高齢者救急の受け入れ拡充、「歓迎するが慎重に」 ── 次期改定の議論で田中常任理事

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20231026_介護給付費分科会

 高齢者救急の受け入れ先として老人保健施設の役割を評価する方針が示された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の田中志子常任理事は、「総合医学管理加算の拡充は歓迎する」としながらも、介護保険を使える上限(区分支給限度額)に配慮するよう「慎重な議論をお願いしたい」と述べた。他の委員からも同様の意見があった。

 厚労省は10月26日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第229回会合を開催し、当会から田中常任理事が委員として出席した。

 令和6年度の介護報酬改定に向け、厚労省は同日の分科会に通所系サービスに関する資料1から5を提示。これまでの議論を振り返った上で、それぞれについて見直しのポイント(論点)と提案(対応案)を挙げ、委員の意見を聴いた。
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01スライド_資料一覧

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一般病棟への入院で悪化する

 厚労省は資料5(短期入所療養介護)で「医療ニーズのある利用者の受入促進」を論点に挙げた。高齢者は「一般病棟に入院することにより、ADL等の生活機能や要介護度が悪化する」との報告などを示した上で、前回改定で新設された総合医学管理加算の算定状況は「概ね40~60件/月程度」と指摘。同加算の上限である「7日」を超えるケースもあるとした。
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02スライド_資料5ーP7論点

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 対応案では、「元々予定されていた短期入所において治療管理を行った場合についても評価する」との意向を示したほか、「算定日数を10日に延長してはどうか」と提案した。
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03-1スライド_資料5ーP11

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 質疑で、東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)は「医療費削減の観点からも賛成」とし、「管理医師の判断により、医療ニーズの程度が軽度で短期入所療養介護において対応が可能とされた場合は医療機関に送るのではなく、その場で治療すべき」と改めて主張。「認知症を合併している人が多い要介護高齢者が入院すると生活機能が急激に悪化することは周知の事実」と強調した。

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包括的に拾われると支払いが増える

 これに対し、鳥潟美夏子委員(全国健康保険協会理事)は期間延長による支払額の増加を懸念。「仮説ではあるが、残り1割の事業所は人手不足や計画の不備によって算定されていないのではないか。この部分が包括的に拾われると支払いが増えてしまう」と指摘した。

 調査によると、急性疾患に対する医療的処置を行った利用者について、主たる疾患の治癒までの状況は「7日以内に治癒」が56.1%、「7日を超えて治療」が10.2%だった。
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03-2グラフ_資料5ーP11

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ケアプランを変更しなければいけない

 田中常任理事は今回の提案に賛同しながらも、「突然、具合が悪くなって総合医学管理を受けるような場合に区分限度額に入れてしまうと、その後の日程に関してケアプランを変更しなければいけない可能性がある」と指摘。「在宅にいる間のサービス提供の分量を調整する必要が出てくるのではないか」と懸念し、「このあたりについても慎重な議論をお願いしたい」と求めた。

 東委員も「いわゆる『医療ショート』で受け入れる総合医学管理加算の部分については区分支給限度額から除外すべきではないか」と同意。「7日から10日に延ばすと、より支給限度額に響く。医療ショートの算定が低い理由の1つに支給限度額の問題が挙げられている」と説明した。

 江澤委員も「論点については賛成」とし、「医療ショートは治療目的であり、いわば医療提供とも言えるので、介護サービスの支給限度額の対象から除外することも十分考慮すべき」と述べた。その上で、同加算の算定を増やすために「老建にこういうサービス提供があるということを認知してもらうことも重要」とし、「あらかじめ地域の医療機関、かかりつけ医らと共有しておくことで、こういうサービスの利用が高まる」と期待を込めた。

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「やむを得ない事情」を明確化

 この日の会合では、豪雪地帯などへの対応についても議論があった。厚労省は同日の会合に「通所介護・地域密着型通所介護・認知症対応型通所介護(改定の方向性)」を資料1として提示。4項目の論点の中に「豪雪地帯等に対する通所介護等の取扱いの明確化」を挙げた。
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04スライド_資料1ーP8目次

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 対応案では、「事業者の持続的なサービス提供に資する観点から、利用者の心身の状況(急な体調不良等)に限らず、積雪等のやむを得ない事情についても通知上明記することで、明確化を図ることとしてはどうか」としている。
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05スライド_資料1ーP24対応案

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経営概況調査だけで十分か

 質疑で、古谷忠之委員(全国老人福祉施設協議会参与)は厳しい経営状況を訴えた上で、資料に示された調査結果を疑問視。比較対象とした費用の内訳が不明確であることに言及しながら、「通所系サービスにも訪問介護等のサービスと同様に『特別地域加算』の15%と、『中山間地域等における小規模事業所加算』の10%の上乗せを適用させるべき」と主張した。

 資料によると、「令和4年の経営概況調査において、豪雪地帯とその他地域の通所系の送迎に係る支出(車輛費等)を調査したところ、例えば通所介護等の車輛費は、豪雪地帯よりもその他地域の方が高い等、必ずしも豪雪地帯の通所系サービスの送迎に係る支出が高い、という結果は得られていない」としている。

