「柔軟な働き方ができる体制を」 ── 中医協総会で池端副会長

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第546回中医協総会(2023年6月14日)

 医師の負担軽減などを進める診療報酬上の対応について議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は多様な勤務形態を拡充させる必要性を指摘し、「もう少し柔軟な働き方ができる体制をさらに進めていくことも必要ではないか」と述べた。

 厚労省は6月14日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第546回会合を開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 厚労省は同日の総会に「働き方改革の推進について(その1)」と題する資料を提示。これまでの診療報酬上の対応を振り返った上で、3分野に類型化して意見を求めた。

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01スライド_P32_【総-5】働き方改革の推進について(その1)_2023年6月14日の中医協総会

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働き方改革はまだ始まったばかり

 1)の「医師の働き方改革に対する評価」については、①地域医療体制確保加算、②勤務環境に特に配慮を要する領域への対応、③働き方改革に係る環境整備等の推進、④多様な勤務形態の推進──の4項目を挙げた。

 このうち①については、支払側から「長時間労働の削減に結びついていない」などと厳しい指摘が相次いだ。「この加算を続けるかどうかを含めて議論が必要」との声もあり、これに診療側委員が反論した。

 厚労省の調査によると、時間外労働時間が月80時間(年960時間相当)以上の医師の割合は、2020年から22年にかけて増加している。

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02スライド_P39_【総-5】働き方改革の推進について(その1)_2023年6月14日の中医協総会

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 長島公之委員(日本医師会常任理事)は「働き方改革はまだ始まったばかりで、これからが本番。つまり、この加算はこれから本当に重要になる。必要になる」と理解を求めた。

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きめ細かい体制が必要ではないか

 ④多様な勤務形態の推進では、宿日直許可が議論になった。診療側委員は「一部の小規模なNICUやMFICUでは、その業務量や担当する医師数の実態などから宿日直で対応することも可能と考えられる治療室があることも考慮する必要がある」と緩和の必要性を指摘したが、支払側は反対した。

 松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「ICUなどで宿日直はあり得ないということを明確化するとともに、そもそも診療報酬において宿日直で対応できる業務を整理することも検討すべき」と述べた。

 一方、④について池端副会長は常勤配置の要件について発言。平成30年度や令和2年度改定で緩和を進めた対応について「一定程度、有効であった」と評価した上で、「もう少しきめ細かい体制が必要ではないか。柔軟な働き方ができる体制を進めることも必要」と指摘した。

■ 多様な勤務形態の推進について
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 多様な勤務形態の推進は医師の働き方改革において非常に有効な手段の1つである。資料49ページ(常勤配置に係る要件及び専従要件の緩和等の実施)にも示されているように、これまで平成30年度・令和2年度改定で緩和されてきている。令和2年度改定では、「週3日以上かつ週24時間以上」の勤務を行っている複数の非常勤職員を組み合わせた常勤換算でも配置可能としている項目について、「週3日以上かつ週22時間以上の勤務」を行っている複数の非常勤職員を組み合わせた常勤換算で配置可能となった。こうした「合わせ技」の常勤換算などの対応は一定程度、有効であったと思う。
 ただ、特に女性医師の働き方改革という観点からは、もう少しきめ細かい体制が必要ではないか。私ども県内で大学病院の担当者と話すと、「勤務させてあげたいのだが、常勤換算にならない勤務形態が多くなってくると、その穴埋めをする常勤医が必要になってくる。もう少し緩めてもらえないか」という声が多く聞かれる。
 確かに、常勤でなければ責任問題等が生じるため、全てが合わせ技の「みなし常勤」では無理なことは重々承知している。何割、何人など一定程度の制限は必要だと思うが、もう少し柔軟な働き方ができる体制をさらに進めていくことも必要ではないか。

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特定看護師にインセンティブを

 2)の「タスクシフト、タスクシェアに対する評価」については、①医師事務作業補助者、②特定看護師、③病棟薬剤師──などの評価が議論になった。

 このうち②について池端副会長は「急性期だけではなく、慢性期や在宅などで特定看護師が活躍する」と期待を込め、「さらに広げていく呼び水になるような体制も必要ではないか」と提案した。

 これに支払側の安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)も賛同。「医師の働き方改革では特定行為研修の修了者を増やすことも非常に有効」との認識を示した上で、「何らかのかたちで、研修を受けたくなるようなインセンティブも考えていただきたい」と求めた。

 厚労省によると、特定行為研修の修了者数は年々増加しているが、今年3月現在で6,875人と伸び悩んでいる。

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03スライド_P62_【総-5】働き方改革の推進について(その1)_2023年6月14日の中医協総会

