処遇改善の新加算、「自動的に配分できないか」 ── 事務負担の軽減で田中常任理事

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2022年1月12日の介護給付費分科会

 臨時の介護報酬改定による処遇改善案が示された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の田中志子常任理事は「新加算を自動的に配分するような事務手続きができないか」と提案した。厚労省の担当者は「事業所や都道府県などの負担ができるだけ多くならないように進めていきたい」と述べた。

 厚労省は1月12日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田中滋・埼玉県立大学理事長)の第206回会合をオンライン形式で開催し、当会から田中常任理事が委員として出席した。

 厚労省は同日の分科会に、臨時の介護報酬改定による処遇改善案を提示。政府の経済対策の一環として今年2月から9月まで実施される処遇改善の仕組みを10月以降は「新加算」として引き継ぐことを説明し、委員の意見を聴いた。

 委員からは、主に①財政影響、②事務負担、③公平性の確保──に関する意見が出た。全額国費から介護報酬に切り替わることに伴う財政影響への懸念や、事務負担の軽減を求める意見が出たほか、支援対象とならない事業所などを含めた介護職全体の底上げを求める声もあった。

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処遇改善は事業者の経営努力

 質疑で、企業代表の立場から井上隆委員(日本経済団体連合会常務理事)は今回の処遇改善を「岸田政権が掲げている『成長と分配の好循環』に係る政策の一環」との見方を示した上で、「方向性については賛同する」と評価した。

 10月以降の介護報酬上の対応については「やむを得ない」としながらも、「本来、処遇改善は事業者の経営努力、労使間の自律的な対応で実現されるべき」との認識を示した。

 その上で、井上委員は「介護報酬で対応する場合には保険料負担の増加や保険財政の持続可能性への懸念がある」とし、「給付や負担の在り方の見直しを不断に続けていかなければならない」と述べた。

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改定率に換算すると1.13%

 続いて、保険者の立場から河本滋史委員(健康保険組合連合会常務理事)も同様に「できる限り利用者や保険料の負担の増加を抑えるべき」とした上で、「今回の処遇改善案を改定率に換算すると何%ぐらいになるのか。また、その財政影響について令和4年度、5年度に介護費用や介護給付費がどのぐらい増加するのか」と質問した。

 厚労省老健局老人保健課の古元重和課長は「今回の臨時改定は経済対策を踏まえて収入を3%程度引き上げるために臨時の報酬改定を行うので、通常の改定時のように特定の改定率をもって決定したものではない」とした上で、「報酬全体の給付額を母数として単純に計算をした場合、1.13%になる」と説明した。

 また、2号の保険料の負担増加額について古元課長は「1人1月当たり70円程度になる」とした。これについて介護保険計画課の日野力課長は「1号の保険料が月額6,000円程度なので、その1.13%とすると月額で70円ぐらいの計算になるが、明示的にいくら上がるという計算はしていない」と補足した。

 こうした説明を受け、鎌田松代委員(認知症の人と家族の会理事)は「処遇改善のために私たちも負担は必要だと思うが、これ以上の負担は無理な状況」と訴えた。自治体の関係者から「本来は全額国費で対応すべき」との意見もあった。

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追加的な事務負担が発生する

 事務負担については、委員から「また申請事務が複雑になってきた」「制度の複雑化、事務の煩雑化を回避するために、加算の一本化などの合理化の促進ができないものか」などの声が上がった。当会の田中常任理事は「加算を自動的に配分できる機械的な事務手続き」などを提案した。

 今回、厚労省は「仮に補正予算事業と要件等を変えた場合には追加的な事務負担が発生する」との判断から、「介護職員処遇改善支援補助金の要件・仕組み等を基本的に引き継ぐ」との方針を示している。

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01スライドP1_【資料】介護人材の処遇改善について_2022年1月12日の介護給付費分科会

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 「新加算」は、現行の(Ⅰ)~(Ⅲ)いずれかを取得している事業所を対象とし、10月から「処遇改善加算」「新加算」「特定処遇改善加算」の3階建てになる。

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02スライドP4_【資料】介護人材の処遇改善について_2022年1月12日の介護給付費分科会

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介護現場で働く全てを対象とすべき

 追加的な事務負担を発生させないために「引き継ぐ」とした対応案については、公平性の確保との関係も問題になった。今回の提案では、対象となる事業所に一定の要件を求めるほか、その範囲が限定されている。

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03スライドP3_【資料】介護人材の処遇改善について_2022年1月12日の介護給付費分科会

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 質疑で、小林司委員(連合総合政策推進局生活福祉局局長)は「介護分野全体の賃金水準を底上げしていくことこそが人材確保につながる」と強調した上で、「全てのサービス事業所を対象にすると同時に、ケアマネジャー、訪問介護、福祉用具専門相談員、事務員など介護現場で働く全ての労働者を対象とすべき」と主張した。

