「医療法人にもストックが必要」と池端副会長 ─── 財政審の資料めぐる議論で

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池端副会長_2023年11月9日の医療保険部会

 財務相の諮問機関である財政制度等審議会(財政審)の分科会で示された資料をめぐる議論があった厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「コロナの時に頑張れと言われ、ストックがあるから吐き出せというのは筋が違う。医療法人も経営上、いろいろなストックが必要だ」と述べた。

 厚労省は11月9日、社会保障審議会(社保審)医療保険部会(部会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第170回会合を都内で開催し、当会から池端副会長が委員として出席した。

 この日の主なテーマは、①オンライン資格確認、②薬剤の自己負担、③入院時の食費──など。全ての議題を終えた後に猪口雄二委員(日本医師会副会長)が提出資料を説明し、意見が交わされた。

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地域医療に影響を与えてしまう

 猪口委員は冒頭、「今月1日に財政制度等審議会において社会保障をテーマとして医療機関の経営に関して議論されたが、(財務省)事務局より提出された資料には重大な問題点がある」と指摘した。

 その上で猪口委員は、診療所の利益剰余金が積み上がっているとの指摘などに対し、「極めてミスリーディング」と反論。「医療従事者の賃上げの原資は診療報酬による対応とし、持続的な経営環境を整備していくことが不可欠」と述べた。

 これに対し、保険者の委員から「猪口委員の発言は財務省の審議会に対する意見であって、中医協の場で医療経済実態調査の結果も含めて議論すべき」との声が出たが、ほかの医療関係者から「地域医療に影響を与えてしまうような記載がある」との意見もあった。

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小さな診療所は入っていないのでは

 こうした議論を踏まえ、多久市長の横尾俊彦委員は「公立病院などを見ても、全国的に半分以上が赤字状況の中で苦戦している」とし、「特に開業の医師の皆さんも大変で、奔走されたり、ご苦労されたりしていると思う」と理解を示した。

 その上で、横尾委員は「地域事情による厳しさをお互いに認識して議論していくことが重要」とし、今後の検討に必要な資料の提示を厚労省側に要請した。

 池端副会長も財務省の資料に示されたデータに言及。「あくまでも医療法人だけを集めたデータではないか。個人立の小さな診療所は入っていないのではないか」などと疑問を呈した。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 横尾委員がおっしゃったように、私もこの財務省のデータは、あくまでも医療法人だけを集めたデータだと思う。個人立の小さな診療所のデータは入っていないのではないか。 
 コロナの時、頑張れ、頑張れと言われ、その後、余っているだろうから、それで給与を上げなさいというのはどうなのか。一般企業でもストックを放出して給与を上げなさいと言われたら困るのではないか。医療法人にも経営上、やはり一定程度のいろいろなストックが必要なので、そこを吐き出せというのはちょっと筋が違うという気がする。

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病院団体としても協力していきたい

 この日の部会では、健診実施機関等のオンライン資格確認について「令和6年秋の保険証の廃止に当たって、健診実施機関等においては、オンライン資格確認(資格確認限定型)の導入を任意で可能としてはどうか」との提案もあり、了承された。

 池端副会長は任意とした後の対応などを質問した上で、「病院団体としてもオンライン資格確認の更なる広がりに向けて、しっかり協力していきたい」と述べた。

 このほか、同日の部会で議題となった薬剤の自己負担や入院時の食費についても見解を示した。池端副会長の発言要旨は以下のとおり。

■ 健診実施機関等のオンライン資格確認について
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 健診機関や助産所について簡易型のオンライン資格確認を導入することには大賛成したい。ただし、現状では保険診療でないために義務化しないことは理解している。現行の保険証が来年秋に原則廃止になった後、資格確認書があれば、当分そこで確認することはできるが、最終的に保険証が廃止になってしまえば、オンライン資格確認の機器を使って、それを読み込まなければいけなくなる。その時点で100%になるのではないかと理解しているが、そういう理解でよろしいのかどうか。
 なお、病院団体としてもオンライン資格確認の更なる広がりに向けて、しっかり協力していきたいと思うので、インセンティブ等があれば、それを利用しながら、広報に努めていきたいと思う。よろしくお願いしたい。

