第2回「令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会」出席のご報告

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池端幸彦副会長_20230419_同時報酬改定に向けた意見交換会

 厚生労働省は4月19日、「令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会」の第2回会合を開き、当会から池端幸彦副会長、田中志子常任理事が出席し、意見を述べた。池端副会長は中央社会保険医療協議会、田中常任理事は介護給付費分科会の委員を務めている。

 意見交換会のテーマは「その他」を除いて8項目。前回3月15日の第1回会合ではテーマ1~3について、厚労省が示した「検討の視点」を中心に委員が意見を述べた。

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01スライド_20230315_同時報酬改定に向けた意見交換会

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 今回のテーマは「4.高齢者施設・障害者施設等における医療」と「5.認知症」について。前回会合と同様、厚労省が示した「検討の視点」を踏まえ、各委員が意見を述べた。

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高齢者施設等における医療について

 テーマ4では、特別養護老人ホームなど高齢者施設と医療機関との連携が焦点となった。池端副会長は、医療と介護の一体的な提供が必要であると強調。配置医師の負担増を懸念し、外部医師が診療しやすい体制を求めた。また、特定看護師の能力を活かす方法や、感染症対策における外部からの支援なども提案した。

 田中常任理事は、特養で配置医師と特定看護師が連携することで、入院を避けて医療が提供できる可能性が高まるとし、慢性期医療に慣れている医師がサポートに入る体制を提案。配置医師のいない特定施設等では「高齢者医療が得意でリハビリ機能を持つ病院」との連携を進めるよう求めた。障害者施設との連携にも言及し、「高齢化に伴う症状が発症した時点で介護サービスへ移行する必要がある」と述べた。

 池端副会長と田中常任理事の発言要旨は以下のとおり。

【池端幸彦副会長】
 特養の入所者を受け入れる医療機関の立場から意見を述べる。まず質問だが、特養では「退所者の69.0%が死亡退所」としているが、この69%という数字は最終的に死亡したことで退所になったものであり、すべての特養施設で看取られている数ではないと考えるが、その理解でよろしいか。そうであれば、死亡退所のうち施設内で看取られた割合はどうか、教えていただきたい。
 さて、ご承知のとおり介護保険施設においては、医療と介護を一体的に提供するニーズが急速に高まっていることは間違いない。その中で、特養においては配置医師の負担が増大していることが医師会等でよく聞かれる話である。
 現実的には、24時間365日の夜間・休日体制を含めて、1人の配置医師に看取りを依頼することはかなり厳しい状況だと考えられる。そこで、外部からのサポート体制を検討すべきである。現状、がんの末期などの訪問看護や訪問診療が認められているが、その窓口をさらに広げる方法を検討していただきたい。
 確かに、現行の体制でも診療できるが、配置医師でない場合については必ずしも入りやすい状況ではなく、診療報酬の算定が難しい。そこで今回、ぜひ整理をしていただいて、もう少し連携がしやすい体制を組むべきではないかと考える。
 もう1つは特定看護師の活用。先ほど田母神委員が挙げた認定看護師に加えて、特定看護師の活用を提案したい。特定看護師は、医師の包括的指示のもとで医療行為も行うことができる看護師である。特定看護師の能力を活かす方法を考慮すべきであると考える。
 3点目の提案は、感染症対策について。ご承知のとおり、高齢者施設におけるクラスター発生は非常に大きな問題となっており、外部からの医療介入がどれだけ可能かが重要となっている。現在、コロナウイルスに対しては特例措置で往診が行えるようになっているが、今後の新興感染症を含めた感染症対策においても、外部からの医療・看護が介入できるように、指導的な役割も含めて関与できる体制を構築することも重要であると考える。

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〇厚労省老健局老人保健課・古元重和課長
 資料1の参考資料の15ページに、「介護保険施設における入所者・退所者の状況」として、介護老人福祉施設からの退所先における死亡が69%という数字が記載されている。この数字については、池端委員の指摘のとおり、特養における69%の死亡には施設内での死亡と入院先での死亡の両方が含まれている。その割合については、この69%を100とした場合、施設内での死亡が約65%、入院先での死亡が約35%であり、おおむね2対1の状況である。参考のために、介護老人保健施設における死亡退所について、10.6%という数字があるが、このうち約9割が施設内での死亡である。
 また、介護医療院における死亡退所が52.2%であるが、この調査においては、100%が施設内での死亡という状況である。このような点については、委員ご指摘のとおり、解釈に当たり留意が必要であると考えている。

