コロナ特例の見直し、「慎重に半歩ずつ」 ── 中医協総会で池端副会長

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池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_2023年3月1日の中医協総会

 コロナ特例の見直しをめぐり議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「平時に戻ることを医療界全体としても期待したいし、そういう方向に進めていきたい」としながらも、「慎重に半歩ずつ出ていく段階的な対応が必要」と強調。全面廃止を急ぐ支払側に対し、「スピード感の認識が違う。現場の状況を十分にご理解いただきたい」と訴えた。

 厚労省は3月1日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第539回会合をオンライン形式で開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 厚労省は同日の総会に「新型コロナウイルス感染症の診療報酬上の取扱いについて」と題する資料を提示。5類移行の政府方針や医療機関へのヒアリング結果などを紹介した上で、最終ページに「課題」と「論点」を挙げ、委員の意見を聴いた。

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31_【総-2】新型コロナウイルス感染症の診療報酬上の取扱い_2023年3月1日の中医協総会

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入院、外来、感染対策の「課題」を提示

 厚労省が示した「課題」は主に3項目。①入院医療、②外来医療、③感染対策について、診療報酬上の特例措置を継続すべき必要性と、一方で段階的に縮小または廃止できる考え方などを挙げた。

 このうち①については、「発生届の簡略化や発熱外来における経験の蓄積等により効率化している業務がある」とした一方、「類型見直しに伴い、療養指導やフォローアップ、入院調整における自治体の役割が縮小し、医療機関がこうした業務を担う必要性が高まる」とした。

 ②については、「重症化率の低下に伴い診療内容・人員体制がコロナ発生当初よりも効率化されている」とした。また、「入院患者が高齢化するとともに介護施設等からの入院が増加している」「介護施設等入所者を含めた高齢者の多くが急性期病棟に入院をしている」との認識を示した。

 ③については、「ガイドラインの改定によりPPEの活用や入院患者のゾーニングについて一定程度効率化した対応が示されている」とした一方、「今後も必要な対策を継続する必要があり、医療機関、薬局等における医療従事者の負担は一定程度継続する」との考えを示した。

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「現在の特例継続を強く要望」と診療側

 質疑で、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は「オミクロン株が主流となって以降、要介護高齢者の感染が増加し、医療機関に介護の負担が増加している」とし、「これまでのように主に急性期病院で陽性患者を受け入れるだけでなく、特に高齢者に関しては中小病院が引き受けなければ通常の医療提供体制に戻せない」と指摘した。

 その上で、長島委員は「介護保険施設等における医療支援を充実させるとともに、中小病院が陽性患者の入院を引き受けられるように適切な対策を講じることも必要」と主張。「今後の各地域における医療提供体制への取り組みを支え、類型変更に伴い入院調整等の新たな業務への対応が必要になることも考慮に入れ、現在の特例を継続していただくよう強く要望する」と述べた。

 続いて島弘志委員(日本病院会副会長)は「感染力の増強に伴い、院内クラスター発生によって診療抑制を強いられたり、高齢者罹患が増え、死者が増えてきている」とし、「コロナ病床への看護配置、感染防御も含め、コロナ感染症患者に対応する体制は変わりなく行わなければならない」と強調した。

 その上で、島委員は「現在のコロナ特例を継続してもらわなければ、医療施設は精神的にも体力的にも持ちこたえられないような状況にある」と伝え、「このことは医療を受ける全ての患者さんにとっても大きな損失になると考えるので、ご配慮をよろしくお願い申し上げる」と述べた。

 一方、支払側からは特例を縮小または廃止すべき理由などが示され、これに池端副会長が見解を述べた。このほか、今後のサーベイランスなどについて質問した。池端副会長の発言要旨は以下のとおり。
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2023年3月1日の中医協総会

