高齢者の支援、「箱物だけではない」 ── 社保審部会で橋本会長

会長メッセージ 協会の活動等 審議会

20231106_介護保険部会

 住まいの確保に困っている高齢者の支援策などが報告された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の橋本康子会長は「箱物だけではない」と指摘した上で、外出によってADLが向上するケースなどを挙げながら「周りの環境も一緒に考えるべき」との考えを示した。

 厚労省は11月6日、社会保障審議会(社保審)介護保険部会(部会長=菊池馨実・早大理事・法学学術院教授)の第108回会合を開催し、当会から橋本会長が委員として出席した。

 今回の主な議題は、①給付と負担、②その他──の2項目。このうち①については、65歳以上の高齢者の2割負担を拡大する方針などをめぐり議論した。②では、居住支援に関する検討会の「中間とりまとめ素案」が報告された。

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介護支援専門員の処遇改善も

 最初の議題「給付と負担」で厚労省は、「第1号保険料に関する見直しの方向性(案)」を提示。65歳以上の一部について介護保険料を引き上げる案について大筋で了承を得た。
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01スライド_P14下の図

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 「方向性(案)」では、「公費の一部を介護に係る社会保障の充実に活用する」とし、「1号保険料の低所得者軽減のほか、介護職員の処遇改善等を公費で実施」としている。
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02スライド_P14上の文章

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 質疑で、濵田和則委員(日本介護支援専門員協会副会長)は「介護支援専門員を含んだ介護人材の処遇改善などに充当できる余地も何とか模索いただければ幸い」と期待を込めた。

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耐えられる経済力があるのか

 一方、2割負担を拡大する範囲については意見がまとまらず、継続審議となった。現行では、「現役並み所得」は3割負担、 「一定以上所得」は2割負担となっている。
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03スライド_P5抜粋

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 質疑では、「2割負担になっても耐えられる経済力があるのかが判断できない」「金融資産も考慮すべき」など線引きの難しさを指摘する意見のほか、「負担割合が増えるとサービスの利用を控える人が出る」と懸念する声もあった。
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永続的に支出が続く

 小泉立志委員(全国老人福祉施設協議会副会長)は、「医療保険は一時的な支出となる場合が多いが、介護保険は生活に密着した支出であり、一度負担を支払い出した人にとって介護保険サービスが不要となるケースは非常に少なく、ほぼ永続的に支出が続く」との認識を示した。

 その上で、小泉委員は「負担割合を軽はずみに上げると日常生活における影響が大きいと推察されるため、現状維持が望ましい」と主張した。

 橋本会長は「介護保険をいったん始めると永続的に亡くなるまでずっと必要と思われがちだが、そうではない」とし、要介護者を減らすための取り組みを進める必要性を訴えた。

【橋本康子会長の発言要旨】
 「給付と負担」では、負担を考えていくことは必要で大事なことだと思うが、一方で、かかる介護費をなるべく抑えることを考え、努力することも大切なのではないか。高齢者が増加する中で、介護料の減少をどうすれば達成できるかを考えることが重要ではないかと思う。決してそれは不可能なことではない。
 現行の介護保険制度は、お世話の量に対する報酬となっている。そのため、給付と負担の議論になるのだが、今後を見据えれば、たとえ何パーセントでもいいので、お世話する量が減れば介護保険料が無尽蔵に上がっていくことが避けられると考えるべきではないか。
 私たち医療・介護を提供する立場から申し上げたいのは、適切なリハビリ、ケア・治療を行えば、改善するということ。要介護度が4・5で寝たきりになるとずっと変わらないとか、介護保険をいったん受け始めると永続的に亡くなるまでずっと必要とか、そのように思われがちだが、そうではない。もっと医療・介護従事者を上手に使っていただければいい。 
 例えば、要介護度が低くなれば介護報酬がアップするというインセンティブを付ける。現行の仕組みでは、その逆なのでインセンティブが働かない。人件費が出ない。リハビリでもケアでも、人手が必要になるので、加算等がついて人件費に充当することができれば、要介護度4・5の人でも改善できるし、要介護度1・2であれば介護保険から脱却することは可能だと思う。
 次回の改定には間に合わないとは思うが、お世話が必要な高齢者、寝たきり高齢者を減らしていくことを考えていくことも必要で、とても重要なことではないかと思っている。

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総合的・包括的な「住まい支援」

 続く議題2「その他」は報告事項として、「住宅確保要配慮者に対する居住支援機能のあり方に関する検討会」の中間とりまとめ素案が示された。
 
 この検討会は国交省・法務省・厚労省の3省合同で今年7月に設置。9月21日の第4回会合でまとまった素案では、孤独死や特殊清掃の負担など「賃貸人の不安」を挙げ、不安の解消に向けた方向性などを示している。
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04スライド_P2抜粋

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 厚労省はこの日の部会に素案の概要とあわせて、「総合的・包括的な『住まい支援』のイメージ」を提示。図中には「見守りサービス(民間企業等)」も含まれている。
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複合的な要因が絡んでいる

 質疑で、粟田主一委員(東京都健康長寿医療センター研究所副所長)は「様々な理由から、現在の住居に暮らせなくなる」とし、認知症による近隣トラブルなどを挙げながら「様々な複合的な要因が絡んでいる」と指摘した。その上で、「居住支援と生活支援がセットで提供されることが大事」と述べた。

 小林司委員(連合総合政策推進局生活福祉局局長)は「介護保険部会にそぐわない発言かもしれない」と断った上で、参考資料のイメージ図に言及。「どこに住まうかについては、日頃の介護サービスから近い所とか、日頃から診てもらっている医療機関へのアクセスを高齢者は大きな条件として考えるのが実際」と指摘した。

 その上で、小林委員は「困っている高齢者というのは限定的ではなく、かなり幅広いということをご認識いただきたい」と述べた。

 橋本会長は「住まいをきちんと確保するのはすごく大事なこと」としながらも、高齢者支援のあり方に多様性があることを指摘した。

【橋本康子会長の発言要旨】
 住まいをきちんと確保するのはすごく大事なことだ。賃貸でも有料老人ホームでも施設でも大事なことだと思う。ただ、4ページの総合的・包括的な「住まい支援」のイメージ図でも地域包括ケアの図においてもそうだが、箱物だけでは不十分だと考える。 
 例えば、リハビリをしている患者さんで、高齢者、障害者、認知症の人がいる。そういった方々が建物の中ではいいのだが、外に出ていくこともQOLにはすごく大事なことである。何か日用品を買いに行く、ちょっとした食べ物を買いに行く、コンビニも行きたい。銀行や郵便局が必要ということもある。
 私が一番感じるのは歩道だ。歩道がない所が多いので、杖歩行、シルバーカー、車椅子などの人が外では全く動けない。箱物で建物や住まいは充実してくるのだが、それらを結ぶというか、その周りの環境も一緒に考えていかなければ、QOLやADLの向上が難しい。動きが家の中だけになってしまうことがある。
 こういう総合的・包括的な「住まい支援」もいいが、もう少し歩道を広く取る、目的を持って動ける周辺環境を作ることも必要で、それだけでずいぶん変わってくるのではないか。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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