魅力的な包括的提供の体制を ── 高齢者救急の新提案に池端副会長

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2023年12月15日の総会

 高齢者救急に対応する新たな入院医療のイメージが示された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「しっかりした人員配置ができるような点数設計であれば入っていける」とし、「ぜひ魅力的な包括的提供の体制にしていただきたい」と期待を込めた。

 厚労省は12月15日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第573回会合を都内で開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 厚労省は同日の総会に、「入院(その8)高齢者の救急患者等に対応する入院医療について」と題する資料を提示。高齢者救急に対応する病棟について「13対1の看護配置では難しい」との意見などを紹介した上で、リハビリや栄養管理などを包括的に提供する体制のイメージ図を示した。
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01スライド_P56-2_入院(その8

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包括的に担うことを評価する

 論点では、高齢救急の増加を挙げた上で「地域において、必要な人員体制等により救急患者等を受け入れる体制を整え、リハビリ、栄養管理、入退院支援、在宅復帰等の機能を包括的に担うことを評価することについて、どのように考えるか」としている。
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02スライド_P60論点_入院(その8

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 質疑で、委員の発言はイメージ図の入った56ページに集中した。スライド上段「これまでの主な指摘」では、「地域一般病棟や地域包括ケア病棟など急性期一般入院料1以外の病棟のうち高齢者救急への対応や高齢者のケアに必要な体制を備えた病棟を類型化して評価することが必要」としている。
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03スライド_P56-1

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 また、急性期一般入院料の病棟については「リハビリ、栄養管理の提供には、ばらつきがある」とし、地域包括ケア病棟については「救急患者の受け入れにばらつきがある」とした。

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多くのマンパワーが必要

 質疑で、診療側は大筋で了承しながらも、包括的機能を担うために必要な報酬上の評価を要望。一方、支払側は「包括的に提供」という点に賛意を示した。

 診療側の太田圭洋委員(日本医療法人協会副会長)は「認知症を合併する患者のケアには非常に多くのマンパワーが必要」とし、「高齢者救急を日勤帯のみならず夜間も受け入れる病院に関しては、体制構築や維持のための診療報酬上の評価が必要」と求めた。

 支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「10対1看護の急性期一般入院料2から6の病棟が果たす役割を明確化することも重要」と指摘。「高齢者救急の受け皿として、10対1の急性期病棟を想定し、救急対応、早期リハビリ、栄養管理、退院支援、在宅復帰や介護との連携について、しっかりと機能を発揮してもらうことが必要」と述べた。

 池端副会長は今回の提案を評価した上で、「急性期2から6と急性期1との整合性を保つような評価について、どのように考えているか」と質問した。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 高齢者救急等に対応する入院医療について「包括的に提供」という考え方は、これまでの議論を踏まえると非常に魅力的に感じる。ただし、一方で太田委員もおっしゃったように、どういう点数設計になるかにもよる。しっかりした人員配置ができるような点数設計であれば、皆さん、たぶん入っていける。自院の患者像を見て必要な機能が果たせるように取り組めば、私たち診療側だけでなく支払側の皆さんも思い描くような高齢者救急のイメージがさらに広がっていくのではないかと思う。ぜひ、そういう魅力的な包括的提供の体制にしていただきたいと思う。
 そこで質問だが、支払側委員が指摘したように、ここで想定されるのは、おそらく10対1の急性期一般入院料2から6だろうと思う。もし、そうであるならば、急性期1との整合性を保つような評価について、どのように考えているのだろうか。
 急性期1に関しては、前回改定でICUなどにリハビリテーションを超早期に入れたり、あるいは管理栄養士を入れたりすることによってアウトカムが出たという一定程度のエビデンスが出ているので、急性期1についても引き続き栄養管理や超早期のリハビリは非常に重要だと思う。そこで、急性期2から6と急性期1との整合性をどのように保つのか、お考えがあれば、お聞かせいただきたい。

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【厚労省保険局医療課・眞鍋馨課長】
 本日、ご提案している内容も含めた広い観点のご指摘と承った。急性期は急性期、高度急性期は高度急性期で、それぞれ、例えば栄養に関しても、これまで縷々、資料を示して議論していただいた。全体をどのように整合させるかという観点での質問だったと思うが、われわれとしては、そういった観点と、それから個々の入院料のつくり込みと、両方大事だと思っており、そこは全体像を示す中で、また細かいところを示す中で整合的になるように、今後、資料の出し方などを工夫させていただきたい。

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画一化すると齟齬が生じる

 高齢者救急の議論に先立ち、厚労省は「入院(その7)」を提示。包括的に提供する機能として挙げられた「入退院支援」「栄養管理」について論点を示し、委員の意見を聴いた。

 このうち「入退院支援」については、医療・介護連携の推進に向けた老健局の事業で「診療情報提供書」の見直しが検討されていることを報告し、意見を求めた。見直し案では、「口腔・栄養に関する情報」などが追加されている。
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04スライド_P24

