介護福祉士の診療報酬上の評価めぐり議論、 「納得できない」と池端副会長

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池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_2023年8月24日の医療保険部会

 令和6年度の診療報酬改定に向けて議論した厚生労働省の会合で、「(病院の)介護福祉士を診療報酬で評価することについて反対」との意見があった。日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「現に今、病院で働いている方に対して評価をしないと明言するのはいかがなものか。病院の介護福祉士に対する今の意見に私は納得できない」と反論した。

 厚労省は8月24日、社会保障審議会(社保審)医療保険部会(部会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第166回会合を都内で開催し、当会から池端副会長が委員として出席した。

 この日の主な議題は、①診療報酬改定の基本方針について(前回の振り返り)、②マイナンバーカードと健康保険証の一体化について──の2項目。このうち①について厚労省は、前回改定の基本方針などを紹介した上で委員の意見を聴いた。

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01_委員席_2023年8月24日の医療保険部会
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 質疑では、病院の介護福祉士の評価をめぐり意見の対立があった。詳しくは以下のとおり。

〇任和子委員(日本看護協会副会長)
 日本看護協会副会長の任でございます。今後の基本方針の検討に当たりまして、看護の観点から意見をいくつか申し上げさせていただきます。
 まず1点目でございますが、令和4年度の「基本的視点」に盛り込まれました「医師等の働き方改革等の推進」は引き続き重要であり、タスクシェアリング、タスクシフティング、チーム医療の推進や業務の効率化に向けたICTの利活用の推進を一層進める必要があると考えております。限られた人的資源の中で、それぞれの専門性を発揮し、質の高い医療・看護を円滑に提供していく体制の強化が必要であること。特に、特定行為研修の修了者、あるいは専門看護師、認定看護師が力を発揮できる方策を検討すべきと考えております。 
 また、看護職と看護補助者の更なる協働の推進も重要であり、看護補助者の確保・定着につながる方策の強化も検討すべきと考えております。病院におきまして、介護福祉士が看護補助者として従事している場合もあると存じますが、介護福祉士は介護職員不足の中、介護領域で活躍する重要な人材であると存じます。病院での介護福祉士の配置は、介護職員全体の人材確保に大きな影響を及ぼすと思います。介護福祉士を診療報酬で評価することについて、私どもとしては反対でございます。繰り返しますが、看護補助者確保に向けた課題解決のために、看護補助者の育成と定着に向けた取組の強化、これこそ本来やるべきであると考えております。
 次に、令和4年度の基本的視点に盛り込まれました「新興感染症等にも対応できる医療提供体制の構築」は引き続き重要だと考えます。(中略)
 3つ目としまして、令和4年度の基本的視点に盛り込まれました「質の高い在宅医療・訪問看護の確保」、そして「重症化予防の取組の推進」も引き続き重要であり、これに関しては、訪問看護、そして外来看護の機能の強化等が必要だと考えております。医療・介護双方のニーズを有する高齢者の生活に配慮した医療を提供するためには、医療・介護双方からの情報共有、そして確実な連携体制の構築が不可欠でございます。現場では、医療と生活の双方の視点を有する看護職が必要な連携先とつなぐ役割を担っております。
 病棟、外来、訪問看護事業所、そして介護保険施設や行政等との連携が重要であり、情報連携はもちろんのこと、専門性の高い看護師等が必要に応じて支援や助言を行い、ケアの継続性と連続性を担保する仕組みを一層強化する必要があると考えております。
 加えて、専門性の高い看護師による訪問看護の充実により、全世代の利用者に対して、専門性の高いケアを提供することを推進し、重度な状態の利用者、また看取り期にある利用者の在宅での療養を支えるためには、24時間体制の訪問看護を提供するための体制構築を促進することが極めて重要と考えます。また今後、疾病を抱えながら在宅で生活する高齢者が増加する中、再入院を防ぐためにも、外来看護職による重症化予防、療養支援の取組の更なる推進が求められます。在宅療養支援の質向上に向け、外来看護職の研修受講体制の強化も大きな課題と考えます。ぜひ、このような取組を後押しするための仕組み等について、ご検討いただきますよう、よろしくお願いいたします。以上でございます。