 厚労省の担当者は「車両費『等』の中には、タイヤや燃料費等が含まれている」と説明。閉会後の記者ブリーフィングでも質問があり、「車両の検査費は含まれるが、駐車場代は含まれない」とした。

 群馬県内で病院や介護施設などを運営する田中常任理事は「経営概況調査だけで本当に十分か」と疑問を呈し、「大きな負担になっているのは車両費ではなくて、雪かきのための人件費や除雪業者への支払い」と指摘。「朝早く出勤させる人件費などは見込まれていないように思うので、改めて豪雪地帯等に関する調査を実施してはどうか」と提案した。

田中志子常任理事の発言要旨】
 古谷委員が指摘したように、豪雪地帯の調査について「経営概況調査」だけで本当に十分かどうかということに異論を唱えたい。当地域は東北、北海道、北陸ほどの雪は降らないが、新潟に隣接しているために冬場は雪かきが欠かせないような状況である。そのため、実際にかかっているのは車両費ではなくて、雪かきのための施設内人件費や除雪業者への支払いなどが非常に負担になっている。朝早く出勤させる人件費などは見込まれていないように思うので、豪雪地帯等に関する調査を改めて実施してはどうか。

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事業所間の連携を促進する方策を

 資料2「療養通所介護(改定の方向性)」では、「医療ニーズを有する中重度者が必要に応じて利用しやすくなるよう、療養通所介護において短期利用を可能としてはどうか」と提案したほか、重度者のケア体制の評価、障害を抱える人たちを受け入れる役割などを挙げた。
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06スライド_資料2ーP6目次

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 このうち論点3では、「地域の多様な主体とともに利用者を支える仕組みづくりを促進する観点」を挙げた上で、「障害福祉サービス等における報酬改定を考慮し、新たに評価することとしてはどうか」と提案した。
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07スライド_資料2ーP13対応案

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 田中常任理事は、サービス提供に必要な人材確保の必要性などを指摘し、「規制緩和の検討、更なる障害者等の受け皿づくり、障害者支援事業所間の連携を評価あるいは促進する方策を検討してはどうか」と提案した。

【田中志子常任理事の発言要旨】
 短期利用の取り計らいについては大変ありがたく思っている。一方で、前回も議論があったように、看多機の機能を変える方向性の中において、今後の看多機との間で、どのような役割分担をするかについても視野に入れながら進めていただきたい。
 また、論点2の手厚い人員配置に関しては、特定行為などの専門看護師を視野に入れていただきたい。さらに、介護保険法の療養通所介護では、サービス管理者や児童発達支援管理責任者等が不足しており、なかなか採用できない状況にある地域が多い。
 そうした中で、必要とされる医療的ケア児の通所や、障害区分世代の方を受け入れていくというのであれば、規制の緩和を検討し、更なる障害者等の受け皿づくりをするか、あるいは地域包括ケアシステムの理念のもとで、先ほど来、皆さまがおっしゃっているような地域共生社会における活動において、地域の介護事業所と障害者支援事業所間の連携を評価、あるいは促進する方策を検討してはどうかと提案する。

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新たに看取り期における取組を評価

 資料4「(介護予防)短期入所生活介護(改定の方向性)」では、看取り対応の評価などが論点に挙がった。
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08スライド_資料4ーP7目次

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 対応案では、「レスパイト機能を果たしつつ、看取り期の利用者に対してサービス提供を行った場合は、新たに看取り期における取組を評価する」としている。
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主治医の取扱いをどうするか

 質疑で、及川ゆりこ委員(日本介護福祉士会会長)は「看取り期におけるレスパイトケアの必要性はこれからますます増える」とし、今回の提案に賛同した。
 
 及川委員は「医療・介護の専門職と関わることができる短期入所生活介護サービスを使うことで、ご本人に対する人生の最終段階における意思決定支援のほか、ご家族に対する看取り期の対応方法等をお伝えすることができる」とし、「このサービスの価値は極めて高い」と評価した。

 一方、小林司委員(連合総合政策推進局生活福祉局局長)は「全体的に利用の長期化の傾向があるので看取りへの対応に異論を唱えることはない」としながらも、「本来、担っている機能に沿って連携して役割分担をしていくことも必要」と指摘。「可能な限り居宅で自立して暮らしていくことができるようにする機能に即したものになるよう促すことが必要ではないか」と述べた。

 田中常任理事は「主治医の取扱いをどうするか」と問題提起。「しっかりと準備して進めていくことが重要」と述べた。

【田中志子常任理事の発言要旨】
 看取りの必要性があることは重々理解している。1つ心配を申し上げると、主治医の取扱いをどうするかである。短期入所介護の場合には、主治医は施設配置医師と同様の医師ではない可能性もあるので、そういった場合に看取りはどちらの医師が担当するのかについて、しっかりと準備して進めていくことが重要であると考える。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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