最期の意思決定、「家族が優先されてしまう」 ── ACPめぐる議論で池端副会長

協会の活動等 審議会 役員メッセージ

2023年12月8日の総会

 「人生の最終段階における医療・ケア」をテーマに議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は、本人の意思が揺れ動くことや情報共有の必要性などを指摘した上で「最期の意思決定において本人より家族が優先されてしまうこともよくある」と実情を伝え、「ACPの国民的議論が必要」と述べた。

 厚労省は12月8日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第571回会合を都内で開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 次期改定に向け、厚労省は同日の総会に「個別事項(その12)人生の最終段階における医療・ケア」と題する資料を提示。在宅現場と急性期病院などをICTでつなぐ連携の取り組みなどを紹介した上で、①意思決定支援、②情報の共有──という2つの視点で構成した論点を示し、委員の意見を聴いた。

.

話し合いを強要する制度ではいけない

 意思決定支援の推進については、外来と入院の場面に分けて取り上げた。このうち外来については、入院医療と比較して指針の策定割合が低い状況を指摘。認知症高齢者の増加を見据え、「かかりつけ医がより早期から適切な意思決定支援を実施することを推進する方策について、どのように考えるか」と意見を求めた。
.

01スライド_P55論点抜粋_人生の最終段階 のコピー

.

 質疑で、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は「外来においても、人生の最終段階における意思決定支援が適切に推進されていくことは重要」としながらも、「その話し合いは患者さんにとって非常にセンシティブなものなので、患者さんの状態等に関係なく、人生の最終段階における医療・ケアについて話し合いを強要するような制度になってはならない」と強調した。

 一方、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は意識調査の結果を示しながら「話し合いを始める時期が少し遅い」と苦言。「患者の意思が最大限尊重されるよう、多くの患者について、なるべく早期に話し合いを開始すべき」との考えを示した上で、「地域包括診療料を算定する医療機関に指針の策定を求めるなど、かかりつけ医機能の1つとして、外来の診療報酬においても意思決定支援を推進すべき」と求めた。

 池端副会長は、患者や家族と繰り返し話し合う必要性などを指摘。「風土づくりをしながら、努力目標としていくことが非常に重要」と述べた。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 今回示された論点について、大きな方向性としては、おそらく1号側も2号側も異論がないだろう。その上で、外来医療の場面について申し上げると、先ほど長島委員もおっしゃったように、多くの患者さんが来院される中で丁寧に話し合う時間的な余裕やタイミングがない場合もある。ACPを推進し、指針を策定することについては、しっかり進める方向に私も異存はない。ただ、実際に、全ての外来患者さんに対して実施できるかというと、なかなか難しいこともあるだろう。あくまでも、そういう風土づくりをしながら、努力目標としていくことが非常に重要ではないか。
 また、患者さん自身に全くリスクがない状況でお話をしても本音が出てこないことがある。だからこそ、資料9ページ(意思決定支援や方針決定の流れのイメージ図)にあるように、ACPを繰り返し、繰り返し進めていく。例えば、外来で何もないとき、ちょっと重大な病気になったとき、あるいは本当に終末期になったとき、それぞれ思いが違ってくるので、繰り返し話し合う。本人の意思というものは、たとえ書面に書き込んだとしても、時間の経過とともに移り変わる。どんどん変わっていくものなので、医療・介護関係職種と患者・家族がお互いにしっかり情報共有しながら丁寧に進めていかなければいけない。
 一方、入院に関して言うと、急性期病院でもACPを推進することは非常に重要だと思いうが、急性期病院では、やはり命を救うことが最優先。ACPに対する誤解もある。例えば、DNRを取るか取らないか。終末期には最後の挿管をして救命措置をするか、しないか。食べられなくなったから胃瘻をするのかどうか。中心静脈栄養はどうか。いずれかの意思を確認した時点で、「ACPを取った」と思ってしまう先生方も少なくない。
 しかし、決してそうではない。ひとたび意思確認をしたとしても、半年後、あるいは3カ月後、1カ月後に変わることもある。だからこそ、繰り返し本人の希望を丁寧に繰り返し聞く。しかし、最期の意思決定において家族が優先されてしまうこともよくある。
 急性期の先生方にもACPを理解していただいて、単にDNRがあるかどうかではないのだという理解を広げていく必要がある。救急の現場でも同様の課題がある。救急隊がDNRを取っただけでACPがあるということになってしまっている場合もあるので、そうではないということを国民に広く知っていただく。そして、国民的な議論をしていければいいと思う。
 資料10ページに、「人生の最終段階における医療・ケアに関する家族等や医療・介護従事者との話し合いの実施状況」が示されている。医師・看護師でも「話し合ったことはない」という回答の割合が5割近くある。まだまだ国民的議論が必要ではないかと言える。ぜひ、繰り返し話し合うような風土づくり等を同時改定の機会に進めていただきたい。そのような方向性に対して全く異存はない。

