「特定看護師の雇用に加算を」 ── 次期介護報酬改定に向け、武久会長

会長メッセージ 協会の活動等 審議会

介護給付費分科会_20201009

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は10月9日、令和3年度の介護報酬改定に向けて審議した厚生労働省の会議で、離島や中山間地域の人材不足や小規模事業所の厳しい経営状況などを指摘し、「医療的な行為ができる特定看護師を雇った場合には加算を付けていただけると非常にありがたい」と提案した。

 厚労省は同日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田中滋・埼玉県立大学理事長)の第187回会合をオンライン形式で開催し、前回に引き続き次期改定に向けた検討を進めた。

 厚労省はこの日、平成30年度介護報酬改定の影響に関する調査結果をまとめ、同分科会に提示。これらを踏まえ、次期改定に向けた「基本的な視点(案)」を示した。
.

【資料2-1】基本的な視点(概要)(案)_20201009介護給付費分科会

.
 それによると、「基本的な視点」は5本柱で構成。このうち「地域包括ケアシステムの推進」では、「地域の特性に応じたサービスの確保」を挙げた。

 具体的には、「必要なサービスが切れ目なく提供されるよう取組を推進することが求められる」との認識を示した上で、「都市部、中山間部など地域の特性に応じたサービスの確保に取り組んでいくことが必要」としている。
.

04抜粋_【資料2-2】基本的な視点(案)_20201009介護給付費分科会

                2020年10月9日の同分科会「資料2─2」P4抜粋
.

抜本的な対応策の検討を

 質疑で、山口県周防大島町長の椎木巧委員(全国町村会副会)は、「都市部、中山間部など地域の特性に応じたサービスの確保」との記載に言及。「2040年を見据えることも大変大事だが、中山間地域等では現に今、サービス事業所や介護人材、各種専門職が不足している」と窮状を訴えた。

 厚労省が示した「基本的な視点(案)」では、「2040年に(中略)介護サービス需要が更に増大・多様化する」と見通した上で、「こうした状況は都市部や中山間地域など、地域によって異なるため、地域の特性に応じた対応が求められる」としている。
.

02抜粋_【資料2-2】基本的な視点(案)_20201009介護給付費分科会

                2020年10月9日の同分科会「資料2─2」P2抜粋
.
 椎木委員は「2040年だけではなく、2025年、そして今を見据えた対応もお願いしたい」と強調。離島や中山間地域等でのサービスの充実について、「今回の提案だけではなかなか厳しいものがある。介護人材の確保策を含む抜本的な対応策について検討してほしい」と求めた。
.

小規模ほど運営は厳しい

 椎木委員の発言に武久会長が続き、「規模が大きい事業所の収支バランスは良好だが、小規模ほど運営は厳しい」と指摘した。
 
 その要因について武久会長は「病院の併設でない施設の場合には、ベテランの優秀な職員を責任者として送り込んでいることもあり、ほとんど人件費で占めてしまい、実態として赤字が多い」と説明した。

 厚労省が同分科会に示した資料によると、小規模多機能型居宅介護について51.8%の事業所が赤字となっており、その要因について厚労省は「利用者の入れ替わりが経営に与える影響が大きい」と分析している。
.

P14抜粋【資料5】小規模多機能型居宅介護_20201009介護給付費分科会

                    2020年10月9日の同分科会「資料5」P14
.

看多機、「収支はどうなのか」

 武久会長は「小規模であるほうが当然、サービスが良い」とし、「利用者にとってサービスが良い部分とのバランスを取っていただき、収支がもう少し好転できるようにできないか」と指摘した。

 その上で、看護小規模多機能型居宅介護(看多機)を挙げ、「優秀な看護師が担当していて非常にいいサービスだと思うが、収支はどうなのか」と疑問を呈した。

 武久会長は、「看護師が1人で行って自分で判断していろいろ対応するような訪問サービスなどには特定看護師が行くのがいい」とし、「医療的な行為ができる特定看護師を雇用した場合には、何か加算を付けていただけると非常にありがたい」と述べた。
.

