「地域包括ケア病棟を大きく育てる」 ── 同時改定の意見交換会で池端副会長

協会の活動等 審議会 役員メッセージ

20230315_同時報酬改定に向けた意見交換会

 令和6年度の同時改定に向けた意見交換会で、要介護高齢者の受け入れ先をめぐる議論があった。日本慢性期医療協会の池端幸彦委員は「地域密着型の中小病院が担っている地域包括ケア病棟を大きく育てることによって介護との連携がより進むのではないか」と主張した。

 厚労省は3月15日、「令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会」の第1回会合をオンライン形式で開き、中医協委員として当会から池端副会長が参加した。座長は中医協の小塩隆士会長(一橋大学経済研究所教授)が務めた。

 厚労省は同日の会合に、「その他」を除く8項目のテーマを提示。今年1月の時点では7項目だったが、コロナ特例の見直しに関連して3月8日の中医協に示した新たな視点「要介護者等の高齢者に対応した急性期入院医療」を追加している。

.

01スライド_20230315_同時報酬改定に向けた意見交換会

.

要介護高齢者の急変対応を推進

 テーマ3に掲げられた「要介護者等の高齢者に対応した急性期入院医療」について、厚労省は同日の会合に「主な課題」を示した。

 その中で、要介護高齢者の受け入れ先として地域包括ケア病棟のほかに「医師が配置されている介護保険施設等」を挙げ、「要介護者等の高齢者の急変対応を担うことを推進する必要がある」とした。

.

02スライド_20230315_同時報酬改定に向けた意見交換会

.

 「介護保険施設等」について厚労省保険局医療課の眞鍋馨課長は「介護医療院や老人保健施設を念頭に置いて書いている」と説明した。

.

「医療ショート」は軽度な医療ニーズに対応

 質疑で、東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)は「令和3年度の介護報酬改定で老健施設の短期入所療養介護、いわゆるショートにおいて総合医学管理加算が新設された」とし、「この老人保健施設における『医療ショート』はあらゆる軽度な医療ニーズに対応が可能」と指摘した。

 その上で、東委員は「リハビリや認知症ケアを得意とする老健施設で対応することによりADLや認知症が悪化することなく速やかに在宅へ戻ることができる」と述べた。ほかの委員から「介護医療院や老健施設は医療提供施設でもあり、地域で十分に生かしていくべき」との意見もあった。

 一方、池端副会長は「地域包括ケア病棟はまさに在宅支援の病棟であり、マルチモビディティである高齢者の亜急性期をしっかり受けられる」と評価。「地域包括ケア病棟を大きく育てることによって介護との連携がより進む」と述べた。池端副会長の発言要旨は以下のとおり。

■ 医療・介護連携について
.
 医療と介護連携をめぐる課題で、その最たるものは医師とケアマネの連携であろう。濵田委員が指摘したように、これは古くからの重要な課題でありながら、なおかつ現状においても課題になっている。 
 しかし、先ほどの資料説明でもあったように、高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けるためには、医療・介護の連携がさらに進むことが必要である。その中で、医療側としても「生活」の視点を踏まえた医療の提供が必要だと思うし、介護側も「医療」のニーズをしっかり把握した上でのケアマネが必要になる。双方が歩み寄って連携から統合を一緒に考える。そして成功体験が生まれ、医師側も「ケアマネと連携すればこんないいことがある」とがわかれば、より進むのではないか。
 例えば、ハードルが高い医師とケアマネをつなぐ「連携室」が窓口になって、スムーズに進むことも多いので、それも1つの方法だろう。「ときどき入院、ほぼ在宅」という中で、医療が全くないケアマネジメントというものは、これからはあり得ないと私は思っている。大きなハードルであっても乗り越えてほしいと思う。