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【厚労省保険局保険データ企画室・中園和貴室長】
 今回、任意とした整理については、保険診療ではないという点のほか、健診実施機関において診察券の確認に当たって利用されていること、あるいは助産所においては直接支払いの事務において資格確認を行う際にも利用されていることなど、そういった業態での利用に着目した上で今回、任意という形にしている。今後、マイナ保険証の普及、あるいは健康保険証の廃止の施行に向けて、マイナ保険証の普及が進んでいく中で、健診実施機関や助産所においても、一定程度、おのずと導入されていくものと考えている。いずれにしても、この導入に際しては導入の補助、あるいは導入に当たっての相談支援についても、しっかりと行ってまいりたい。
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■ 長期収載品の保険給付の在り方の見直しについて
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 資料4ページ「検討の方向性」には、「後発医薬品に関しては、安定供給を前提としつつ、更なる利用を推進していくことが必要となる」との記載がある。しかし現状、その前提である安定供給が全くできていないことが最大の問題ではないかと思う。確かに、企業の不祥事等の要因もあるが、個々の企業の問題だけではなく、後発品の生産の構造的な問題も含まれているのではないか。薬価でも解決できない。複合的な原因があると思う。もちろん、検討会で一定の結論が出て、それを粛々と進めていくことだと思うし、また非常に努力している企業もあるので、ここをいかに評価するかも重要だと思う。いずれにしても、安定供給という前提を欠いてしまうと、なかなか進まない。
 後発品の不安定な供給状況については、3年前に「改善まであと3年はかかる」という話で、現在も「あと3年ぐらい」という。3年後も同様であれば、収束するまで10年もかかってしまう。日々、現場では「この薬が手に入るだろうか」と不安で、本当に困っている状況があるので、ご理解いただきたい。
 その上で、薬剤の自己負担について申し上げると、選定療養を使う方法は一定程度、理解できる。そうした中で、先ほど委員の方から、後発品に対する医師の意識を問題視する意見があった。現在、処方箋には後発品への変更を不可とするところに「✓」点を付ける欄があるが、その「✓」点を付ける医師は果たしてどのぐらいいるのだろうか。おそらくデータを見ればわかると思うが、私の知っている限りでは、ほぼいない。確かに、以前は高度急性期病院や大学病院の先生方が当院に非常勤で来たときに、「やっぱり先発品のほうが安全だ」と言って先発品を処方する医師もいたが、最近はほとんどいない。むしろ、高度機能病院の先生方が率先して後発品を使おうとしていると思う。もちろんゼロではないだろうが、病院全体に占める割合としては相当程度、減っているのではないかは。医師会も努力しているので10年前と比べて大幅に減っているはずだ。今後も引き続き努力していきたい。
 ただし、本人の状態や疾病によって、先発品を変更できないケースがあることもご理解いただきたい。例えば、「気分が楽になった」など、精神疾患の患者さんの場合には自覚症状に頼るようなケースが一定程度ある。長年ずっと使い続けてきた薬を変えたことによって、すごく不安になってしまって、また戻さざるを得ないこともある。医師としては、この患者さんには先発品が有効だが、こちらの患者さんには後発品でもいいと個別に判断する。それが医師の役目だと思っているので、なかなか難しいところがあるということを伝えておきたい。選定療養と組み合わせて少しでも医療費削減を進めていくことは理解する。

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■ 入院時の食費について
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 病院団体としては長年の夢と言ってもいいような強い思い入れがあった。ようやく少し風穴が空くかもしれないと大いに期待している。もちろん、介護費用との差を埋めるだけでは十分ではない。かつては介護施設に高齢者が多く、病院には若年者が多かったので、病院の患者さんの多くは常食という時代もあった。しかし、現在は急性期病院でも6割が75歳以上の高齢者。そのため、食材や食形態を工夫するなど、非常にデリケートな調整をしなければいけない。ここに大きな労力と費用がかかっている。したがって、単に食材費の問題だけではない。
 そうした中で、食材費が高騰して苦労している状況である。給食の委託業者が、急に撤退してしまい困ってしまった例も聞いている。食費は今、本当に緊急の課題なので、つなぎの資金も含めて何らかの検討を早急に進めていただきたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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