下り搬送の条件、「細かすぎる」 ── 救急医療の議論で池端副会長

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2023年12月6日の総会

 救急医療を中心に議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は、論点に示された下り搬送について「条件があまりにも細かすぎる」と指摘し、東京・八王子や大阪などで進んでいる救急連携の取り組みなどを紹介。「全国の状況を見ながら、条件を付けるにしても慎重に対応していただきたい」と求めた。

 厚労省は12月6日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第570回会合を都内で開催し、当会から池端幸彦副会長が診療側委員として出席した。

 厚労省は同日の総会に「個別事項(その11)救急医療について」と題する資料を提示。その中で、①転院搬送、②救急医療管理加算──の2項目について課題や論点を示し、委員の意見を聴いた。

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「MC協議会と協議」などの要件を示す

 ①については、新潟、熊本、神奈川での事例を紹介。論点では、「救急医療機関等を受診後に他の医療機関でも対応可能な患者を転院搬送する取組に対する評価」を挙げ、「これまでの取組事例等を参考に、以下を要件とする」との意向を示した。
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01スライド_P89論点抜粋_個別事項(その11)

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 要件では、「地域のMC協議会と協議を行った上で、候補となる医療機関を事前にリスト化しておく」「定期的に救急患者の受入について協議」「その後の診療経過について共有」などを挙げたほか、「搬送元医療機関と搬送先医療機関が特別の関係にない場合」も求めている。

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地域の救急体制に支障や混乱が生じる

 質疑で、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は「MC協議会に大きな役割・権限が求められることになっているが、それは患者さんの搬送といった個別的対応も含め、全国で十分に対応できるのか」と疑問を呈した。

 その上で、長島委員は今回の提案について「さまざまな要件案が記載されているが、それぞれに診療報酬を設定することで現場のあり方を一足飛びに変え、それが機能するかどうか不透明。地域の救急医療提供体制に支障や混乱が生じる」と懸念。「1つの県の資料だけをもって全国的な報酬を細かな要件とともに設定することは賛成できない」と述べた。

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地域における救急搬送の実態はさまざま

 厚労省保険局医療課の眞鍋馨課長は「地域における救急搬送の実態はさまざまである中で、全ての地域で、いわゆる下り搬送が実施されるべきものとは考えていない」とし、「医療の効率的な提供のために、そうした搬送が必要な地域において行われた場合についての対応を検討しうるもの」と説明した。

 厚労省保険局医療課・眞鍋馨課長はまた、今回の資料では熊本や神奈川の事例のほか、下り搬送を実施している病院のデータも紹介し、「新潟県以外でも実際に取り組んでいる医療機関は一定程度あると考えている」と理解を求めた。

 池端副会長は長島委員の意見に同意した上で慎重な対応を求めたほか、2つ目の論点である救急医療管理加算についても見解を示した。池端副会長の発言要旨は以下のとおり。

■ 救急医療における転院搬送について
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 今回の資料に示された事例を踏まえ、このような診療報酬の要件を設定しようという提案だと思うが、診療側の委員が指摘したとおりだと私も思う。確かに、この事例に当てはめればこういう要件になるのかもしれないが、私が知る限りでは、このほかの地域でも多様な取組がある。いろいろな連携の形がある。日本慢性期医療協会が関わっている連携としては東京・八王子における救急病院と慢性期病院がそれぞれチームを組んで連携して、下り搬送の体制がずっと前から定着している。大阪でも10年ほど前から「大阪緊急連携ネットワーク」が進められており、多くの症例が挙がっている。下り搬送のための事務局があって、急性期治療後の患者さんや軽症患者さんをスムーズに慢性期病院や施設に転院できるようにコーディネーターが調整し、救急病床の不足を解消する連携システムが既につくられている。
 こうした連携は全国に広がりつつあるが、全てMC協議会がタッチしているかと言えば、そうではない。地域によって、いろいろな連携の形があるが、太田委員もおっしゃったように、お示しになった条件があまりにも細かすぎる。MC協議会が関わっていない連携ネットワークは今回の条件から外れてしまう。 
 一方で、急性期から急性期の連携に対して在宅復帰率を外すということになると、逆に救急と救急の連携が進んでしまう。今、急性期から回復期、慢性期という流れをつくろうという中で、救急と救急の連携が逆に増えてしまう可能性もあるため、もう少し慎重に対応していただきたい。全国の様子を見ながら、条件を付けるにしても、全国の状況をしっかり調査して考えていただいたほうがいいと思う。

