標準型電子カルテ、「まず好事例の収集を」── WGの初会合で池端副会長

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標準型電子カルテWG_20231214

 全国の医療機関で共有できる「標準型電子カルテ」の開発に向けた厚生労働省の初会合では、最低限の機能にとどめるべきか、オプション的な機能も加えるかが議論になった。出席したメンバーからは「医療DXが思い描いている将来像を示すことが電子カルテの導入につながる」と多彩な機能を求める声が相次いだ。日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は好事例を踏まえた検討を提案した。

 厚労省は12月14日、「標準型電子カルテ検討ワーキンググループ」(WG)の初会合を開き、当会から池端副会長が構成員として出席した。座長は置かず、厚労省の担当者らが医療現場の声を聴く場として開催された。

 WGにはデジタル庁の担当者も参加。医療関係者のほか患者代表らが出席し、標準型電子カルテの試行用である「α版」の開発に向けた課題などを述べた。

 厚労省が同日の会合に示した「ご意見をいただきたいこと」は主に3項目。この中で、3の「実装機能」が議論になった。
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【資料2】第1回標準型電子カルテ検討ワーキンググループ資料_ページ_27

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医療DXの目的を達成するために

 長島公之構成員(日本医師会常任理事)は「紙カルテはそのままでいいと言ってもらえるだけで導入のハードルはかなり下がる」とした上で、紙カルテとの併存を前提に「医療DXの効果や目的を達成することが重要」と指摘。現場に役立つ機能があれば「新規に開業される医療機関には極めてメリットが大きい。オンライン資格確認の対象外の医療機関でも導入するインセンティブにもなる」と期待を込めた。

 その上で、長島委員は「α版では難しいかもしれないが」と前置きした上で、「標準型」に求められる機能として、▼民間のPHRサービスとの情報連携、▼地域医療連携ネットワークとの情報連携、API連携、▼レセプト機能との連携、▼行政への提出文書対応──などを挙げた。患者への情報提供に必要な機能は「将来的に実装すべき」とした。

 最後に長島委員は「(最初から)どこまでを国が開発するのか」と問題提起。「実際にやってみて、どれぐらいコストがかかるのか、あるいは、どれぐらいの機能を実装すればいいのか、また民間事業者がどれぐらい参加できるのかなどを見ながら、バランスを考えて進めていくことが重要ではないか」との考えを示した。

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見たこともない電子カルテになってしまう

 患者を代表する立場からも同様の意見があった。山口育子構成員(NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長)は「電子カルテを導入していない診療所のドクターはご高齢で、患者さんもご高齢が多いと想像する」とした上で、薬剤情報を一元的に管理する必要性を指摘。「重複投薬や併用禁忌を避けることは患者にもドクターにもメリットがあるので、そこをまず強調して伝えることが導入につながる」と述べた。

 その上で、山口構成員はアンケート結果に触れながら「入力に時間がかかる。パソコンに慣れていない。キーボード入力がハードルではないか」と課題を指摘。「紙カルテはそのままでもいいとなれば確かに(電子カルテ導入の)ハードルは少し低くなるかもしれないが、それ以外に考えられるシステムとして音声入力もある」とし、「今回のα版で可能だろうか」と尋ねた。
 
 厚労省の担当者は「標準型電子カルテの機能について、あまり何でもできます、どんな形でも入力できますという形にしてしまうと、見たこともない電子カルテになってしまう」と懸念し、「どこまでが国がやって、どこまでが民間のオプションと組み合わせられるかは丁寧に考えていきたい」と回答した。

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「標準型」が手を広げるべきではない

 ほかにも多くの注文が相次いだ。日本看護協会常任理事の木澤晃代構成員は「今回のα版の導入対象が医科の無床診療所で、かつ診療科によらない共通の診療行為を想定することについては、開発期間が非常に短いということでは現実的な対応」と理解を示しながらも、「今後、本格版を開発することも、そう先の話ではない」とし、本格版を見据えた設計を要望。重症化予防や慢性疾患の管理なども挙げたほか、「スマホのようにタッチパネル操作が簡単なものがよろしい」と要望した。