.

入院時の食費、「忸怩たる思いがあった」

 この日の総会では、医科・歯科の診療所における明細書無料発行の免除規定を廃止する方針が示され、了承された。厚労省によると、全ての患者に明細書を発行していない診療所数は減少傾向であり、平成26年時点の届出施設は4,107施設だったが、令和4年度時点では391施設となっている。
.

02スライド_P33_明細書

.

 また、施設基準の届出や添付書類の提出を一部省略化する方針も決まった。厚労省は「電子的な届出には、オンライン請求用の回線を使用するため、オンライン請求またはオンライン資格確認の実施率を向上させる必要がある」としている。
.

03スライド_P43_明細書

.

 このほか、入院時の食費の見直し案も了承された。自己負担分については同日午後に開催された医療保険部会で了承された。
.

04スライド_P6_入院時の食費

.

 入院時の食費について池端副会長は「30年間据え置かれたことに対して忸怩たる思いがあった」と明かし、「ようやく機運が盛り上がる中で、ご検討いただいた」と謝意を表した。池端副会長の発言要旨は以下のとおり。

■ 明細書の無料発行等について
.
 先ほど長島委員もおっしゃったように丁寧な対応をすることを前提に賛同したい。これに関連して質問したい。免除規定の廃止の時期について、「診療報酬改定DXにおいて令和10年度以降に標準型レセコン等の提供が検討されていることを踏まえ、令和10年度以降の当該標準型レセコン提供開始時期を目途としてはどうか」と提案している。
 一方、資料31ページ。診療報酬改定DXの取組スケジュールによれば、「注2」の所に「標準型レセコンは、標準型電子カルテと一体的に提供することも検討」とある。私が把握している限りでは、標準型電子カルテも既に令和10年度を目途に検討を進めているように聞いていた。現状、まずレセコンが先なのか、電カルと一緒に検討を進めているのか。おわかりであれば、教えていただきたい。

.
【厚労省医政局・田中彰子参事官】
 標準型電子カルテについては、医療DXに関する工程表に基づいて現状、取組を進めており、今後、標準型レセコンと、この標準型電子カルテが一体的にいつ提供できるかについては、令和10年以降ということで示している段階である。より具体的な時期については現状、まだお話しすることが難しいということで、ご理解をいただければ幸いである。
.
【池端幸彦副会長】
 まず標準型レセコンを先に入れて、令和10年度を目途に検討するという理解でよろしいか。
.
【厚労省医政局・田中彰子参事官】
 そのとおり。
.
■ 入院時の食費の見直しについて
.
 長島委員もおっしゃったように、入院時の食費に関しては、病院団体全体としても本当に長年の夢であった。小さな夢かもしれないが、30年間ここまで据え置かれたことに対しては忸怩たる思いがあったので、ようやく、こうした機運が盛り上がる中で、見直しをご検討いただいたことに感謝を申し上げたいと思う。今回の見直しでは、患者負担で30円を上げることになると思うので、低所得者に対する丁寧な対応についても、あわせて検討していただきたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

この記事を印刷する この記事を印刷する
.


« »