訪問リハでADL維持、「価値がある」と厚労省の眞鍋課長

会長メッセージ 協会の活動等 審議会

介護給付費分科会_2020年10月22日

 厚生労働省老健局老人保健課の眞鍋馨課長は10月22日、令和3年度介護報酬改定に向けて訪問リハビリテーションの在り方などが議論になった会議で、訪問リハによるADLの維持について「価値のあるものだ」と述べた。日本慢性期医療協会の武久洋三会長の質問に対する答弁。

 厚労省は同日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田中滋・埼玉県立大学理事長)の第189回会合をオンライン形式で開催し、次期改定に向けた検討を進めた。

 この日の主なテーマは、①訪問介護・訪問入浴介護、②訪問看護、③訪問リハビリテーション、④居宅療養管理指導──の4項目。
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リハ職による訪問看護は「ADLの維持」

 このうち、②の訪問看護と③の訪問リハについては、令和2年度の診療報酬改定に向けた審議でも大きな議論になった「リハ職の多い訪問看護ステーション」に対する問題意識をベースに資料を構成。訪問看護と訪問リハの役割分担に関わるデータを示した。

 具体的には、リハビリ職の多い訪問看護ステーションが増加している一方で、「リハビリ職による訪問看護を主に提供されている利用者は、医療的処置・ケアが少ない」と指摘。その主な目的は「ADLの維持・低下防止」とした上で、「地域支援事業の全体像」と題する資料も紹介した。
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訪問リハ開始から1年後は「プラトーに達する」

 続いて訪問リハに関する説明では、訪問リハの開始時に要支援者の約2割でADL評価の「Barthel Indexは満点(100点)であった」とし、利用開始から「6カ月後、12カ月後まではADLは改善傾向にあるが、その後はプラトーに達する」と述べた。

 厚労省の眞鍋課長は「介護予防訪問リハビリテーションの方が利用期間が長い。そしてADLが満点である人が一定程度いらっしゃる。利用開始から一定期間経過後にADLの改善が乏しくなる。通所困難な人が対象者であるのが原則である。これらを踏まえ、長期間利用の場合のサービス提供の評価について見直しを検討してはどうか」と意見を求めた。
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P33__【資料3】訪問リハビリテーション_20201022介護給付費分科会

               2020年10月22日の介護給付費分科会「資料3」P33
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「本来あるべき姿に誘導していく」

 質疑で、安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)は「理学療法士等による訪問看護の状況を見ると、今後、訪問看護が本来の役割を十分に果たせなくなることが危惧される」とし、看護職員割合の人員基準への追加や、看護職員による訪問割合が著しく低い事業所に対する減算、理学療法士等が週に複数回訪問する場合の一定回数以降の減算などを提案した。

 安藤委員は「本来あるべき姿に誘導していくことが必要」との考えを示した上で、「理学療法士等による訪問看護については要支援を対象外とするなど、要支援と要介護の利用者の利用実態等を踏まえて、他の介護サービスの整理、役割分担も含めた大胆な見直しを検討していただきたい」と求めた。

 自治体の担当者からも同様の声が上がった。水町友治参考人(神奈川県福祉子どもみらい局福祉部長)は、「現状のリハビリ中心のサービスは通所リハや総合事業の充実を図る方法で見直していくことが望ましい」と述べた。

 訪問リハの長期間利用については、井上隆委員(日本経済団体連合会常務理事)が「全体として適正化の方向で見直していただければと期待している」と述べた。
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悪化するはずなのに、効果がある

 これに対し、武久会長はADL変化を示す資料に言及し、「半年から1年ぐらいでプラトーに達しているから、もうそれ以上、リハビリは要らないのではないかという感じのイメージがある」と指摘。「高齢者はどんどん年を取るから悪化するはずなのに、ADLが維持できているということはリハビリを継続して行うことによる効果が出ている」と評価した上で、「担当者はどのようにお考えか、お聞きしたい」と尋ねた。

 眞鍋課長は「(リハビリを)やっているから維持ができているとの指摘である。私どもも高齢者が加齢に伴い身体機能が落ちていくことは自然だと思っており、そこで維持するということは価値のあるものだと承知している」との認識を示した。
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訪問リハ、「利用者のためにはいい」

