急性期と慢性期が混在し、「非常に答えにくい」 ── 入院外来分科会で井川副会長

審議会 役員メッセージ

2023年4月24日の入院外来分科会

 令和6年度の診療報酬改定に向けた入院や外来の調査案が示された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の井川誠一郎副会長は急性期病院と慢性期病院の調査が混在しているため「非常に答えにくい」と問題視した。厚労省の担当者は回収率の向上を主な理由に挙げ、「答えやすいように設問も見直している」と理解を求めた。

 厚労省は4月24日、中央社会保険医療協議会の診療報酬調査専門組織である「入院・外来医療等の調査・評価分科会」の令和5年度第1回会合をオンライン形式で開催し、当会から井川副会長が出席した。

 入院外来分科会の開催は昨年10月以来、約半年ぶり。前回会合では、「令和4年度調査」(2022年11~12月実施)の内容を大筋でまとめた。今回の会合では、今年6~7月に実施予定の「令和5年度調査」について具体的な調査票などが示され、各委員が質問や意見を述べた。

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本日の議論を中医協小委に報告

 井川副会長は調査項目が変更された理由を質問した上で調査票の統合について問題点を指摘したほか、看護職員処遇改善評価料やFIM測定の有無、かかりつけ医機能の調査などについて意見を述べた。

 尾形分科会長は「本日の議論を踏まえて事務局とも相談の上、中医協・診療報酬基本問題小委員会に今日の議論について報告したい。本日の指摘以外で調査票の細かい点について修正意見などがあれば26日の午前中までに事務局に知らせてほしい」とまとめ、閉会となった。

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4項目から8項目に増加

 「令和5年度調査」について、昨年10月の会合では4項目となっていた。

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01スライド_【入-1】令和4年度調査の内容について_2022年10月12日の入院外来分科会

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 厚労省は今回の会合に8項目を提示。このうち4項目は前回示した項目と同じだが、新たな4項目は昨年末に実施した「令和4年度調査」の項目を再び調べる提案となっている。

 新たに追加されたのは、①ICU、②地域包括ケア病棟、③療養病棟入院基本料、④働き方改革関連──で、今回の資料では(2)(3)(4)(6)の4項目。

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02スライド_【入-2】令和5年度調査の内容_2023年4月24日の入院外来分科会

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療養病棟の調査、「入念的に追加」

 井川副会長がその理由を尋ねたところ、厚労省の担当者は「諸般の事情変更に伴って追加した」と回答。①については、「コロナの影響で調査結果が十分に得られなかったので再度確認する必要があると判断した」と説明した。

 ②については、「その役割の重要性が他の会議体でも議論されている」とし、同時改定に向けた「意見交換会での議論」を挙げた。

 ③については、「令和6年に経過措置が終了予定のため、再度、入念的に追加している」と説明した。

 ④については、「2024年4月に上限規制の適用が予定されており、そのような状況の中で最終的な確認をする必要があると判断した」と説明した。

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調査の意味をなさない可能性も

 「調査票」にも変更があった。調査対象に応じて区分しているA票~F票のうち、慢性期医療に関するC・D票がなくなった。

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03_スライドP12_【入-2】令和5年度調査の内容_2023年4月24日の入院外来分科会

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 C・D票は、急性期病院などの「A票」に統合された。(下表はA票の対象施設)

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04スライド_P12抜粋_【入-2】令和5年度調査の内容_2023年4月24日の入院外来分科会

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 昨年10月の資料によると、「令和4年度調査」では、C票の調査対象となる施設を「療養病棟入院基本料の届出を行っている医療機関」としている。

 また、D票については、「障害者施設等入院基本料」のほか、「緩和ケア病棟入院料」などを届け出ている医療機関が対象となっている。(下表は令和4年度調査)
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05スライド_P11抜粋_【入-1】令和4年度調査の内容について_2022年10月12日の入院外来分科会
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 質疑で、井川副会長は「果たしてどの程度の数が療養病床や緩和ケア病棟に組み込まれるのかがわからないため、場合によっては調査としての意味をなさない可能性もある」と指摘した。質疑の模様は以下のとおり。

〇井川誠一郎副会長
 「令和5年度調査」の内容について示された調査項目案は、「令和4年度」の調査の項目が「その2」として加わり、合計8項目になっている。昨年7月と10月に示された調査項目案は、(1)(5)(7)(8)の4項目だけだが、今回の案では(2)(3)(4)(6)が追加され、それぞれ「その2」としている。つまり、「令和4年度調査」の項目を今回も調査する提案である。
 厚生労働省のホームページで2013年度まで遡って見てみたが、このような事態があったことは今までにない。奇数年に項目が増えてしまったという状況はなかった。恐らく、「令和4年度調査」において十分と言える調査結果が得られなかったため、「その2」の項目が増えたとも考えられる。この点、何らかの理由があったのか、教えていただきたい。