 その上で、木澤構成員は「α版では対応しない機能であっても、今後、導入対象を病院まで拡大することを視野に入れれば、日々の医療提供において必要な機能、例えば入院や看護機能等の要求に柔軟に対応できるよう、拡張性を踏まえた形でα版を検討していくことが必要」と主張した。

 木澤構成員は「看護情報提供書などが電子化で活用できることに大きな期待感がある」とし、「医療DXが思い描いている将来像、そして期待される機能を標準型電子カルテにおいても実装していくという道筋を丁寧に示していくことよって、導入の意義を現場で実感することにつながる」と訴えた。

 これに対し、厚労省の担当者は音声入力やタッチパネル操作などを挙げ、「そういうことに標準型カルテが手を広げるべきものではない」と慎重な姿勢を示し、どこまでの機能を実装すべきかについては「α版をつくっていきながら考えていきたい」と理解を求めた。

 池端副会長は、電子カルテの導入によって自院の業務効率化が進んだことを伝え、好事例の横展開などを進めていく必要性も指摘した。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 標準型電子カルテの開発によって、医療DXを進める。デジタル化が進む。大きな前進だと思う。スケジュールによれば、まず試行的な導入のための「α版」をつくる。その後、令和10年中には、200床未満の病院・診療所も全て導入することを目標にしている。ただ、その途中経過が見えない。そこで、私がやや危惧するのは、それまで待てばいいということにならないかということ。おそらく国が開発して無償で提供するか、または廉価なものを想定されていると思う。そうすると、急いで電子カルテを自費で導入しなくても、標準型電子カルテを待てばいいということになりかねず、いわばディスインセンティブにならないかと心配している。オンライン資格確認など医療DXの取り組みが急速に進む中で、電子カルテを入れなければいけないが、そのコストをどうしようかと迷っているときに、標準型電子カルテが無償または廉価で導入できるとなると、スピード感をなくしてしまう。とはいえ、補助金が出るといいながら、なかなか明確には出てこない。
 最近では、既存のベンダーから廉価な電子カルテが販売されているので、それはどんどん入れてくださいという合わせ技で進めていくべきだと思う。標準型電子カルテの完成をずっと待っていると、もし、この開発が頓挫してしまった場合、あるいはタイムスケジュールから大幅に遅延した場合に手遅れになりかねない。 
 中小病院の病床数は確かに多くないかもしれないが、ケアミックス病院が多いので、電子カルテの標準型といっても、大きい規模になるのではないかという気がする。そういう点も考慮しながら、このようなWGで意見を出し合い、技術的な検討も進めた上で、かなり遅れる可能性が出るようであれば、既存の電子カルテ導入との合わせ技も考えて進めたほうがいいという印象を持った。
 先ほど、長島委員がおっしゃったように紙カルテとの併用を前提とするのは私も賛成。「紙カルテでもいいですよ」という余地を残しておくと、診療所の先生方は移りやすいと思う。ただ、電子カルテの一番の魅力は自動的に入ること。2カ月ほど前、当院も電子カルテを導入した。紙カルテを残そうと思ったが、残したら電子カルテのメリットがないと思い、紙カルテをなくす方向に切り替えた。便利さを共有しようとすれば、自然に紙カルテをなくしていく方向に進むと思う。さらに、最近ではスマホの音声入力も非常に精度が高くなった。ほかの構成員がおっしゃったように、音声入力もあるといい。そういう便利な機能が実装されていれば、電子カルテに入っていきやすいと思う。かかりつけ医の診療所を想定しているのであれば、主治医意見書など介護ソフト等の情報も自動的に入れられるようにしておくことが最低限の機能として必要だと思う。各種の証明書や情報提供書などと一緒に主治医意見書も入るといい。
 ただ、留意すべき点は電子カルテの導入がイコール医療DXではないこと。院内のシステム改修などを進める中で、さまざまな業務の見直し等がある。DXの取り組みを契機に業務の効率化が進むということ。ただ単にデジタル化したから良くなったということはなくて、さまざまな院内の取り組み、効率化、見直しが背景にある。したがって、こうした業務の効率化に向けた中小病院や診療所などの好事例をいくつか集めて、こうしたWGなどに示し、標準型電子カルテの検討に役立てることも必要だと思う。

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