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■ 救急医療管理加算について
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 長島委員、太田委員がおっしゃったように、救急現場における判断は非常に難しい。本当に重症に当てはまるのか、その瞬間では判断できないことがある。数日たってから重症度がわかることも多い。そうした中で、「その他の重症」の適正化を図るというのであれば、慎重に事例を集めて、そして、ネガティブリストを、あるいはポジティブリストつくるにしても、学会やガイドライン等も検討しながら慎重に対応すべきだと思う。今、拙速にこれを決めるべきではない。

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入室日のSOFAスコアを活用していく

 続く議題「入院(その6)」では、ICUやHCUの施設基準の見直しなどが議論になった。厚労省は「高度急性期入院医療について」と題する資料の最終ページに論点を示し、委員の意見を聴いた。
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02スライド_P80論点_入院(その6)

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 今回示されたのは、①特定集中治療室管理料の施設基準等、②ハイケアユニット入院医療管理料の施設基準等、③医師の働き方改革と治療室における宿日直許可──の3項目。

 このうち①では、「特定集中治療室管理料の患者指標において、重症度、医療・看護必要度に加え、入室日のSOFAスコアを活用していく」との意向を示した。

 厚労省によると、SOFAスコアは6臓器の機能不全を0~4点で点数化し、最大24点で評価する。入院外来分科会のとりまとめでは、「SOFAスコアと転帰は相関しており、患者の重症度を表している」との意見のほか、「SOFAスコア単独で指標として使用することには慎重になるべきではないか」との意見が紹介されている。

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SOFAスコアの活用、「補完的に」

 質疑で、太田圭洋委員(日本医療法人協会副会長)は「SOFAスコアは臓器不全の指標であり、 必ずしもICUの全てに臓器不全の患者が入っているわけではない」と指摘。「重症度が低くてもSOFAスコアが高い症例がある。重症度と『アンド』なのか『オア』として使うのかも含めて、この指標の活用方法がまだ十分に検討されていないのではないか」と疑問を呈し、「慎重な検討が必要」と述べた。

 続いて池端副会長も同様の課題を指摘し、「現時点で考えているSOFAスコアの活用方法を教えていただきたい」と尋ねた。眞鍋課長は「重症度、医療・看護必要度を補完するような使い方ができないかと考えている」と答えた。

 このほか、池端副会長は遠隔ICUの推進に期待を込め、「現時点で広がっているか」と質問。眞鍋課長は「現場で少しずつ取組が広がっており、文献でもパフォーマンスの結果が出始めている」と答えた。

【池端幸彦副会長】
 特定集中治療室管理料の施設基準については太田委員と全く同じ意見。論点では、「重症度、医療・看護必要度に加え、入室日のSOFAスコアを活用していく」とあるが、これが「アンド」か「オア」で、ずいぶん違ってくると思う。そこで質問だが、今、事務局が考えているSOFAスコアの活用方法について、もう少し具体的に教えていただきたい。
 2点目。医師の働き方改革と治療室における宿日直許可については、現状を鑑みると、認めていく方向でいい。2024年4月に医師の時間外・休日労働時間の上限規制が施行されることを踏まえ、宿日直許可を受けて宿日直を行っている医師により施設基準を満たす提案に賛同する。
 3点目は、Tele-ICUについてお尋ねしたい。Tele-ICUは前回の診療報酬改定の議論でも示されたが、そのときはまだ実施している施設が少ないということで、ペンディングになったと記憶している。
 ただ、私自身はちょっと興味もあったので、昭和大学病院に見学に行ったことがある。まだ診療報酬が付いていないのでモデル事業等での実施だったと思うが、機械がズラリと並んで、大阪や九州などのICUとタイムリーに連絡して常にデータが入っており、そこに特定看護師や医師らが常駐していた。これが広がったら素晴らしいと感じた。しかし、その当時は全国でまだ10施設ほどしかモデル事業に参加していないと聞いた。費用の問題もあるようだ。
 現時点で、Tele-ICUは相当広がっているのかどうか。もし事務局がご存知であれば、施設数等について教えていただきたい。
 当時、新潟県の病院で聞いたのだが、集中治療室の医師が非常に不足している中で、Tele-ICUが非常に有用だという。医師のトレーニングにもなると聞いた覚えがあるので、その辺も含めて前向きに検討していただくのも1つの方法ではないかと感じている。

