感染症対応、「お金だけでなく人材も」 ── 減収補償の議論で池端副会長

協会の活動等 審議会 役員メッセージ

池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_2022年8月19日の医療保険部会

 感染症法の改正に向けて有事の医療体制などを議論した厚生労働省の会合で、医療機関の減収補償に意見が集中した。日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「お金さえ出せばいいのではない。原点に返って考え、人材の余裕をどう見るかという視点も重要ではないか」と指摘した。

 厚労省は8月19日、社会保障審議会(社保審)医療保険部会(部会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第152回会合をオンライン形式で開催し、当会から池端副会長が委員として出席した。

 厚労省は同日の会合に「感染症法の改正について」と題する資料を提示。政府の感染症対策本部が6月にまとめた「対応の方向性」や厚労省・感染症部会の方針などを踏まえ、「事業継続確保のための減収補償の仕組みのイメージ(案)」を示した。
.

04_【資料1】感染症法の改正について_2022年8月19日の医療保険部会

.

保険者に一部負担をお願いする

 資料の説明で厚労省の担当者は「初動対応等を含む特別な協定を締結した医療機関が一般医療の提供を制限し、大きな経営上のリスクのある流行初期の感染症医療を提供することに対して減収補償を行ってはどうか」と提案した。

 その上で、費用負担者について「国・都道府県が考えられるが、(17日の)医療部会での意見を踏まえると、保険者の方々に一部負担をお願いすることをどのように考えるかが論点」と説明した。

 減収補償(事業継続確保措置)のスキームについては、「災害時の診療報酬等の概算請求・支払を参考に、感染拡大前の水準での診療報酬支払制度の創設が全国知事会など関係団体から要望が出されている」と伝えた。
.

05_【資料1】感染症法の改正について_2022年8月19日の医療保険部会

.

感染症のまん延防止は公費で

 質疑で、村上陽子委員(日本労働組合総連合会副事務局長)は「医療供給体制の確保は大変重要」としながらも、「感染症蔓延時に必要な医療機能や保険診療体制を維持するための費用は基本的に公費によって賄われるべき」と主張した。

 その上で、村上委員は「そもそも社会保険に馴染むのかという根本的な疑問もある。唐突な提案で議論の進め方としても丁寧さに欠けており、事務局案での検討には納得できない」と苦言を呈した。

 保険者団体の代表らも費用負担を問題にした。安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)は「危機発生時に備えて平時において都道府県と医療機関との間で病床提供に関する協定を結ぶ目的は感染症のまん延を防止するため」との認識を示し、「このような目的の感染症対策は公費負担で行われることが原則」と述べた。ほかの委員からも「全て公費負担で」との意見が相次いだ。
.

地域の中核的な医療機関に限定

 減収補償の対象となる医療機関についても意見があった。藤井隆太委員(日本商工会議所社会保障専門委員会委員)は「減収補填は真に感染拡大防止に貢献する医療機関を対象に行われるべき」とし、厚労省の見解を求めた。

 厚労省医政局の古川弘剛医療政策企画官は「感染症の特性がわからない感染初期に、その地域で中核的に感染症医療に当たっていただくような医療機関に限定する。通常医療、一般医療を止めて対応いただくような医療機関に限定したいと考えている」と答えた。

 このほか、「流行初期の明確な位置づけがわからない」との声もあった。酒向里枝参考人(経団連・経済政策本部長)は「どこから始めて、どこで終わるのか。これを関係者間の共通認識で明確にするよう、今後、具体的な議論が必要」と指摘した。
.

お金がないから動かなかったのか

 こうした議論を踏まえ、池端副会長は「第1波、第2波の初期にどうだったか。あの時、お金がないから病床が動かなかったわけでは決してない」とし、「有事に備えて、どれくらい余裕を見なければいけないのか。原点に返って考えなければいけない」との考えを示した。

 その上で、池端副会長は「第7波になっても医療機関で多くの医療従事者が感染症を起こし、補充できなくて病床が止まってしまっている。人材の余裕をどう見るかという視点も非常に重要ではないか」と述べた。

 この日の会合では、8月10日の中医協で答申・公表されたオンライン資格確認も議題に挙がった。池端副会長は、普及率アップに向けて関係者が協力する必要性を改めて強調した。
.
2022年8月19日の医療保険部会

