プロフェッショナル・フリーダムがある ── 中心静脈栄養の議論で池端副会長

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池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_2023年11月22日の総会

 中心静脈栄養をめぐる議論があった厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「現場は悩み、苦労している。最終的には医師が患者さんやご家族と十分に話し合って判断する。プロフェッショナル・フリーダムがある」と理解を求めた。厚労省の担当者は「私どもとして何か過剰に制限することは適切ではないと考えている」と述べた。

 厚労省は11月22日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第566回会合を開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 令和6年度の診療報酬改定に向け、厚労省は同日の総会に「入院(その4)」と題する資料を提示。その中で、療養病棟入院基本料の見直しに関する論点を挙げ、中心静脈栄養の適応について一定の方向性を示した。
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相対的適応もあるのではないか

 厚労省は資料の中で、「静脈経腸栄養ガイドライン第3版」の抜粋などを掲載。静脈栄養と経腸栄養の選択基準も示した上で、「静脈栄養の適応とされるのは、汎発性腹膜炎、腸閉塞、難治性嘔吐、麻痺性イレウス、難治性下痢、活動性の消化管出血に限定される」とした。

 論点では、「ガイドライン等で経腸栄養が禁忌かつ静脈栄養が適応とされていない疾患については医療区分2として評価することについてどのように考えるか」としている。

 これに対し、池端副会長は引用元となる同ガイドラインの15ページに言及。原文では「汎発性腹膜炎、腸閉塞、難治性嘔吐、麻痺性イレウス、難治性下痢、活動性の消化管出血などに限定される」としているが、厚労省の資料では「など」が抜けている点を指摘。「相対的適応もあるのではないか」との認識を示した。
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【ガイドラインの記載】

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 また、同ガイドラインでは「静脈栄養、経腸栄養、両栄養法の特徴をよく理解し、病態に応じて選択することが重要である」としている点も指摘し、「まさにこれがプロフェッショナル・フリーダムだ」と説いた。
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【ガイドラインの記載】

