「支払側の意見と現場に齟齬がある」 ─── コロナ特例の見直しで池端副会長

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2023年9月13日の中医協総会

 コロナ特例の見直しをめぐり意見が対立した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「支払側の意見と現場との間にかなりの齟齬がある。5類に移行しても医療現場の負担が減っているわけではない」と強調し、「施設基準の緩和を引き続きお願いしたい」と訴えた。

 厚労省は9月13日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第554回会合を都内で開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 厚労省は同日の総会に「新型コロナウイルス感染症の診療報酬上の取扱いについて」と題する資料を提示。コロナ患者への対応状況やヒアリング調査の結果などを伝えた上で「診療報酬上の特例の見直しの方向性(案)」を示し、委員の意見を聴いた。

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新興感染症が拡大する可能性は否定できない

 質疑で、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は「現在、コロナ患者数がまだまだ多い状態があるのに加え、今後、この冬にさらなる増加も想定されるため、急激な見直しにより、これまでコロナに尽力してきた医療機関の対応力が損なわれるようなことは決してあってはならない」とし、「国民の命と健康を守るために、必要十分かつ適切な対応を求める」と述べた。

 同じく診療側の林正純委員(日本歯科医師会常務理事)は「今後も同様に新興感染症が拡大する可能性は否定できないことから、新興感染症に罹患した患者さんへの必要な歯科医療が提供できないということにならないよう、令和6年度改定においても恒常的な感染症対応として引き続き適切な評価を検討いただい」と要望した。

森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は「5類変更後、コロナが収束しているわけでも感染力や病原性が弱まっているわけでもない。現場においては、今後も引き続き感染対策を講じつつ、必要なコロナ治療薬等の提供が必要となる」と強調。「当面は必要なコロナに関する特例対応を継続するとともに、感染拡大や病原性が強まるなどの予想外の事態が発生した際には適切な対応がなされるよう柔軟な運用が必要」と述べた。

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コロナ特例は全て完全廃止を目指すべき

 一方、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「コロナ治療に尽力されている医療現場の皆さまには敬意を表している」としながらも、「新型コロナの位置づけが5類へと移行されたことに伴い診療報酬上の特例措置は廃止すべきという基本的な考え方は、春に現行の特例について議論したときと基本的には変わっていない」とした。

 その上で、松本委員は「私自身も含めて、社会の状況を踏まると、むしろ特例措置を継続することへの疑問が強くなっている人が増えているのではないか」とし、「コロナ特例は全て完全廃止を目指すべき」と主張した。

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混乱を招かないソフトランディングを

 同じく支払側の眞田享委員(経団連社会保障委員会医療・介護改革部会長代理)も「特例措置の大半を継続させることを前提としながら点数を見直すという基本的な考え方自体に違和感がある」と指摘。「特例措置は原則廃止した上で今後の感染症対応の内容を踏まえた診療報酬について、前回改定で創設された評価の検証も含めてスクラップアンドビルドの観点から議論すべき」と述べた。

 こうした支払側の意見を受け、池端副会長が発言。「まだ油断は禁物であり、少なくとも来年の3月末までは非常に慎重な対応が求められる。混乱を招かないソフトランディングへの対応をお願いしたい」と理解を求めた。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 私は現場の医師として、そして県の医師会長として、またコロナ患者を診ている1人の医師として今までの議論を聞き、いくつかの視点から現場の状況を共有したいと考えている。
各委員からの感謝の言葉はありがたく受け止めているが、特に支払側の先生方からの意見を聞いていると、現場との間にかなりの齟齬があるように感じる。
第一に、受け入れ配置や追加配置が十分に行われていないという指摘がある。これは、受け入れ配置の増員ができないためであり、業務負担の増加が原因であると言える。それによって、現場では患者の受け入れを減らし、入院する患者やHCU、ICUに入れる患者を減らすことで業務負担を緩和しているのが現状である。
今回も、重症度が高い場合は比較的少ないが、感染力が非常に強い状況で患者が急増すると、人員配置を一時的に増やすことができない。そのため、患者の受け入れを減らし、人員を節約する対応を取っている。決して業務負担が減っているわけではない。一部の効率化は見られるが、その限界も明白である。
具体的には、業務負担が増えていることを示す例として、急性肺炎で入院している一般の患者と、コロナで肺炎を発症した患者のケアには大きな違いがある。後者のケアは業務量が1.5倍以上であり、その理由は一連の対策プロセスとそれに必要なスペースが増えているからである。この状況は今も変わっていない。このような状況はコロナが普通のインフルエンザとは異なるためであり、気を許すと職員が感染し、クラスターが発生する可能性がある。これが現在の現場の状況である。
 福井県の現状はフェーズ2にあり、162床の確保病床のうち120床が占められている。現在、フェーズ3への移行を検討中である。本日の資料によれば定点当たり報告数は12.2だが、福井県では今週16.1に増加しており、特に最近の1週間で急増が見られる。
 福井県は非常にうまく対応できている県であると自負している。全63病院のうち32病院がコロナウイルス患者の受け入れを行っており、これには民間病院や回復期リハビリテーション施設も含まれる。しかし、今の状況で特例措置を全てゼロにするとなったら、恐らく多くの病院がお手上げである。
 なぜか。一般の入院患者の受け入れが困難になる。コロナ患者を受け入れて院内クラスターが発生したら、重大な経営上の問題に直面する。
 福井県内の半数以上の病院がコロナウイルス患者の受け入れを行っており、表面上は円滑に運営されているように見えるが、実情はそうではない。陽性率は9割近くに達しており、患者の大部分が陽性であるという事実は、まだ多くの陽性者が社会に潜んでいることを示している。
 現在は非常に重篤な状態に陥る患者はいないが、肺炎の症状を示す中等度II以上の患者は存在している。私自身もコロナウイルスに感染し肺炎を併発した。早期に発見できたために1週間で回復したが、まだ油断は禁物であり、少なくとも来年の3月末までは非常に慎重な対応が求められる。
 このような状況の中で特例措置を全廃したら、暴動が起きるぐらいの衝撃を与えてしまうだろう。したがって、現実的な視点から数字を見て、現場の混乱を招かないソフトランディングへの対応をお願いしたい。福井県では5類以前と同じような対応が続いている。フェーズ3への移行を検討中であるという現状をご理解いただきたい。
 改めて強調するが、今回の「診療報酬上の特例の見直しの方向性案」に記されているコロナ加算等の点数を含め、施設基準の特例が終了することにより多くの病院がクラスターを引き起こして一時的に病棟を閉鎖する事態が懸念される。そのため、何らかの条件を付けながらも、一定程度は施設基準の緩和を引き続きお願いしたいというのが現場の声ではないか。ぜひ、よろしくお願い申し上げる。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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