慢性期リハビリテーションの重要性と展望 ── 第22回日本慢性期医療学会

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パネルディスカッション4

 日本慢性期医療協会が11月20、21日に熊本市内で開催した第22回日本慢性期医療学会(学会長=末永英文・医療法人財団聖十字会理事長)では、5つのシンポジウムと4つのパネルディスカッションが行われました。このうち、学会2日目(21日)のパネルディスカッション4「慢性期リハビリテーションの重要性と展望」の模様をお伝えいたします。
 
 このパネルディスカッションは慢性期リハビリテーション協会(会長=武久洋三・日本慢性期医療協会会長)が企画。座長を同協会副会長の橋本康子氏(千里リハビリテーション病院理事長)が務め、熊本リハビリテーション病院副院長の山鹿眞紀夫氏らが今後の慢性期リハビリテーションについて語り合いました。以下は参加者の発言要旨です。
 

■ 急性期医療の後始末をしないといけない
 
[座長(橋本康子氏)]
 「慢性期リハビリテーション」について、私たちは「急性期以降のすべてのステージ」と考えている。すなわち、「回復期」はもちろん、今まで「維持期」といわれていた「生活期」、それから「終末期」、「認知障害リハ」「障害リハ」など、そういったものをすべて含めて「慢性期リハビリテーション」と考えている。そうした慢性期リハについて本日は皆さんと話したい。ではまず、武久先生にお話しいただく。
 
[武久洋三氏(日慢協会長)]
 リハビリテーションの現状について、現場がどう思っているか。患者はどう思っているか。ベストなリハビリテーションの提供体制になっているのか。私は、現在よりも良い提供体制があると考えている。本日は、リハビリテーションについての提言もしたいと思っている。

武久洋三会長 リハビリテーションとは、失われた機能を個人の身体や生活環境の現状、将来ともに自分らしく適合できるように援助を行うこと。あくまでも患者個人が行うものであって、リハの専門医や療法士らが「自分が患者を治してやる」などと思い上がるなと言いたい。しかし、自分が治すと思っている。また患者も自分がやるものだと思っておらず、リハの療法士やリハ医が治してくれるものだという意識が強い。しかし、やはり自分自身で良くなっていこうという意識がないとなかなか難しい。

 今年3月で、いわゆる「維持期リハ」が終了する予定だったが、今回の改定で無期限に認められた。これは、昨年夏から活動してきた慢性期リハビリテーション協会の成果だと思っている。回復期リハビリテーションについて「急性期か慢性期か」と問われれば、回復期は決して急性期ではない。すなわち慢性期リハの中へ入る。回復期リハと狭い意味での慢性期リハ、それから介護期と生活期と、ずっと続けてリハビリをしないといけない。回復期リハ6ヵ月は長すぎると思われる。

 急性期リハの不十分なところを慢性期リハが補っている。急性期病院は臓器別の専門医が多いので、ターゲットとなる病気を治すことが一番重要になる。例えば、脳梗塞や心筋梗塞の患者さんに、血液が固まらないような薬を大量に出す先生と、そうではない先生がいる。臓器別専門医の間でなかなか境界線が難しいという現状がある。私にも経験がある。血小板抑制剤のようなものを3種類も4種類も長く飲んでいた患者さんが、目の前で大出血をして亡くなったという経験があるので非常に怖いと思っている。

 一方、低栄養の褥瘡は急性期病院からもたらされているものが多い。われわれ慢性期病院は急性期病院から患者さんを受け入れているので、どの急性期病院が優秀かを知っている。きちんとしている病院と、後始末をほとんどわれわれに任せてしまう病院がある。紹介状には、特にカリウムが高いとかナトリウムが低いとかBUNが高いとか、そういうことを全く書いていない場合が非常に多いので、意識が非常に低いのではないかと思うこともある。急性期医療がすべてベストで慢性期医療が劣っているということはない。急性期医療の後始末をしないといけないことも多い。
 

■ リハビリ提供体制の抜本的な改革を

 すべての患者にとって、リハビリという治療方法は必須のものになった。リハビリ部門を特別扱いする時代は過ぎた。急性期病院から紹介される患者さんの中には、低栄養や貧血など身体環境が破壊された状態の人が少なくない。その状態で歩く訓練をしろといっても、「腹が減っては戦ができぬ」ということになる。こういう状況をまず変えなければいけない。

 われわれは、現在のリハビリテーション提供体制を抜本的に改革すべきと考え、以下のような提案をしている。(1)出来高から包括への全面転換、(2)疾患別リハビリの廃止、(3)算定日数制限の撤廃、(4)9時5時リハビリから24時間リハビリへ、(5)嚥下障害のリハビリ、膀胱直腸障害リハビリの優先──。このようなことは今まであまり言われていなかったので、あえて言っている。

 1単位を取るために汲々としているリハビリから、1人ひとりの患者さんのための自由なリハビリをしてはどうか。20分絶対主義から、より短いリハビリや集団リハビリ等、療法士の自由裁量を拡大したほうがいいのではないか。単位に関わらず集中リハをして自主訓練を促し、短期で成果を得るということが必要ではないかと思っている。疾患別リハも同じ国家資格者が同じ20分間のリハビリを行うのに、疾患によって差を付けることになんらかの意味があるのか。

