「介護施設や在宅でもリハビリ推進を」 ── 第9期基本指針の議論で橋本会長

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橋本康子委員(日本慢性期医療協会会長)_2023年2月27日の介護保険部会

 来年4月からスタートする第9期介護保険事業計画の基本指針案が示された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の橋本康子会長は「私たちの目指すところは重介護が必要となる寝たきり高齢者を少しでも減らすこと」と強調した上で、「介護・福祉施設、在宅でのリハビリテーションの推進も盛り込んでいただきたい」と提案した。

 厚労省は2月27日、社会保障審議会(社保審)介護保険部会(部会長=菊池馨実・早稲田大学法学学術院教授)の第106回会合をオンライン形式で開催し、当会から橋本会長が委員として出席した。

 厚労省は昨年12月にまとめた意見書や今国会への提出法案などを踏まえ、同日の部会に「基本指針について」と題する43ページの資料を示し、まず今後のスケジュールを説明した。

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01スライド03__【資料1-2】基本指針について_2023年2月27日の介護保険部会

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 その上で、「基本指針のポイント(案)」を示し、「基本的考え方」「見直しのポイント(案)」を説明した。

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02スライド06__【資料1-2】基本指針について_2023年2月27日の介護保険部会

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地域リハ支援体制の構築の推進

 「見直しのポイント(案)」では、①介護サービス基盤の計画的な整備、②地域包括ケアシステムの深化・推進に向けた取組、③介護人材確保・介護現場の生産性向上──の3項目を挙げている。

 厚労省はこれら①~③について、「第9期計画において記載を充実する事項(案)」として、さらに具体的な項目を列挙。末尾の括弧内に関連資料のページ番号を記載している。

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03スライド07__【資料1-2】基本指針について_2023年2月27日の介護保険部会

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 このうち②では、「地域リハビリテーション支援体制の構築の推進」を挙げ、16ページに関連資料を掲載。「地域リハビリテーション体制(イメージ)」として、リハビリテーション支援センターの役割や位置付けなどを示した。

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04スライド16__【資料1-2】基本指針について_2023年2月27日の介護保険部会

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リハビリが継続できる支援を

 質疑で、橋本会長は「寝たきりにならないようなリハビリが今後は大変重要な項目になる」と指摘した上で、「介護・福祉施設、さらに在宅ケアでもリハビリの視点をもっと重要視して、要介護度を下げていく努力を医療・介護者、行政なども含めて進めていくことが必要」とし、基本指針に盛り込むよう求めた。

 津下一代委員(女子栄養大学特任教授)は「入院中のリハビリはかなりしっかり行われるが、在宅になると継続が難しい」とし、「高齢者自身が前向きな気持ちでリハビリが継続できるよう周りが支え、応援していくことが重要」と述べた。

 東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)は「橋本委員や津下委員からもリハビリの重要性のご指摘があった」とし、「私も居宅の要介護者の在宅生活を支える上でリハビリは非常に重要な要素だと考えている」と述べた。

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人材派遣、「老健局が主担当ではない」

 基本指針で記載を充実する事項として挙げられた③の「介護人材確保」については、人材紹介との関係が議論になった。

 佐藤主光委員(一橋大学国際・公共政策大学院教授)は「人材不足は大きな問題で、人材紹介事業者を介して人を集めることがあるようだが、その人材紹介料がとても高いという問題がある」と指摘。「こうした実態はどうなっているのか、把握しておく必要があるのではないか」と提案した。

 この発言を受け、橋本会長が「人材派遣について議論するのはこの介護保険部会だろうか」と質問した。橋本会長は「人材派遣料が高額になっている。介護人材不足の中で人材派遣に頼ってしまうと財務面を非常に圧迫する。経営が立ち行かなくなるのではないかというぐらい高額だ」と明かした。

 厚労省の担当者は「老健局が主担当ではない」とした上で、労働者派遣事業等を担当する部局の所管であると説明した。

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老健局と関係部局がタッグを組んで

 これに対し、菊池部会長が「橋本委員をはじめ、現場で携わっておられる方々の切実な状況を労働部局と共有していただくところから始める必要があるのではないか」と問題提起。「医療・介護分野における逼迫した状況をどうにかしなければいけない。その場合、老健局と関係部局がタッグを組んでやっていかなければいけない」と迫った。

 厚労省の担当者は「問題意識は労働部局にも伝えていきたい」とした上で、「人材派遣料をどのように評価していくかは介護報酬の議論にも関わる問題なので、介護給付費分科会での議論」と説明した。

 菊池部会長は「まず実態がどうなっているのか、データも含めて示していただく作業から地道に積み上げていくことも必要」とし、「労働部局の感触というか、どう考えておられるのか、状況のご説明にお越しいただくことも含めて検討していただきたい」と求めた。厚労省の担当者は「検討してまいりたい」と応じた。詳しくは以下のとおり。

