リハ・栄養・口腔の体制評価を ── 同時改定に向け、池端副会長

協会の活動等 審議会 役員メッセージ

2023年11月29日の総会

 リハビリ・栄養・口腔の連携・推進などをテーマに議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「リハ・栄養・口腔を一体的に提供する体制の評価も考えていいのではないか。6年に一度の同時改定で実のある内容にしていただきたい」と述べた。

 厚労省は12月1日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第569回会合を開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 この日の中医協は総会のみ約4時間の開催。医療DX、小児・周産期、リハ・栄養・口腔、薬剤の自己負担などについて論点を示し、委員の意見を聴いた。
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 池端副会長の主な発言要旨は以下のとおり。

■ 医療DXについて
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 33ページ(病院における医療情報システムのサイバーセキュリティ対策に係る調査概要)について質問したい。「G-MISを用いて、病院のサイバーセキュリティ対策の実態に関するアンケート調査を実施」とあり、調査対象は、「G-MIS IDが付与されている、8,238の病院」で、有効回答数は4,811施設(回答率58.4%)となっている。
 この調査対象が「G-MIS IDが付与されている病院」であるとすると、電子カルテの導入状況はどうだったのか。導入の有無について、わかる範囲で教えてほしい。
 その上で、もし電子カルテを導入している病院だとすると、医療情報システム安全管理責任者を設置している医療機関の割合はどうなるのか。すなわち、34ページによれば、「医療情報システム安全管理責任者を設置している医療機関の割合は、200~299床で76%、300~399床で83%、400~499床で92%、500床以上で97%であった」としている。安全管理責任者の設置割合は平均73%。一方、電子カルテを導入している病院はまだ50%前後なので、残りの半分はまだ全く手をつけていないと考えなければいけない。特に、大病院と中小病院はそれぞれマンパワーも違う。そのため、感染対策向上加算のように大病院と中小病院が連携しながらサイバーセキュリティ対策に取り組むことに対して、何らかの手当てなどを検討してもいいのではないか。中小病院に対しても配慮した対応をお願いしたい。
 続いて、電子処方箋について質問したい。64ページに「院内処方情報連携の実装方法」が紹介されている。これは進めていただきたいが、病院では電子処方箋がなかなか進まない事情がある。その理由の1つとして院内処方箋の取り組みができないという問題がある。これに対して手当てする方向で検討していただくのは非常にいいが、HL7FHIRで院内処方箋を突合しようとすると、施設整備を導入するための費用がかかる。これについて何か補助金等も検討しているのか。これも質問させていただきたい。
 病院では院内処方箋が突合できないため、電子処方箋のメリットが半減してしまう。そのため、二の足を踏んでいる面もある。ぜひ導入を進めていただきたいとは思うが、一方で費用負担について心配している病院も多いので、質問させていただく。