 田母神裕美委員(日本看護協会常任理事)も「訪問看護サービスが対象外になっている」と指摘し、「介護領域で働く看護職員の賃金引き上げ等の処遇改善について、別途、検討の機会を設けていただきたい」と要望した。

 濵田和則委員(日本介護支援専門員協会副会長)は、今回の処遇改善の対象外となった事業所を併設して運営しているケースを挙げ、「職員の方々からすれば、同じ場所、同じ職場であるので、対象外の職員にも同様の扱いが可能となるよう検討してほしい」と求めた。

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格差がますます大きくなる

 江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は「論点の3番目に『追加的な事務負担が発生すること等を踏まえる必要がある』との記載があるが、介護現場で頑張っている職員に恩恵が届くことが主目的であり、今後、その目的を実現するための事務負担は必要な事務負担とも考えられる」との認識を示した。

 江澤委員は「処遇改善加算を算定していない事業所の介護従事者等との格差がますます大きくなる」と懸念。「医療機関の『看護補助』との処遇改善の差が甚だしい」「介護医療院では処遇改善加算の算定事業所が今もって8割弱で、2割強には今回の恩恵が届かない」などと苦言を呈し、「令和4年10月の改定に間に合わなければ、令和5年4月からの見直しも検討の余地がある」と述べた。

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必要な改善を加えて臨時改定を

 一方、吉森俊和委員(全国健康保険協会理事)は「追加的な事務負担が発生することなどを考慮すれば、介護職員処遇改善支援補助金の要件・仕組み等を基本的に引き継ぐ考え方には特に異論がなく、現状、取りうる対応策」と今回の提案に理解を示しながら、処遇改善の効果を検証する必要性を強調した。

 吉森委員は「介護報酬改定に向けて、まずは先行して実施される介護職員処遇改善支援補助金の実効性の検証を行い、必要な改善を加えた上で臨時の介護報酬改定を行い、さらには報酬改定後に、改めて効果検証を行うことが望ましい」とし、「今後のスケジュール感を確認させていただきたい」と尋ねた。

 古元課長は「仮に頻回に調査を行うことになれば、また事業者の負担などが発生するため、それも踏まえて考える必要がある」と説明。「どのようなタイミングで調査・検証を行っていくかは本日の意見も踏まえて検討していきたい」と理解を求めた。

【田中志子常任理事の発言要旨】
 私からは、こういったことができないのだろうか、というような提案ベースの質問である。今回の介護報酬改定に係る処遇改善の案について、2ページをご覧いただくと、取得条件として処遇改善加算(Ⅰ)から(Ⅲ)のいずれかを取得している事業所に対して交付されると書かれている。次に、「新加算のイメージ(案)」という4ページのスライドをご覧いただくと、イメージのシェーマがあるが、水色で書かれた加算(Ⅰ)(Ⅱ)(Ⅲ)という階段の上に、今回の新加算の月額0.9万円相当が乗っている。この金額については、3ページに書かれている介護報酬改定による処遇改善の加算率の案に応じて、それぞれの事業主体ごとの加算率があらかじめ決められて、処遇改善の加算が出されるものと理解している。
 ということであれば、月額の予定額をいちいち都道府県のほうに提示しなくても、加算の(Ⅰ)(Ⅱ)(Ⅲ)を取っている事業所においては、あらかじめ、おおむね決められた金額になろうかと思われる、この新加算を自動的に配分していただけるような事務手続きが機械上でできるのではないかという提案である。
 そうすることによって、マンパワーの削減をしながら機械に頼った活動というものに変えられて、いく分でも、都道府県や各現場の事業者の事務員の負担が軽減できるのではないか。こういった時代であるので、ぜひデジタルトランスフォーメーションを検討いただけないだろうか。 
 もう1点は、課題も見え隠れしており、この新加算は事業所ごとに加算率が決められているので、職員を多く配置している、過剰に配置している事業所ほど手厚さが落ちるというような側面もあることをみんなで共有していただければと思う。よろしくお願いしたい。

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【厚労省老健局老人保健課・古元重和課長】
 ご指摘のとおり、今回、新たに設けたいとご提案を申し上げている加算については、処遇改善加算(Ⅰ)(Ⅱ)(Ⅲ)いずれかを算定しているという要件がある。 
 それ以外の要件が同様であれば、いただいたようなご提案は当然可能と考えているが、今回は新たな加算に係るものの補助枠の3分の2を介護職員等のベースアップ等の引き上げに使用することが新たな要件であり、これまでにない要件としているので、その点については、やはり一定の確認をするプロセスというものが必要なのではないかということである。 
 もちろん、事業所ならびに都道府県などの関係者の方々の負担ができるだけ多くならないようなことは、ご意見をいただきながら進めてまいりたいと思うが、要件が一部異なるということで、その点はご理解をいただければありがたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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