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【池端幸彦副会長】
 90ページの論点に沿って意見を申し上げます。療養病棟入院基本料は私にとって本丸の1つですので、多少のお時間をいただくことをご容赦ください。まず、丸1つ目に関して、経過措置をどう考えるか。これは方向が決まってないところは、診療所の1施設が残されているのみというところまで来たということで、この方向性については、やむを得ないところかと思います。ただ、これは方向性を報告できた医療機関であって、まだ実際に移ったわけではなく、これから数カ月かけて、移れるかどうかというところで非常に困難な事例も出てくると思います。そのため、丁寧に進めてほしい。途中で人員がさらに減ってしまうなど、その方向性に沿った対応ができなくなった場合には丁寧な聞き取りと支援をお願いしたいと思います。そうしないと、入院している患者さんにも影響を与えてしまいます。丁寧にお願いしたいと思います。
 論点の2つ目です。DPCデータをもとに精緻化することについては、医療資源投入量な
どを分析すると差があるということなので、一定程度、理解できるところもあるかと思います。少し区分を細かくしてはどうかという事務局の案だと思います。
 ただし、これまで入院医療の議論の中で、加算に関する議論はありましたが、医療区分の1・2・3を大きく変更するということは、療養病棟入院基本料に大きく影響します。医療区分を細かく分解して9区分、さらには27 区分なども想定しているのかもしれませんが、現在、患者さんがいらっしゃる病院が成り立たなくなってしまってはいけないと思います。そのため、しっかりしたシミュレーションを実施した上で、適切に運営している施設であれば十分に対応できるということを確認し、それを担保した上で、医療区分の見直しを検討していただきたいと思います。医療区分の見直しは施設基準、すなわち医療区分2・3を8割以上という基準において、入院基本料の1を守れるかどうかにも関わります。医療区分の2・3を変えるのであれば、そこをどうするのか、慎重に対応していただきたいと思います。
 今、療養病床をお持ちの経営者は非常に心配しています。医療区分2・3を8割以上という基準を維持するのは、とても大変なことです。この基準がさらに厳しくなると、これは入院基本料の施設基準ですから、経営が成り立たなくなる。病院そのものが成り立たなくなってしまいます。ですから、必ずシミュレーションをした上で、ドロップウトするところが多くならないようにしていただきたい。患者さんのためにも、それは検討していただきたい。その上で精緻化をするのであれば、一定の理解はいたします。
 3番目の論点。リハビリテーション2単位については、地域包括ケア病棟との比較が示されました。しかし、療養病床は基本的に出来高払いの報酬体系です。全ての療養病床でリハビリを2単位以内という提案であれば、絶対に私は賛成できませんので、しっかりしたデータをもとに、改めて検討していただきたいと思います。
 最後の4つ目の論点。中心静脈栄養について。まず、今回の提案のベースになっている「静脈経腸栄養ガイドライン」については、私も今、コピーしたものを持っていますが、このガイドラインは基本的に急性期病院の外科を中心に作成された内容になっています。目次を見ますと、PARTⅠが「栄養管理の重要性および栄養投与経路選択・管理の基準」、PARTⅡが「栄養療法の進め方と評価」。PARTⅢは「小児の栄養管理」。PARTⅣが「成人の病態別栄養管理」。PARTⅤが「小児の病態別栄養管理」。こういうパートしかありません。高齢者に対するパートは一切ないんですね。よくよく見ると、成人の所に数ページ、「高齢者には」とありますが、とってつけたような内容しかありません。そのため、この急性期の中心静脈栄養のガイドラインに則ったものと慢性期の中心静脈栄養は、かなりいろいろな点で違うことがあります。
 まず、高齢者特有の倫理的問題やACPを含む尊厳に関する問題など。こうした課題も踏まえたガイドラインがこれから求められると思います。日本慢性期医療協会を中心に病院でもしっかりしたガイドラインができるように働きかけしていきたいと思いますが、高齢者特有の問題があるのだということを、まず知っていただきたいと思います。
 その上で、絶対適応についてですが、「汎発性腹膜炎」等々と書かれています。この論点では、「汎発性腹膜炎、腸閉塞」云々で始まり、最後に「活動性の消化管出血に限定されること」とあります。しかし、ガイドラインの本文には、「など」という言葉が入っています。すなわち、これらの疾患だけに限定されるものでないということ。「など」ということが、きちんとあるのだということ。それ以外の疾患があるのだということを、ぜひご承知おきいただきたいと思います。