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〇田辺国昭部会長(国立社会保障・人口問題研究所所長)
 ありがとうございました。ほかはいかがでございましょう。では池端委員、よろしくお願いします。
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〇池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)
 今の意見について、ちょっとご質問させていただきたいのですが、今現在、病院にいる介護福祉士についての評価は要らないということをおっしゃいましたが。
 ということは、病院では介護福祉士は要らないということを日本看護協会としては考えているということでしょうか?

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〇任和子委員(日本看護協会副会長)
 病院におきましては、看護補助者の活用が大変重要であるということでございます。
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〇池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)
 看護補助者の中で、何割かは介護福祉士がいらっしゃると思うんです。現に今、病院で働いている方に対して評価をしないということを今、ここで個別に明言されるのはちょっといかがなものかと思うのですが、いかがでしょうか。
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〇任和子委員(日本看護協会副会長)
 看護補助者の待遇改善というところは、今おっしゃった、働いている皆さまへの、なんて言うんでしょう、支援になるというふうに考えております。
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〇池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)
 介護福祉士全体の中で、介護も医療も、全体のパイが少ないので、なかなか病院だけ評価するのは難しいということはわかりますが、だからといって、病院の介護福祉士に対する今の意見は、私はちょっと納得できないところがありますので、意見として言わせていただきます。

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現場はかなり厳しい状況

 この日の会合で厚労省は、基本方針の策定に向けた参考資料として「骨太方針2023」の抜粋を提示。質疑では、骨太方針の記載に言及する発言が目立った。

 猪口雄二委員(日本医師会副会長)は、物価高騰や人材確保の必要性などに関する記載を読み上げた上で、給食部門の赤字解消などに向けた対応を要望した。

 骨太方針では、「物価高騰・賃金上昇、経営の状況、支え手が減少する中での人材確保の必要性、患者・利用者負担・保険料負担への影響を踏まえ、患者・利用者が必要なサービスが受けられるよう、必要な対応を行う」としている。

 池端副会長も「病院給食が非常に厳しい状況にある」と強調。「骨太の方針で『必要な対応を行う』と謳っている。現場はかなり厳しい状況になっていることを理解してほしい」と訴えた。池端副会長の発言要旨は以下のとおり。