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【厚労省医政局・田中彰子参事官】
 調査前に電子カルテシステムを使用しているかという問いに関して、約71%が導入しているという回答だった。その71%のうち、安全管理責任者を設置している割合になっている。
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【厚労省医薬・生活衛生局総務課電子処方箋サービス推進室・猪飼裕司室長】
 電子処方箋の院内処方の改修について、どの範囲の情報を掲載していくのか。そして、どのタイミングで登録するのかといった基礎的な議論を公開の場で検討を始めたところであり、現時点では、どのような改修になっていくのかを予断する状況にはない。そのため、補助金を要求するのか、しないのか、そういったこともまだ検討はしていない。
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■ 小児・周産期医療について
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 小児入院医療について、「希望によって親が子どもに付き添う場合に親に過度な負担がかからない医療機関の体制を確保するために、小児入院医療管理料における保育士や看護補助者の配置に関する評価についてどのように考えるか」との論点が示されている。
 私自身も現場で必要性を感じている。重い遺伝子病のお子さん。親御さんが月単位で、場合によっては数カ月間にわたり常時、付いている。もちろん看護体制はあるが、ご家族のご希望でということで付いてしまう。それが当たり前になると、お母様方、お父様方のレスパイトを考えてあげなくてはいけないぐらいの負担になる。1対1以上、1対1プラス専門の看護師が付いているので、入院しているお子さんに1人、2人以上近くのケアをしている。ご両親の負担を少しでも減らすための配置、特に保育士や看護補助者の配置は非常に効果があると思う。お母様方に「1週間に1回でも家へ帰ったらどうですか」と言える体制を築くことは喫緊の課題ではないかと思っているので、ぜひ検討していただきたい。
 次に、医療的ケア児については「入院受け入れに係る体制の整備が求められるなか、その評価についてどのように考えるか」との論点が示されている。
 私の県内でも、また全国的にも同様の状況だと思うが、ご両親に「今、何が最も不足していますか。何を求めますか」と尋ねると、「レスパイトケアの場所がない」という答えが返ってくることが多い。 
 レスパイトケアの体制はあるのに、なぜか。ご家族の方が24時間ずっと家で見ていた子どもを預けることに抵抗がある。例えば、吸引の仕方1つにしてもそう。自分の慣れたやり方をやってほしいとか、いろいろな親の思いがある。そのため、受け手側も難しい。確かに、制度上は用意できているかもしれない。ただ、ご両親の要望が強くて、なかなかスタッフがついていけない。そこで、「なじみの関係」が非常に重要となる。何回か預けて慣れてくると、「この施設は大丈夫」と安心するようになる。施設側のスタッフも「こういう方法でやれば1週間は受けられる」ということがわかってくるとレスパイトケアが非常にスムーズに進む。このような「なじみの関係」を築くためには、在宅にいるときにどういうことをやっているか、しっかり聞き込む必要がある。これは通常の入院とは違った対応である。ここに対して評価することが大切だと思うので、このような方向でレスパイトケアが進むように検討してほしい。
 59ページ「同時報酬改定に向けた意見交換会における主な御意見」として紹介されている。「医療的ケア児への対応について現場で最も問題となるのはレスパイトケアであり、医療的ケア児のレスパイトに係る必要十分な体制を構築することが重要」とある。これは私の発言だと思う。現場では、特に、ご両親が非常に強く望んでいることなので、ぜひ何らかの評価をお願いしたい。
 最後に、小児科における児童精神について。論点では、「発達障害の初診待機が課題」とされている。自閉症を含む発達障害が非常に多くなっている。実は私自身、地元で保育園を運営している。300名ぐらい預かっていて、保育のいろいろな団体の会議にも出ている。全国的にも発達障害は増えているが、対応できる専門医が少ない。お母様方が情報交換して「あそこはいいよね」という所に集中してしまい、2カ月、3カ月待ちになってしまう。データに示されているように、診断を受けると、お母様が非常に不安になる。2~3カ月は毎週のように通って、いろいろアドバイスを受けたいと思うようだが、現在は再診が2回に制限されているので難しいという課題もある。
 医師でなくてもいいので、公認心理師等のカウンセリングも含めて対応できるようにする必要がある。期間限定でもいい。最初のうちだけでもいいので、回数を少し緩めていただければ、お母様方の安心感が得られる。そして、家でもこういう対応をすれば発達障害のお子さんをみていけるという自信が持てるように、そういうソフトランディングをするような意味で、回数をもう少し柔軟に対応していただくなどの方法を検討していただきたい。
 私は保育園で理事長と園医を兼務しているのだが、自信のないところがあるので数年前から小児科の先生にも園医をお願いしている。小児科の先生が健診すると、「ちょっとこのお子さん、問題があるかもしれない」ということで引っかかってくる。プロが診ると早期にわかることがあるので、迅速に対応できて改善が早まることがある。そういった体制を全国的にも取っていただきたいと思うので、そういう方向で進めていただけたらありがたい。

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■ リハ・栄養・口腔について
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 リハビリ・栄養管理・口腔管理などの論点については診療側の各委員がおっしゃったことに賛成したい。その上で、私は「急性期におけるリハビリテーション・栄養・口腔」の論点について述べる。この問題はこれまでの中医協総会の場でよく議論されて、これからもまた議論になると思う。高齢者救急をどうするか。
 地域包括ケア病棟などで受けるべきという意見もあるが、一方で、やはり高齢者救急といってもいろいろで、さまざまな疾患がある。急性期で受けるべき高齢者もまだまだ多く、これからも十分に必要性が高い状況は続いていくと思う。
 現に、急性期病院でも6割以上が高齢者。単に治療だけではなく、リハ・栄養・口腔を一体的に提供する体制は絶対にこれから必要ではないかと私自身も感じている。私どもは慢性期病院の団体だが、急性期から慢性期、回復期という流れの中で、いわゆる地ケアや回リハ、特に療養などに急性期から送られてくる患者さんの栄養状態がかなり落ちてしまっている。ADLとともに栄養状態が落ちていて評価もあまりできていない。急性期の疾患が治ったので慢性期に送られてくることが多いのだが、その評価すらできていないところも一部に見られる。同時改定を機に、リハ・栄養・口腔を一体的に進める必要がある。
 この点、太田委員もおっしゃったように、ADL維持向上等体制加算の点数が80点で24時間体制のリハビリ提供というのは、なかなか厳しいものがある。病院としては積極的に取りにいけない面がある。さらに言えば、リハだけでは足りない。しっかりと栄養がついていないと、リハをいくら頑張ってもADLは上がらない。そこで、リハと栄養と口腔を一体的に提供する、できる体制を評価する。そういった少し大きな評価ということも考えていいのではないか。6年に一度の同時改定であるから、何らかの形のある、実のあるものにしていただきたいと思う。前向きなご検討をよろしくお願いしたい。

