給与等の見える化、「慎重に評価すべき」 ── 実調データの分析に池端副会長

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2022年10月5日の中医協総会

 医師や看護師の給与などについて医療経済実態調査のデータを分析した結果が示された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「このような見える化で得るものは一定程度ある」としながらも、「その評価はかなり慎重にすべきではないか」と指摘した。

 厚労省は10月5日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第529回会合をオンライン形式で開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 厚労省は同日の総会に、次期改定の基礎資料となる「第24回医療経済実態調査」のスケジュールなどを示した上で、前回調査のデータを分析した結果を提示。「見える化を継続的に行っていくための方策について検討したい」との方針を説明し、委員の意見を聴いた。

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調査項目の見直しなどを議論

 次期改定に向けて来年6月に実施する「第24回医療経済実態調査」について厚労省保険医療企画調査室の荻原和宏室長は「調査実施小委員会を開催して議論をスタートすることとしてはどうか」と提案し、了承を得た。
 
 同小委員会での議論の進め方については、「事務局から調査項目の見直しや、有効回答率の向上策について主な論点を提示して議論いただき、それを踏まえて実施案などを示したい」と説明した。
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【総-6】第24回医療経済実態調査について_2022年10月5日の中医協総会_ページ_1
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見える化を継続的に行う方策を検討

 続く議題の「公的価格の費用の見える化に係る対応」では、前回の実調データを用いた分析結果が示された。

 荻原室長は「昨年11月に経済対策を決定し、その際に看護職員などを対象とした収入引き上げのための処遇改善の措置が実施されている。そのような状況の中で、公的価格の在り方について『公的価格評価検討委員会』で検討している」と伝えた。

 その上で、荻原室長は「現在保有しているデータ、医療で言うと医療経済実態調査のデータになるが、これを活用して、各職種の人件費、給与の状況などに着目しつつ収入・支出および資産の内訳を整理・分析するとともに、見える化を継続的に行っていくための方策について検討を進めるという方向性が示されている」と説明し、分析結果のポイントを示した。

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38_【総-7-2】医療経済実態調査のデータ分析_2022年10月5日の中医協総会

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実調の活用、「一定の限界がある」

 質疑の冒頭で、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は「医療経済実態調査の位置づけは今回のように同一医療機関における経年的な見える化を目的とするものではない」と指摘した。

 その上で、長島委員は「診療報酬改定の影響を大きく把握するために最適な調査となるよう、これまで長年、中医協で議論し、設計され、しっかりとした実績を積み重ねてきた調査であり、十分に一定の役割を果たしてきていると受け止めている」とし、「今回のような目的で使用することは適しているとは言えず、実施したとしても一定の限界がある」と苦言を呈した。

 同じく診療側の島弘志委員(日本病院会副会長)は「公的費用の見える化に関する分析は今後も必要になってくると思うが、分析した結果をどのように実際の医療機関の運営に生かすのか。そこまで落とし込まないと、せっかく分析しても、ただそれだけ、こういう実態があるというだけの話になる」と指摘。「そこまで深堀りして、このデータを利用することを検討してほしい」と述べた。

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今回の資料では詳細がわからない

 支払側の佐保昌一委員(連合総合政策推進局長)は「人件費の職種間の配分状況で経営主体別の数値が出ているが、ここでの数字はあくまでも中央値、平均値であり、医療経済実態調査では、どのような勤続年数か年齢なのかといった詳細までは把握できていない点に留意が必要だ」と指摘した。

 その上で、佐保委員は「今回の資料で判断するのは若干、詳細がわからないのではないか。公的価格評価検討委員会に報告するのであれば、その旨も併せて報告していただきたい」と注文を付けた。

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分析の切り口や深堀りの検討が必要

 同じく支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「国民の保険料や税金が効率的に使用され、現場で働く方々に広く行き渡ることは重要であり、そのために費用の見える化を通じた透明性の向上が必要ということは十分に理解できる」としながらも、「今回示された結果だけではなかなか解釈が難しい」との認識を示した。

 その上で、松本委員は「今後、この結果を政策判断に使用する、あるいは公定価格評価検討委員会に報告するのであれば、最終的にどのような費用構造であればよいのかも十分意識していただき、分析の切り口や深堀りを検討する必要がある」と指摘した。

 こうした議論を踏まえ、池端副会長が発言。「本来の目的とは違う使い方であるとしても得るものは当然ある」としながらも、分析結果の評価について「慎重にすべき」と述べた。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 総論的に言えば、先ほど長島委員がおっしゃったように本来の目的とは違う使い方として、このような見える化をすることで一定程度、得るものは当然あるかとは思うが、その評価についてはかなり慎重にすべきではないか。長島委員と全く同じ意見である。
 その上で今回のデータについて述べる。参考となるデータとして、給与の職種間のデータを出していただいた。医師と看護職員の配分状況が出ているが、今回の処遇改善等をめぐっては、さまざまな議論があった。 
 私としては2点。1つは看護師以外の看護補助者の給与体系がどうなっているか、どういう分布になっているか。今回の処遇改善の対象になっているため気になる点である。 
 もう1点は薬剤師。一般的に、病院の病棟薬剤師と保険薬局等の薬剤師との給与格差が相当あると言われている。
 こうしたデータが出せるのであれば、看護補助者と薬剤師の給料の分布等もお示しいただけると今後の参考にはなるかと思うので、それが可能かどうか、お聞かせいただきたい。

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【厚労省保険局保険医療企画調査室・荻原和宏室長】
 賃金について飯塚委員、佐保委員、池端委員からご指摘を頂戴している。賃金の具体的な分析については賃金構造基本統計調査のほうが適切ではないかということがあったかと思っている。基本的にはご指摘のとおりと思っている。医療経済実態調査における調査内容というのは、基本的には常勤職員の1カ月当たりの給与や人数を把握するにとどまっている。もちろん勤続年数や経験年数といったものの関係性については必ずしも直接的な調査対象とはなっていない。したがって、分析の中身としても限界点はあると考えている。あくまで実調データにおける見える化を今回は試みている。 
 池端委員から薬剤師や看護補助職員についてご指摘を頂戴した。実調の調査内容としては、それらの職員についても把握しているので分析としては可能ではあると考えている。 
 今後、そういったご指摘を踏まえ、さらに次の展開として精緻なものということで、ご指摘を頂戴しているかと思うので、私どもとして検討を深めてまいりたいと考えている。
 また、松本委員からアウトプットの出し方について質問をいただいた。今回はあくまで事務方として検討委員会のほうで検討の方向性、視点について、ある程度、一定の方向がまとまって、それを示されているということで、それに沿って分析を試みている。今後、検討委員会のタイミングがいつになるかは現時点では不明である。したがって、返し方、提出の仕方などについても今後われわれも検討していきたいと考えている。いったん今日お示しをしたデータの中身や、各委員からご指摘を頂戴したポイントなどについても踏まえながら、今後の展開を考えていきたいと考えている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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