■ 感染症法の改正について
.
 資料1(感染症法の改正について)の2ページ、「対応の方向性」について述べる。まず、しっかりとした都道府県ごとの取り組みを計画的に実施すること、協定を結ぶこと、減収補償という主な内容は賛同できる。ただ、もう一度、原点に返って考える必要がある。特に第1波、第2波の初期。こういうパンデミックの初期にどうだったか。あの時、お金がないから病床が動かなかったわけでは決してない。人である。医師・看護師、特に看護師の人材が足りなくて、病床を動かしたくても動かせなかったということが大きかったと思う。
 今回の改正案では、もうお金さえ出せばいいのではないかという内容にも思えるが、そうではなく、いかに医療機関が有事に備えて、ある程度の余裕を持てるか、特に高度急性期が余裕を持てるかが非常に重要ではないかと思う。その視点が今回の「方向性」には入っていないような気がする。 
 令和4年度の改定では、ごく一部ではあるが、ICUの人員配置に加算が付いたが、感染流行期の初期の段階はそれではとうてい賄えないと思う。高度急性期、急性期、回復期、慢性期の病床稼働率について、どのくらいが適正なのか。有事に備えて、どれくらい余裕を見なければいけないのか。そのあたりを原点に返って考えなければいけない。 
 特に人が非常に重要である。今、この第7波になっても医療機関で多くの医療従事者が新型コロナ感染症に罹患し、補充できなくて病床が止まってしまっている。今でも、人員不足は続いている。これをもう一度考えて、人材の余裕をどう見るかという視点も非常に重要ではないかと思う。これについて事務局のお考えがあれば、お聞かせいただきたい。

.
【厚労省医政局・古川弘剛医療政策企画官】
 本日、提出した資料には人材の話があまり細かく記載されていないが、資料1の2ページに、いわゆる協定の中身として、病床の確保や発熱外来の対応に並んで、人材派遣も書いている。 
 平時から各都道府県と医療機関との間でどのぐらい医療人材を派遣できるかといったことについても話し合っていただく。この協定のスキームの中に入れさせていただくことを考えており、当然それを有事にワークさせなければいけないので、そういった人材を養成していくといったことも含めて検討していきたいと思っているのが1点。 
 もう1点は、こちらの資料の中には出てこないが、参考資料の対応の方向性(新型コロナウイルス感染症対策本部決定)の中には、いわゆる広域での人材調整といったことも今回検討している。現在、DMAT等で広域人材派遣といったものを行っていただいているところではあるが、国が総合調整する仕組みや都道府県間でやりとりする仕組みといったものをあわせて検討していきたいと考えている。

.
■ オンライン資格確認について
.
 医療機関側にはメリットがあるとしても、診療報酬で加算するのはいかがなものかという意見がある。このメリットに関して中医協でも発言したが、支払側である保険者も、提供側であるわれわれ医療機関も受給する側である患者も全て、みんながメリットがあるものであるからこそ医療DXの基盤であり一丁目一番地である。この点についてはどのステークホルダーも反対がないと思う。
 では、なぜメリットを感じられないのか。それは普及率である。普及率が80%、90%近くに、そして100%になれば大きなメリットをそれぞれのステークホルダーが共有できる。今はそこに行くための過渡期だと考えてほしい。
 医療機関が導入すると事務手続きが簡素化されるのに、なぜ加算があるのかという意見があるが、2ページ(医療機関・薬局におけるオンライン資格確認の導入状況)をご覧いただきたい。マイナンバーカードの普及率が約5割。そのうち健康保険証としての利用登録が3割である。ということは全体の15%である。全国で15%しかマイナンバーカードの健康保険証を持っていない。当県でも既に診療所等で導入している所もあるが、結局のところ通常の保険証を持ってきた場合とマイナ保険証を持ってきた場合の両方に対応しなければいけない。こういう状況では、医療機関の手間が決して楽になっているわけではない。
 しかし、だからといって反対するわけではない。われわれも一生懸命、ギアを上げて頑張ろうと言っている。ぜひ、ご理解をいただきたい。
 鶏が先か卵が先か(の議論と同様)、普及率のためには、みんなが少し痛み分けをして頑張っていこうという現時点での取り組みだと思う。 
 一昨日、病院団体の会議があった。そこでもランニングコストの問題や、先ほど猪口先生からご意見があったように、セキュリティの問題など不安材料が多いことも確かである。それらを1つずつ解決しながら、普及率をできるだけ早く上げるようにわれわれも努力していきたい。 
 そこで1つ質問だが、その病院団体の会議で質問があった。現在、セキュリティの関係もあるせいか、インターネット回線について東日本と西日本で違うという声をお聞きした。定かではないが、回線がNTT等に制限されている地域があるとか、そういう事実があるのか、もし事務局でおわかりになれば教えていただきたい。

.
【厚労省保険局医療介護連携政策課・水谷忠由課長】
 池端委員がおっしゃられた状況については、具体的な事例を承知していないので、また個別にご相談いただきたいと思うが、一般的なこととして申し上げれば、先ほど猪口委員からのご質問に対して私は、IP-VPN方式と、IPSec-IKEの2方式をご説明した。IP-VPN接続方式を提供している事業者はNTT東日本・西日本が代表的なところになるが、それ以外にも提供している会社はある。また、光コラボレーション事業者があり、NTT東日本・西日本そのものではないが、そうした回線を活用して事業を提供している事業者もある。 
 いずれにしても今、個別の事例まで承知していないので、そうした具体例があれば私ども事務局までご紹介いただければ、きちんと対応させていただきたいと思う。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

この記事を印刷する この記事を印刷する
.


« »