「日慢協の文化を今後も大事にしたい」── 橋本康子新会長インタビュー

インタビュー 会長メッセージ 協会の活動等

橋本康子会長

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 日本慢性期医療協会の新会長に就任された橋本康子先生に今後の課題や取り組みなどをお聞きしました。橋本会長は、武久洋三前会長の提言を継承するとともに、「慢性期医療の質向上」「医療・介護・福祉のシームレス化」の二本柱を強調。「現場の声を発信して医療の質を上げていく取り組みを進めることは日慢協の文化。それは今後も大事にしていかなければいけない」と語りました。

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武久洋三先生の功績を引き継ぐ

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─── 会長ご就任おめでとうございます。現在の心境をお聞かせください。

 身が引き締まる思いです。この14年間、武久先生が会長にご就任されてから会員数がさらに増え、慢性期医療への理解も広がりました。この流れを止めてはいけないと思っています。急速な高齢化の進展に伴い、リハビリや認知症への対応、在宅医療の推進など、急性期以降を担う慢性期医療が日本の医療の中心になってきた感があります。

 会員数も増えています。療養病床を有する病院が全国に約3千施設あります。そのうち3分の1が当会の会員です。とても大きな組織になっています。委員会活動も活発ですし、会内組織として日本介護医療院協会、慢性期リハビリテーション協会もあります。看護師の特定行為研修をはじめ、多くの研修会を開催しています。

 さらに、厚生労働省の社会保障審議会や中央社会保険医療協議会などに当会の役員が委員として参加し、現場からの意見を発信しています。日本の医療や介護などの政策を決定する機関で意見が言えることは非常に大きな意味があります。これらは武久先生の大きな功績であると思います。

 今後も日本慢性期医療協会がさらに発展していくために、副会長をはじめ、多くの優秀な会員の先生方にお力添えを頂き、協力して前に進めていきたいと思っています。会員の方々が「日慢協に入ってよかった」「日慢協に入っているから、こういう情報が早く来た」「研修に参加してケアの質が上がった」と思ってくださるような組織であり続けるために尽力していきたいと考えています。
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─── 会長として注力したいことや決意などをお聞かせください。

 慢性期医療のさらなる質向上を目指したいと思います。当会の定款には、このような規定があります。

「全国の慢性期医療に携わる医療機関または施設等(以下、「慢性期医療に携わる医療機関等」という。)の一致協力によって、慢性期医療の向上発展とその使命遂行を図り、慢性期医療の質の向上に寄与することを目的とする。」

 当会は創設当時から医療の質を向上させていく目的で運営しています。経営の安定化も確かに大切ではありますが、報酬上の要望よりも、まずは患者さんにとって望ましいと思われる施策を提言するように努めてきました。現場の声を発信して、医療の質を上げていく取り組みを進めることは日慢協の文化です。それは今後も大事にしていかなければいけないと思っています。

 武久先生は日本の慢性期医療の質を上げることを第一に考えてきました。当会は、いわゆる圧力団体のような会ではありません。武久先生は日本の医療・介護を真摯に考えておられます。その思いは私も継承したいと思います。改定の後追いではなく、日本の慢性期医療やケアにとって良い方向性を現場から発信していくことが必要だと思います。

 医療や介護にかかる費用が年々増加しています。そうした中で、効果ある医療・介護を進めなければいけません。慢性期医療は「お預かり」の場ではなく、適切な治療をして早期の回復を目指す所です。アウトカムをしっかりと出せる、そして費用対効果が高い政策を現場から提言していきたいと思っています。
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医療・介護・福祉のシームレス化を

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─── 日慢協はこれまで多くの提言を記者会見などで発表しています。今後に向けて重視しているテーマはございますか。

 これまで武久先生が記者会見などで述べられてきたことは本当にそのとおりだと思いますし、まだ実現していない課題もございます。忘れられていると言いますか、通り過ぎてしまっている提言もありますので、記者会見などで繰り返し主張したいと思います。病院の介護職員を評価する「基準介護」や、予防を重視する「リハビリ提供体制の抜本改革」などの提言は、今後も会員の皆様のご意見を聞きながら発信していく予定です。
 
 そうした中で、私は医療・介護・福祉のシームレス化を第一に挙げたいと思います。「シームレス化」の必要性が叫ばれて久しいですが、機能分化が進む一方で忘れ去られている気がします。シームレス化とは、つなぎ目がないということですが、現実にはブツブツと切れているのです。

 1人の患者さんが急性期から回復期、慢性期という経過をたどる中で、それぞれの機能は一体化していません。保険制度も違います。人員配置に対する評価も異なります。同じ1人の患者さんなのに、急性期から回復期、慢性期、在宅という流れの中で途切れてしまう。機能分化は必要ですが、その一方でシームレスではなくなっています。これは患者さんにとって不幸なことです。機能分化を進めるのであれば、つなぎ目を減らして、できる限り一体化するような仕組みにする必要があると思います。

─── 医療・介護・福祉で制度が異なり、厚労省の担当部局も分かれています。

 確かに、お金の出どころが違いますので、一体的に結びつけるのはなかなか難しいという考えも理解できますが、機能分化を進めるのであれば、医療保険や介護保険の橋渡しとなるような委員会を設置して、シームレス化に向けた議論を早急に進める必要があると思います。

 例えば、急性期病院で手術した後、栄養状態などが低下して慢性期の病院に送られてくるケースがあります。その患者さんを回復期や慢性期の病院で改善して在宅復帰させても、また状態が悪くなることがあります。回復期の集中的なリハビリでせっかくADLを引き上げたのに、つなぎ目があるので下がってしまう。いったん上げて、また下げて、ということの繰り返しです。ですから、私は特に「シームレス化の推進」を強調したいと思います。

 その中で、人材確保の重要性も挙げたいと思います。例えば、介護施設の介護職員には、介護保険による処遇改善加算がありますが、病院の介護職員にはありません。病院の持ち出しで対応するには限界もあり、賃金格差が生じています。また、10月から診療報酬で対応する看護の処遇改善措置も対象が極めて限定的です。担い手不足が進む中で、こうした問題についても議論していく必要があると思います。当会では、今後も積極的に現場からの声を発信していきたいと思っています。

─── 最後に一言、メッセージをお願いいたします。

 今後に向けて、「慢性期医療の質向上」「医療・介護・福祉のシームレス化」の二本柱を軸に活動を進めていきたいと思います。その中で、「慢性期医療の質向上」については、専門職のさらなる評価・活用も挙げたいと思います。当院では、病棟に歯科衛生士を配置しています。口腔ケアは看護師でも可能ですが、やはりプロは違います。たとえ診療報酬上の評価がなくても、患者さんにとって良いと思うことは積極的に進めていれば、制度があとから付いてくるものだと思っています。

 また、「慢性期医療の質向上」という意味では、慢性期医療の普及啓発に向けた取り組みも重要であると考えています。以前、ある学会で異業種の先生に基調講演をお願いしたことがあります。講演の間際になって、その先生から「慢性期医療って、どういう意味ですか?」と尋ねられました。私はとっさに「手術などの治療をする急性期病院があり、その後は全て慢性期医療です」と答えましたが、慢性期医療というものが一般の人にあまり知られていないように思います。「これが慢性期医療です」ということを広く知っていただく取り組みも進めたいと思っています。

              (インタビュアー・文責 CHKニュース 新井裕充)

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