加算を増やしても、現実には赤字

 武久会長はまた、離島や中山間地域などで運営する事業所の経営状況を懸念。「特別地域加算などを次々と付けていただいているが、現実に、われわれの所ではほとんどが大きな赤字である」と指摘し、離島や中山間地域にある事業所の収支状況を尋ねた。

 厚労省の担当者は「現時点で持っているデータはない。級地ごとのデータは出るかもしれないが、それ以上に何ができるのかも含めて持ち帰らせていただく」と答えた。

 そこで武久会長は「加算を次々と増やしても、現実には赤字の所が多いと思う。非常に厳しい状況であるということをご理解の上、改定に臨んでいただけたらありがたい」と述べた。

 武久会長の発言要旨は以下のとおり。

〇武久洋三会長
 いろいろな介護保険事業所を運営している立場として意見を述べたい。私は220床の特養から小規模多機能、グループホームまで運営しているが、規模が大きい所の収支バランスは良好である。しかし、小規模ほど運営は厳しい。
 ただ、利用者にとっては小規模な所のほうが当然、サービスが良いというところもあるので、小規模やグループホームの収支はほとんどマイナスであるが継続して運営している。
 小規模でも、いわゆる病院の併設でないような施設の場合には、ベテランの優秀な職員を責任者として送り込んでいることもあり、ほとんど人件費で占められ、実態としては赤字の所が多い。効率化ということも含めながら、小規模のほうがサービスは良いという面があるかもしれないが、運営がなかなか厳しい。
 小規模多機能型居宅介護について本日示されたデータでは、収支差率がプラス2.8%となっているが、半分以上の事業所が赤字である。利用者にとっては小規模ほどいいのだが、ちょうどいい、バランスというのも必要かと思う。
 例えば、グループホームでは9人に1人の夜勤者であるから、老健100床で12人の夜勤者と同じになるわけだが、現実には、老健では、その半分以下の5人ぐらいで夜は運営している。そういう非効率な部分と、利用者にとってサービスの良い部分とのバランスを取っていただき、収支がもう少し好転できるようにしていただきたいと思っている。
 さらに、椎木町長もおっしゃっていたが、過疎地や離島、中山間地域での特別地域加算などをいろいろ考慮していただき、加算も入れて運営はしているが、とにかく利用者の数が徐々に減ってきているなど、いろいろな問題がある。
 そこで、もしデータがあれば、離島や中山間地域等でのサービスの収支状況が分かれば、お示しいただきたい。加算を次々と付けていただいているが、現実に、われわれの所ではほとんどが大きな赤字である。
 看多機については、優秀な看護師が担当していて非常にいいサービスだと思うが、収支はどうなのか。
 現在、特定行為研修を修了した「特定看護師」の制度がある。これは主に大規模な病院で重要視されているようだが、現実としては、小多機(小規模多機能型居宅介護)や介護保険での訪問看護など、看護師が1人で行って自分で判断していろいろ対応するような所がある。こういう所には、特定看護師に行ってもらうほうがいいのでないかと私は思う。
 すなわち、地方の介護サービスにおいて、より医療的な行為ができる特定看護師を雇った場合には、何か加算をつけるようなことをしていただけると非常にありがたいということである。
 最近では、介護保険の中に医療的な要素というのが非常に入り込んできている。CHASEやVISITの整備など、老人保健課がいろいろ改革をしているのは非常にありがたい。
 従って、こうした方向で、介護保険の中にも医療をきちんと入れていただき、利用者の要介護度が軽くなり、良くなっていただく方向で運営していただけるとありがたい。
 先ほどの質問について、もしお分かりであれば、教えていただきたい。

.
〇厚労省老健局認知症施策・地域介護推進課・笹子宗一郎課長
 現時点で持っているものはない。級地ごとのデータは出るかもしれないが、それ以上に何ができるのかも含めて持ち帰らせていただく。
.
〇武久洋三会長
 現実に加算を次々と付けていただき、しかも、それを増やしていただいている。ということは、現実的には赤字の所が多いのではないかと思う。
 担当課が斟酌していただいている結果であると思うが、それでもなお非常に厳しい状況であるということをご理解の上、改定に臨んでいただけたらありがたいと思う。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

この記事を印刷する この記事を印刷する
.


« »