「科学的な根拠はない」とは言えない ── 薬剤自己負担の議論で池端副会長

協会の活動等 審議会 役員メッセージ

2023年11月24日の総会

 薬剤の変更は医師の判断か、患者の選択か。自己負担を引き上げたら変わるのか──。特許などが切れても市場から撤退しない先発品から後発品への置換えを進める診療報酬上の対応などを検討した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「患者が希望したとき、絶対に100%大丈夫とは言えないし、逆に科学的な根拠はないとも言えない」と強調した。

 厚生労働省は11月24日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第567回会合を都内で開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 後発品のある先発品(長期収載品)から後発品への変更を進めるための患者負担などについて、厚労省は同日の総会に「長期収載品(その1)」と題する資料を提示。「従来とは異なるアプローチで更なる後発品への置換えを進めていく必要があるのではないか」との考え方などを示した。

 論点では、「医療上の必要性」「保険給付と選定療養の負担に係る範囲」「参照価格制との関係」など5項目を挙げた。

【長期収載品の保険給付の在り方についての論点】

01スライド_論点

.

処方権は医師にある

 質疑の冒頭、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は「この議論を進めるにあたっても処方権は医師にあることを原則にすべき」と強調。「医師が医学的な判断により長期収載品を選択した場合は、患者さんの選択によるものではないので選定療養の対象にすべきではない」と述べた。

 森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は「医療上の観点から先発品を使用している場合や、患者さんの状態によって薬剤変更することで治療に影響する場合、後発品と適応は異なる場合もある」と指摘。「その医薬品を使用することに医療上の必要性が合理的に存在する場合には、これまでどおり保険給付の対象にすべき」と述べた。

 森委員はまた、「出荷調整となっていない医薬品でも入手が困難」と現状を伝え、「少なくとも出荷調整となっている成分を対象にすべきではない。日々、その品目も変化している。急に現場が混乱しないよう、施行の時期なども含め、慎重な検討が必要」と求めた。

.

患者が先発品を希望するから

 一方、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は海外との比較データに触れながら「日本では長期収載品のシェアがまだ高い」とし、後発品の使用促進に関する調査結果に言及。「医師が先発医薬品を指定する理由として患者の希望が最も多い状況」と指摘した。

 調査によると、先発品を指定する場合の理由について 「患者が先発品を希望するから」の割合が最も多く、診療所では85.1%、病院の医師では 73.8%だった。
.

02スライド_調査結果

.

 松本委員は「いわゆるブランド選択というようなものについては選定療養と位置付けることで後発品の使用を促進することは十分に考えられる」と述べた。

.

創薬力強化、イノベーションの推進

 松本委員はまた、後発品の効果や副作用への不安から先発品を指定している場合について「これらを全て選定療養から除外することは少し疑問」とし、「適正な運用という観点から、医師による妥当な判断が行われることを担保する必要がある」と述べた。

 眞田享委員(経団連社会保障委員会医療・介護改革部会長代理)は「医療上の必要性への配慮が大事であることについても理解するところではある」としながらも、「後発品への置換えを進めて長期収載品の依存からの脱却を促すという大目的は常に踏まえておく必要があるのではないか」と述べた。

 政府の「骨太方針2023」では、「創薬力強化に向けて、革新的な医薬品、医療機器、再生医療等製品の開発強化、研究開発型のビジネスモデルへの転換促進等を行う」との目標を掲げ、「イノベーションを推進するため、長期収載品等の自己負担の在り方の見直し、検討を進める」としている。
 
