敷地内薬局、「決して違法ではない」 ── 調剤(その3)の議論で池端副会長

協会の活動等 審議会 役員メッセージ

2023年11月29日の総会

 敷地内薬局に関する論点が示された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「現状はまさにビジネスモデルで、決して違法ではない」との認識を示した上で、「10年間放っておいた私たちにも責任があるのではないか。かかりつけ薬局を育てるためにどうしたらいいかを待ったなしで議論しなければいけない」と述べた。

 厚労省は11月29日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第568回会合を都内で開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 令和6年度の診療報酬改定に向け、厚労省は同日の総会に「調剤について(その3)」と題する資料を提示。その説明の中で、「敷地内薬局を有しているグループ企業は開設状況に応じて基本料を調節することも考えられるのではないか」との方針を示した。
.

01スライド_P40_調剤(その3)

.

さらなる強い対応をすべき

 敷地内薬局について厚労省保険局医療課の安川孝志薬剤管理官は「地域で高度な薬学管理を担う役割を果たしていると考えられる一方で、同一敷地にある医療機関に対応した役割に過ぎず、院内の調剤所と同程度」と指摘した。

 その上で、安川薬剤管理官は「薬局のかかりつけ機能も期待されているほどの内容ではない」と苦言を呈し、「令和6年度改定では、これまでの情報に基いて対応し、さらに今後の改定でも敷地内薬局の実態を踏まえ対応する」と述べた。

 質疑で、診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は「今回の改定では、誘致する医療機関側、開設する薬局側の双方において、さらなる強い対応をすべき」と厳しい規制を要請し、厚労省案に賛同した。

.

ビジネスモデルとして確立された

 一方、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は今回の医療経済実態調査の結果を踏まえ、「損益差額がほかの調剤基本料の薬局に比べて高い」と指摘した。

 その上で、松本委員は「これまでの改定で適正化を図ってきたにもかかわらず、この特別調剤基本料を算定する薬局が毎年かなり増加している」と懸念。「医療機関からの独立性という観点で望ましい姿とは言えないが、今や1つのビジネスモデルとして確立された印象さえ受ける」と述べ、さらなる増加に危機感を表した。

 松本委員は「特別調剤基本料の点数を引き下げることにも限界がある」とし、「ご提案のようにグループとして調剤基本料を調整することも選択肢になる」と述べた。

.

生き残りを模索する中で、やむを得ず

 こうした議論を踏まえ、公益を代表する立場から飯塚敏晃委員(東京大学大学院経済学研究科教授)が発言。「敷地内薬局が非常に増えていて、毎年100程度、どんどん開設されている。かなり大きな流れになっている」との認識を示した上で、大病院が敷地内薬局を増やしている理由について「どういうふうな背景があるのか、診療側に伺いたい」と意見を求めた。

 太田圭洋委員(日本医療法人協会副会長)は「院外処方に振っていた多くの大学病院、公立病院が新たに敷地内に戻している一番の理由は、やはり病院の経営状況だろう」と明かした。その上で、医療経済実態調査の結果に触れながら「公立病院や大学病院の経営状況は非常に厳しい。生き残りを模索する中で、やむを得ずという病院が多いのではないか」と述べた。

 続いて池端副会長が発言。これまでの経緯を振り返った上で、「適正化だけではうまくいかないことがある。かかりつけ薬局を育てるためにどうしたらいいか」と問題提起した。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 私も太田委員と同じ意見である。院外に複数の薬局が点在している中で、敷地内薬局はフェンス規制の緩和で院内に入れるようになった。では、敷地内薬局のメリットは何か。近いこともあるが、私の知る範囲では、院内に薬局を持つことと同時に例えば病院の付帯設備、駐車場などを一緒につくるメリットがある。その費用は病院ごとに違うと思うが、さまざまな付帯的なメリットも考えて契約する。大きな公的・公立病院がそういう流れにあり、地方でも同様の状況だ。
 もともとは病院・診療所が薬で儲けるのはおかしいということで院外処方に出した。そして、病院の機能と調剤を分けた。それで、きちんと「面」で、かかりつけ薬局が育ってくればいいのだが、患者の利便性という名のもとに、また病院に近づいてきた。敷地内薬局は「特別調剤基本料」として調剤報酬が引き下げられたが、患者さんにとっては安くなればなるほど負担は減る。「近くて安いよね」ということで敷地内薬局に行く。そういう行動につながることもあるので、適正化だけではうまくいかないことがある。
一方で、先ほど松本委員がおっしゃったように、現状はまさにビジネスモデルで、決して違法ではない。だから、これを10年間放っておいた私たちにも責任があるのではないか。きちんとした、かかりつけ薬局を育てるためにどうしたらよいのかを待ったなしで議論しなければいけないのではないか。個人的な見解だが、そのように感じている。

.

