湿布薬の35枚制限は「現場が混乱する」 ── 池端副会長、支払側に反論

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池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_2021年12月8日の中医協総会

 外用の消炎・鎮痛薬(湿布薬)の処方枚数(現行70枚)について「35枚までを原則とする」との意見が出た厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は急性・慢性の違いを説明した上で「いきなり半分の35枚までになると現場が混乱する」と反論した。

 厚労省は12月8日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第503回会合をオンライン形式で開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 次期改定に向けた主なテーマは「個別事項(その8)」で、前半は薬関係、後半は働き方改革等の論点が示された。このうち前半は、①後発医薬品、②医薬品の適切な使用の推進──の2項目。

 厚労省は②の「医薬品の適切な使用の推進」の論点として、「これまで薬剤給付の適正化の観点から実施している取組内容や処方の実態を踏まえつつ、外用の消炎・鎮痛薬の適正使用について、どのように考えるか」と意見を求めた。
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外用薬は高齢者などに有用

 質疑で、診療側の城守国斗委員(日本医師会常任理事)は「今回、外用の消炎・鎮痛薬の枚数制限をさらに適正化することが提案されていると受け止めている」との認識を示した上で、「薬剤費の適正化ではなく、長期処方を是正して、患者さんの治療効果を上げるという観点から検討すべき」と指摘した。

 続いて、同じく診療側委員の長島公之委員(日本医師会常任理事)は効能・効果の観点から説明。「外用薬は皮膚を通じて薬剤が吸収されるため、内服の消炎・鎮痛薬と比べ副作用が少ないというメリットがあるので、特に多剤を内服するような高齢者などでは有用性が高い」と指摘した。

 その上で、長島委員は「外用薬の枚数が制限され、結果的に医療上必要な量に足りなくなった場合に鎮痛効果が十分でなくなり、新たな内服薬の追加や増量が必要となる状態は避けるべき」と慎重な対応を求めた。
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あらゆる手段で自己負担の見直しを

 これに対して、診療側の有澤賢二委員(日本薬剤師会常務理事)は「資料でも、これまでの施策が有効であることが確認できる」と枚数制限を評価。「必要に応じて、より適正化していくことも1つの方策である」と述べた。

 支払側の安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)はさらに踏み込み、「薬剤給付の適正化を図るためには、あらゆる手段を講じる必要がある」との考えを改めて強調。「外用の消炎・鎮痛薬のように既に対応しているもの以外についても引き続き検討していく必要がある」と範囲の拡大を求めた。

 安藤委員は、骨太方針に示された「OTC類似医薬品等の既収載の医薬品の保険給付範囲について引き続き見直しを図る」との記載を読み上げた上で、「最も効果的な手段の1つが保険診療下で相対的に必要度が低下した市販品類似薬の除外、償還率変更も含めた薬剤自己負担の見直しである」などと主張した。
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山のピークが35枚と70枚

 同じく支払側の佐保昌一委員(連合総合政策推進局長)は、処方枚数の分布を示した資料33ページに言及。「外用の消炎・鎮痛剤の処方枚数が70枚に大きく偏っている状況」とし、「実際にどういう使用をされているのか、さらに分析が必要ではないか。分割調剤やリフィル処方などの推進により、適切な処方を考えるべきではないか」と述べた。

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33_【総-4-2】個別事項(その8)医薬品の適切な使用の推進_2021年12月8日の中医協総会

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 松本真人委員(健康保険組合連合会理事)も33ページのグラフを指摘。「山のピークがおおむね1カ月分に相当する29枚から35枚と、現在の上限である70枚の所にある」との見方を示した上で、「1カ月分を超えたところで処方箋枚数が急激に減少しているということも読めとれるので、35枚までを原則とするということで十分対応できると考えている」と述べた。
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慢性疼痛用の処方がある

 支払側委員の意見に対し、池端副会長は「なぜ2つの山があるのか」と理由を説明。「35枚までの山は、例えば一過性の急性の打撲や捻挫など」とし、70枚以上については「慢性の疼痛や腰痛症、慢性の肩関節周囲炎などで、特に高齢者を中心に処方されることが現場感覚では非常に多い」との見方を示した。

 その上で、池端副会長は「これをいきなり半分の35枚までということになると、現場が相当混乱する可能性が高い」と指摘。「慢性疼痛用と急性の処方があることを理解してほしい」と述べた。

 この日の会合では、「働き方改革の推進」のテーマの中で看護補助者の活用も議論になった。池端副会長は、病院に勤務する看護補助者(介護福祉士)の処遇も改善する必要性を改めて指摘した。
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2021年12月8日の中医協総会

