裏技的なので違和感がある ── 薬剤自己負担の議論で池端副会長

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池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_2023年11月29日の医療保険部会

 厚労省は11月29日、社会保障審議会(社保審)医療保険部会(部会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第171回会合を開催し、当会から池端副会長が委員として出席した。

 厚労省は同日の部会に「『経済財政運営と改革の基本方針2023』等関連事項について」と題する資料を提示。薬剤自己負担の見直しに関する同部会での議論などを振り返った上で、選定療養の適用場面や対象品目に関する論点を示し、委員の意見を聴いた。
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P11_【資料2】2023年11月29日の医療保険部会
P24_【資料2】2023年11月29日の医療保険部会
P29_【資料2】2023年11月29日の医療保険部会

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困ったときの選定療養頼み

 今回の論点提示に先立ち、厚労省は前回会合での議論を踏まえ、「長期収載品の保険給付の在り方の見直しを中心に検討を進めていくこととし、その具体的な手法としては、選定療養を活用することとする」との方針を確認した。

 質疑で、菊池馨実部会長代理(早稲田大学法学学術院教授)は「選定療養の対象とする結論に異論はない」と同意しながらも、「制度の目的と手段に配慮して、きめ細かな資料と説明が必要」と注文を付けた。

 菊池部会長代理は「選定療養の本来の趣旨は医療本体とは異なる、いわゆるアメニティ部分であれば自己負担を前提として個人の嗜好を反映させ、選択に委ねてもよいという点にある」とし、薬剤の選択について「差額ベッドと同様に医療のアメニティ部分であるとまで評価できるかは議論の余地がある」とした。

 その上で、今回の選定療養の活用は「創薬力の強化という国家的な政策目的を併せ持つ」と指摘。「選定療養の仕組みは全体としてわかりにくいものになっている。言い方は悪いが、困ったときの選定療養頼みということになりかねないか危惧する」と苦言を呈し、「選定療養を構成する個々の項目を目的と手段の観点から全体的に整理してはどうか」と提案した。
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P31抜粋_【資料2】2023年11月29日の医療保険部会

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多くの国民が納得できないだろう

 伊奈川秀和委員(東洋大学福祉社会デザイン学部教授)も「一定水準を超えるアメニティやインセンティブの付与など、現在の選定療養には、いろいろな要素が入っているように思う」と指摘。差額ベッドや眼内レンズを挙げ、「そういったものとの比較で今回、制度として整合性があるのかどうかを考える必要がある」と述べた。

 袖井孝子委員(高齢社会をよくする女性の会副理事長)は「薬剤に差額ベッドや金歯と同じような選定療養という考え方が適用されること自体、大変驚いている」と述べた。

 その上で、袖井委員は「今まで保険でカバーされていたのが突然こうなるのは多くの国民が納得できないだろう」とし、「もし、こういうことを実施するのであれば丁寧に説明していただきたい。利用者の側からすれば、これまで払わなくてもよかったのに、なぜ払わなければいけないのかというトラブルが起こると思うので丁寧な説明をお願いしたい」と求めた。

 こうした意見に続いて池端副会長が発言。「裏技的なことだと思うので、あまりこれがまかり通って選定療養で全部やっていくのは違和感がある。丁寧な説明が十分に必要ではないか」と指摘した。

【池端幸彦副会長】
 11ページ(保険給付と選定療養の適用場面に係る論点)について。渡邊委員がおっしゃったように、後発医薬品の確保が困難な場合については当然、選定療養にはなじまないと思う。医薬品の供給は日々、変わっている状況にある。同じ銘柄でも今週は入ったが来週は入らない。あるいは、来月は入らないとなると、毎回、選定療養費を徴収したり、しなかったりする場合もありうるので、現場は相当、混乱すると思う。
 今、袖井委員もおっしゃったように、患者さんが納得できないこともある。そのため、一定程度のルールづくり、また丁寧な説明等が十分に必要ではないか。現場の感覚として不安を感じている。 
 患者の希望以外に、医療上の必要性を誰がどう判断するかという問題もある。これは当然ながら医師が判断するのが一番明確だと思うが、一方で、医療上の必要性の判断を全て医師に委ねるべきではないとの意見もある。疾患や薬剤の種類で限定すべきという意見もある。
 しかし、同じ銘柄の同じ薬剤でも、人によって異なる場合がある。この人には合うけれど、この人には合わなかったということもある。実際に患者さんがそれを飲んで判断すると、人によって違う。本人の感覚が一番大事になる。別に、まやかしを言っているわけではなくて、特に向精神薬等の薬では、別の薬に変えたら調子が悪くなった、眠れなくなった、不安が増えたということは日々あること。薬というものは、メンタル面も含めた効果の判断が非常に難しい。これは患者さんの一番身近にいる医師の判断に委ねるしかないところがある。
 ただ、むやみやたらに「変更不可」欄に全て「レ」点を付けるということでは、傾向診療ということでチェックされることもあるので無制限ではいけないし、一定程度の歯止めは必要であると思うが、患者さん個々の疾患や状態によって異なるということは十分にご理解いただきたいと思う。
 次に、選定療養に係る負担の論点について。どの程度を標準とするべきか。「選定療養に係る負担を徴収しないことや、標準とする水準より低い額で徴収することを認めるのか」という点。負担を上げたり下げたりできるかどうかの判断について質問がある。先ほど菊地部会長代理もおっしゃったように、「そもそも選定療養になじむのか」という点もそうだが、いったん選定療養費を取ると決めたときに、それが差額ベッド代と同じように医療機関ごとに、あるいは薬局ごとに上げたり下げたりできるということがありうるとなると、今回、選定療養という立て付けにした意味とは違ってくるのではないかと思う。私は、そういう上げ下げができないようなルールが必要ではないかと思う。ただし、例えば、保険診療の自己負担に関しては、療養担当規則によって徴収しなければいけない、減額してはいけないことになっている。選定療養とした場合に、それをルールとして、減額してはいけない、上げてはいけないとをすることがルールとして可能なのかどうか。事務局にお尋ねしたい。
 いずれにしても、何人かの委員がおっしゃったように、私も後発品を推進するためのやむを得ない措置であると思う。大病院の再診を抑えるために選定療養を入れたのと同じように少し裏技的なことだと思うので、あまりこれがまかり通って、どんどんいろんなことを選定療養でやっていこうとすることには違和感がある。ただし、今回に関しては、私も大枠は賛同したいと思う。

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【厚労省保険局保険医療企画調査室・荻原和宏室長】
 選定負担の部分について、いわば一定のラインを決めて、それを固定的な水準とすることは可能かどうかという質問だと理解した。そこは最終的には法制上の整理も含めて、さらに詰めてまいりたい。
 一般的に選定療養の場合については、例えば180日超入院の場合の差分については国がこれを標準とするというかたちで示して、最終的には医療機関側の一定の裁量に委ねられている部分があるという仕組みもある。また、大病院の定額負担に関しては、逆に下限を設定して、必ずこの額は徴収するようにというルールを設定して、それ以上であれば、そこは医療機関の裁量という形に任されているという部分もある。 
 今回、そういった要素も含め、やはり現場になるべく混乱を生じさせないようにということ。また、医療上の必要性がある場合については従来どおり保険給付が維持されるということになると、長期収載品の薬価そのものは残る仕組みになるので、そういった点で、かたや選定療養の場合でばらつきを生むということを許容するかどうかということ。そのバランスで最終的に整理していくべき話だと考えている。
 いずれにせよ、最終的に法制上の整理とあわせてルール決めというところでお示しできればと考えている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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