 リスクの高い、技術的に困難なリハビリの点数が低いのは、どういう理由かがよく分からない。神経損傷のない廃用性症候群は、神経損傷のある脳卒中よりも早く十分にリハビリをすれば社会復帰は早いと思う。患者が脳卒中になるか廃用性症候群になるかは選べない。たまたま廃用性症候群になったら非常に気の毒で、リハビリを受けられないこともあり得る。日本の診療報酬は、重度で複雑で治療に困難を伴う症例に高く設定されている。ところが、脳血管リハだけがこれに反しているのはいかなる理由か。

 人間は動物なので、一生涯、動き続けられるようにするためにリハビリが必要だ。リハビリが包括化になれば、症状改善の可能性がある限り、日数に関係なくリハビリをすることができる。まずは自主訓練が必須であると思っている。
 

■ 「総合目的のリハビリ」をつくり上げていく

 「9時5時リハビリから24時間リハビリへ」ということも提案したい。患者は夕方5時から翌朝6時までじっと寝ているわけではない。夜中にトイレに行きたくなって、転倒して事故になることがある。人間が動く間は当然リハビリが必要だと思っている。昼間だけリハビリをすればいいという非常識が常識化している異常がある。

 一方、今改定で新設された地域包括ケア病棟は、リハビリテーションが「1日2単位以上」とされ、包括になった。2単位さえやっていれば、あとは集団リハやIADLリハ、ADLリハなどを5分刻みでやってもいい。現在、19分30秒では1銭にもならないという非常におかしな制度になっている。地域包括ケア病棟では、2単位が包括だから2単位だけすればいいという病院と、4単位、6単位する病院がある。当然、アウトカムに大きな差が出てくる。地域の中で評価される。

 嚥下リハビリや膀胱直腸障害のリハビリは優先的に行わなければならない。食べることや排泄することは人間性の根源である。おむつをして経管栄養をしている人が歩行練習に熱心になれるか。これらを先に治してやらないといけない。嚥下障害リハビリや膀胱直腸リハビリに多くの時間を取っていく必要がある。

 早いうちに集中的にリハをする必要がある。今は9単位しかできないわけだが、24時間あるのだから、寝る時間が8時間ならば16時間残っている。病状にもよるが、16時間リハビリをするのが適正だと思っている。10時間リハビリをしたら30単位になる。現在、9単位まで抑えられている。しかし、最初の1ヵ月間は集中的にもっと多くできるようにしてほしい。そのためにはリハビリの包括化が必要である。6ヵ月間、9単位をずるずるやる方法は正しくないのではないか。

 リハビリをするうえで必要な視点は、患者さんが自宅に帰ったときに在宅でどのように生活するかということ。ご自宅での生活は人それぞれ違うので、患者さんの意向に合わせなければいけない。残念ながら、患者のホームワークに影響されることもある。自宅でできる機能、自宅できない機能などをきちんと明らかにする。例えば、糖尿病は本人がいろいろ苦労しながら治していく。同様に、リハビリも自分自身の問題。病気を治すのは自分自身、患者自身である。

 例えば、ピアノの練習ではまず右手だけで練習し、徐々に弾けるようになってから左手にして、それから両方を合わせていく。このような形で、「総合目的のリハビリ」というものを徐々につくり上げていくような企画力や創造力を持つ療法士が必要だと思う。その療法士に対してリハ計画書、リハ指示書を出す医師の「指示の出し方」が非常に重要になる。
 

■ リハビリ力の有無によって病院の評価が決まる

 われわれ医療者は、少しでも良くなる見込みがあれば、一生懸命に努力して治療する。「高齢者に医療をやるのはもったいない」と考える人もいるが、医学は不老長寿やがん克服を目指して進歩してきた。その恩恵にあずかることなく高齢者は死んでくれという考え方はおかしい。ターミナルと高齢者が医療を受けることとはまた別であるから、ターミナルということの中に看取りというのが入って、慢性期はトリアージなのかということになってくる。良くなる見込みがあれば治療するのがわれわれの使命である。

 私は、「総合リハビリテーション療法士」の必要性を主張している。例えば訪問リハビリで、「今日はPTが訪問して明日はOT、明後日はST」なんてことはおかしい。OTはPTやSTについて勉強し、またSTもOTやPTのことを勉強する必要がある。ある程度リハビリが終了してから在宅に帰るわけだから、総合的な機能を果たす職種が必要ではないか。そして、途中から「どうも嚥下の状態がまた悪くなったな」ということになれば、「ではSTさん、お願いします」とつないでいく。これが正しいやり方ではないか。

 これからの慢性期医療は、急性期医療が徐々に制限されていく中で展開する必要がある。それはリハビリ力の強化である。改善の見込みのある選ばれた人だけをリハビリする時代はもう終わった。病状が非常に重い人でもきちんとリハビリして、病状が回復すると共に日常生活に帰っていけるようにすべきである。リハビリテーションは生涯リハビリであり、チームでリハビリを行っていくことが非常に重要となる。これからは、リハビリ力の有無によって病院の評価が決まる時代になると思うので、そういうことを私から提案させていただく。[→ 続きはこちら]
 

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