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〇厚労省保険局医療課・加藤琢真課長補佐
 確かに、ご指摘のとおり調査項目に関しては、案として中医協で承認されているものである。今回は中医協までお諮りするものであるが、まず入院分科会において、諸般の事情変更に伴って、このような形で調査内容を追加させていただきたいということで提案している。
 その背景として、特に(2)の必要度等に関しては、コロナ対応などで令和4年度の結果が十分に得られなかったため、コロナの影響も考慮し、再度確認する必要があると判断している。
 (3)に関しては、地ケアについて同時改定の意見交換会での議論を踏まえ、またコロナ対応でその役割の重要性が他の会議体でも議論されていることも踏まえて追加している。
 (4)に関しては、療養が令和6年に経過措置が終了する予定であるため、再度、入念的に追加している。
 (6)の働き方改革に関しても、2024年の4月に上限規制の適用が予定されており、そのような状況の中で最終的な確認をする必要があると判断し、追加している。
 今回、設問数は多くないが、入院外来分科会が非常に貴重な機会であるため、設問を追加させていただきたいと提案している。

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〇井川副会長
 承諾した。続けてお尋ねする。12ページに示されているように、療養病棟や緩和ケア病棟などについて、「令和5年度調査」では、いわゆる急性期病棟群の調査票である「A票」に組み込まれることになった。
 「A票」の各設問を拝見したが、療養病棟として記入できる箇所は多くても3分の2程度であり、緩和ケア病棟に関しては、もっと少ないと思われる。
 対象施設数が全体で「3,100施設」とされているが、果たしてどの程度の数が療養病床や緩和ケア病棟に組み込まれるのかがわからないため、場合によっては調査としての意味をなさない可能性もある。
 2013年以降の調査を調べた限りでは、今回のように一般と療養の調査が同一の調査票で実施されることはなかった。答える設問と答えない設問がある調査票は、回答側からすると非常に答えにくいというか、面倒くさい。
 回収率を上げたいと考えているのであれば、従来のように分けるべきだと考えている。調査内容の数が非常に増えたためにマスとして全体が増え、療養と一般を一緒くたにして、できるだけ数を減らそうとされたのであれば、いかがなものかという感じがするが、そのような影響はなかったのかを伺いたい。

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〇加藤補佐
 先ほど説明したとおり、それぞれ今回追加したものに関しては、比較的特異的な質問に関し、それぞれの対象施設にお聞きしたい項目がある。それぞれの調査票として独立させることも検討したが、設問数が少なくなるということもあり、広く療養や他の病棟においても「A票」と同様に聞きたい項目も非常に多い。そういった背景を踏まえて統合することにした。ご指摘のとおり、回答する側としては答えづらいという指摘もあるだろう。
 そういう観点で、今回は1ページ目に目次を作成した。それぞれの病棟や施設において、どの項目に関して回答していただければいいのか、少し丁寧に案内できるよう、このような取り組みをした。
 回収率を上げるとともに、回答していただく施設に対する負担を小さくする観点で、さまざま取り組んでいるが、今回は設問も少し答えやすいように見直し、目次も追加した。
 ご指摘を踏まえ、また何らかの施設や医療機関における負担が小さくなるような取り組みができるかどうか、再度こちらの事務局としても検討していきたいと思う。

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〇井川副会長
 了解したが、目次だけを見ても、どのページについて回答すればいいのか、わかりにくい。療養病床を持つ病院は目次の「3.療養病棟について」のページに回答すればいいが、療養病棟に関する3の箇所しかわからない。ほかの個所が療養病床を調査対象とされているのかどうかはよくわからない。
 また、急性期の中でもかなり細かい部分が入っているため、ケアミックスの場合などは答えなければならないが、今までの「C票」には、そういったものは存在しなかった。意見として申し上げる。

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看護の処遇改善評価料をなぜ算定しないのか

 この日の会合では、具体的な調査票の設問や選択肢について委員が質問。これに厚労省の担当者が答える形で進められた。

 調査票の資料「入-2参考」は全135ページ。厚労省の担当者は「アスタリスクが付いている箇所が例年と異なる調査項目」と伝え、新たに設問を追加したページを中心に説明した。

 質疑で井川副会長は、看護職員処遇改善評価料に関する30ページの「問22」、FIMによる測定の有無を調べる37ページの「問28」のほか、かかりつけ医機能に関する調査について質問した。

 このうち「問22」については、施設基準を満たすが算定していない施設があることを踏まえ、さらに踏み込んだ調査を求めた。

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06スライド_P30抜粋_【入-2参考】令和5年度調査票案_2023年4月24日の入院外来分科会

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 調査票案では、届け出ていない理由の中に「施設基準を満たさない」(01)の選択肢と、「既に賃金引き上げを行っていたため」(02)などの回答が分別されていない。井川副会長は「01」と「02」以下の回答が「質的に異なる」と指摘し、見直しを求めた。質疑の模様は以下のとおり。

