んでいる現状もある」と対応を求めた。池端副会長の発言要旨と事務局の説明は以下のとおり。

【池端幸彦副会長】
 1番目の論点に挙げられた「全国医療情報プラットフォームの構築や電子カルテの情報の標準化」について質問する。
 電子カルテの標準化はもちろん進めていただきたいが、残念ながら200床以下の中小病院や診療所も含めて、まだ電子カルテ化がされていない医療機関が相当数あるのではないか。それに対する一定程度の支援がなければ、全国津々浦々の全ての病院で、このプラットフォームの共有ができなくなると思う。電子カルテの普及に向けた支援等は保険局のマターではないと思うが、どのように進める予定だろうか。
 また、現在の最新情報で、病院・診療所の電子カルテの普及率の数字がわかれば教えてほしい。地域医療を担う200床未満の病院や有床診療所等の現場が大変な思いをしている。一方で、電子カルテ導入には数千万の資金がかかるため、二の足を踏んでいる現状もあると思う。それについての対応をお伺いしたい。
 なお、スケジュールを見ると「共通算定モジュール」の導入は次の改定になりそうだが、少しでも早く進めていただけるとありがたい。

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【厚労省保険局医療課・眞鍋馨課長】
 「池端委員から、できるだけ早く取り組みが進むと望ましいというコメントをいただいた。私たちはDXのメリットを享受してもらうため、こうした取り組みの普及が望ましいと考えている。
 一方で、「共通算定モジュール」に関しては、日々、窓口で患者にも自己負担を計算する際に活用してもらうように想定している。この複雑な診療報酬体系を反映して、間違いのない形での運用も重要であると考えている。それらをきちんと検証しながら進めていく中で、うまくいけば、お示ししたスケジュールで進められるのではないか。

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【厚労省医政局・田中彰子参事官】
 中小の医療機関の電子カルテの普及率について把握している令和2年の電子カルテシステムの普及状況は、一般診療所では49.9%、200床未満では48.8%である。一方で、400床以上の病院では91.2%と、おおむね9割を超える医療機関で導入が進んでいる。
 中小病院や診療所への普及策として、オンライン資格確認のシステムの導入や電子処方箋の導入に活用している情報化支援基金を使い、標準的な仕様に準拠した電子カルテへの改修や新規の導入等については、この基金を活用し、一定の補助を行うことを現在検討している。
 ただ、さまざまな仕組みが医療機関や薬局に急速に広がる中で、ベンダーの対応も模索しているという話を聞いているため、そのような現場の状況を踏まえながら、この基金の活用について開始時期などを検討していくことになるだろう。

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【池端副会長】
 回答によると、電子カルテの普及率が中小病院・診療所とも50%未満。これをいかに早く100%に近づけるか。医療DXの基盤となるオンライン資格確認と電子カルテが重要であると考える。
この点、基金の運用について「この時期までにこういう手挙げをしてほしい」という時期をできるだけ早く示していただけると、中小病院や診療所も電子カルテ化に向けて動き出すと思うが、それが示されない限り、なかなか動きにくい。「先に動いてしまって、かえって補助金もらえなくなると困る」と懸念する声も多く聞かれるため、できるだけ早い時期に示していただきたい。
 資料16ページ(医療DXに関する施策の現状と課題)には、「今般の医療DXの推進により実現すること」として、「小規模な医療機関向けに、標準規格に準拠したクラウドベースの電子カルテ(標準型電子カルテ)の開発を検討」との記載がある。
 もし、これが早期に実現できるのであれば、その完成を待とうという施設もあるだろう。そこで質問だが、これが数年単位なのか、または5年、10年先を想定しているのか。現時点での考えがあれば教えていただきたい。 
 なぜなら、電子カルテは導入を決め、ベンダーを選定し、実際に運用するまで最低でも半年ぐらいかかる。医療DXのさまざまな仕組みが前のめりでスタートダッシュしているので、電子カルテ化されていない所も早く進めていただきたい。そのためには、基金の使い方なども含めて、早くその時期を示さないと、なかなか動かないのではないかという気がするので、よろしくお願いしたい。

