多床室の室料負担、「性急な議論の進め方」 ── 田中常任理事も強く反対

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20231204_介護給付費分科会

 介護医療院と老人保健施設について「一定の所得を有する多床室の入所者から室料負担を求めることとしてはどうか」との方針が示された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の田中志子常任理事は「あまりにも性急な議論の進め方であり、国民の理解を得られるとは考えられない」と強く反対した。

 厚労省は12月4日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第234回会合を開催し、当会から田中常任理事が委員として出席した。

 令和6年度の介護報酬改定に向け、厚労省は同日の分科会に「多床室の室料負担(改定の方向性)」と題する資料を提示。その中で「多床室の室料負担」を論点に挙げ、室料負担を求める対応案を示した。多くの委員から反対意見が相次いだ。
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8ページ【資料3】多床室の室料負担_08

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 田中常任理事は「室料負担増をご利用者やご家族にご納得いただけるのか、全く想像もつかない。国はどう説明させるつもりなのか。パブコメを含めて広く国民の意見も聴くべきではないか」と疑問を呈し、次のように述べた。

【田中志子常任理事の発言】
 日本慢性期医療協会の田中でございます。私からは1点だけ意見を申し上げたいと思います。資料3「多床室の室料負担」についてです。以前からお話ししているように、以下の点を根拠に賛同できないことを強く表明いたします。
 はじめに、ご利用者の立場を考えますと、多床室で室料をご負担いただくには、カーテンや仕切り家具で区切られただけの空間で、特養の多床室とは異なり、わずか6.4平米から8平米という狭い面積の空間であり、部屋とみなせるものではありません。倫理的にも室料としてご負担していただくにはふさわしくない生活環境であると考えます。
 もともと、特養は措置の時代から、ついのすみかとして住まいの役割を担ってまいりました。このような歴史があって平成27年度に室料の議論が進められたのであり、他との違いと経緯をこの分科会でも共有するべきではないかと考えます。
 そもそも、利用者負担が増えることについて、あまりにも性急な議論の進め方であり、到底、国民の皆さまからの理解を得られるとは考えられません。
 前回以前に示されたように、住民票は自宅にあることが調査からも明らかで、ホテルコストが二重負担になってしまいます。また、介護医療院では亡くなる方の割合は約半数にしかならず、ご指摘の類型の老健であっても、3割の方は死亡以外の転帰をたどっています。
 また、このような進め方で仮に利用者負担増が決定したとして、現状から何らサービスが変わらない状況の中で、どのように説明をしたら室料負担増をご利用者やご家族にご納得いただけるのか、全く想像もつきません。国はどう説明させるおつもりなのかと不思議でなりません。もっと精緻な調査を行い、しっかりとした話し合いをし、パブコメを含めて広く国民の意見も聴くべきではないでしょうか。
 また、ご指摘のように、老健も介護医療院も、看取りの場でもございますが、設備要件に調剤所をはじめ医療設備を求められております。実際に9ページ(老人保健施設・介護医療院の利用実態等)にあるように、喀痰吸引やインスリン注射などの医療行為が常態的に行われ、加えて老健の施設長は医師であり、アスタリスクにあるように、介護医療院にも常に医師がいます。言うなれば、生活の場であるとともに、紛れもない医療の場でもあります。実際に、これら医療行為が伴うことで、特養をはじめ、他の施設では対処できない利用者の介護保険を伴った医療の最後の砦でもあります。
 これらの重要ないくつもの理由から、生活の場として室料を取ることには断固反対いたします。以上でございます。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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