 特に療養病床等で多いのは、反復性の胆嚢炎、胆管炎を起こしたときに、食事を始めると出てきて、中心静脈栄養に変えると収まって、また食事を始めると出てくるという、そういうように繰り返す病態があります。それから、臓器不全によってなかなか食事ができない場合、あるいは資料にもありましたように消化管不良症候群等もあります。決して上記の疾患に限定されるものではありません。これ以外は全て経管栄養に移れるものでは決してないということをご理解いただきたいと思います。
 そこで、事務局にお聞きしたい。経管栄養が禁忌で、静脈栄養が適応とされる疾患のみに中心静脈栄養を限定するということを、もし、これから目指されるのであれば、その方々は当然、嚥下はできない状況です。腹膜炎を起こした状況で嚥下できない。そうなると嚥下訓練等の評価は要らないということになるのでしょうか。そこはお聞きしておきたいと思います。いずれにしても、私たちはそうは考えていません。
加えて言うと、実は急性期病院からの持ち込みの中心静脈栄養が非常に多いのが現状です。これを抜くのが一番大変なのです。なぜかと言うと、急性期病院では厳しい条件下で入れているわけではなくて、比較的安易に入れてしまう。そして、療養病床に持ち込まれる。そこで、これを抜いて経鼻経管栄養にしようということを、家族や本人にお話しすると、なかなか難しい。「最初の急性期病院の先生方にいろんなお話をお聞きして中心静脈栄養を入れているので、それは話が違う。私は胃に穴を開けられたくはない」って、はっきりおっしゃる方も結構いらっしゃいます。
 一方で、私も皆さんもそうだと思いますが、本当に意識障害があるような場合。あるいは、高度認知症で倫理的にも尊厳的にも、それが「延命」と思われるような中心静脈栄養、あるいは経管栄養もそうだと思いますが、それが必要かどうかという判断があります。これはまた別の議論が必要だと思いますが、さまざまな条件のもとで療養病床に持ち込まれた中心静脈栄養があります。これを、限定されたルールに当てはめてしまって、「全て経鼻経管にしなさい」というのは相当な反発があるでしょうし、ご家族からも、ご本人からも反発が来ることがあること、ぜひ、ご理解いただきたいと思っています。
 日本では、胃瘻をずっとやっていた時期があります。しかし、「胃瘻は駄目だよ」ということを、ある特養の先生がおっしゃられて、それが一斉に広がって、もう胃瘻は駄目だという意識が高まった。「胃に穴を開けるなんて、胃瘻なんて駄目だよ」と今でもそう信じておられる方が非常に多いのです。
 確かに、このガイドラインにありますように、「腸が機能している場合は腸を使う」という大原則はそのとおりです。胃・腸を通して栄養を入れることが非常に生理的です。私もそう思いますが、国民的議論にもっていかないと、なかなかそこが難しいことが現状はあるので、そういうことも含めて、ご検討いただきたいと思っています。
 実際に、私も何度か経験がありますが、患者さんの意識がしっかりした状態のときに、まず経鼻を入れるとすぐにいやだから抜いてしまいます。2週間以上、経鼻が必要な場合は胃瘻や腸瘻にすべきだとガイドラインにも書いてあると思いますが、「じゃあ、穴を開けましょうか」と言うと、「それは絶対いやだ」と拒絶します。私は実際に胃ろうなどをしている患者さんをお見せするのですが、それでも、「あんなふうに、へそに穴は開けられたくない。でも、管を入れられるのはいやだ」となります。しかし、食べるとすぐに誤嚥してしまう。でも栄養はどこかで補給しななければいけない。では、点滴ということになりますが、抹消点滴は2週間も持てば、もうあとは栄養がどんどん落ちるだけなので、意識がしっかりしていれば、やっぱり中心静脈栄養になるという、こういう相対的適応というのもあるのではないか。そういうことを現場としては感じていますので、どうか、ご検討いただきたいと思います。
 今回、事務局がよりどころにされているガイドラインの15ページですが、そこは「栄養療法の選択基準」という項です。そこには、まず腸が機能している場合は腸を使うのが大原則だと書かれていまして、文末にこう書かれています。
 「近年、経腸栄養の有用性が高く評価され、多くの疾患で適応とされている。しかしながら、対象疾患によっては、必ずしも静脈栄養に対する経腸栄養の優位性は実証されず、経腸栄養と静脈栄養の有用性は同等との評価もある。したがって、静脈栄養、経腸栄養、両栄養法の特徴をよく理解し、病態に応じて選択することが重要である」
 まさにこれがプロフェッショナル・フリーダムだということ。医師がしっかり判断をして、患者さんやご家族と十分に話し合った上で必要な処置をする。日々、現場では本当に悩み、苦労しながら対応しているのだということを、ご理解いただければと思います。

