医療や介護の報酬、「複雑化して難しい」 ── 武久会長、介護報酬改定の議論で

会長メッセージ 協会の活動等 審議会

介護給付費分科会_20201116(オンライン開催)

 令和3年度の介護報酬改定に向けて大詰めの議論に入った11月16日の会合で、日本慢性期医療協会の武久洋三会長は「非常に複雑化して難しい。私も現場でたくさんの書類を見て、いちいち思い出しながらやっている状況」と明かした上で、「サービスを効率化してまとめていくお考えはあるか」と尋ねた。厚労省の担当者は「そのとおりだと思う。不断に見直し、分かりやすい報酬体系にしていくべき」と答えた。

 厚労省は同日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田中滋・埼玉県立大学理事長)の第193回会合をオンライン形式で開催し、次期改定に向けた検討を進めた。

 この日の会合で、各サービスの審議に用いたのは資料2から16までの大部な内容で、厚労省の担当者3人が約1時間にわたって今後の対応案などを説明した。
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介護給付費分科会のページ

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不断に見直し、分かりやすい体系に

 質疑で武久会長は「非常に細かく分かれている。加算も含めて難しい」と指摘。「先輩方が策定されてきたことでもあるし、それぞれ協会ができていることもあって、1回できたものをなくすのはなかなか難しいのだろう」と理解を示しながら、「サービスをある程度、効率化してまとめていく方向性について考えを聞かせてほしい」と見解を求めた。

 厚労省老健局老人保健課の眞鍋馨課長は「サービス体系を効率化し、もう少し簡素化していくべきではないかというご質問はそのとおりだと思う」としながらも、「総論と各論で考えたときに、なかなか一朝一夕にそこまでたどり着かないところもある」と説明した。

 その上で、眞鍋課長は「不断に見直していくべきであり、分かりやすい報酬体系、効率化した報酬体系にしていくべきだろうと思っている」と述べた。
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緩やかに整理統合されるビジョンを

 こうした議論に堀田聰子委員(慶応義塾大大学院教授)が続いた。小規模多機能型居宅介護の対応案に言及しながら、「自立支援や尊厳の保持のため、適切な『ケースマネジメント』に基づいて必要な機能が柔軟な形態で展開されるような観点から、実質的に既存の事業そのものが緩やかに整理統合されていくような方向性、ビジョンを描いていく必要があるのではないか」と問題提起した。

 その上で堀田委員は「訪問の回数で評価する、加算する、減算するということ自体がケースマネジメントの価値を軽んじているようなものにもなりかねない」と指摘し、訪問介護の特定事業所加算に言及。「それぞれサービス種別に行われている加算の目的をもう一度、全部、棚卸しをして、サービスの質の評価という意味合いの加算については、アウトカム評価が進んできたら溶かしていくような対応が必要ではないか」と提案した。

 これに田中分科会長は「今、『ケースマネジメント』と何回か発言されていたが、『ケアマネジメント』とは違うというコンセプトを含んでおっしゃったのか」と質問。堀田委員は「制度上のケアマネジメントとはほぼ同義。しかし、『より広義に』という意味合いも含めて『ケースマネジメント』と申し上げた」と答えた。
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リハビリ職の多い訪問看護めぐり議論

 この日の会合では、通所や訪問系サービスの具体的な方針が示された。厚労省は前回会合までは「検討の方向案」としていたが今回は「対応案」とし、個別の方針について意見を求めた。

 その中で、リハビリ職の多い訪問看護ステーションの在り方については見解が分かれた。厚労省は令和2年度診療報酬改定の方向性と足並みを揃える形で、看護職員の割合を「6割以上」とする見直しを提案した。

 これに安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)は賛意を示した上で、「8割以上とするぐらいが本来のあるべき姿」とし、「見直し後の実態などを検証して、必要に応じて段階的に引き上げていくことも検討いただきたい」と要望した。
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P21抜粋_【資料14】訪問看護_2020年11月16日の介護給付費分科会

            2020年11月16日の介護給付費分科会「資料14」P21から抜粋
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リハビリ職、「どこかに行ってもらうのか」

 岡島さおり委員(日本看護協会常任理事)も厚労省案を歓迎。「看護職以外の職種の割合が高い一部のステーションでは利用者が軽度に偏っていたり、医療的ケアや看取り件数が少ないという実態がある」と改めて強調し、「一定割合以上の看護職配置が必要であり、訪問看護に従事する看護職を増やしていく必要がある」と述べた。

 これに対し、正立斉委員(全国老人クラブ連合会理事・事務局長)は「今の規模で6割以上となった場合には看護職員を増やすということになる」とし、さらに「今の規模を保ったまま、この配置要件を満たすということであれば、OT・PT・STらの専門職にどこかに行ってもらうということになるのか、その辺を十分にご配慮いただきたい」と注文を付けた。

 石田路子委員(名古屋学芸大学看護学部教授)は「確かに『人数』というものも非常に重要ではある」としながらも、「実際にその事業所がどういった内容のサービスをどのぐらい提供しているかが非常に重要なのではないか」と指摘。「中身の詳しい状況をきちんと把握して進めるべきで、単に人数が6割以上だからOKというのではなく、中身の精査が必要ではないか」と求めた。
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リハビリを必要としている人がいる

 武久会長は、訪問リハビリの提供主体がさまざまであり、点数もそれぞれ異なることを指摘し、「利用者が効率よく介護サービスを受けられるか」という視点を提示。「なぜ、訪問看護の中にある訪問リハビリのウェイトが大きくなるとクレームが出るのか分からない」と疑問を呈した。