■ 薬剤給付の適正化について
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 33ページに外用の消炎・鎮痛薬の処方枚数のグラフがあって、松本委員から35枚で打ち切りでいいのではないかというようなご発言があった。 
 確かに、この表を見ると2つの山がある。ほとんどが「64枚以上70枚以下」で99.5%を占めている。この山は、前々回の報酬改定で70枚までと決められたので、ここがピークになっている。患者さんの希望からすれば、もっと右のほうに山が行くはずである。例えば、90枚、100枚は欲しいところだが、「保険で認められるのはここまでですよ」ということで、ここに大きな山がある。
 一方で、なぜ2つの山があるかというと、35枚までの小さい山のほうは例えば、一過性の急性の打撲、捻挫等々での処方をする場合の湿布等で、これらはおそらく1カ月以内で収まってしまうものだと思う。
 ところが、70枚、または本来ならば70枚を超える希望がある場合は慢性の疼痛、腰痛症、慢性の肩関節周囲炎などで、特に高齢者を中心に処方されることが現場感覚では非常に多いと思う。
 これをいきなり半分の35枚までということになると、やはり現場が相当混乱する可能性が高いのではないか。確かに、むやみやたらにというのはよくないという1号側のご意見も理解はしているつもりであるが、やはりここは少し激変緩和が必要だと思うし、慢性疼痛用の湿布薬と急性の疼痛のための処方があるということをご理解いただきたい。

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■ 分割調剤について
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 分割調剤について意見と質問を述べる。まず分割調剤の今後の在り方については、30日以上の長期処方が患者さんにとって本当に有用かどうか、リスクも含めて考えなければいけない。30日以上の長期処方を出している医療機関は、おそらく大病院が多いと思う。一般的には、甲状腺機能や亢進症等の安定した長期処方が必要な場合以外は、基本的に1カ月単位のメリットのほうが多い。長期処方の医療機関の規模などの分布がわかるような資料があれば教えていただきたい。
 外来医療の病診連携など、地域でしっかりした病診連携をすすめていくほうが方向性としては先ではないかという気もしている。
 それでもなお分割調剤等が有用な面が患者さんのメリットとしてあるので、そこは認めていくこともあるかと思う。しかし、リスクが高い医薬品リストをしっかり指定して、それは認めないとか、そういうネガティブリストも必要ではないか。 
 分割調剤によって薬剤の副作用等を判断しやすいということもあるが、仮に、薬局で副作用等があると判断した場合、あるいは患者さんからいろんな疑義が出た場合、医療機関に返すことが必要になると思う。そこをしっかり担保しなければいけない。
 医師と薬剤師の連携がしっかりあることが条件になってくると思うが、実際に分割調剤の後で医療機関に戻すということが、どの程度の割合で行われているのか。本当に行われているのかどうかも含めて、もし情報があれば教えていただきたい。
 医師と薬剤師のしっかりとした連携、また病診連携のもとに、極めてまれな例としての分割調剤、リフィルのメリットを生かすようにすべきで、分割調剤を進めることありきではいけない。

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【厚労省保険局医療課・紀平哲也薬剤管理官】
 30日以上の処方について、どういった病院で多いのかというご質問だが、そういった分析をしたものは持ち合わせていない。今後、そういった分析も検討していきたいと思う。
 また、分割調剤について、途中で副作用などが見つかった場合にどのような対応をとられているのかについては、薬剤師が個別にそういった話を患者さんから聞いて医師との調整なり医師への受診勧奨を行うという事例は聞いているが、数字としてどれぐらい割合があるかという点については、その数字が出せるほどの情報はまだない。今後、検討を進めていくということかと思う。

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■ 働き方改革の推進について
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 医師事務作業補助体制加算が改定のたびに少しずつ広く算定できるようにしていただいたことは非常にありがたいと思っている。一方で、要件に関しては、どうしても急性期に偏った要件になっている。回復期、慢性期等の病棟を持っている所は、加算を取ろうと思ってもなかなか条件がクリアできないために取れない。回復期、慢性期であっても医師の忙しさ等への配慮は変わりがないと思っているので、ぜひ要件を見直していただくことをお願いしたい。
 看護補助者の評価については、資料にあるように看護補助体制加算を取るところが少し減ってきている。かつ看護補助者の採用や常勤換算も減ってきている。
 89ページ(看護補助者活用の業務内容)を見ると、介護を中心とした口腔ケア、あるいは食事介助など直接ケアに対するニーズが大きい。とすれば、やはり介護を専門にする看護補助者ということになるかと思う。一方で、介護報酬の対象となる介護保険施設の介護職員に対しては、介護報酬から処遇改善加算というかたちで一定程度の処遇改善が現在、行われている。そことの格差がどんどん広がっているのが現状であると思う。
 医療関係でいけば、「看護補助者」として勤務されている介護福祉士など、介護を中心とした直接ケアをする看護補助者も含まれていることを考えると、ここにしっかりとした加算、手当等をしていかないと、看護師さんたちがより専門性のある業務を遂行できない。こうした状況に陥らないようにするために、病院の介護福祉士も含めて広く看護補助者に対する処遇改善を、できれば基本料等で考えていただけるとありがたい。この点について、吉川専門委員のご意見もお伺いしたい。

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【吉川久美子専門委員(日本看護協会常任理事)】
 日本看護協会が実施した調査結果では、看護補助者に対する研修の充実化を図っている病院のほうがより看護補助者が定着している傾向が明らかとなっている。看護補助者の定着確保を促せるよう、直接ケアを行う看護補助者に対する研修の充実化に向けた評価が必要と考える。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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