 こうした意見を踏まえ、池端副会長が発言。後発品の使用が進まない原因が医師の側にもあるとの指摘があった医療保険部会での議論を振り返りながら現場の状況を改めて説明し、「極めて慎重に検討していただく必要がある」と求めた。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 薬剤自己負担の見直しに関して、医療保険部会では4つの案を踏まえて議論した。①は定額一部負担、②は薬剤の種類に応じた設定、③は市販品類似品の見直し、④は長期収載品で、最終的に④が選ばれた。その議論で「医師の中に後発品をあまり勧めない人がいる」との意見があった。しかし、現状は資料にあるように患者さんの希望が非常に多い。
 確かに、医師は処方箋の「変更不可」欄にレ点を付けて後発品への変更を認めないことができるが、そうでない場合には薬局から問い合わせがあり、「患者さんが不安だから変えたくないと言っているが、どうしましょうか」と照会されることもある。そこで医師として「絶対にそのお薬は100%大丈夫だから」と言い切れるかどうか。薬はすごくセンシティブなもので、効いているのか効いていないのか、その効果の見極めは難しい。特に向精神薬。1年、2年と同じ薬をずっと飲んでいる。別のお薬に変更することに不安がある。「先生に言われたとおりに変えてみたけど、やっぱり調子が悪いから元に戻してほしい」と言われる。こういう患者さんの要望を「それは科学的には根拠がありません」と言い切るのは非常に難しい。現場では、こういうこともある。ぜひ理解してほしい。
 今回の論点では最初の処方変更が主に問題となっているが、医師の判断で後発品に変更した長期収載品について、患者さんの希望を踏まえて元の長期収載品に戻した場合はどうだろうか。その場合に「選定療養ですから、一定額が患者さんの自己負担になります」というのはどうなのか。その場合の判断を医師に任せるのはハードルが非常に高いのではないか。それでもなお、強引に選定療養にもっていこうとするのであれば、参照価格制になるかもしれないが、これは先ほど皆さんがおっしゃったように難しい。後発品の薬価を超える部分を一律、全額自己負担にするのは到底不可能だ。一方、選定療養で一定程度の負担を患者さんに求めるにしても、せめて3~4割の窓口負担に少し足したぐらいにとどめるような激変緩和をしないと患者さんは非常に困ってしまうと思う。
 いずれにしても、この問題は極めて慎重に検討していただく必要がある。同時に、後発品の安定供給が前提になる。先ほど森委員もおっしゃった。最近は後発品に移しても先発品に戻さなければいけないような状況が続いている。後発品の安定供給が大前提であることも踏まえた上で慎重にご検討いただきたい。

.

切れ目のない緩和ケアの提供体制

 この日の会合では、次期改定に向けたDPCの見直し案や緩和ケアに関する議論もあった。厚労省は同日の総会に「個別事項(その7)」と題する資料を提示。多様な苦痛に対応する緩和ケアの提供や、切れ目のない緩和ケアの提供体制などの論点を挙げ、委員の意見を聴いた。

【緩和ケアについての論点】

03スライド_緩和ケアの論点

.

 池端副会長は、基幹病院と地域の中小病院等との連携をさらに進める必要性を指摘。患者負担にも配慮した診療報酬上の対応を求めた。

【池端幸彦副会長】
 がん患者の疼痛に対して放射線治療は有効だが、診療報酬上の課題がある。例えば、 在宅で診ている患者さん。疼痛が厳しくて地域の基幹病院に入院して、放射線療法を受ける。その病院から他科依頼をすると、そこの部分は診療報酬上、算定できないことになっているか、あるいは減算しなければいけないように思う。そのため、基幹病院と地域の病院との連携がスムーズにいかないケースがある。
 在宅のがん患者さんが放射線治療のため基幹病院に定期的に通う場合には、入院せずに外来で受けて、そこからまた地域の病院での入院が継続できればいいと思う。そこで質問だが、拠点病院と地域の包括的な入院医療との関係について、現在はどのような診療報酬の仕組みになっているだろうか。

.
【厚労省保険局医療課・眞鍋馨課長】
 お尋ねの趣旨は、がん医療を専門にする病院から、例えば地域包括ケア病棟入院料や療養病棟の入院料など、薬剤が一定程度、包括されている病院に転院された場合に、どのような診療報酬項目が算定可能か。あるいは、その関係はどうかというお尋ねだったと思う。
 一定程度、例えば、抗がん剤などが、そういった包括報酬の中から出来高算定できるような仕組みになっていること自体は定性的に説明を申し上げられるが、疼痛管理や精神的なところのケアについては事務局で整理させていただきたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

この記事を印刷する この記事を印刷する
.


« »