【第18回】 慢性期医療リレーインタビュー 太田照男氏

インタビュー 役員メッセージ

太田照男先生(日慢協常任理事)

 「若手医師にはどんどん開業してほしい。これから高齢者が増えるので、高齢者医療や老年医学について十分に勉強して、在宅医療をもっと支えてほしい」と話すのは、栃木県医師会会長で白澤病院理事長の太田照男先生。日本慢性期医療協会(日慢協)の常任理事を務めています。医療制度など今後の方向性については、「終末期の患者さんらを療養病床が受け入れられるような診療報酬体系を構築することが重要になる」と指摘します。
 

■ 医師を目指した動機
 

 私の父は村医者でした。父は元々医者ではなく、借金がたくさんあって家計が厳しい状況でしたので、「じゃあ医者になろうか」と言って韓国に行き、朝鮮の医大を出てそこで医者になりました。終戦で日本に戻ってきて、それで村医者をやり始めました。村の住人は大体1,000人近くですかね。そこで往診をしていました。中古のオートバイを買って、夜も往診していました。冬はどてらを着てね、往診に行っていたのを覚えています。そういう姿を見て、医者になるのは当然だと思っていました。近所の人たちも私が医者になると思っていたでしょう。そんなわけで、医者になりました。

 兄も医者でした。精神科医をやっていまして、昭和56年ごろに精神科の病院をつくったんですね。だけど、父と兄の意見が合わなくて、兄が出て行ってしまったので、その後は精神科病院の中で老人医療をやっていたんです。認知症ですね。私が内科医として戻ってから、どんな病院にしようかと考えましたが、当時から医師不足でなかなか当院には来てくれない。看護師の確保も難しい。そこで、老人医療に転換しちゃいました。

 その後、しばらくしてから介護力強化病院になり、そのころからでしょうか、日慢協に参加して慢性期医療についていろんな勉強をして、「なるほど」と、「老人医療はこういうもんだ」と思いました。少しでも良い病院にしようと思ってやってきました。それ以来、日慢協とのお付き合いは結構長いですね。
 

■ 慢性期医療に携わって思うこと
 

 私は平成10年に栃木県医師会の常任理事になり、医師会の医療保険を担当してから医療保険や病院経営を特に勉強しました。県の医師会病院の担当にもなりました。その病院は国から委譲を受けた国立病院だったんです。患者さんが来ない、経営ができないような状況で赤字でしたので建て替えました。今、すごく伸びています。全国から見学に来るような医師会病院ですよね。そういうこともありました。
 
 そうした中で、私はずっと医療保険を担当していまして、支払基金の審査委員長を6年近くやりました。日本医師会の社会保険診療報酬検討委員会で6年、うち2年間は審査委員の委員長でした。そんなわけで、日慢協でも保険のことからちょっと離れられなくて、保険の担当をやっています。

 慢性期医療に携わって思うのは、診療報酬が付かなくても先進的なことをやっていれば、いつか後付けで評価されるということですね。しかし、急性期医療は後付けが多いかと言うと、決してそうでもないなという気がします。自費部分が保険で戻ってくる場合もあれば、先進医療をどんどん取り入れてくれる。

 では、慢性期医療はやったことに対してすぐに点数が付くかと言われれば、そんなことはない。そこがなかなか難しい。ですから、すぐに点数評価につながるような診療報酬体系を整えなくてはいけないと思います。
 

■ これからの慢性期医療はどうあるべきか
 

 慢性期医療の病院が急性期病院の医師と連携し、タイアップして、すぐに受け入れる体制がうまくできることが重要です。急性期病院の医師と仲良くすることが大切だと思いますが、連携がうまくいっている病院とそうでない病院があるので、うまくいくようにしなくちゃいけない。これが課題だと思いますね。

 「急慢連携」の取組みが東京の八王子でもありましたよね。大阪でも進んでいると聞きます。ITも活用しながら連携をどんどん進めていかなければいけないと思います。急性期と慢性期、それから介護もそうです。