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【厚労省保険局医療課・眞鍋馨課長】
 SOFAスコアについては、私ども、さまざま分析したものをお示しして、ご議論をいただいている。SOFAスコアの活用の仕方については、「アンド」「オア」も含めて示していないので、少し議論の幅が広がってしまって恐縮である。私どもとしては、ICUに入っていただくべき患者さんに入っていただきたいと考えており、今回、SOFAスコアをご提案したのも、現状の重症度、医療・看護必要度を補完するような使い方ができないかということで考えているところである。また、そこを細かくどのように設定するかは、シミュレーションなどをして示したいと考えている。
 また、Tele-ICUに関しては、長島委員、池端委員からご指摘があった。申し訳ないが、現在、施設数に関しては、具体的に何施設というデータを持っていないが、現場において少しずつ取組が広がっており、文献でもパフォーマンスの結果が出始めている状況にあると思っている。私どもとしては医師が十分確保できない場合においても診療の質を担保するといった観点から有用な場合があるのではないかと考えている。

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コロナ特例が残ることはあり得ない

 この日、最後の議題は「感染症対応について(その2)」。厚労省は同日示した資料の中で、新型コロナの特例やこれまでの対応状況などを紹介した上で、「新興感染症以外の感染症に対する医療の評価」などの論点を挙げた。
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03スライド_P87論点抜粋_感染症対応

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 質疑で、支払側の松本委員は発言の冒頭、「この議論の大前提として、新型コロナ感染症が5類に見直されて半年以上が経つことや、令和6年度から通常の医療提供体制に戻ることを考えると、今回の改定を経たあとに新型コロナの特例が残ることはあり得ない」と述べた。

 その上で、松本委員は入院患者に対する感染対策について「感染対策向上加算をはじめ既存の報酬で十分に対応している」とし、外来感染対策向上加算については「かかりつけ患者に限らず、発熱患者に対応することを施設基準に追加すべき」などと主張した。

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元の木阿弥、新たな評価を

 一方、診療側の江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は「今回のコロナ禍の経験を踏まえ、いかに平時の取組が重要であるかを身にしみて痛感した」と振り返り、「連携体制を含め平時から取り組むことによって有事に力を発揮できる。患者さんの命を救うことにつながるので、平時の取組を十分に評価すべき」と述べた。

 池端副会長はコロナへの対応によって「日本の医療体制が1ランク上がった。コロナの副産物とも言える」と評価し、特例の廃止などにより「元の木阿弥になる」と懸念。「日本の将来を考えると、コロナ以前に戻ることは決してよくない。何らかの新たな評価を考えていただきたい」と訴えた。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 論点の2つ目「新興感染症以外の感染症に対する医療の評価」について述べる。5類移行後、現状はどうなっているか。ほとんどの医療機関はまだ同じように発熱外来でPPEをつけて、そして別の外来を設けて、入院は個室対応。これをいまだに続けている状況にある。確かにコロナ患者の重症度は下がったが、感染力は強い。慢性期の病院だけではなく、多くの病院がコロナ対応できる体制になっている。重症度が下がった今も続けている。これは日本の医療のベースとなる体制が1ランク上がった状況。これは、ある意味ではコロナの副産物と言える。中小病院や診療所でも、感染症にしっかり対応できているからこそ、日本は世界に類を見ない、死亡率の低い体制でここまで来たのだと思っている。
 確かに、松本委員がおっしゃるように、もう5類になったのだからコロナ特例は次の改定でゼロにすべきだという考え方もあるかもしれない。しかし、コロナ前から1ランクも2ランクも上がった感染対策を全てゼロにしていいのか。ほぼ全ての外来・入院の医療機関が対応している体制を捨てることはもったいない。非常に残念なことだと思う。現状を何らかの形で維持できるように、これから起こりうる感染症にも対応できるように、何らかの評価を新たに設けることは理にかなっているのではないか。
 例えば、診療報酬の財源を考えてみると、コロナ禍の2年間、3年間で、インフルエンザや小児の感染症など、多くの感染症患者が減った。それが今でも、ある程度、続いている。他の感染症にも有効な感染対策が全国で続いていたおかげだと思う。
 世界に類を見ない、一段上がった感染対策の医療提供体制について新たな評価を求めたい。現場では空間的・時間的な分離をはじめ、資材的なものも持ち出しで対応している。何らかの評価がないと、また戻ってしまう。元の木阿弥になる。コロナ以前の感染対策に戻ることは、決して日本の将来を考えてもいいことではないと思うので、ここに対して、ぜひ何らかの新たな評価を考えていただきたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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