賃上げシミュレーション、「管理栄養士は?」 ── 中医協分科会で井川副会長

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井川誠一郎委員(日本慢性期医療協会副会長)_20231221入院外来分科会

 医療従事者の賃上げに向けた診療報酬上の対応について議論した厚生労働省の会合で「薬局の事務職員も含めてほしい」との声があった。日本慢性期医療協会の井川誠一郎副会長は「管理栄養士らも含めたシミュレーションはできるか」と尋ねた。厚労省の担当者は「一定の限界がある」と答えた。

 厚労省は12月21日、中央社会保険医療協議会(中医協)の診療報酬調査専門組織である「入院・外来医療等の調査・評価分科会」の令和5年度第11回会合を開き、当会から井川副会長が委員として出席した。

 厚労省は同日の分科会に「医療機関等における職員の賃上げについて(その1)」と題する資料を提示。改定率を決めた20日の大臣折衝事項を踏まえたシミュレーション結果を示し、委員の意見を聴いた。
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00スライド_論点

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「40歳未満」の制限がかかるのは

 大臣折衝事項では、「40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師、事務職員、歯科技工所等で従事する者の賃上げに資する措置分」として、「+0.28%程度」としている。

 また、「+0.61%」の対象となるのは、「看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種(上記※1を除く)」としている。

 質疑の前半では、この大臣折衝事項の読み方が問題となり、対象職種に関する質問が相次いだ。「40歳以上の勤務医師は含まれるか」「経験年数は考慮しないのか」との質問もあった。
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01スライド_大臣折衝抜粋

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 厚労省の担当者は、「40歳未満」という制限がかかるのは「勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師」までで、「事務職員、歯科技工所等で従事する者」は40歳以上も含むという考え方を説明した。

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難しいことをやろうとしている

 大臣折衝事項に挙げられた対象職種を踏まえ、厚労省は「1%」の賃上げを行うために必要なシミュレーション結果を提示。入院基本料等(病院)、初再診料(医療機関)、調剤基本料(薬局)に点数を上乗せする対応を想定している。

 今回のシミュレーションで「1%」としたのは、「大臣折衝が行われる前から準備していたので」(厚労省担当者)と説明した。

 病院に関するシミュレーションは、①入院基本料等別に計算する場合、②病院別に点数を計算する場合──の2パターンで、説明の中で「ばらつき」という言葉が多く使われた。

 質疑で、猪口雄二委員(日本医師会副会長)は「補填率がほぼゼロに近いところから倍ぐらいのケースまであり、収れんされているとは思えない。とても難しいことを今やろうとしている。本当に3回でやれるのだろうか」と懸念した。

 厚労省が示したスケジュールによると、次回が1月初旬、そして中旬の3回目で取りまとめる予定となっている。
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02スライド_P10進め方

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病院類型ならば「少し格好になる」

 猪口委員は「これをまとめるのは大変だが、せめて少し格好になっているなと思えたのは60ページの病院類型」とし、「急性期の病院であれば、病院全体で見ていくと形になるかもしれない」との認識を示した。
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03スライド_P60

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 一方、中野惠委員(健康保険組合連合会参与)は59ページに言及し、「何となく山ができているように思って見ても、類型ごとに分布を見てみると、それなりのばらつきがあるのも事実」と指摘。「可能であれば、病院類型ごとの職種の分布状況がわかるものを出していただけるなら見てみたい」と追加資料を求めた。
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 井川副会長はシミュレーションの基礎となった医療関係職種の範囲について質問した上で、補填不足による経営への影響を懸念した。
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05スライド_P19

【井川誠一郎副会長】
 まず大前提として、賃上げ相当分を配布されるべき職種について質問したい。大臣折衝事項によれば、40歳未満の勤務医師らを除いた者に対して診療報酬を上げる分を補填するということだが、慢性期の病院には40歳以上の非常勤医師や事務職員も多く勤務している。その方々も組み入れていただけるという認識でよろしいか。
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【厚労省保険局医療課・加藤琢真課長補佐】
 記載されているとおり、※1にある「40歳未満の勤務医師・勤務歯科医師・薬局の勤務薬剤師」はプラス0.28%程度分の中に含まれている。その※1を除く職種に関して、この「看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種」について、※2で措置されている。基本的には、この職種には、40歳以上の医師や歯科医師、薬局薬剤師は、この記載の中には含まれていないとご理解いただきたい。40歳未満は「勤務薬剤師」までかかっている。
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【井川副会長】
 「事務職員、歯科技工所等で従事する者」は別ということは了解した。そうすると、「その他の医療関係職種」とは、どのような職種まで含むのだろうか。例えば、資料19ページには、これだけ多くの職種がある。こうした職種は、ご説明された以外も全て含むという認識でよろしいか。というのは、今回のシミュレーションをする上で試算の対象とされた職種は看護職員や看護補助者、医師、歯科医師、薬剤師、療法士、MEなどの医療技術員、それから歯科衛生士、歯科技工士に限定し、それぞれの給料から算定された値になっているが、例えば「医療技術員」の中に管理栄養士は入っていないのではないか。
 管理栄養士の数は各病院、入院基本料のそれぞれによって、かなり違うと思う。例えば急性期一般入院料1の病院では、今、申し上げたような職種の数は1%程度ということになるが、地域包括ケア病棟では3%ぐらいまで跳ね上がってくる。その数の違いによる影響は大きい。しかも、管理栄養士などは募集してもなかなか来てもらえない状況にある。管理栄養士などの職種を含まないシミュレーションに従って上乗せ点数を決めてしまうと、管理栄養士の給与を上げる場合には医療機関の持ち出しになってしまう。そのため、管理栄養士などの職種も全て含めた形のシミュレーションができるのかどうか、お伺いしたい。

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【加藤補佐】
 今回、NDBと実調を用いてシミュレーションした。医療関係職種の中には専門職種もあれば専門職種ではない、資格のない方々もいらっしゃる中で、どこまでそれを精緻に見るかというのは一定の限界があると思っている。今回の大臣折衝事項で合意された内容に基づいて、われわれが用いるデータの中で、今後、シミュレーションをしていきたいと思っている。細かく分けられない部分も当然ながらあると思うが、できるだけ与えられているデータと、そして、この大臣折衝の事項に沿うような形で改めてシミュレーションして、今後、お示ししていきたいと思っている。
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【井川副会長】
 シミュレーションをするにしても非常に難しいということは私も理解している。猪口委員がおっしゃったように、今回のシミュレーションは本当に苦労されたのだろうと感じている。前回の看護師の処遇改善のように徐々に収れんしていくかというと、今回はなかなか難しい。そういう対応方針が3回でまとまるのか心配している。
 今回のシミュレーションでは、「1%」の賃上げを想定している。1%の賃上げに必要な点数の中央値を四捨五入して、そこをベースに検討している。中央値ということは、それ以下が50%あって、以上が50%ある。その差が大きく効いてくる。例えば、0.5%しか上がらない所もあれば、2%ぐらい上がる所もあると、その格差は4倍になる。そこの部分を今後どう収束させていくのか。上乗せ点数の違いによって、医療機関ごとに賃金格差が出るかもしれない。その賃金格差を埋めようとして、結局、医療機関が持ち出しをどんどん増やさなければいけないことになる。そして、結果的に、医療機関が成り立たなくなってしまう。そうした恐れがあることも考えておかなければならない。

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