.
■ 医療・介護DXについて
.
 医療と介護のDXについては、NDBデータとKDBデータですら、まだ連携できていない。さらに介護DBを加えた3つの大きなデータベースがよりスムーズに移行できるように、1人の患者さんに、その3つのデータが全て連携して取れるような大きな仕組みも必要ではないか。そこで質問だが、NDBデータとKDBデータなどの連携はどういう方向性で、どのような進捗状況なのか教えていただきたい。
.
■ 医療・介護と障害福祉サービスとの連携について
.
 医療的ケア児への対応について現場で最も問題になっているのはレスパイトケアである。介護であればショートステイがあるが、障害を抱える人についてはショートステイという概念が基本的にはない。そのため、レスパイト入院が少しグレーゾーンな入院になってしまう。
 そこでトリプル改定を契機に、しっかりとレスパイト入院ができる体制を構築することも非常に重要ではないかと思うので提案させていただきたい。

.
【厚労省老健局認知症施策・地域介護推進課・笹子宗一郎課長】
 皆さま方からケアマネジャーの重要性についてご指摘があった。私どもとしてもケアマネジャーは地域共生社会の実現に向けて利用者、ご家族の尊厳を保持するために重要な役割を今後、担っていかなければならないと感じている。 
 その上で、総合確保方針あるいは昨年の介護保険部会のまとめでもいただいたケアマネジャーの情報連携、あるいは多職種連携を進めるために適切なケアマネジメント手法のさらなる普及促進については、法定研修において来年の4月から組み込むという予定となっている。また、業務負担の軽減に関しては、例えばケアプランデータ連携システムの導入なども予定している。 
 公正・中立性が求められるケアマネジメントであるので、ケアマネジャーが十分に力を発揮できるような環境について、業務効率化だけではなく働く環境の改善も必要だと考えている。皆さま方のご意見も踏まえながら、そうした包括的な検討を進めてまいりたい。

.
【厚労省保険局医療課・眞鍋馨課長】
 池端委員から、KDB、NDB、介護DBに関するご質問があった。KDBに関しては国保中央会でお持ちのものだと認識している。特定健診情報等のデータについて、特に市町村が主体であるので、医療のレセプトデータ、介護データなどを連結して解析できるデータベースだと認識している。 
 一方で、NDBは医療保険の診療報酬のレセプトをためたデータであり、介護DBは介護保険におけるレセプト情報を蓄積しているデータベースである。このNDBと介護DBに関しては、令和2年10月からだったと思うが、連結解析ができるようになっており、それは国のレベルではできる。おそらく、ご質問の趣旨は「現場で」という話だと思うが、ここに関しては、そういう解析や研究に供するものではなく、現場で使えるものとしてはまだ構築されていないのが実情だと思っている。 
 ただ、オンライン資格確認による診療情報の共有が私ども医療保険のほうでは始まっている。現時点では、このシステムは薬剤情報や特定健診情報など、受診した医療機関の情報については、了解を得てということではあるが、が医療機関側でも共有できるシステムが広がろうとしている。そうしたことが今後、広がっていけば、介護情報の共有もできるのではないかと思っている。介護DBについては、担当者から補足する。

.
【厚労省老健局老人保健課・古元重和課長】
 眞鍋課長がご説明した概況のとおりである。介護情報については本日、参考資料にも示している全国医療情報プラットフォームの中に格納した上で共有できないか、そういったことに向けて現在、ワーキンググループを設置し、情報の内容や標準化、誰に情報を提供するのが適当かなどの検討も進めている。
.
■ リハビリ・口腔・栄養の一体的な取組について
.
 リハビリ・口腔・栄養の一体的な提供をぜひ進めていただきたい。例えば、急性期充実体制加算を取るような、ごく一部の高度急性期病院以外でもそうだと思うが、入院して治療しても、その疾患の入院にプラスして、食べる、動くことをしっかりやらなければ退院できない状況である。そうした高齢者が多いことはご存じだと思う。 
 その中で、入退院時のカンファレンスを院内でも進める。多職種がそれぞれの立場で互いに理解する。医師も栄養士のことを理解する。外部から来たケアマネジャーも医療のことを理解する。院内でのカンファレンスが学びの場にもなっている。リハビリ・口腔・栄養の一体的な提供に向けて、こうしたチームアプローチで成功体験を積むことも必要である。これをさらに促進するような仕掛け、取組、あるいは、そこで得たいろいろな経験などを総合的に栄養・口腔・リハビリを提供する場面などで生かしていく。特に要介護高齢者に対しては、まず退院時には場合によっては全ての退院患者に対して最初の1~2ヶ月は訪問看護や訪問リハビリを提供して、退院後の栄養管理やADLの指導等を実施する事でソフトランディングを目指すようなマネジメントも有用ではないかと考える。
 リハビリについては、疾患別リハに加えて生活リハ的なこと、口腔ケアも含めた総合的なリハビリテーションの提供が必要になっている時代だと思うので、そこを評価すべきである。リハビリ・口腔・栄養を多職種のチームアプローチで進めていくべきだと考えている。