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■ 特定看護師の評価について
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 資料61ページに示されたように、第8次医療計画ではタスクシフト・タスクシェアの観点も含め、各都道府県において特定行為研修修了者の就業者数の目標値を算出することになっている。
 しかし、直近の研修修了者数は累計で6,875人。当初、特定行為研修は10万人を目指すと言われたが、まだまだ1万人にも満たない状況である。 
 特定行為研修を受けた看護師は、急性期だけではなくて、むしろ慢性期や在宅などで大きく活躍する場があるし、それがまた24時間体制の医師の働き方改革にもつながるので、さらに広げていく必要があるのではないか。 
 これは「鶏が先か卵が先か」という側面もあるが、特定看護師の活用が何らかの条件になれば特定看護師の配置が進み、勤務形態や給与体系なども良くなる。そうすると特定行為研修を受ける看護師が増える。そのように呼び水になるような体制も必要ではないか。

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病棟薬剤師に何らかの手当を

 ③病棟薬剤師については、薬剤師の関わりが医師の負担軽減策の上位を占めるデータが示され、6月8日の入院・外来医療等の調査・評価分科会と同様に病棟薬剤師の評価を求める意見が診療側から相次いだ。日本看護協会の専門委員も賛同した。

 これに対し、支払側から「投薬に係る患者への説明、医師への情報提供、処方提案や服薬計画の提案は、ある意味、薬剤師が当然やるべき業務として、しっかり実施する必要がある」との意見もあった。

 池端副会長は大型チェーン薬局との給与格差などを指摘し、「診療報酬上でできる何らかの手当も必要ではないか」と提案した。

■ 病棟薬剤師の評価について
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 資料71ページ73ページ(薬剤師のチーム医療への参画)に示されているように、医師の働き方改革において有効な手段の1つとして薬剤師の活用がある。
 ただ、病棟薬剤師のニーズが非常にあるのに働き手がいない。これはなぜかと言うと、やはり地域の大型チェーン店の薬局の薬剤師と病棟勤務の薬剤師との給与格差が大きく、10万円以上の差がある。これはもちろん病院の体制によるかもしれないが、ここをもう少し何とかできる体制にできないか。診療報酬上で見ていくことができないか。ここが改善できない限り、いくら薬剤師を必要としても応募がない。チェーン薬局にどんどん流れてしまっているのが現在の病院の薬剤師の状況ではないかと思うので、診療報酬上でできる何らかの手当も必要ではないか。

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高度急性期でも介護福祉士のニーズが高い

 3)の「医療従事者の負担軽減等に対する評価」については、①夜間の看護体制の充実、②看護補助者の配置、③看護業務の負担軽減──などが挙がった。

 このうち②について池端副会長は「高度急性期病院でも介護福祉士のニーズが非常に高まっている」とし、診療報酬上の評価について検討を求めた。

 これに対し、吉川久美子専門委員(日本看護協会常任理事)は「介護職員が不足していく中では、介護福祉士はやはり介護の領域で活躍する重要な人材」と強調。「急性期病院の配置に関しては、介護職員全体の人材確保に大きな影響が出るところもあるので、介護福祉士を診療報酬上で評価することについて私たちとしては反対」と述べた。

 厚労省の調査によると、医療機関に勤務する看護補助者は平成26年以降、減少傾向にある。この資料の説明で厚労省の担当者は「特に介護福祉士以外の看護補助者が減少傾向にあることを示している」と紹介した。

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04スライド_P88_【総-5】働き方改革の推進について(その1)_2023年6月14日の中医協総会

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 池端副会長は「介護福祉士も決して増えてはいない」と指摘。処遇改善加算による評価など介護保険施設と病院との不均衡を挙げ、「同時改定なので、この辺もそろそろ考えていかなければいけない」と述べた。

■ 介護福祉士の配置について
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 資料88ページに看護補助者数の年次推移が示されている。確かに、介護福祉士ではない看護補助者が減っている。では介護福祉士はどうかと言うと、介護福祉士も決して増えてはいない。
 現在、高度急性期病院でも介護福祉士のニーズが非常に高まっている。ニーズが高まっているのに数が増えてないということは、不足がさらに進んでいると言える。
 ただ、看護補助者が全体として減っているので、なかなか難しい問題だ。介護福祉士については介護保険上、処遇改善加算が認められているが、一方で病院に勤務する介護福祉士には認められていない。
 介護福祉士という職種に対する診療報酬上の評価が難しいことは重々承知しているが、今回は同時改定なので、この辺もそろそろ考えていかなければいけないのではないかと、あえて言わせていただきたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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