〇井川副会長
 入院の調査票に関して、30ページ「問22」の看護職員処遇改善評価料について質問する。慢性期病院では「22-1」では、「02 届け出ていない」、「22-2」では「施設基準を満たさない」としか記入できない。 
 確かに、第3波の頃は急性期病院で多くの重症患者が治療し、看護師の疲弊も著しかったことは間違いない。しかしその後、オミクロン株の拡大により慢性期病院や施設でもクラスターが発生し、看護職員にも感染が広がった。重症以外の患者は急性期でも受け入れられず、慢性期病院で治療が行われた。看護職員の配置数が少ない慢性期病院では数名の看護職員の感染により、残った看護師への業務負担が非常に厳しくなる状況が生じた。急性期病院と同様、あるいはそれ以上の負担がある。
 看護職員処遇改善評価料は非常に不公平な診療報酬の項目であるが、特例ではなく診療報酬本体に組み込まれたため、これを是正するには改定を待たなければならない。つまり、令和6年度の改定で、このまま維持されれば、慢性期の看護師はそのまま2年間、不公平な状態に置かれることになる。
 さらに、「22-2」の「03」から「05」にあるような、何らかの理由で基準を満たす施設でも、届出が行われなければ看護師の給与を上げないという選択肢が取れる。そのため、急性期同士でも差が生じている。この問題を解決するために、令和4年度調査になかった看護職員処遇改善評価料に関する設問が今回、新たに設けられたことに感謝している。わずか2問の設問だが、その分析は非常に重要であり、結果と評価に大いに期待している。
 また、可能であれば、評価料を届け出ていない理由を「01 施設基準を満たさない」と「02 施設基準は満たすが、届け出ていない」の2択に分けた上で、前者には「賃金の引き上げを別途行ったか」という設問を加え、後者には「22-2」の「02」以降の設問を加えてはどうか。そうすれば、届け出ていない理由に関して質的に異なる状況をより適切に把握できると考えている。

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〇加藤補佐
 ご提案いただいた点を踏まえ、事務局でも検討した上で改めて連絡させていただきたい。

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療養病棟全体でFIMの測定状況がどうか

 井川副会長はまた、FIMに関する「問28」の調査について質問した。今回の調査票では、経過措置(注11)の施設だけでなく療養病棟入院料1・2を届け出ている施設にも回答を求めている。

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07スライド_P37抜粋_【入-2参考】令和5年度調査票案_2023年4月24日の入院外来分科会

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 厚労省の担当者は「療養病棟全体でFIMの測定状況がどうなのかを把握すべきという事務局の考えのもと、このような形でお聞きする」と答えた。質疑の模様は以下のとおり。

〇井川副会長
 37ページにあるA票の「問28」は、FIMの測定を月に一度実施しているかという設問である。令和4年度の改定で、「注11」の経過措置におけるリハビリが問題になり、FIMの測定が減算の回避要件になった関連であると思う。FIMの測定を月に一度実施しているかは「注11」に限定されており、通常の療養病棟入院料1・2にFIMの条件はないと認識している。令和4年度調査では、同様の設問が「C票」にあったが、「注11」を届けている場合に限定されていた。
 しかし、今回の調査票では、FIM条件のない療養病棟入院料1・2にも拡大されている。何か理由があれば、教えていただきたい。

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〇加藤補佐
 今回、「問28」を療養病棟全体に関して質問するようにした理由は、前回は「注11」に絞っていたが、今回は療養病棟全体でFIMの測定状況がどのようなものかを把握すべきという事務局の考えのもと、このような形でお聞きするということである。

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かかりつけ医、「どこに所属する医師なのか」

 患者を対象に実施する「かかりつけ医機能に関する意識調査」については、前回会合と同様に議論があった。

 井川副会長は、患者が「かかりつけ医」と考えている施設について「高度急性期病院や国立循環器病研究センターなど、自分が最も重症だと思っている疾患を診ている病院の医師を『かかりつけ医』と考えている患者さんが非常に多い」と指摘した。

 調査票では、「あなたは、かかりつけ医を決めていますか」との質問に対し、「決めていない。また、決める予定もない」と答えた理由を尋ねているが、「決めている」の回答は掘り下げていない。

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08スライド_P128抜粋_【入-2参考】令和5年度調査票案_2023年4月24日の入院外来分科会

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 井川副会長は「その『かかりつけ医』がどこに所属する医師なのか。開業医なのか。その設問を加えれば患者意識がわかる気がする」と提案した。質疑の模様は以下のとおり。

〇井川副会長
 救急医療の従事者や救急隊の方々によれば、高度急性期病院や国立循環器病研究センターなど、自分が最も重症だと思っている疾患を診ている病院の医師を「かかりつけ医」と考えている患者さんが非常に多い。
 今回の調査票では、「あなたは、かかりつけ医を決めていますか」と質問しているが、その「かかりつけ医」がどこに所属する医師なのか、開業医なのか高度急性期病院なのか。そのような項目を1つ加えていただくだけで、患者の意識がわかってくるような気がするが、いかがだろうか。

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〇加藤補佐
 ご指摘を踏まえて何らかの対応ができないか検討したい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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