介護業界の魅力を発信し、人材確保を ── 審議報告案の議論で田中常任理事

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20231211_介護給付費分科会

 令和6年度介護報酬改定に向け、最終的な取りまとめの議論に入った厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の田中志子常任理事は「介護業界そのものの魅力を国の財産、また産業の1つとして省庁を超えて国民に発信し、介護業界の人材確保につなげることを考えなければ介護崩壊に至るのではないか」と懸念し、「各省庁を巻き込んだ活動を続けてほしい」と厚労省に要請した。

 厚労省は12月11日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第235回会合を開催し、当会から田中常任理事が委員として出席した。

 厚労省は同日の分科会に「令和6年度介護報酬改定に関する審議報告(案)」を提示。厚労省の担当者が約40分間にわたり報告書の内容を丁寧に説明した上で委員の意見を聴いた。質疑では、「全体的に賛同する」との意見のほか、一部修文を求める指摘もあった。

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介護人材の確保と健全な経営環境

 議論を踏まえ、田辺分科会長は「引き続き事務局にしっかり検討いただき、次回の分科会で今後の課題を含めて議論した上で、審議報告を取りまとめたい」と伝えて閉会した。次回は12月18日の開催を予定している。

 報告書は表紙を含めて68ページ。冒頭の「基本的な考え方」では、人口構造の変化などを踏まえ「引き続き、不断の見直しが必要」とした上で、支え手不足への対応を記述。物価高騰や賃上げの流れに触れながら、「介護人材の確保と介護事業所の健全な経営環境を確保することが重要な課題」と指摘した。
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01スライド_P5抜粋(基本的な考え方)

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 今回の介護報酬改定に向けた基本的な視点は「地域包括ケアシステムの深化・推進」など4項目。「Ⅱ 令和6年度介護報酬改定の対応」に関する記載は、「その他」を加えた5項目で構成されている。
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02スライド_P1目次抜粋_【資料2】令和6年度改定に関する審議報告(案)

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ミスリードになりかねない

 この日の会合で多くの委員が言及したのが「高齢者施設等と医療機関の連携強化」で、これは基本的な視点1の「地域包括ケアシステムの深化・推進」に位置付けられている。
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03-1_スライド_概要抜粋

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 審議報告案では、「在宅医療を担う医療機関や在宅医療を支援する地域の医療機関等と実効性のある連携体制を構築するために、以下の見直しを行う」とした上で、ア~ウの要件を挙げている。
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03-2_スライド_高齢者施設等と医療機関の連携強化

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 このうちアでは、急変時に備えた相談・診療の体制を「常時確保」としたほか、イでは急変時の対応について「1年に1回以上」、協力医療機関と確認することを求めている。田中常任理事はこれらの要件について「ミスリードになりかねない」と懸念した。

【田中志子常任理事の発言要旨】
 短時間でこれまでの議論をしっかりとまとめていただき、心からお礼を申し上げる。その上で、まず18ページ。「高齢者施設等と医療機関の連携強化」のアの記載における懸念事項について意見を申し上げる。
 これまで同時意見交換会や、当分科会で高齢者の医療の場について、地域の地域包括ケア病棟や慢性期病院で診られる病態であれば三次救急の病院で治療せずとも、その方々の医療を完結できないかということの必要性について議論をしてきたと思う。
 私たち慢性期、高齢者医療に通じている立場で、お書きいただいた文章を読むと、日ごろの連携を進めて、日中の双方の職員が多いときに状態を確認し合って、夜間に患者さんを搬送するというような負担が及ばないように、地域包括ケア病棟を活用したり、慢性期治療病棟を活用してはどうかといったことが書かれていると推察できる。
 しかし、この文章だけが歩き出したときに、あたかも24時間365日、救急病院に受け入れてもらう契約を結ばなければいけない。また、原則として再入院の記載を空きベッドを確保する必要があるなどと読み取れないだろうかと心配している。そうなると、誤解が誤解を生んで、24時間対応の三次救急へ入院させなければいけないというミスリードになりかねないのではないかと懸念する。三次救急病院に必要以上に負担をかけて医療崩壊が起こらないよう、丁寧な説明を付記するなど、ご配慮をお願いしたいと思う。
 また、イの「1年に1回以上」の連携確認は現場にとって大変な負担である。担当者を決めることを義務付け、担当者・管理者の変更などの際に連携先と自治体への報告を合わせて義務化するなどの方法で補完できないか、引き続き検討してはどうか。