 地域によって連携がバラバラですから、「病病連携」や「病診連携」、それから介護施設との連携などが必要だと思います。それが、これからの慢性期医療が目指すところだと思います。連携に必要なデータがないんですよね。

 先日、日慢協の事務局の方が、「東京は中心部が大学病院で周辺が慢性期医療になるので移動自体も大変だが、大阪は急性期と慢性期が適当な割合で分布しているため連携もとりやすい」と言っていました。東京は急性期病院が多すぎてバランスがすごく悪いというのです。やはりこれからは、地域医療における慢性期医療のあり方を考えることが課題になると思います。

 それから、看護協会との連携も必要です。訪問看護ステーションといかにうまく進めるかも非常に重要な課題だと思います。結局、目指すところは在宅医療の支援です。地方でも在宅療養支援病院に参入していただきたいし、訪問看護ステーションを併設してほしい。看護協会とうまくコミュニケーションをとらないとできないことです。

 ただ、現実的には看護協会はやっぱり「7対1」「5対1」、さらに「特定看護師」のほうを向いている。「訪問看護ステーションは地方の話」という意識が感じられます。私の県で訪問看護ステーションを立ちあげても、看護師さんが辞めていくんです。看護師さんも24時間対応はやっぱり大変なんですね。患者さんの病態の違いがあまりにも多いので、全般的に知らないとやっていけない。医師もそうですが、看護師さんもいったん介入したら全部みなくてはいけない。総合診療医みたいな役割です。そういう点を考えても、地方では訪問看護ステーショがなかなかできにくい。ですから、そこを在宅療養支援診療所がちゃんとサポートしていかないと、これからの在宅医療は成り立たないと思います。

 診療報酬体系も今後変えていくべきだと思います。武久洋三会長が「病態別の診療報酬体系」を提唱しています。私も大賛成です。今、療養病床の診療報酬を請求する上で、ものすごく細かいことを書くわけですね。事務量が大変です。「包括医療」と言いながらも、書くことがすごく多いんです。ですから、書くことをなるべく簡略化して、その余った時間で患者さんのために力を注ぐべきです。これからは、そういう診療報酬体系が求められていると思います。

 現在、療養病棟入院料はチェック項目がすごく多いですよね。チェック項目が多いということは、「もはや包括払いではない」とも思う。包括払いと言いながら、「医療区分」の1はいくらで、2はいくらで、ADLを取っていくらですよ、というまとめになっている。しかし、それらをクリアするための条件がかなり細かくて、いちいちチェックしなくちゃいけない。それは出来高払いと同じではないですか。「この項目を取ってこれになります」という、これは出来高払いと似たような感覚です。ですから、簡略化や包括化を進める中で、事務量をもっと少なくしてほしいということも言いたい。

 私は、現在の「医療区分」を「病態」に変えるべきだと思っています。特に、終末期医療について言えば、療養病床が終末期医療を担うべきであると考えていますが、「保険をどうつくるのか」と言われると難しい。終末期は「何もしない」ということはないのですが、「本当に療養病床でいいのか」という気もする。現在の診療報酬体系を前提にしますと、保険請求上、「何もしない」という選択肢の中に病院は入らないのではないかとも思う。
 
 では「在宅か?」と言うと、これも難しい。患者さんが在宅療養を希望しても、在宅でちゃんと受け入れられる体制が整っていない場合が多いのです。介護力がない家庭はどうしようもありません。介護施設にもすぐには入れない。私は今、病院の立場から見ますから、「終末期医療を病院で」という考えを聞きますと、その間の診療報酬はどうするのかと考えるわけですよ。ですから、慢性期医療の今後のあり方、診療報酬のあり方に関しては、終末期の患者さんらを療養病床が受け入れられるような診療報酬体系を構築することが重要になると思います。
 

■ 若手医師へのメッセージ
 

 若手医師にはどんどん開業してほしいと思います。これから高齢者が増えますから、高齢者医療や老年医学について十分に勉強して、在宅医療をもっと支えてほしいと思います。ただし、ある程度の経験を積んだと思ってから開業してもらいたい。資金的な面など開業にはいろいろな条件がありますが、若い先生方にどんどん開業してもらわないと、これからの在宅医療は成り立たない。