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【小塩隆士会長(一橋大学経済研究所教授)】
 池端委員からご質問がありました。中心静脈栄養に関連して、嚥下困難になった場合の患者さんの対応をどういうふうにしたらいいか。これについて事務局で何か現時点でお考えがありましたら、ご回答をお願いいたします。
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【厚労省保険局医療課・眞鍋馨課長】
 医療課長でございます。ご質問ありがとうございました。われわれとして一律に何か、これをやるべき、あるいは、やるべきではないというふうに決めるべきものではないというふうに思っております。当然、その現場にはプロフェッショナル・フリーダムがあり、医師がその患者さん、および、ご家族と相談をされて、最後にどのような医療を選ぶかということを決めている。そのところを過剰に私どもとして何か制限することは適切でないと考えてございます。
 一方で、このようなデータがあるということをお示しすることも私どもの役割だと思っております。そういったことで議論が惹起され、そしてまた、今いただいたご意見を踏まえて、われわれとしては制度のつくり込みに生かさせていただきたいと思っております。

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何らかのエビデンスを示していただかないと

 支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「中心静脈栄養の実施期間が長期になるほど感染症の発生が多い実態を踏まえると、医療区分3における中心静脈栄養は真に必要とする患者に限定し、医療区分での評価に一定の上限日数を設けるべき」と主張した。

 その上で、ガイドラインの記載に言及し、「われわれとしては、ここに適応対象が明確になっているので、もし、そういった疾患があるのであれば、それが個別なケースであるとしても、何らかのエビデンスを示していただかないと、われわれは医療現場にいる者でもないので、それを受け止めることが難しい」と述べた。これに対し、池端副会長は次のように理解を求めた。

【池端幸彦副会長】
 松本委員から、医療区分2の50%もさらに適正化してはというご意見があったと思います。しかし、診療側の皆さんがおっしゃったように、今、医療区分を大きく変えて、さらに基準までいじるとなると、もう本当に、どうしていいのかわからない状況になってしまうのではないかと思います。しっかりしたシミュレーションのもとに、まずは50 %、80 %を維持して、経過を見ながら、そして必要な対応を今後とっていただくことについてはやぶさかではありません。
 実は入院料1・2と施設基準は同じです。1を取れば点数は高くなるわけですから、8割の方を集められる病棟があれば、そこにもっていくのでしょうが、既に診療報酬上の差ができているところで、なんとか地域のためにも、ここの病床を維持しようということで5割で維持しているところが、さらにこの医療区分が大きくいじられて、さらにパーセントまでいじられるとなると、これは本当にもう、どうシミュレーションしていいかわからないことになるかと思います。今回に関しては、療養病床入院基本料2の医療区分に関する施設基準をいじることに対しては明確に反対をさせていただきたいと思います。
 それから、確かにエビデンスは重要かと思いますが、今、この絶対的適応でエビデンスということになっていますが、これはもちろんガイドラインとして示されていることです。あくまでも学問的には正しいであろうという大枠を皆さんが認められたことがガイドラインになっているのです。それに少し追加する疾患、あるいは病態像があるということは事例報告としては挙げられると思います。それを挙げることはやぶさかではありませんが、きちんとしたデータに基づいたエビデンスというのは、なかなか難しいということもご理解いただきたいと思います。
 中心静脈栄養をしているから日数が長くなるとありますが、その方にとっては中心静脈栄養は唯一の栄養ルートなんですね。これをとめれば、もう「死んでください」ということになるので、そこは長期になることは、それがだんだん溜まっていくことは、ある程度、この超高齢社会の中では、やむを得ない部分もあるということもご理解いただきたい。また、感染が起こるという指摘もありますが、今、PICCカテーテルができて、中心静脈栄養でも腕から入れていることによって感染がぐっと抑えられているというデータもガイドラインに出ています。それから、ルート感染であれば、私も何度も経験しますが、いきなり熱が39度ぐらいまで上がります。カテーテルが原因だとわかるとすぐ抜いて、1~2日、様子見て、落ち着いたら入れ替えることで、また半年、1年、もちます。昔は3カ月、4カ月でルート感染を起こすことがありましたが、今は材料も非常に改善されています。衛生面での対応も良くなっていますので、ルートに関する感染は減少しています。
一方で、PEGでは何もないかと言えば、そんなことはありません。PEGの周囲に不良肉芽ができたりして外科的処置をしなければいけなくなったり、あるいは、そこで感染を起こして膿が出てきたりします。結局、PEGも抜かなければいけなくなるなど、そういう感染の機会も長期になればなるほど出てきます。一概に中心静脈栄養は駄目で、PEGはマルということではないということも紹介しておきたいと思います。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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