■ 新型コロナウイルス感染症の診療報酬上の取扱いについて
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 診療側の長島委員、島委員がおっしゃったとおり、現状ではまだまだ緩めるべきではない。診療報酬上の特例的な対応を継続すべきと考える。
 昨今のコロナ診療に関する実態についてヒアリングのご紹介があった。対象医療機関の数は少ないものの、私の現場感覚としてもおおむね了解できる内容だと思う。聞き取り調査を実施してくださった医療課に感謝を申し上げる。
 資料8ページ、9ページに感染症部会がまとめた対応案が示されている。「5類感染症に位置づけるべき」ということで、5類に移行したときの対応について、大きく2つのキーワードがあるかと思う。まず「段階的」という考え方。その一方で、感染症に対してはさらに広く対応を求めるという考え方も出ている。両方を進めていこうという政府の方針が示されていると思うが、この「段階的」について、どのように考えるべきか。 
 今はまだ、科学的な意味でも、あるいは国民感情的にも、そして医療界の中でもそうであるように、もちろん国民の中でも、このコロナが通常の感染症になったという認識は持っていない人が大多数ではないかと思う。5月8日に5類になった途端に感染症対応を全てやめてしまうことはあり得ない対応であるし、国民感情としてもあり得ない。 
 では、「段階的に」ということで、どこをどう減らすのか。現在の加算をやめるのか。支払側の先生方から、廃止に向けた意見があった。
 しかし、5月8日から5類に移行した後、社会の動きがどうなっていくかを慎重に見定める必要があると思う。その上で、医療提供体制を少しずつ緩めていくことが必要ではないか。社会全体の活動が自由になって普通の日常生活が始まったときに、感染症が本当にまた再拡大しないかどうか。それを見定めてなければいけない。 
 だからこそ、広く対応を求めることになっている。5類になった途端に広く対応を求めると言いながら、一方で全ての加算等を一気に下げてしまうことになれば、新たに参入しようと思ってもできない。「段階的」という意味はあくまでもそういう意味での「段階的」であると私自身は認識しているし、そうあるべきではないかと思っている。したがって、できるだけ慎重に慎重を重ねて半歩ずつ進めていくような段階的対応が必要であることを強く強調しておきたい。 
 私たち現場の感覚としては入院調整に対する不安材料がある。先ほど松本委員から「入院調整は医療機関の本来業務」というご意見があったが、まだまだ急性期病院ですら、新型コロナに関しては、通常の感染症と同じ扱いになっていないのが現状ではないか。確かに重症患者は減っているが、感染力はかなり強い。通常のインフルエンザよりもさらに強いという認識は全ての医療関係者が持っているだろう。いまだ通常の感染症と同じではない。
 そうした状況において、コロナ患者を受け入れる病床確保措置等がなくなったとき、高度急性期を含めた急性期病院の先生方が本当にしっかりと受けていただけるのか非常に不安がある。それぞれの医療機関による病病連携や病診連携で入院体制を全て調整していくには相当の労力を要すると私自身は感じている。
 現状、福井県の例を言うと、オミクロン株の第7波、第8波になってから、保健所対応を要するのは10%を切っている状況である。ほとんどの医療機関で病病・病診連携による入院調整ができている。
 しかし、これはあくまでも加算等によって病床や病棟を確保してもらっているからできているわけで、これら加算等の特例措置がなくなっても本当にできるのか非常に不安である。ソフトランディングするために、まずは様子を見て、それから少しずつ落としていくことが必要ではないかと強く感じている。
 感染対策については、学会のガイドライン改訂で個人防護具の装着が一部緩和され、専用病棟も基本的に不要とされた。このため、「病棟管理じゃなくて病室管理でもいいから楽になるんじゃないか」というような趣旨の発言もあったが、通常の患者さんの病室がある場合の手間は2倍、3倍もかかる。病棟管理の場合には、全部コロナ患者対象の病棟にして、いったん「箱」に入ったらずっとそのままコロナ対応でいいのだが、コロナの個室の場合には、精神的にも肉体的にも、またいろいろな費用面も含めて、かえって負担が大きいという現場の感覚があるので、ご理解いただきたい。 
 いずれにしても長い時間をかけて段階的にソフトランディングしていくことには決して反対するものではない。平時に戻ることを医療界全体としても期待したいし、そういう方向に進めていきたいと思っているが、支払側の先生方とはスピード感の認識が違うような気がする。現場の状況を十分にご理解いただきたいと思っている。
 最後に一言。介護施設に対する医療提供体制も今後は非常に大きな不安材料になると思う。しっかりとした手当て、あるいは体制を維持していただきたいと強調しておく。

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■ 今後のサーベイランスの在り方などについて
 今後のサーベイランスの在り方について質問したい。サーベイランスが季節性インフルエンザと同じようになるとの説明があった。実は福井県ではパイロット的にコロナも含めたサーベイランスを既に実施している。
 ただ、季節性インフルエンザも含めたサーベイランス対応の医療機関の中には、発熱外来に対応していない施設もいくつかあるため、福井県では発熱外来に対応している施設に置き換えた上で、両方ともサーベイランスを実施している。そこで5月8日以降、サーベイランスの医療機関について、発熱外来に対応しているかどうかによって、どのようにする予定があるのか、お聞かせいただきたい。 
 なお、今後の感染について「予見することは難しい」という専門家の見解が紹介された。とすれば、広く受け入れられる体制の継続が必要であり、そういう意味でも一定程度の加算等は維持すべきであると強調したい。 
 今回の特例的な加算は基本的に体制の加算ではなく出来高の加算である。N数が減れば当然ながら保険財政への影響も減るのだから、現在の加算等を残してもいいと言える。 
 最後に、重症者数と死亡者数との関係について申し上げる。重症者数は過去に比べて減っているが、死亡者数は顕著に増加している理由について説明があった。
 確かに、オミクロン株以前のデルタ株まではコロナ感染症による直接の死亡原因が多かったが、オミクロン株に置き換わってからは基礎疾患で亡くなる場合がほとんどである。しかし、基礎疾患で亡くなっても、その人がたまたまコロナ感染者であれば、報告上はコロナによる死亡者数に含めているのが現在の統計だと思う。そのため、死亡数が多く出てしまっているのではないかと感じている。
 なお、福井県のデータではワクチンを1回でも打っている人の重症化率はかなり下がっていることを報告しておきたい。

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【厚労省健康局結核感染症課・江浪武志課長】
 サーベイランスについては厚生科学審議会の感染症部会において議論している。今後、新型コロナと季節性のインフルエンザが同時に流行していくことも考えられる。そうした観点から、季節性のインフルエンザと新型コロナの2つのサーベイランスに関しては、基本的に同じ定点医療機関から報告をいただくということで考えている。 
 その際、ご指摘のように発熱患者さんを診察されない医療機関、あるいは、今後は診察されない医療機関が従来、定点であった所があるということであれば、自治体に定点の選び直しをしていただくことになる。 
 新型コロナと季節性のインフルエンザはいずれも当初は発熱することで見分けがつかない。その両方を受け入れている医療機関から報告をいただきながら、定点報告ということで感染状況をモニタリングしていくことを予定している。 
 5類への移行に関しても、最終的には5月8日の前にもう1回、感染症部会を開催して評価をいただき、そこで5類に移行することが最終的に決定されることになっている。そこで決定されることになれば、併せて定点報告のほうにも移っていくことを予定している。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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