看護補助加算の減算に反対

 この日の総会では、急性期病院などで身体拘束を実施した場合のペナルティも議論になった。厚労省は「個別事項(その8)認知症」と題する資料の中で、「看護補助者の配置に係る加算等について、身体的拘束を実施した場合の評価についてどのように考えるか」との論点を示した。
.

02スライド_P72論点_個別事項(その8)

.

 診療側委員は全て身体拘束ゼロに向けた取り組みの必要性に賛同しながらも、今回の提案には疑問を呈した。

 太田委員は「資料の出方を見ると、身体拘束を行った日に(看護補助者の配置に係る)加算の減算が想定されているようだが、明確に反対する」とし、「身体拘束の実施が完全に行われなかった病棟に関して看護補助加算にプラス評価をするならば検討する余地はある」と述べた。

.

身体拘束をしない取り組みの評価を

 長島公之委員(日本医師会常任理事)は定義の不明確さを指摘し、「どのようなものが定義上、身体的拘束とみなされるのか、どのような拘束はやむを得ないものと判断されるのかを十分に明らかにした上で、身体的拘束を可能な限り減らす取り組みをしている医療機関が十分に評価されるような仕組みが必要」と求めた。

 専門委員からも同様の意見があった。木澤晃代専門委員(日本看護協会常任理事)は「身体的拘束の予防・最小化について組織的な取り組みを強化する方向に賛成」としながらも、「身体的拘束の定義について医療機関が共通理解を持つことが前提となる。医療機関によって定義の解釈が異なることのないよう留意が必要」と指摘した。
.

03スライド_P46身体的拘束の定義_個別事項(その8)

.

 池端副会長も身体拘束の範囲を明確化する必要性を指摘し、厚労省側の見解を求めた。これに厚労省の担当者は資料46ページに示された疑義解釈の記載を紹介。それによると、「患者の身体又は衣服に触れる用具を使用」としている。

【池端幸彦副会長】
 身体拘束を最小化する取り組みは入院医療においても非常に重要であることはもちろんであり、身体拘束を少しでも減らしていく努力をしなければいけない。
 認知症ケア加算は、認知症患者を診るための加算なので認知症患者を身体拘束したら減算ということは理解できるが、看護補助者の加算とは趣旨が異なると感じている。
 資料47ページ「看護補助者の配置に係る加算の要件の見直し」の中で、「看護補助者の配置に係る加算を算定する場合」には、「身体的拘束等の行動制限を最小化する取組の実施を求める」としている。しかし、やむを得ず身体拘束をせざるを得ないことがあるので、身体拘束はゼロではない。そこに対して減算ということをやると、本当にモチベーションも下がるし、太田委員もおっしゃったように、とても現場ではついていけない項目にならざるを得ないのではないかと思う。また、身体拘束とは、どの範囲までの身体拘束を指すのか。介護の世界では、かなり広い意味で捉えられており、例えば、転倒予防のマットを敷くのも身体拘束であるし、4点柵をつけるのも身体拘束になる。
 一方で、皆さんが考えている身体拘束は、おそらく縛ったりとか、ミトンをつけたりとか、そういう拘束だと思う。医療機関において、どこまでを身体拘束というのか。この辺もまだ明確でない中で、いきなり減算ということを事務局案として出していることに対し、私自身は強い違和感がある。現時点では明確に私も反対したい。
 そこで、事務局に質問だが、「身体的拘束」とは、どこまでの拘束を想定しているのか。事務局案があれば、お聞かせいただきたい。

.
【厚労省保険局医療課・眞鍋馨課長】
 現在の認知症ケア加算における身体的拘束の解釈は46ページ目に示している。「疑義解釈資料の送付(その1)」ということで、身体的拘束は具体的にどのような行為かについて、その「答」の中に「身体的拘束は」という文章がある。現在、認知症ケア加算においては、身体拘束による減算の取扱いを、この疑義解釈に従って行っていると承知している。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

この記事を印刷する この記事を印刷する
.


« »