認知症の新薬と介護費用、「長期的なスパンで」 ── 池端副会長、今後の研究に期待
認知症の新薬と介護費用の関係などを検討した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「長期的なスパンで全体としての傾向がわかれば、ある程度の傾向が見えてくるのではないか」と今後の研究に期待を込めた。出席した参考人は「腰を据えた研究になる」と述べた。
厚労省は10月27日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会など5つの会合を開いた。この中で、認知症の新薬「レケンビ」(一般名=レカネマブ)の薬価や費用対効果を検討するため2回目の合同部会を開催し、当会から池端副会長が出席した。
この日の合同部会には、「NDB・介護DB連結データ分析」などの研究に関わる加藤源太氏(京都大学医学部附属病院診療報酬センター)らが参考人として出席。要介護高齢者らのデータ活用による費用対効果評価への応用可能性を探った。
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可能性としてはあるのではないか
加藤参考人は「NDBと介護DBを、連結IDを用いれば確かな分析をできるのか否か」と研究目的を紹介。これまでの取り組みを振り返った上で、データの連結に用いるIDをめぐる技術的な課題や、治療効果などを含む解釈上の課題を挙げ、「提供されたサービスと認知症との直接的な因果関係がどこまで検証可能かが不透明」と述べた。
加藤参考人は「どちらかと言うと、厳しいのではないかという話を述べた」としながらも、「今後どういったことが実現可能かを検討すべき」とし、①障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)、②認知症高齢者の日常生活自立度──といったADL情報を用いた分析方法を提示。①②を用いることで、「認知機能の違いが医療費や介護費にどのような差をもたらしているかを評価することは不可能ではない」とした。
その上で、加藤参考人は「例えば認知症の治療薬の使用状況、あるいは、それに基づく認知症の程度の度合いの推移と絡めて分析することで、介護費用にどう影響が出たかということを評価することは、種々、調整が必要かと思われるが、可能性としてはあるのではないか」と結んだ。
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利用が進めばエビデンスになりうる
質疑で、長島公之委員(日本医師会常任理事)は「さまざまな課題があると同時に可能性についても理解を深めることができた」と謝意を表した上で、「レケンビを用いた際に介護費用がどの程度低減されるのか、連結データの解析から明らかにできる可能性がどの程度あるのか」と質問した。
加藤参考人は「仮にレケンビを使っても、通所などの介護サービスがレケンビの効果により受けずに済むようになったという、そこまでドラスティックなことが多くの事例にすぐに起こるのかどうかは、ちょっと難しい可能性がある」と回答。「この薬剤が定着してきて、実際に要介護度の変化になって表れてくるかどうかが鍵」とし、「ある程度、利用が進んでからのほうがリアルなエビデンスになりうるのではないか」と述べた。
池端副会長はレケンビの効能・効果に触れながら、「長期的に見なければいけない」とし、今後の見通しなどを質問。加藤参考人は「ある程度の期間を追わなければいけない」とし、「IDをつないでデータの質を高めるという努力をわれわれも含めて意識していく必要がある」と語った。
【池端幸彦副会長の発言要旨】
私も長島委員とほぼ似たようなご質問になるとは思うが、レケンビについて考えると、長期的に見なければいけない。レケンビは要支援など比較的軽度な認知症の進行を3割ほど遅らせるような効果が示されているので、5年、10年というスパンの研究になるだろう。とすれば、IDをめぐる技術的な課題などがあったとしても、長期的なスパンで全体としての傾向がわかれば、ある程度の傾向が見えてくるのではないか。このような理解でよろしいだろうか。
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【加藤源太参考人】
ご指摘のとおり、ある程度の期間を追わなければいけないので、腰を据えた研究になると思う。その際には、やはりIDの問題。冒頭で申し上げたように、IDの話というのは、やってみた人たちが一番、直面して非常に頭を悩ませる問題であり、やっていない人からすると、「それって、もともと当然つながるものですよね」というように思っておられる場合が多い。そのため、IDをつないでデータの質を高めるという努力をわれわれも含めて意識していく必要があるのかなと思っている。そうすると、5年、10年の研究に耐えうるデータが出て、利用者も増えてきて、利用者が増えることで、このデータをうまく使おうという、さまざまなアイディアが出てくる。そういう機運に期待したいと思っている。
(取材・執筆=新井裕充)
2023年10月28日