国民や法曹界へ幅広く理解を ── 介護現場のリスクで田中常任理事

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20231130介護給付費分科会

 介護現場におけるリスクマネジメントなどの論点が示された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の田中志子常任理事は「転倒・転落は高齢者であれば避けがたい老年症候群。自宅での転倒はご本人の責任だが、施設に入った途端に何でもかんでも施設の責任となる認識が大きい」と懸念し、「国民ならびに法曹界へ転倒・転落事故等について広く理解を得ることも並行してお願いしたい」と求めた。

 厚労省は11月30日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第233回会合を開催し、当会から田中常任理事が委員として出席した。

 令和6年度の介護報酬改定に向け、厚労省は同日の分科会に介護人材の処遇改善や介護現場の生産性向上などに関する論点や対応案を資料1から4で示し、委員の意見を聴いた。
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01スライド_資料一覧

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「介護職員等処遇改善加算」に一本化、4段階

 資料1「介護人材の処遇改善等(改定の方向性)」では、「処遇改善加算の一本化」など3項目の論点を示した。
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02スライド_資料1のP7目次

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 このうち論点1では、「現行の各加算・各区分の要件及び加算率を組み合わせる形で、『介護職員等処遇改善加算』(新名称)に一本化し、新加算Ⅰ~Ⅳの4段階の加算区分を選択できるようにしてはどうか」との対応案を示した。

 田中常任理事はトリプル改定を機に医療・障害分野で働く介護福祉士の処遇改善も進めるよう期待を込めた。

【田中志子常任理事の発言要旨】
 本日ご説明いただいた資料に関して、総論としては賛同する。感謝を申し上げたいと思う。その上で、資料1の処遇改善については、トリプル改定であることから、本分科会のみでなしうることではないと理解した上で、改めて松田委員がおっしゃったように、医療・障害現場で働く介護福祉士についても同様に処遇をしっかりと認めることを強く期待する。

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現状の規定の幅を広げる検討を

 資料2「人員配置基準等(改定の方向性)」では、ローカルルールやテレワークの取扱いなど6項目の論点を挙げた。
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03スライド_資料2のP7目次

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 このうち論点5では、従来の「書面掲示」に加え、介護サービス事業者は「原則として重要事項等の情報をウェブサイト(法人のホームページ等又は情報公表システム)に掲載・公表しなければならないこととしてはどうか」と提案した。
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04スライド_資料2のP26対応案

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 田中常任理事は「現状の規定の幅を広げる検討ではどうか」と見直しを求めた。

【田中志子常任理事の発言要旨】
 26ページの論点5、「書面掲示」規制の見直しについては、ホームページ等を施設内で供覧できれば書面掲示しなくてもいいように、現状の規定の幅を広げる検討ではいかがかと提案する。

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現場負担にならないようLIFE活用を

 資料3「介護現場の生産性向上の推進(改定の方向性)」では、「介護ロボット・ICT等のテクノロジーの活用促進」など5項目の論点を挙げた。
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05スライド_資料3のP8目次

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 このうち論点2では、介護助手の活用など「生産性向上の取組をパッケージで行っている先進的な施設・事業所を評価してはどうか」とした上で、加算の取得にあたって「業務改善やケアの質の向上等に関する効果を示すデータの提供を求める」との方針を示した。

 田中常任理事は「現場負担にならないよう、LIFEなども活用してはどうか」とし、論点5では調査の実施を提案した。

【田中志子常任理事の発言要旨】
 16ページの論点2「介護ロボット・ICT等のテクノロジーの活用促進」ではデータの提出を求めているが、現場負担にならないよう、LIFEなども活用してはどうかと提案する。
 51ページの論点5「認知症対応型共同生活介護における見守り機器等を導入した場合の夜間支援体制加算の見直し」について異論はないが、他方、以前の議題に出たように、客体の多い複数フロアにおいて、テクノロジーを活用したグループホーム3ユニット以上の夜勤体制の緩和についての調査を実施してはどうかと提案する。

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もはや結果責任を負わされている

 資料4「その他」では、「外国人介護人材に係る人員配置基準上の取扱い」など4項目を挙げた。
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06スライド_資料4のP2目次

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 このうち、「介護現場における安全性の確保、リスクマネジメント」では、論点として「国による事故情報の一元的な収集・分析・活用」を挙げ、様式の統一化や電子的な報告に向けた対応案を示した。
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07スライド_資料4のP62対応案

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 田中常任理事は「方向性について賛同する」とした上で、介護・医療現場における転倒・転落について共同声明を発出したことを伝え、幅広い理解に協力を求めた。

 10団体の共同声明では、「裁判所が指摘する結果回避義務も、転倒・転落発生前に確実に実行することは現実には困難であるし、確実に効果があるとも言い難いことから、もはや結果責任を負わされている」とし、「現実の臨床場面に即した判断をされることを法曹界に切に希望する」と訴えている。

【田中志子常任理事の発言要旨】
 61ページ「国による事故情報の一元的な収集・分析・活用」の方向性については賛同するが、先ほど東委員がおっしゃったように、転倒・転落は高齢者であれば避けがたい老年症候群でもある。自宅での転倒はご本人の責任であるが、施設に入った途端に何でもかんでも施設の責任となるような認識がまだまだ大きいように感じている。事故があってよいとは決して思ってはいないが、先日、本分科会の参加委員でもある全国老人保健施設協会、全国老人福祉施設協議会、当会を含む医療・介護10団体で転倒・転落について共同声明を発出した。過度な転倒予防が安易な身体的拘束やスピーチロックにつながったり、訴訟を恐れてスタッフの心理的負担になったりすることから、事故報告の分析フィードバックの推進等に加え、当局におかれても、国民ならびに法曹界へ転倒・転落事故、加えて言えば、誤嚥事故に関する高齢者等の身体的特性について、私たち事業所と協働して広く理解を得ることを並行して進めていただきたいと要望する。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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