■ 診療報酬改定の基本方針について
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 私は日本慢性期医療協会副会長として委員を拝命しているが、福井県の医師会を預かっている立場もあるので、現場からの切実な意見として述べる。
 まず、次回のトリプル改定では、かかりつけ医機能が大きくクローズアップされることは間違いない。 コロナ禍の経験を踏まえた対応でもある。かかりつけ医機能というと、「24時間365日」という意見が出るが、現実的に考えて診療所の1人ドクターで対応できることではないと思うので、病院も含めた全体の医療提供体制をどうするかという視点が必要である。全体として、かかりつけ医機能をどう考えるか。こういう広い視野に立った上で、かかりつけ医機能の在り方を検討すべきである。
 また、令和4年度改定の基本方針にはなかったが、次期改定に向けて医療DXも重要である。まだ医療DXの果実を得るところまでいってないが、医療DXの「1丁目1番地」と言われるマイナ保険証の端末等に関しては、おかげさまで申込みが9割近くまで達している。果実を得るまでにはもう少し時間がかかるが、基盤の整備は進んでいるので、これからしっかり支援して育てていく体制が必要であろう。いろいろなトラブルが起きているが、粛々と進めるべきではないか。 
 新興感染症への対応については、今後も引き続き重要である。5疾病6事業にも入った。新型コロナ感染症も収束しているわけではない。令和6年度以降の感染状況も踏まえながら、しっかりと慎重に対応しなくてはいけない。安易に現在の対応の継続を言うつもりはないが、今後の状況を踏まえながら、どのようにソフトランディングできるか。それもあわせて考えながら、次の新興感染症に対する対策等を進めていただきたい。
 前回改定の基本方針では「医師等の働き方改革等の推進」が重点課題に位置付けられた。いよいよ来年度からスタートするが、どのような対応が必要か。医療従事者の人材不足が非常に大きな問題になるだろう。先ほど何人かの委員がおっしゃったように、骨太の方針でも「必要な対応を行う」と謳っている。もちろん持続可能性を担保すること、世界に冠たる国民皆保険制度を守るために効率化・適正化の視点も重要であることは承知している。 
 一方で、その働き手である医療従事者、特に看護補助者や介護福祉士など、そういう介護の担い手等がいなくなってしまえば、これはお金の問題ではなくなってしまう。実際に提供する人材がいなくなってしまう。皆さんが感じている以上に、今、現場はかなり厳しい状況になっていることをご理解いただきたい。 
 人材不足は全ての産業に共通した課題であり、医療界だけでの問題ではないことは承知しているが、公定価格以外の他産業では賃金が上昇傾向にある。一方、公定価格で縛られている医療従事者は厳しい状況にあることもご理解いただきたい。限りある財源をどう適切に配分するか。非常に難しい議論ではあるが、お互いに本音をぶつけ合って、良い落としどころを見つけていただきたい。
 先ほど猪口委員がおっしゃったように、給食費が何年間も、全く変わっていないのは実態に沿わない。皆さんの20数年前の食費について、エンゲル係数がどうだったのかを考えてほしい。今、物価高騰で光熱費も材料費も上がっている中で、給食費が非常に厳しい状況にあることはご理解いただきたい。
 最後に、現場として非常に困っている後発品の問題について。医療費の適正化に向けて80%目標が維持されているが、現場では明日この薬が手に入るかわからない状況が続いている。どなたにお聞きしても、改善するまで3~4年かかると言う。薬価制度の問題もあるので診療報酬だけで解決できる問題ではないが、そういう現場の苦しさも理解してほしい。

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02_2023年8月24日の医療保険部会
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しっかりした果実を得るには

 続く2番目の議題「マイナンバーカードと健康保険証の一体化」では、デジタル庁の検討会がまとめた報告書や総点検の進捗状況、信頼回復に向けた対応方針などが示され、委員が意見を述べた。

 池端副会長は電子処方箋をめぐる課題を中心に発言。「しっかりした果実を得るにはこれからが大事だ」と今後の取り組みに期待を込めた。池端副会長の発言要旨は以下のとおり。

■ マイナンバーカードと健康保険証の一体化について
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 「国民の信頼回復に向けた対応」について、19ページに「マイナ保険証のデジタル環境の整備」が示されている。しっかりした果実を得るにはこれからが大事だ。ここで示された整備方針の中で、電子処方箋についてお聞きしたい。
 電子処方箋は今年1月から運用を開始し、「おおむね全ての医療機関・薬局に対し、2025 年(令和7年)3月までに導入することを目指し、支援を充実する」としている。しかし、病院団体の関係者などに話を聞くと、「電子処方箋はまだ厳しい状況」という。その理由の1つとして、電子認証の問題がある。また、院内の電子カルテと院外処方との紐付けが難しいとか、あるいは、そもそも電子カルテそのものの導入が中小病院、診療所はまだ5割程度という状況があり、なかなか厳しい状況ではないかと思う。
 電子処方箋の運用開始から約半年がたっている。いろいろな解決点も出てきたと思うので、事務局として何か把握していることがあれば教えていただきたい。病院団体としても電子処方箋を進めていくことはやぶさかではないが、いくつかの問題点があると聞いている。

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【厚労省担当者】
 申し訳ないが、本日は手元にないので整理して、またご報告させていただきたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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