■ 基本指針について
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 基本指針について意見を申し上げたい。私たちの目指すところは、重介護が必要となる寝たきり高齢者を少しでも減らすことであり、これが今後の人材不足や介護費の縮小対策の1つになると思っている。 
 そのためにはリハビリテーション。生活において自立度を上げ、寝たきりにならないようなリハビリテーションが今後、大変重要な項目になると思っている。 
 しかしながら、第8期の「基本指針の構成」の中にはリハビリテーションに関する項目がはっきりと示されていない。そこで今回、「第9期計画において記載を充実する事項(案)」の中で「地域リハビリテーション支援体制の構築の推進」が挙げられ、(関連資料の)16ページに地域リハビリテーション体制のイメージ図が示されている。
 しかし、これだけでは不十分ではないかと思っている。リハビリテーション支援センターなども必要とは思うが、今、現実にあるそれぞれの介護施設、福祉施設、さらに在宅ケアにおいても、リハビリテーションの視点をもっと重要視して、介護度を下げていくという努力を医療・介護者、さらには行政なども含めて進めていくことが必要ではないか。ぜひ、この基本指針の中に、介護施設や福祉施設、在宅でのリハビリテーションの推進も盛り込んでいただきたい。

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■ 介護人材の確保等について
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 先ほど佐藤委員がご指摘になった人材派遣料について質問したい。人材派遣料に関するディスカッションや協議は介護保険部会だろうか。
 私どもは病院と施設の両方を運営しているが、病院では人材派遣料がどんどん高額になっている。ただ、施設基準の関係などもあり、スタッフが少なくなってくると、どうしても新しいスタッフを雇用しなければいけない。そうしないと、患者さんに迷惑をかけてしまう。急きょスタッフを補充するとなると、人材派遣に頼らざるを得ないのが現状で、その率がどんどん高くなってきている。医療の現場ではそういう状況がある。
 今後、介護の分野でも人材不足のために人材派遣に頼ってしまう施設が増えてくるのではないかと思うが、そうなると、施設の財務面を非常に圧迫する。経営が立ち行かなくなるのではないかというぐらい高額である。 
 先ほど佐藤委員もおっしゃられていたが、こうした問題を議論する場は、この介護保険部会でいいのか、お伺いしたい。

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【厚労省老健局介護保険計画課・日野力課長】
 人材派遣の関係はもちろん老健局が主担当ではない。労働者の派遣事業は基本原則として駄目なのだが、一部、こういう労働者派遣事業だけはOKという仕組みになっている。労働者派遣法があり、そこで議論していただいた記憶がある。紹介料について上限を入れるか入れないかという議論もたしかそこでされていて、結局はそういう規制を入れないという結論が確か出ていた記憶がある。一義的には、まずそちらのほうで議論していただくのが筋ではないかと思っている。
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【菊池馨実部会長】
 今の答弁はたぶん正論だと思うが、ただ、橋本委員をはじめ、現場で携わっておられる方々の切実な状況を労働部局と共有していただくところから始める必要があるのではないか。労働部局は派遣法制全体をどうするかという視点で見ているが、そうではなくて、この医療・介護分野における逼迫した状況はどうにかしなければいけない。その場合は老健局と関係部局がタッグを組んでやっていかなければいけない。
 数年前から、障害分野では雇用と福祉の連携ということで検討会を相乗りで立ち上げて、相当、成果が上がって昨年の法律改正にもつながった。そういった道筋を描いていかなければいけない。
 老健局としては派遣法をいじるわけにもいかないので、まず切実な問題として、この部会から、たぶん橋本委員以外の現場の皆さまも当然、同様の感覚をお持ちだと思うので、そのあたりを事務局からやっていただく。そのあたりも含めていかがだろうか。

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【厚労省老健局総務課・林俊宏課長】
 ご指摘のとおり、問題意識は労働部局にも伝えていきたいと思う。福祉分野の人材派遣については、いろいろ課題があり、私が承知している限りは労働部局のほうも、いわゆる「マル適マーク」など、そういった取り組みなども進めていると思う。今日、ご意見があったことも含めて、人材派遣の在り方について意見があったことをお伝えしたいと思う。 
 なお、人材派遣料について広い意味では経営の話もあったが、それをどのように評価していくのかなどについては介護報酬の議論にも関わる問題である。これは先日(2月20日)の介護給付費分科会でも同じような問題提起があった。
 われわれのほうでどこまで把握できるかというところはあるが、広い意味では、そこの議論にも関わってくる問題だと思う。どちらかと言うと介護給付費分科会で受け止め、議論になっていく事項の1つだと認識している。

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【菊池部会長】
 先ほど佐藤委員からも、まず実態がどうなっているのかというご指摘があった。データも含めて示していただくという作業から地道に積み上げていくことも必要だと思う。
 老健局としてできることもあると思うし、労働部局との連携に努めていただくことが必要だと思うので、そのあたりを真剣にご検討いただきたい。
 労働部局の感触というか、どう考えておられるのか。介護保険部会なのか介護給付費分科会なのかということはあるが、場合によっては、状況のご説明においでいただくとか、それも含めて、ご検討いただければと思う。
 委員から直接、こういった状況をお話しし、この場で聴いていただくのもインパクトのある、意味のあることかもしれないと思うので、そうしたことも含めて、ご検討いただければということでよろしいだろうか。

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【厚労省・林課長】
 承知した。検討してまいりたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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