.
■ 要介護者等の高齢者に対応した急性期入院医療について
.
 急性期病院でも75歳以上が64%で、どの病院でも高齢者が当たり前、要介護状態も当たり前という状況にある。そうした中で、急性期病院に介護やリハビリの人材を充填できるかといえば、この人材不足の中ではなかなか難しい。 
 となると、やはり機能分化しかない。いわゆるマルチモビディティと言われる高齢者の誤嚥性肺炎や尿路感染、心不全の急性増悪等に関しては、多疾患に対応できる専門性を要する。これは回復期や慢性期の得意分野なので、ここでしっかり診ていただく。 
 そして、在宅や施設からの移動については「ときどき入院、ほぼ在宅」の受け皿として、やはり回復期、特に地域包括ケア病棟が非常に有用ではないか。地域密着型の中小病院が主に担っている地域包括ケア病棟をもっと大きく育てることが必要ではないか。 
 前回の改定で、地域包括ケア病棟は在宅支援に対してもかなり厳しい条件が付いた。介護との連携をはじめ、急性期である救急も受けなさいということになった。
 そのため、地域包括ケア病棟はまさに在宅支援の病棟であり、そしてマルチモビディティである高齢者の亜急性期をしっかり受けられる。こうした体制をつくった地域包括ケア病棟であるので、これをさらに大きく育てることによって、介護との連携がより進むのではないか。先ほど述べた病棟内カンファレンスでの多職種連携もそこで培っていけるのではないかと思っている。 
 一方で、急性期に関しては安静度を求められたり、どうしても要介護度が高かったりする。そこに介護士を増やすことは難しいので、より短い期間で治療できる疾患に絞っていただくことになろうかと思う。 
 これからはタスクシフト、タスクシェアということで、特に回復期以降の療養病床も含めて、介護福祉士と看護師ら多職種がしっかりお互いの機能を担い、連携できるところは連携していく。例えば介護であれば、直接介護と間接介護に分けて、間接介護であれば、非介護者の一般職でも担えるような多職種連携も進め、介護福祉士の専門性をより高めていただくことによって、人材の最適な選択ができるのではないか。こうしたことを同時改定でぜひ考えていただきたい。
 なお、急性期病院への介護士の配置は確かに厳しいと思うが、リハ職については急性期病院にも配置することによってアウトカムが出るのではないか。ICU等ではアウトカムが出ているので、それも考えてもいいのでないかと思っている。

.
■ 全体を通じて
.
 全体を通じて、この意見交換会について質問したい。この会合は6年に一度の同時改定の時に限って開かれているが、今後の医療・介護提供体制を考えると、医療と介護を一体的に提供するための議論は継続的に必要ではないか。同時改定の時だけではなく通年的に介護と医療の検討会を一定程度の間隔で行うことも有用ではないかと感じている。事務局のお考えがあれば、お聞かせいただきたい。
.
【小塩隆士会長】
 池端委員から非常に貴重なご意見を頂戴した。今後の進め方について事務局からコメントをお願いしたい。
.
【厚労省保険局医療課・眞鍋馨課長】
 重要なご指摘だと思っている。特に状況が激しく大きく変化する中で、医療と介護の連携はますます密接に求められてくるということはおっしゃるとおりだと思う。 
 2年に1回の診療報酬改定、3年に1回の介護報酬改定の中でどのように生かしていくかについて、課題として認識するところである。 
 ただ、具体的な方法に関してはご意見を受け止めて、今後また検討させていただきたいと思う。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

この記事を印刷する この記事を印刷する
.


« »