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【田中志子常任理事】
 検討の視点(1)高齢者施設・障害者施設等の医療提供機能について、慢性期、在宅部門、特定行為ができる看護師の配置を提案する。これは池端委員も述べていたとおりである。
 高齢者の誤嚥性肺炎や尿路感染など感染症の治療であれば、急性期病棟で治療することが必須とは限らない。私どもの特養では、抗生物質の点滴投与などが特定行為の看護師によって、医師との相談や包括指示のもとで、病院と同等のレベルで実施されている。
 このことにより、入院を回避できるだけでなく、住み慣れた施設内で病院並みの治療を受けられることで、利用者のリロケーションダメージの回避や家族の入退院に伴う負担の軽減が図られ、大変喜ばれている。このような好事例の横展開が期待される。
 さらに、広い視点で見ると、その仕組みは医療経済的にも入院治療と比較して自己負担と公費負担の軽減が図られつつ、治癒へ至る。この仕組みを標準化できるよう、介護・福祉施設における特定行為の看護師の配置を促進すべく、インセンティブを付けてはいかがかと提案する。
 評価は実績報告で担保できると考える。その際には、現在評価されていない施設での点滴手技なども、あわせて診療報酬での評価をしていただく必要もあると思う。
 また、老健では薬剤費が包括されているため、説明にもあったように高額な薬剤を必要とする利用者の薬剤購入費が施設の負担になっている。
 とはいえ、医学の進歩に伴い、高額であっても処方をやめることができない良薬が増えているのも事実である。例えば、心不全治療薬のトルバプタンなどを使用することで、急性期病棟に入院しなくても老健で治療が可能な方がいる。投薬の包括化について見直すべき時期であると考える。
 2つ目の丸(必ずしも常勤でないものの医師の配置が義務づけられている特養における医療ニーズへの適切な対応のあり方)については、特養の配置医師が特定行為の看護師とうまく連携することで、負担なく医療を提供できる可能性に言及したい。
 また、配置医師が高齢者医療に慣れていない場合には、慢性期医療に慣れている医師がサポートに入れる体制を整えるべきである。これは14ページの(2)の内容(医療機関と高齢者施設等との連携)にも重複する。
 3つ目の丸(医師の配置が義務づけられていない特定施設及び認知症対応型グループホームにおける医療ニーズへの適切な対応のあり方)については、配置医師のいない特定施設等で想定される疾患が必ずしも高度急性期医療を必要とするものばかりではないため、地域包括ケア病棟などを有する高齢者医療が得意でリハビリ機能を持つ病院と医療連携するよう求めてはいかがかと考える。
 4つ目の丸(障害者施設における一定の医療ニーズに対応する体制)については、障害者施設との連携について言及する。障害者の高齢化に伴って認知症を併発する方も増えており、不足する障害者施設を若年の重度障害の方々に利用してもらうためにも、高齢化に伴う症状が発症した時点で介護サービスへ移行する必要がある。
 現在も介護保険優先のルールは存在するが、介護保険施設を利用することで自己負担額が増加するため移行が進まないケースもあり、障害部門との調整が必要である。
 14ページの(3)ポリファーマシーの解消や、(4)の感染症対策についても、慢性期部門や特定行為を学んだ特定行為の看護師を配置することで、毎日見ている看護の目から観察が可能となり、医師や薬剤師と連携し、速やかにさまざまなことが行われ、薬剤管理が行われるだろう。別途、介護職員の感染対策の指導なども行われるので、改めて配置を義務付けるとよいと考える。

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田中志子常任理事_20230419_同時報酬改定に向けた意見交換会

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認知症について

 テーマ5について池端副会長は、医療機関と介護施設の連携強化が認知症患者へのケア向上につながると述べた。特に認知症サポート医の活動を評価し、その成功体験を地域ケア会議に活かすことが重要であると指摘。「急性期病院においても身体拘束ゼロを目指すべき」とし、患者の尊厳を守る必要性を強調した。

 田中常任理事は、看護師だけでなくリハビリ職も認知症への対応力を向上させる必要性を指摘。生活行為の向上を目的としたリハビリについて現行の単位制度の見直しなどを提案した。また、身体拘束を回避するために具体的なケアマニュアルを普及させる必要性を語った。

