介護情報基盤、「医療DXとの連携も」── 介護保険部会で橋本会長

介護保険の利用者に関する情報などを共有する「介護情報基盤」の令和8年4月施行に向けて議論を開始した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の橋本康子会長は「薬の内容やADL、既往歴などの情報を医療機関も見られるといい」と指摘し、「医療DXとの連携も図っていただきたい」と述べた。
厚労省は7月8日、社会保障審議会(社保審)介護保険部会(部会長=菊池馨実・早稲田大学理事・法学学術院教授)の第113回会合を開催し、当会から橋本会長が委員として出席した。
厚労省は同日の部会に「介護情報基盤について」と題する資料を提示。介護情報の利活用に関する政府方針や改正法の内容などを紹介した上で、今後の検討課題などを挙げ、委員の意見を聴いた。
.
.
橋本会長は、介護保険被保険者証のペーパーレス化をめぐる課題のほか、医療DXとの連携などについて見解を示した。
【橋本康子会長】
こういう取り組みはとても大事だと思う。ペーパーレス化、そして情報基盤のプラットフォームをつくっていくことはとても重要である。しかし、地方の介護施設などでは、LIFEがまだ導入されてないところも多いのではないか。地方に限らないかもしれないが未導入の施設もあるように思うので、LIFEの導入率について教えていただきたい。
29ページに「介護保険被保険者証のペーパーレス化の方向性」ということで、わかりやすい図を書いていただいている。こういう情報基盤、プラットフォームをつくる場合、情報がきちんと集まらなければあまり意味がない。ケアマネジャーがケアプランを立てていると思うが、ケアマネジャーのなり手が以前ほど多くない。平均年齢が53歳で、4人に1人が60歳以上だと聞いている。私もケアマネジャーの資格を持っているが、実際にはやっていない。そうした状況から言うと、ペーパーレス化でケアプランをパソコンに入力していくのも今後は技術指導等が必要ではないか。
一方、医療でもペーパーレス化を進めている。薬の内容やADL、既往歴などの情報が介護保険のシステムに入ってくるのであれば、それを医療機関からすぐに見れたら非常に便利だと思う。しかし、まだそこまで進んでいない。こうした試みをするのであれば医療DX化との連携を図っていただければいいと思う。
33ページの「介護情報基盤の施行に向けて必要となる準備」について、「国はシステム設計、事業者支援策の構築、自治体システム改修の支援、早急な情報提供等を行う」としている。ケアマネジャーやLIFEをまだ取り入れてないような施設などに技術的な支援をお願いしたい。説明会だけではなく、実地練習なども含めて技術的な支援をしていただければ、もっと実のあるものになるのではないか。
.
【厚労省担当者】
LIFEの加算を取得している事業所の割合について質問をいただいた。さまざまな事業所にLIFEの取得をいただいており、おかげさまで、右肩上がりで取得事業所は伸びている。手元にある直近のデータは2023年4月。1年前のもので恐縮だが、最も高いサービス類型としては、老人保健施設。こちらは約8割の老健施設がLIFEを算定していただいている。続いて特養。介護老人福祉施設が約7割ということで、こういった施設系のサービスが特に高いということだが、いずれのサービスも加算の取得割合は伸びてきているというトレンドにある。
.
「地域共生社会の在り方検討会議」を設置
この日の部会では、6月27日に初会合を開催した「地域共生社会の在り方検討会議」について報告があった。令和6年度末に中間的な論点整理、令和7年夏を目途に取りまとめ、その後、「関係審議会で議論」としている。
厚労省によると、地域共生社会の実現に向けた取り組みは平成29年の社会福祉法改正で市町村の努力義務規定が盛り込まれ、令和2年の同法改正附則で「施行後5年を目途として施行状況について検討を加える」とされている。
.
.
こうした背景を踏まえ、この会議では「地域共生社会の実現に資する施策の深化・展開について、また、身寄りのない高齢者等が抱える課題等への対応や、総合的な権利擁護支援策の充実等について検討する」としている。
橋本会長は、認知症などの状態に応じた支援の在り方を指摘し、「すみ分けをきちんとして議論すべき」と述べた。
【橋本康子会長の発言要旨】
地域共生社会のあり方検討会議で、認知症や障害者の話が出てくるのか、わからないが、「共生社会」ということで言えば関係するのではないか。認知症政策推進大綱では、「共生」と「予防」と言われているので、「地域共生社会」に、それが当てはまるということだと思うが、医療的な観点から言うと、どのレベルの認知症の方のことを言っているのかと、思うことが多い。認知症の初期で軽度の人は、社会の中で一緒に生活できるが、中期、そして進行期にはいったり重度になったりすると、とてもそういう状況ではない。どの段階のレベルの、どの段階の方々のことを言っているのか。
精神科の先生や認知症を専門にされている先生方によれば、進行の早い人は半年や1年単位で悪化することもある。そういったことも踏まえて議論しなければ、ずれた話になってくるのではないか。
障害者についても同様である。私はリハビリを専門にしていて、就労支援などにも関わっている。鬱などの精神的な障害だけではなく、身体障害、そして精神とはまた違う高次脳機能障害もある。それらを区別せずに、「障害者」「支援」と言って議論すると、話がずれてしまう。そのあたりのすみ分けをきちんとして議論していくべきではないかと思う。
2024年7月9日