 武久会長はまた、リハ職の多い訪問看護ステーションについて「良くないことではないと思う。何か、少し問題視しているようにも受け取れるが、これは利用者および家族の選択による」と指摘。「看護師の訪問を週1回にして、あとはリハビリにするなど、それは利用者が考えること。手に手を取ってリハビリを行ってくれる訪問リハビリがありがたいと強く感じられる場合もある」と述べた。

 訪問看護と訪問リハの役割分担にも言及した。「軽症者はリハビリが中心となり、重症者は訪問看護が中心となるような訪問看護ステーションは自然の成り行き」との認識を示した上で、「リハビリのウエートが高いからペナルティがあるような対応をしないほうが利用者のためにはいい」と述べた。

 武久会長の発言要旨は以下のとおり。

〇武久洋三会長
 訪問リハビリについて、「資料3」の33ページ(介護予防訪問リハビリテーション利用者におけるADLの経時変化)、34ページ(介護予防訪問リハビリテーションの長期間利用に関する検討の方向案」にあるように、リハビリを半年から1年ぐらい行うとプラトーに達している。だから、もうそれ以上、リハビリは要らないのではないかというイメージがある。
 しかし逆に言えば、高齢者はどんどん年を取るので、普通に考えればADLは悪化するはずなのに、ADLが維持できているということはリハビリを継続して行うことによる効果が出ている。リハビリが毎日できている。こういう効果に対して、担当者はどのようにお考えか、お聞きしたい。
 もう1つは、訪問看護について。特定行為研修を修了した特定看護師の「在宅領域における手順書例集」によると、在宅領域で就業する修了者は、全修了者のうち約7%である(令和元年10月現在)。在宅関連で仕事をする特定看護師をもう少し増やしたいというイメージの資料を厚労省がこのほど公表した。
 特定行為というのは、医師しかできないことを研修によって看護師が獲得する行為であり、医師の指示によって行う。医師がたくさんいる急性期よりは、医師がほとんどいない領域に必要ではないか。例えば、特定行為を10行為ぐらいできるような特定看護師が訪問看護をすることは非常に役に立つと思う。
 そこで、介護保険において特定看護師が訪問看護をすることに対して加算を付けて、いろいろと推進することも考えられるが、これについて担当部局はどのようにお考えになっているかもお聞きしたい。
 訪問看護ステーションにおいて、リハビリテーションの訪問が多いことは決して良くないことではないと思う。何か少し問題視しているようにも受け取れるが、これは明らかに利用者および家族の選択による。すなわち、週2回のうち訪問看護は週1回にして、あとはリハビリにするなど、そういうことは状態を見て利用者が考えることである。
 訪問看護の場合は、軽症者であればバイタルチェックなどで済む場合もある。一方、手に手を取ってリハビリを行ってくれる訪問リハビリを、利用者および家族にとってはありがたいと感じられる場合もある。
 軽症者はリハビリが中心となり、重症者は訪問看護が中心となるような訪問看護ステーションとしての業務は、私は自然の成り行きかなと思う。リハビリのウエートが高いからといってペナルティがあるというような対応は、むしろしないほうが利用者のためにはいいのではないか。以上、意見と質問である。

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【厚労省老健局老人保健課・眞鍋馨課長】
 まず後段の、特定領域の看護師を介護報酬において、どのような評価をするかということに関して、こういう特定看護師に着目した評価に関しては、まだ検討を進めている状況ではない。これは本日、ご指摘いただいたので、私どもとして受け止めさせていただきたいと思っている。
 訪問リハビリテーションについては、資料の33ページにあるように、利用開始から12カ月後までADLの改善が見られて、その後の改善幅が軽微であることをお示しした。これについて、「やっているから維持ができているのである」というご指摘であった。
 私どもも、高齢者、特に加齢に伴い身体機能が落ちていくということは自然だと思っている。そこで維持するということは価値のあるものだというふうに承知をしている。
 そのときに、介護予防で、医師の指示に基づく訪問看護である必要が必ずしもあるかどうかというところは、私どもも考えている。
 一方で、訪問看護の資料でご説明させていただいたように、例えば要支援者であれば、地域支援事業というものもご利用いただけると考えている。
 その方、その方に応じて、どういうサービスがいいのか。機能を維持することを前提に、サービスが組み合わされる中で選んでいただく、あるいは医師の指示がある、そういうふうに考えていくべきものだろうと思っている。以上である。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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