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意思決定、「強制しないように」

 「看取りへの対応強化」では、ターミナルケアマネジメント加算等の見直しなど8項目を挙げた。
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04スライド_P2目次抜粋看取りへの対応強化

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 田中常任理事は人生の最終段階における意思決定支援の在り方について「強制することのないように」との考えを示し、介護医療院における看取りに関する記載の修文を求めた。

 原案では、ガイドラインに沿った取り組みについて「本人の意思を尊重した上で、入所者全員」に対して実施するよう求めている。
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05スライド_P22介護医療院の看取り抜粋

【田中志子常任理事の発言要旨】
 介護医療院の看取りへの対応の充実について、「入所者全員に対して」の前の所に、「本人の意思を尊重した上で」とあるが、その間に「本人の意思を尊重した上で、本人が望まない場合を除いて」と追記していただきたい。かねてから江澤委員がおっしゃっているように、ご本人が人生の最終段階の方針を述べたくないということもあるので、本人が望まない場合に強制することのないようにお願いしたい。

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「介護度ラグ」への対策が急務

 このほか、田中常任理事はP26(平時からの認知症の行動・心理症状の予防、早期対応の推進)、P48(多床室の室料負担)のほか、今後の課題を提示。「要介護度に応じて支払われる介護報酬は容態に見合っていない。『介護度ラグ』についての対策が急務である」と指摘した。

■ 認知症の対応力向上について
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 認知症の行動・心理症状の予防等について、研修を限定しすぎて受けられる枠が限られる、あるいは研修を受けることが限られることがないようにお願いしたい。また、研修を受けることが目的ではなく、しっかりと認知症の方に対応できるかどうかが大切であることを充分に理解してもらえるよう、ご配慮をお願いしたい。
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■ 多床室の室料負担について
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 多床室のホテルコストについては前回も申し上げたように、これまでの経年の審議会での意見を踏まえているものとは言えない。亡くなる人が多いから、長く入所しているからという理由で、相部屋でも室料が必要という理由では、利用者ならびに事業者は納得できるものではないことを改めて強く申し上げたい。
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■ 今後の課題について
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 介護医療院では、急性期病院から看取りを視野に入れた慢性疾患や高齢者の方を積極的に受け入れている。多くは寝たきりで要介護5の状態だが、本人の要介護度が状態変化前の要介護1・2といった軽度の要介護度のまま転院してくる方も少なくない。その間、要介護度に応じて支払われる介護報酬は容態に見合ってない低い単価となっている。つまり、実際には介護量が多いにもかかわらず介護報酬は低いものであり、その分、施設の負担となっている。
 また、区分変更を申請しても、訪問調査や主治医の意見書を書き換える前に亡くなってしまうケースも多く、結局、実際の要介護度分の請求ができない。こういったタイムラグ、いわば「介護度ラグ」についての対策が急務であることを申し上げる。
 最後に、とても大切なことだと思っていることがあるので、検討をお願いしたい。介護業界そのものの魅力を、国の財産、また産業の1つとして、省庁を超えて国民に発信し、介護業界の人材確保につなげていくことを考えなければ、今後、介護の崩壊に至るのではないかということを危惧している。ぜひ当局におかれても、各省庁を巻き込んでの活動を続けていただければと思う。

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LIFEデータを用いた介護の可視化を報告

 同日の分科会では、審議報告の議論に先立ち、LIFEデータの活用に関する報告があった。「LIFEを用いた介護領域における新たな研究デザインの提案のための研究」の代表を務める松田晋哉委員(産業医科大学教授)がLIFEデータを用いた介護の可視化例などを紹介。その中で、栄養管理に関する当会の取り組みを評価した。

 松田委員は「PDCAサイクルに基づいて介護の質を高めていこうとすれば、どのような介入に対してどのような効果があったのかを見る必要があるが、LIFEで集めているデータはPDCAの『Do』に関する情報が足りない」と指摘。栄養介入と要介護度の変化に着目した分析を紹介した。

 松田委員は「日本慢性期医療協会が今、積極的に取り組まれているのがカロリー、たんぱく質などの量。基準栄養量よりも少し摂取栄養量を高めて食事を工夫する。オーバーカロリーのほうが悪化の程度が低い」と評価した。

 報告を受け、田中常任理事は「日本慢性期医療協会が推進するオーバーカロリーの有効性について言及いただき、感謝を申し上げる」と述べた。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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