 一方、病院に勤務しても高齢者医療はよく理解してもらいたいと思います。急性期後の「出口」の部分をよく理解してほしい。退院したら、「はい、さよなら」ではなく、転院先のこと、退院後のこと、いろんなことを経験して知ってもらいたいと思います。

 さらに、若手医師には医療保険も介護保険もある程度は理解してほしいと思います。これからは介護保険制度を知らないと困りますよ。ケアマネジャーやソーシャルワーカーらにお任せではいけません。介護保険について病院の若手医師はほとんど知りません。「主治医の意見書を書いて」と頼んでも、「こんなの書きたくない」っていう医師が多いですよね。特に急性期病院に多いです。「私の主治医は病院です」って言う患者さんもいます(笑)。

 病院の医師が在宅のことをあまり知らない。病院の医師は、外来患者さんの状態が安定したら開業医に戻す、そういう考え方をしてほしいと思います。抱え込みの医療は良くないということを理解してほしいと思います。

 さらにスタッフへのメッセージも加えますと、今までと違って事務的な作業量が増えていますし、勉強することがたくさんあると思いますので、ぜひ頑張ってほしいと思います。医師もそうですが、多くの情報を得て吸収するのは大変ですね。情報を共有する院内のシステムを立ち上げたり、互いのコミュニケーションを充実させたりすることが必要です。

 医師もスタッフとコミュニケーションを取らないといけないと思います。若手医師はナースとのコミュニケーションはいいかもしれませんが、他のスタッフとのコミュニケーションはどうでしょうか。看護師以外のスタッフとのコミュニケーションも大切だと思います。自分が関わるところ以外はやらないというのはいけません。たいていの若手医師は任せっきりが多いと思うんです。全職種とコミュニケーションをとってほしいと思います。
 

■ 日本慢性期医療協会への期待
 

 武久会長が提唱しているように、良い慢性期医療を提供しなければ日本の医療は成り立たないということです。「慢性期医療」の概念をはじめ、今後の超高齢社会に向かって慢性期医療がいかに大切であるかを国民にどうアピールするかが重要だと思っています。当協会が会員を増やすだけでなく、国民の目線で国民にアピールしていかなくてはいけない。それが今後の慢性期医療にとっても必要だと思います。

 そういう意味では、いろんな所で武久会長が意見を発信しているのは非常に良いことだと思っています。私は武久会長がやっていることを全面的に応援しています。会員として一緒に歩んでいきたいと思っています。つまりそれは、「急性期医療だけではない」という思いです。医療は急性期だけではないということを多くの国民にさらにアピールしていきたいと思います。

 今後、高齢化が進みますので慢性期医療はますます重要であり、必要になってくるでしょう。急性期という「入口」があり、慢性期医療は「出口」の部分を受け持つわけですから、IT化を利用した情報システムがこれから本当に必要だと思うのです。県によって事情が違うかもしれないですが、日慢協の会員数が1000以上になったわけですから、ITを活用した連携を整備していく取組みも必要だと思います。

 日慢協の委員会などで、いろいろな仲間の病院の話を聞いて非常に参考になりますし、診療報酬が付かなくても先端的なことをやっている。そうした取組みなどを行政に対してアピールしていくことも、これからの日本慢性期医療協会に期待したいと思います。(聞き手・新井裕充)
 

【プロフィール】
 医療法人慈啓会 白澤病院 理事長
 獨協医科大学特任教授

 昭和45年 東京慈恵会医科大学卒業
 平成3年 医療法人慈啓会 白澤病院 理事長

 日本慢性期医療協会常任理事
 栃木県医師会長
 栃木県病院協会長
 栃木県医師国民健康保険組合 理事長
 栃木県連合学会 保健会 会長
 社会保険診療報酬支払基金 理事
 栃木社会保険診療報酬支払基金 栃木支部 幹事
 更生保護法人 尚徳有隣会 理事長

 日本内科学会認定内科医
 日本糖尿病学会専門医
 

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