 堀田委員(慶応義塾大大学院教授)は「地域の中で、高齢の障害のある方、難病の方、さまざまな方々がリハビリを必要としていらっしゃるのは言うまでもない事実」とし、「いろいろなサービス提供の方法がある。市民の立場から見て、リハビリを必要としているのに手が届かないということにならないように」と要望した。

 正立委員(全国老人クラブ連合会理事)は「武久委員に解説していただき、ようやくストンと落ちた」と切り出し、「まちなかで行われる訪問リハが利用者から求められている限りは、何らかの形で対応しなくてはいけないのではないか。利用実態があるのに、いきなり受け皿がなくなり、派遣されないことになるのは非常に困惑する」と慎重な対応を求めた。

 武久会長の発言要旨は以下のとおり。

〇武久洋三会長
 私は慢性期医療に携わっており、在宅および介護に関わる場合が非常に多いので質問させていただきたい。
 まず、リハビリテーションというのは慢性期医療の中でも非常に重要である。このうち訪問リハビリテーションについては、病院から行く場合もあるし、訪問看護ステーションから行く場合もある。そして、介護保険も医療保険もある。
 先日、眞鍋課長もおっしゃっていたが、介護保険におけるリハビリ療法士等の関与を評価する方向にあるようにお聞きしている。介護の中に医療が入ってきて、介護と医療が一体となっていくような方向性は、委員の皆さんも感じておられると思う。
 そうした中で、訪問看護ステーションから訪問リハビリが提供される場合がある。これに対して、訪問看護の範疇の中で訪問リハビリのパーセンテージが大きくなるのは、どうも具合が悪いというようなご意見もある。
 10月22日の分科会で、リハビリ職が勝手に行くのではなく、利用者から「来てください」という依頼があって訪問リハに行っていることを話した。
 訪問看護では、患者さんが軽度であれば、バイタルサインなどを調べて20分程度で終わることもある。一方、リハビリでは手に手を取って訓練してもらえることもあって希望者が多いのではないかと思う。
 ただ、訪問リハビリは病院から行く場合、訪問看護ステーションから行く場合などで、それぞれ点数が違っている。訪問介護と訪問看護は、項目として確立しているが、訪問リハビリテーションの場合には、訪問看護ステーションの中に訪問リハビリが入っているという関係になっている。
 大切なことは、利用者が効率よく介護サービスを受けられるかである。「訪問リハビリ」という項目をもっと明確化すれば、非常に単純化されると思う。
 そこで、質問させていただきたい。なぜ、訪問看護の中にある訪問リハビリテーションのウェイトが大きくなるとクレームが出るのか、その理由がちょっと分からないので、教えていただきたい。「訪問リハビリテーション」という項目が明確化されていないのは、どういう理由かについて明らかにしていただけたらと思う。
 もう1つ質問したい。介護保険というのは基本的に「入所」「通所」「訪問」の3つなのだが、本日、資料を説明していただいて小一時間かかったように、非常に細かく分かれている。 これは先輩方が策定されてきたことでもあるし、また、それぞれに協会ができているということもあって、1回できたものをなくすのはなかなか難しいのだと思うが、非常に複雑化している。
 こうした非常に複雑化した医療・看護・介護体制を効率化しようという掛け声はあるのだが、加算も含めてますます難しくなっている。私も現場ではやりながらも、なかなか自分では全てを承知できることはなく、非常にたくさんの書類を見つつ、一つひとつ思い出しながらやっている状況である。
 そこで、こうした複雑化したサービスを、ある程度、効率化してまとめていくという方向性について、そして訪問リハビリのことについて、お考えを聞かせていただければありがたいと思う。

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〇厚労省老健局老人保健課・眞鍋馨課長
 リハビリに関わる大所的な、高所的なご質問である。私どもは、リハビリは重要なサービスだと思っているし、適時・適切に、きちんと医師の指示があった下で提供されることが大事だと思っている。
 そうした中で、介護保険制度施行時から訪問リハビリテーションというサービスもある。これは医療機関や老人保健施設から行われるものであるが、訪問看護ステーションの中で、リハ職が訪問看護の一環として行うリハビリもある。
 その中で、地域の医療資源の実情を踏まえ、医師の指示に基づいて適切なリハビリが提供される体制をどのように考えるかが重要なのだろうと思っている。
 今回の訪問看護の「資料14」の「論点④」で出させていただいているのは、セラピストによる訪問が増えてきていること。それから、その中のサービスの提供の実態が25ページ(リハビリ職による訪問看護を主に提供されている利用者は医療的処置・ケアが少ない)、26ページ(リハビリ職による介護予防訪問看護利用者の利用開始時の日常生活動作の自立度は高い)にお示しをしているようなものであることを考え、また、これは診療報酬でも同じような議論がされたと承知している。そういったことを踏まえ、同様の対応はできないかというご提案をしているものである。
 また、ご発言の中で、「訪問リハステーションに関して」というような内容があったが、
訪問リハに関しては、やはり医師の指示が明確である老健施設、そして医療機関から行われるべきであろうと考えている。
 一方で、もう少し大きな別のご質問で、サービス体系の効率化、あるいはその複雑化をもう少し簡素化していくべきではないかというご質問はそのとおりだと思っている。内部で議論している時も、そういったことは常々考えているところであるが、総論と各論で考えたときに、なかなか一朝一夕にそこまでたどり着かないというところもある。
 そこは、ただ、不断に見直していくべきであろう、分かりやすい報酬体系、効率化した報酬体系にしていくべきだろうと思っている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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