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 論点では、「生活」に配慮した質の高い医療という目的を示した上で、「入院時と退院時に医療機関と介護支援専門員等との間で情報提供する際の様式を見直すことについて、どのように考えるか」としている。

 池端副会長は、「不足している項目を追加する見直しはいい」としながらも、「画一化して、これしか使ってはいけないとすると現場との齟齬が生じるのではないか」と指摘した。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 論点で、病院とケアマネジャーの連携ツールの見直しが挙げられている。もちろん反対ではないが、すでに各地域で、あるいは病院間で使われている連携様式があると思う。そこで質問したい。資料24ページに、退院時における居宅介護支援事業所等向けの「診療情報提供書」に関する見直し(案)が示されている。新たに項目を追加するような見直しはいいが、これを画一化して、これしか使ってはいけないというふうにすると、現場と齟齬が生じるのではないか。ここで紹介されている様式の取扱いをどのように考えておられるか、お尋ねしたい。
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【厚労省保険局医療課・眞鍋馨課長】
 令和5年度の老人保健健康増進等事業だが、注釈に示しているように、様式例である。 われわれとしては現場の取り組みは多様であるということも承知しており、あくまでも例である。ただ、その中でも、やはり標準的なものをきちんとお示しすることが大事だということで、今、検討が進められているものと承知している。

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混乱を起こさないために負担は少なく

 このほか、同日の総会では「外来(その4)情報通信機器を用いた診療」についても論点が示された。「初診から向精神薬が処方されていた実態が確認された」と指摘した上で、「初診では向精神薬を処方しないことをホームページ等に掲示すること等を、情報通信機器を用いた診療の要件として追加する」との方針を示し、大筋で了承された。

 また、最後の議題「長期収載品(その3)」では、12月8日の医療保険部会と同様の資料を示し、選定療養の適用場面や対象品目などの論点について意見を求めた。選定療養として患者の自己負担となる範囲については意見が分かれた。

 診療側委員は、長期収載品と後発品の価格差の「4分の1」を支持したが、支払側から「できる限り2分の1とする方向で検討を進めていただきたい」との意見があった。池端副会長は「混乱を起こさないために負担は少ないほうがいい」とし、「4分の1が適当ではないか」と述べた。池端副会長の発言要旨は以下のとおり。

■ 情報通信機器を用いた診療の現状について
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 論点については、いずれも概ね了解したい。その上で質問だが、向精神薬の初診時処方を厳に慎むべきは当然として、レセプト審査で初診での向精神薬処方はわかるので、そこで必ずチェックすることで適正な対応ができるのではないか。
 これまで審査については地域差やローカルルールがあったが、これを適正化・標準化しようという流れがあるので、そこで明らかに療担規則違反になると思う。何らかの形で情報提供して、平準化の中で、きちんと査定するように取り組んでいただきたい。

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【厚労省保険局医療課・眞鍋馨課長】
 審査に関しては、それぞれの保険者から委ねられている審査機関で行うため、具体的にどのようにということは、私どもがここの場でつまびらかに説明できることではないが、一般的に考えると、今、池端委員がおっしゃったとおり、審査において、そういったことを確認することは可能だろうとは思う。
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■ 保険給付と選定療養の負担に係る範囲について
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 今回の選定療養を使う目的は、後発医薬品の使用促進のためである。選定療養として患者から徴収することが目的ではない。そう考えると、混乱を起こさないように、選定療養の負担の範囲はできるだけ少ないほうがいい。したがって、論点に示された「2分の1」「3分の1」「4分の1」の中では、「4分の1」が適当ではないかと感じている。
 その上で、今回の選定療養を進めるための大前提は後発品の安定供給である。論点では、「薬局に後発医薬品の在庫が無い場合など、後発医薬品を提供することが困難な場合については、患者が後発医薬品を選択できないことから保険給付の対象」としている。私もそのように考える。薬局に後発品の在庫がなければ保険給付の対象にすべきだと思うが、課題もある。
 例えば、ある医薬品がA薬局、B薬局、C薬局で、選定療養になったり、ならなかったりする。在庫状況によって、今月は選定療養、来月は保険給付という状況になり、混在する可能性が高いのではないか。今後もしばらく不安定供給が続くことを考えると、選定療養になったりならなかったりするのは国民にとって、なかなか理解しにくいことだと思。そうした問題も踏まえて、どのような落としどころを見つけるのか。事務局も今すぐには答えが出ないかもしれないが、薬局の皆さんとよくご相談いただいて、できるだけ国民が混乱しないような対応をしっかりとって、周知の期間も一定程度とった上で進めなければ、大きな混乱を起こすのではないかと危惧する。医療機関・保険者・保険薬局、そして患者さんにも非常に大変なことになると思うので、慎重に検討した上で進めていただきたい。

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