「アウトカム指標の強化」について質問 ── 介護保険部会で橋本会長

会長メッセージ 協会の活動等 審議会

2022年9月12日の介護保険部会

 「地域包括ケアシステムの更なる深化・推進」について2度目の議論となった9月12日の会合で、日本慢性期医療協会の橋本康子会長は「アウトカム指標の強化」について質問した。日本医師会の委員も議論に加わり、厚労省の担当者は「アウトカムにつながる、そのもう少し手前の中間的なものも含めて考えていく必要がある」との考えを示した。

 厚生労働省は同日、社会保障審議会(社保審)介護保険部会(部会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第97回会合をオンライン形式で開催し、当会から橋本会長が委員として出席した。

 この日のテーマは8月25日の前回会合と同様、「地域包括ケアシステムの更なる深化・推進」について。家族を含めた相談支援体制や通いの場、保険者機能の強化などの論点を示し、約2時間にわたり委員の意見を聴いた。

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01_【資料1】地域包括ケアシステムの更なる深化・推進(2)_2022年9月12日の介護保険部会

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アウトカム指標の割合を増やしていく

 保険者機能の強化について、厚労省はいわゆるインセンティブ交付金のアウトカム指標について「重点的に評価する仕組みを設ける必要がある」との課題を挙げた上で、「保険者機能強化推進交付金等の評価指標について、アウトカム指標を強化していくことについてどのように考えるか」との論点を示した。

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22_【資料1】地域包括ケアシステムの更なる深化・推進(2)_2022年9月12日の介護保険部会

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 質疑で、河本滋史構成員(健康保険組合連合会専務理事)は「給付費の適正化や認定率の地域差の是正に向けて、自立支援あるいは重度化防止への効果などアウトカム指標の割合を増やしていくことなど、成果につながる実効性のある見直しを検討していただきたい」と要望した。

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アウトカムに資する評価をしっかりつくる

 江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は「1人当たり介護給付費と認定率の地域差について市町村ごとのサービスの利用状況とその有効性の分析が必要」との認識を提示。「過不足のない必要なサービスの利用を前提として、これまでも一般的にサービスの利用が多いほど状態に改善が見られるという個々のデータも多いのが現状」と指摘し、「しっかりとした分析が必要」とした。

 その上で、認定率をめぐる問題に言及。「以前から、要介護度2以下の地域差が大きいことが指摘されている」とし、「介護認定審査会等も含めた認定の状況も踏まえた検証が必要と感じる」と述べた。

 続けてインセンティブ交付金について発言。「アウトカムについて、例えば要介護度とすると、状態の変化がなければ認定の見直しまでの期間が最大48カ月となっているので、要介護認定の状況がアウトカム指標として使いづらい状況」と指摘し、「アウトカムに資する評価をしっかりつくる必要があるのではないか」と問題提起した。

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どのようなアウトカムをお考えか

 橋本会長は「それぞれの交付金で達成すべき自立支援・重度化防止の目標(アウトカム)を精査していく必要があるとの記載はそのとおりだと思う」とした上で、「どのようなアウトカムをお考えか」と見解を求めた。

 厚労省老健局介護保険計画課の日野力課長は「現段階でのアウトカム指標としては要介護認定率があるので、それが基本になってくると思うが、具体的には別途、委員会を設けて議論をこれからスタートする状況」と説明した。

 そこで橋本会長は「要介護度が5から4、または3になったなど、改善したことも議論に含む予定だろうか。そういったこともお考えか」と尋ねた。日野課長は「細かいところはこれから議論」としながらも、「例えば要介護認定率と言ったときに短期的・中長期的なトレンドの話もあれば、例えば、そのレベルとして、これまでの取り組みで下がっているところもあるので、それらも含めて議論していく」との意向を示した。 

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アウトカムにつながる中間的なものも

 日野課長の回答を受け、江澤委員は「要介護認定率の間隔は状態の変化がなければ非常に長期間」と改めて強調し、「同一の市町村で同じ対象群で比較するのは不可能な状況」と指摘した。

 その上で、江澤委員は「変化を見ていくことは必要だが、アウトカムの指標として何がふさわしいのかは今一度、精緻な議論が必要」との考えを示し、「例えば要介護状態になることや障害をきたしても活動や参加に資する取り組み、あるいは実際にそういったことを住民の方々ができているということは重要な指標。アウトカム指標というのは、これからまだまだ検討していく課題だ」と述べた。

 日野課長は「おっしゃるとおり、要介護認定率の認定期間が延びてきているという影響もあるので、そういったところも含めてアウトカム指標としてどういったものが適切なのかどうか、また、そのアウトカムにつながる、そのもう少し手前の中間的なものも含めて考えていく必要があると思っている」と述べた。

