想定外を想定することが必要 ── 感染症対応の議論で池端副会長

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池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_2023年7月26日の総会

 令和6年度の診療報酬改定に向けて感染症への対応がテーマになった厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「次の新興感染症がCOVID-19を超えるような死亡率でないとは言い切れない」と危機感を表し、「想定外を想定することが必要ではないか」と恒常的な感染症対応の必要性を訴えた。

 厚労省は7月26日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第550回会合を都内で開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 今回のテーマは、感染症と調剤。医療計画がテーマになった5月17日の総会では6事業のうち5事業を審議し、新興感染症への対応については「感染症に対する医療に関する議論の中で別途取り扱う」としていた。

 厚労省は同日の総会に「感染症について(その1)」と題する資料を提示。医療計画による対応などを示した上で最終ページに3つの論点を挙げ、①新興感染症への対応、②新興感染症以外の感染症への対応、③薬剤耐性対策──について委員の意見を聴いた。

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89論点_【総-2】感染症について(その1)_2023年7月26日の総会

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感染症対策にはコストがかかる

 質疑で、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)はコロナ禍の経験を踏まえ「感染防御策等の迅速な情報提供と、その感染症に適応したPPE等の供給、また補助金など、診療報酬以外の対策とあわせて行われるようにすべき」と主張した。

 長島委員は「感染症法改正に伴い、医療機関の役割が明確化した。継続的に新興感染症を含む感染症対策を行うにはコストがかかる」と強調。「これまで新型コロナの感染流行以降は補助金やコロナ特例で対応してきたが、令和6年度以降は通常の診療報酬の中で評価されるようにすべき」と求めた。

 島弘志委員(日本病院会副会長)も「医療機関・薬局・訪問看護事務所、それから今度は介護施設等においても平時の準備が非常に重要になる」と指摘。江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は同時改定に言及し、「連携する高齢者施設には介護報酬で評価し、(医療機関と)しっかり連携する仕組みを構築していただきたい」と要望した。

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また大変な思いしなければいけない

 池端副会長は、福井県の医師会長として対応した経験を振り返りながら、「COVID-19を想定した対応では、それを超えた新興感染症が発生した時にまた大変な思いしなければいけない」と危機感を募らせた。

 厚労省の担当者は「想定しているものと大きく状況が異なるような感染症が起きた場合には、国のほうで判断して、機動的にまた別途の対応をする」と説明した。池端副会長の発言要旨は以下のとおり。

■ 感染症について
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 感染症法の改正について説明があった。「改正の趣旨」によると、「新型コロナウイルス感染症への対応を踏まえ」「措置を講ずる」とされている。「感染症への対応を踏まえて」という枕詞があるのだが、COVID-19の感染者数や死亡率はすでに想定内に入ったと思う。むしろ想定外を想定することが必要ではないか。
 私自身、今でも思い出すとぞっとするのだが、第1波の時に県の医師会長として対応にあたり、本当に大変な思いをした覚えがある。それはなぜかと言うと、想定外のことが次々に起きたからだ。これまで新型インフルエンザの感染者数や死亡率を想定した対応マニュアルはあったが、その想定を超える感染がドーンと急に来た。対応が何もわからない中で、どんどん患者が増える。さあ、どうしようかと非常に悩んだ。
 今回の議論では、COVID-19の経験を踏まえるという。そこで質問したい。次の新興感染症がCOVID-19を超えるような感染者数や死亡率でないとは言い切れない。資料に数値目標等がいろいろ出ているが、COVID-19の感染者数や死亡率のピーク時を想定しているのか。あるいは、それを超えた規模を想定して対応しようとしているのか。もし、COVID-19の対応を踏まえた想定であれば、さらにその上をいくことを診療報酬上の対応も含めて考えておくべきではないか。そうしないと、また大変な思いをしなければいけなくなる。

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【厚労省大臣官房参事官・高宮裕介氏】
 今回の感染症法に基づく新興感染症の医療提供体制については、新型コロナ対応で確保した最大規模の体制を目指すこととしている。
 その上で、この新型コロナではない、想定を超えるというか、想定しているものと大きく状況が異なるというような感染症が起こったという場合には、国のほうで、その判断を行って機動的にまた別途の対応をすることとしている。

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病院と薬局の偏在が大きな問題

 続く「調剤(その1)」でも、医療計画との関係が資料に盛り込まれた。第8次医療計画の見直しでは、医療従事者の確保等の記載事項として、「薬剤師確保の観点」を新たに記載する方針となっている。

 厚労省は資料の中で「薬剤師偏在指標」を紹介。偏在指標の導入後は「薬剤師少数区域と薬剤師多数区域等が可視化」「薬剤師少数区域等において集中的な対応策の検討が可能」としている。

 質疑で、長島委員は「地域偏在もさることながら、病院と薬局における偏在のほうがより大きな問題」と指摘。池端副会長も「病院と薬局での偏在が顕著になっている」とし、さらなる分析を求めた。池端副会長の発言要旨は以下のとおり。

2023年7月26日の総会

■ 調剤について
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 薬剤師の需給についてコメントしたい。先ほど長島委員が指摘したように、病院と薬局での偏在が特に顕著になっている事実は間違いないと思う。資料19ページに薬剤師の需給推計が出ている。将来的には過剰になる可能性が高いという数字のほか、21ページでは「薬剤師少数区域」などの地域偏在を問題にしている。
 22ページに「偏在指標の基本的考え方」が示されている。それによると、「病院薬剤師偏在指標」で、「患者1人当たりの病院薬剤師の業務量」とある。病院薬剤師と薬局薬剤師の業務内容が異なり、患者1人当たりの業務量が同様ではないとの注釈は入っているが、病院薬剤師の業務量もかなり増えている。
 「働き方改革(その1)」の資料にもあったように、医師の働き方改革の中で最も期待されているのが薬剤師との連携である。そうした状況において、病院と薬局間での偏在がある。病院薬剤師が非常に不足している。対物業務から対人業務へという流れの中で、病院薬剤師も調剤だけではない。院内で業務量が増え、しかも非常に期待されているのに足りないので、偏在指標にもしっかり織り込んでいただきたい。 
 また、26ページに「病院・薬局間の給与」が示されている。確かに、若い20代のころは薬局のほうが病院よりもやや高い。しかし、50代になると病院のほうが高くなる。生涯年収で見れば病院のほうが高いからいいではないかという考えもあるかもしれないが、給与だけではなく数の差も見る必要があるのではないか。
 薬局よりも病院のほうが規模が大きい傾向にあるので、役職が上がれば給与も上がる。一方、薬局は小規模が多いので、そういう職務手当等は付かない。若い方を中心に回している可能性が高いので、最初は高くてもその後はあまり上がらないこともある。
 したがって、偏在を見るためには20代から60代までのそれぞれの給与だけではなくて、それぞれの年代の数にどのような差があるのかを分析してはどうか。次回の「入院」の議論などで、そのあたりを考慮した資料が出せればお願いしたい。
 今回は調剤の議論なので、病院薬剤師の議論はまた別かもしれないが、薬剤師は薬局にいても病院にいても薬剤師なので、ある程度、一体的に考えることも必要ではないか。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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