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■ 長期収載品の保険給付の在り方の見直しについて
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 後発医薬品の供給不安を踏まえると、選定療養の適用場面については流通全体を見て、ある程度、銘柄等を決めるほうがルールとしてはしっかりしているように思う。現状、不安定供給は地域や薬局・医療機関によって違うし、週単位で変わっていく状況。後発品に変えようとしても手に入らず、ほかの後発品を探してもない。そこで2週間、また今月だけ先発品を使うということもあるので、この辺をどう考えるか。患者さんに丁寧に説明しなければいけない。週単位でコロコロ変わってしまう場合、患者さんは全く納得できないと思う。今週は保険給付だが来週は選定療養で自己負担というのでは納得できない。どういう落としどころがあるのか、私自身もわからない。現場は非常に混乱するだろう。国民全体に対する丁寧な説明等が必要ではないか。
 それから、先ほど太田委員もおっしゃったように、入院中の薬剤に関しては選定療養になじまないと思う。出来高の入院については、今回は外していただきたいと私自身も感じる。
 選定療養として患者さんが負担する範囲について、長期収載品の薬価を超えて徴収することを認めるのか、あるいは標準とする水準より低い額で徴収することを認めるのかという論点が示されている。選定療養を基準よりも上げたり下げたりするのはどうかという問題。私は今回の選定療養の目的からすると、上げ下げすべきではないと思う。この点に関連して、先日の医療保険部会でも質問させていただいたのだが、改めて確認したい。もともと選定療養というのは一定の基準を設定して、あとは自由に医療機関側で決められるという立て付けだと思うので、選定療養として徴収する額を一定の負担にフィックスすることが法的に可能なのかどうか。

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【厚労省保険局保険医療企画調査室・荻原和宏室長】
 資料23ページ(保険給付と選定療養の負担)の論点②(どの程度を標準とするべきか)について質問をいただいた。例えば、1つの標準を示して、それを固定的なラインとするということが法制的に成立するかどうかという質問だと認識している。この点についても、法制上の整理を含めて整理した上で、お示しできればと思っている。

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サイバーセキュリティ対策は不十分

 この日の総会では、サイバーセキュリティ対策をめぐる議論があった。厚労省はセキュリティ対策の一環として、「オフラインでのバックアップ」「医療情報システム安全管理責任者の配置」「BCPに記載した手順に従った方法に基づく訓練」などを挙げた。
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02スライド_論点P68-2_医療DX(その3)

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 質疑で、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は調査結果を踏まえ「医療機関のサイバーセキュリティ対策は十分とは言えない」と苦言を呈し、「しっかりとしたバックアップ体制を整備していただきたい」と求めた。

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「現実離れしている」「無理がある」

 さらに松本委員は「医療法に基づく立入検査において、全ての医療機関に医療情報システム安全管理責任者の配置が求められる」と指摘。診療録管理体制加算について、「400床以上の医療機関にのみ義務付けている責任者の配置を中小規模の医療機関にも拡大すべき」と主張。これに診療側は反対した。

 長島公之委員(日本医師会常任理事)は「実情として、すぐに配置することができない病院も非常に多い。現実離れしている」と反論。池端副会長も「かなり無理がある」と理解を求め、大病院と中小病院の連携を評価する方向での検討を求めた。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 長島委員がおっしゃったように、かなり無理がある。20床ほどの病院から1,000床近い病院まで、全て同じように専任の安全管理責任者を置くのは難しい。今後、努力を重ねながら少しずつ進めていくことに対しては医療機関も協力していこうとしている。実際に担当者がいないと不安があるので、そういう努力をしているだろう。
 ただし、安全管理責任者の配置を要件化することは時期早尚ではないか。中小病院はついていくことができない。電子カルテの導入がまだ50%ほどしか進んでいない状況も理解していただきたい。
 感染対策向上加算では高度急性期病院や中小病院が連携しながら対策して、非常にうまくいったと思う。サイバーセキュリティ対策も同様に連携しながら進めるべきではないか。例えば、大病院のシステム管理者が中小病院に出向いて指導し、中小病院もブラッシュアップしていく。そういう体制をとりながら、徐々に全ての病院が目指すべき方向に進むようなシステムをつくる。そこに対して、何らかの報酬上の方法がないかと私は提案したい。サイバーセキュリティ対策を進めることに反対しているわけではないことを理解してほしい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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