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【厚労省・田中参事官】
 中小規模病院や診療所向けの電子カルテの普及は大変重要であることは承知している。  
 26ページに「診療報酬改定DXの対応方針 取組スケジュール(案)」をお示ししている。「診療所向けには、一部の計算機能より、総体的なシステム提供による支援の方がコスト削減効果が高く得られるため、標準型電カルと一体型のモジュールを組み入れた標準型レセコンをクラウド上に構築して利用可能な環境を提供」と記載しており、診療報酬改定DXとクラウド型の標準電子カルテの提供は一体的に行われるべきと考えている。 
 時期については、この春の工程表の中で一定程度、示すことができると思っているが、システムの開発を伴うものであるため、長年、この日本で1つの電子カルテという議論があったものを実現するには、それなりのしっかりした検討と必要なシステムの開発ということがあるので、あくまで目安であるが、工程表で示すことができればと考えている。

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4月改定を動かせばバランスが崩れる

 改定時期の後ろ倒しなどを含む「診療報酬改定DX」については、診療側から現場への影響などに配慮するよう求める意見があった。薬価改定との関係を指摘する声もあった。

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02論点_【総-4】医療DXについて(その1)_2023年4月26日の中医協総会

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 診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は「改定の施行時期の後ろ倒しは財政影響や改定結果の検証期間はもちろん、薬価改定や、それらに関する調査の時期や期間等にも影響する」とし、「改定の在り方などを含め、慎重に検討していくべき」と述べた。

 支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「4月改定を動かせば全体のバランスも崩れる懸念がある」と指摘した。

 その理由について松本委員は「医療現場において改定後、半年程度の価格交渉期間が必要であり、毎年9月に薬価調査を実施し、翌年度に薬価改定を行うサイクルを前提とすれば、4月に施行しなければ薬価制度の根幹を揺るがすことになりかねない」と危惧した。

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対応できるベンダーが少ない

 3つ目の論点(電子処方箋)について診療側の林正純委員(日本歯科医師会常務理事)は「手挙げ歯科診療所数は一定数あるが、まだまだ実装しているとは言い難い」と指摘し、今後の推進策について見解を求めた。

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03論点_【総-4】医療DXについて(その1)_2023年4月26日の中医協総会

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 この日の資料によると、1月26日から運用を開始した「電子処方箋管理サービス」が稼働しているのは「病院9、医科診療所224、歯科診療所9」にとどまっており、薬局(2,803)を含めて3,045施設となっている。

 厚労省・電子処方箋サービス推進室の伊藤建室長は「歯科の所で対応できるベンダーがまだ少ない状況」と説明。今後については「各ベンダーに対して導入計画の策定を依頼しているので、歯科を含めて対応可能なベンダー数をしっかり増やしていく」と述べた。

 池端副会長は費用負担をめぐる問題のほか、院内の処方とのリンク、HPKIカードの認証などを課題に挙げ、厚労省の見解を求めた。

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2023年4月26日の中医協総会

【池端副会長】
 電子処方箋等の有効性は理解しているが、一方で現在モデル事業等で参画している病院の先生にお聞きすると、いくつかの大きな課題があるようだ。
 例えば、まず端末に関してオンライン資格確認等システムの場合のように全額補助ではなく、最大で半額補助になっていること。それから、自身の電子カルテとつなげる場合の負担は病院にかかっていること。さらに、そうした費用負担のほかにも、例えば重複投与等を避けるために情報を共有するには有効だと言いながら、院内の処方とのリンクができていないこと。これをリンクするためには、まだもう1つ仕掛けが必要だということ。
 それから、HPKIカード、いわゆる認証するための電子認証の方法であるが、現在、個人の医師等の認証しかなく、タイムリーな変更等が非常に大変だということをお聞きしている。その辺について、カードレスとか、あるいは施設、病院ごとの認証をするとか、そういう方法を考えられないのか。現状でわかっていること、あるいは検討されていることがあれば、教えていただきたい。

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【厚労省医薬・生活衛生局総務課電子処方箋サービス推進室・伊藤建室長】
 院内処方とのリンクが張られていないという問題については現在、機能拡充に向けた検討を進めている。これはすぐに対応するのは難しいが、院内を含めた電子処方箋の活用について、しっかりと検討を進めていくつもりである。
 電子署名に必要なHPKIについて、個人でしか紐づいていないため組織でも使えるような柔軟な使い方ができないかという質問に対して、現状では医療安全管理ガイドラインに基づいて、医師や薬剤師、電子署名が必要な方に紐づいた形で利用をお願いしている。
 ただし、これでは異動等も含めて、カードが十分に行き渡らないなど、不便をおかけしているような状況もあるので、優先発行の仕組みなどもつくりながら、一人ひとりの先生方にしっかり届くような形で円滑に進めるように取り組んでいる状況である。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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