 同日の会合ではこのほか、「家族を含めた相談支援体制の推進」なども論点に挙がった。橋本会長は「具体的に、どこでレスパイトケアができるのかも検討すべき」と述べた。橋本会長の発言要旨は以下のとおり。

■ 家族を含めた相談支援体制の推進について
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 家族の介護について、レスパイトケアに関して述べる。家族で介護されている方、脳卒中の方で後遺症がある方、子ども、若者はなかなか施設などに入れないので、交通事故の後、頭部外傷などで後遺症が残った場合、ご家族でケアをしているところが多い。また難病、認知症の方などもご家族で見ておられる方が多い。その方々に対するレスパイトケアだが、私どもは病院や施設を経営していて、どこでレスパイトケアをするのか。「レスパイトケアは必要ですよね」というだけではなくて、具体的に、どこでレスパイトケアができるのかもきちんと考えていかなければいけないと思う。
 現実的に認知症の方などを取っていただける病院はあまりない。施設は満員である。ショートケアを利用されたりしている方もおられるとは思う。グループホームが適切なレベルの方もおられるが、グループホームでレスパイトケアをするのは現実的にはあまりない。手いっぱいということがよくあるので、どこでレスパイトケアをするか。また、障害のある方などは吸引などの医療的な処置を必要とする場合も多く、病院でレスパイトケアができるのかどうか。保険診療の問題もある。そういうことも細かく考えていかなければいけないのではないか。

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■ 行政のデジタル化の推進について
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 行政のデジタル化の推進はぜひ進めていただきたい。私は文書負担軽減の委員会に出席しているが、市町村レベルでのことと現場、施設などの橋渡しというか、その両方の、行政でのデジタル化と現場でのデジタル化が別々に議論されている場合もあるので、そこをつなげて議論しなければいけないのではないか。ぜひ行政のデジタル化も進めていただきたいし、両方のつながりということを見ていただきたいと思っている。
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■ 地域包括ケアシステムの構築について
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 16ページの「現状・課題⑫」では、「可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営む」との記載がある。その「住み慣れた地域で」というのはよく言われるのだが、現実的に、住み慣れた地域で、住めるのは元気なお年寄りの方、大きな障害のない高齢者は可能だと思う。 
 私どもが在宅ケアや訪問リハビリで思うのは、障害があったり病気があったり、寝たきりに近い状態になって要介護度が高くなると、特養や老健などの施設に入ってしまう。最近、増えているのが有料老人ホーム。いろいろなレベルがある。すごく高価で立派な有料老人ホームもある。さまざまな有料老人ホームがとても増えてきているので、そういった所に入居されることもある。住み慣れたところから、施設入居へどんどん進んでいっているのではないかと思う。 
 「自宅へ」と言っても、なかなか難しい。家族の人も自信がない。仕事がある。昼間はいない。そうなると、「住み慣れた」と言っても、「地域」というのはわかるのだが、自宅を含めてということになると、ちょっと難しいところもある。やはり有料老人ホームであったり、特に東京や大阪などの都会では、そういう施設も含めて「住み慣れた地域」というふうに入れていかなければいけないのではないかと思う。 
 理想的なかたちの1つとしては、有料老人ホームみたいな施設と家が近くて、簡単に行き来ができる。週末などは家にいて、平日は施設にいるなど、「入れっぱなし」というのではなく、そうすれば家族の人もちょっと気が楽かなと思うし、昼間はこうする、夜になったらこうするとか、そういうことが流動的に、柔軟にできるようなシステムがあってもいいのではないかとは思う。

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■ アウトカム指標について
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 自立支援や重度化防止のアウトカム指標については現在、要介護度が高くなったら報酬が高くなる。身体状況やADLが良くなって要介護度が低くなると報酬が低くなるということがあってインセンティブが働いていない。そういったところに、積極的にアウトカム指標を入れていかなければいけない。
 その評価が難しくて、介護保険の場合は表情がでてまた、少し手が動かせる、何口か食べられる、声が発せられるとか、そういう細かな動きしかないので、そういう状態の変化を拾えるような、とらえていけるようなアウトカムを考えていただきたいと思っている。
 17ページの「現状・課題⑬」の保険者機能強化推進交付金については、22ページの論点⑤の2つ目の丸と同じまとめだと思うが、「それぞれの交付金で達成すべき自立支援・重度化防止の目標(アウトカム)を精査していく必要がある」と書かれている。ここに出ている「それぞれの交付金で達成すべき自立支援・重度化防止の目標」だが、アウトカムを精査していく必要があるのは確かにそのとおりだと思う。そこで、どういったもののアウトカムをお考えか、お聞きしたい。

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【厚労省老健局介護保険計画課・日野力課長】
 現段階でのアウトカムの指標としては要介護認定率というものがある。そこが基本になってくるのかなと思っているが、具体的なところは、また別途、委員会を設けて、今、議論をこれからスタートするといった状況である。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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