 池端副会長と田中常任理事の発言要旨は以下のとおり。

【池端幸彦副会長】
 医療と介護の連携をさらに進めるため、認知症サポート医の活動を評価すべきと考える。医療と介護の連携は前回の意見交換会で議論されたように非常に重要なテーマであり、特に認知症は医療だけでは管理できず、治せない。介護だけでも対応が難しい。両者が組み合わさることで成功体験が生まれる疾患であると考えられる。
 医療と介護の連携をいかに進めるかという点では現在、認知症サポート医が1万2,000人、対応力向上研修を受けた医師が7.2万人いるが、十分に活動しているだろうか。ただ研修を受けただけでなく、初期集中支援チームに参加したり、ケア担当者会議や地域ケア会議に参加したりすることで成功体験が生まれるため、その活動を評価し、要件化する方法もあるのではないか。
 そのような取り組みによって、連携の良さが双方に理解できるようになる。当県では認知症サポート医が連絡会をつくり、全てのサポート医に活動してもらっている。その活動をポイント制にして、一定のポイントを年間取得することを条件化しており、かなり活動が進んでいる。これも参考にしていただければと思う。
 身体拘束について医療機関の現場では、点滴が抜かれることを防ぐなど、やむを得ない理由で拘束用の手袋などを使用することがある。しかし、介護保険施設では身体拘束ゼロが原則として義務化されている。
 かつて悩んだ時期があったが、徐々に学び、療養病床で点滴や採血などの医療行為が必要な場面でも工夫すれば身体拘束を外せることがわかった。日本慢性期医療協会では、身体拘束ゼロを目指し、特別な場合を除いて拘束ゼロを実現している。この取り組みを一般の医療機関や急性期病院にも広めるべきである。
 患者の尊厳を守るためにも、身体拘束による認知症の悪化やせん妄の発症を防ぐことが重要である。今回の同時改定においても、この点に対応していただきたい。

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【田中志子常任理事】
 検討の視点(1)の「地域包括ケアシステムにおける認知症の人への対応」について述べる。介護保険が生まれてから23年が経過し、認知症の患者像は変化した。
 当時と比較して、認知症の初期から診断されるケースや、若年認知症の診断を受ける人が増えている。しかし、診断後の支援サービスは不足しており、その方々が利用できるサービスが存在しないのが実情である。
 現状では、支援が提供されれば、認知症の人々が働くことに近い活動や、生きがいが持てる活動を続けるために、障害サービスの就労訓練が利用できるとされている。
 しかしながら、市町村の障害担当者らには、この理解が十分浸透しておらず、認知症の病名が付くと介護保険優先の号令のもと、障害サービスの利用や併用が断られるケースが多く見られる。
 介護給付には訓練という部門がないため、障害サービスにおける就労訓練の利用を容易にするべきである。時代の変化に対応し、介護給付の中にも就労訓練や就労的サービスを導入する時期が来たと考える。この取り組みにより、認知症の人や高齢者が地域で誰かの役に立てる喜びを持ち続けることができる。これこそが地域包括ケアシステムなのではないだろうか。
 (2)医療機関・介護保険施設等における認知症の人への対応について。
看護師に対しては認知症対応力向上研修が普及しているが、リハビリ職にはまだ認知症対応に特化した研修が行われていない。このような背景があり、リハビリ病棟では認知症対応に苦慮しているという声が多く聞かれる。看護師と同様に、リハビリ職における認知症対応力向上研修の設定を要望する。
 また、認知症の人へのリハビリにおいては、生活行為を向上させるリハビリが主体となる。医療における機能訓練と異なり、排泄ができるようになる生活リハや、着替えができるようになる生活リハなどの10分単位で行える行為があり、現在の20分で1単位という考え方にそぐわないと感じる。短時間のリハビリを合算して単位請求できるよう変更するか、1単位の数え方を見直すことを要望する。
 2つ目の丸(BPSDを未然に防ぐケアの推進)について述べる。BPSDは予防が重要である。環境調整がうまくいかない場合でも、症状が強く出現する前に薬物を少量活用することで気分が安定することがある。医師や薬剤師と連携することで、ここでも特定行為の看護師が機能する可能性があることを指摘する。
 また、身体拘束については具体的な回避のためのケアマニュアルが必要である。私たちの経験から、マニュアルの導入により明らかに拘束を回避できたというデータもあるため、具体的なケアマニュアルの普及を提案する。
 最後に、認知症の人の情報連携について述べる。認知症の人を診るには、他の疾患以上に生活歴や生き方、考え方を知る必要がある。生涯カルテやポートフォリオのようなものを作成し、患者の情報が伴うような仕組みづくりを提案する。医療DXや介護DXの中に、その部分をぜひ組み込んでほしい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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