「救急患者を2つに大きく分けてはどうか」 ── 武久会長、定例会見で提案

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武久洋三会長_2022年1月13日の定例会見

 「軽症・中等症の高齢患者が三次救急に押し寄せたら、緊急処置が必要な患者にきちんと対応できない」──。日本慢性期医療協会の武久洋三会長は1月13日の定例会見でこのように述べ、「救急患者を2つに大きく分けてはどうか」と提案した。

 会見で武久会長は、高齢者救急の多くを軽症・中等症が占めている現状を説明。地域の二次救急を評価する「救急医療管理加算」を療養病床は算定できないことや、重症患者に対応する病院を評価する「地域支援体制加算」の要件が厳しいなどの課題も挙げた。

 その上で、武久会長は「軽度・中度の緊急処置が必要でない患者や、手術や特殊な医療の必要がない患者は慢性期多機能病院が対応できる」とし、「救急の2極分化に対処しよう。日慢協の会員病院は『慢性期多機能病院』として、地域の高齢者や軽中度の急変患者に対応すべきだ」と語った。

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09スライドーP17_【資料】2022年1月13日の定例会見

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 この日の会見には、2月3・4日に開催される「第9回慢性期リハビリテーション学会」の浦信行・学会長(札幌西円山病院院長)も出席。2日間にわたって開催されるプログラムの内容などを伝えた。

 今学会のテーマは「プレフレイルからの終生リハ ~After CORONAの時代へ~」。浦学会長は、「終生リハ」の必要性が「With CORONA」でも変わらないことを指摘し、「リハビリを終生にわたって提供するためには、医療機関に限らず地域も含めた取り組みが必要」と述べた。

 この日の会見の模様は以下のとおり。なお、会見資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。

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01スライドー26_【資料】2022年1月13日の定例会見

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学会テーマは「プレフレイルからの終生リハ」

[池端幸彦副会長]
 令和4年1月度の日本慢性期医療協会定例記者会見を始めたい。今年こそはコロナ禍が落ち着くことを願っていたが、なかなかそうもいかない現状である。

 本日はまず、2月に開催予定の「第9回慢性期リハビリテーション学会」について、ご説明を申し上げたい。学会長を務める札幌西円山病院院長の浦信行先生から、ご説明を申し上げる。

[浦信行学会長]
浦信行学会長_2022年1月13日の定例会見 開催が3週間後に迫っているが、準備は順調に進んでいる。できれば札幌で開催したいと思っていたが、ご承知のとおりコロナ禍が収まらず、今回はWEB開催となった。

 本学会のテーマは「プレフレイルからの終生リハ ~After CORONAの時代へ~」とした。コロナ禍が3年目に突入するとは、学会長を拝命したときには思ってもみなかった。タイトルが現実にそぐわない面もあるが、「With CORONA」と考えてもよいのではないか。

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栄養の裏打ちがあってリハビリが進む

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02スライドーP2_【資料】2022年1月13日の定例会見

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 2月3日、4日の2日間にわたって開催予定のメインプログラムをご紹介させていただく。5つの講演を予定している。まず、基調講演として日本医師会会長の中川俊男先生から「最近の医療情勢とその課題」というテーマで、新型コロナウイルス感染対策を中心にお話しいただく予定になっている。座長は、日本慢性期医療協会の武久会長にお願いしている。

 また、招待講演は再生医療について、札幌医科大学の本望修教授に講演をお願いする。テーマは「骨髄間葉系幹細胞による再生医療」である。骨髄間葉系幹細胞は本人の骨髄から採取し、培養によって1万倍くらいに細胞を増やした上で静脈内に投与することで、脳梗塞もしくは脊髄損傷の治療になり得るため注目されている。その現況などをご紹介いただく。

 特別講演1は「身体抑制ゼロへの取り組み」である。これは大きな命題であり、各所で取り組みが行われてきた。長年にわたり「身体抑制ゼロ」への取り組みを進めてきた当会副会長の中川翼先生にご講演をいただく。

 2日目の特別講演2では、「栄養とリハビリテーション」について、東京女子医科大学の若林秀隆教授にご講演いただく。リハビリと栄養は切り離して考えられるものではない。栄養の裏打ちがあってこそ、リハビリが進むこともある。座長は、慢性期リハビリテーション協会の橋本康子会長にお願いしている。

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情報交換・発信の場として盛り上げたい

 シンポジウムは、2つ用意した。シンポジウム1は「プレフレイルからのリハビリ」で、地域の特徴的な取り組みをお伝えいただく。「プレフレイル」は本学会のタイトルでもある。リハビリを終生にわたって提供するためには、医療機関に限らず地域も含めた取り組みが必要になる。

 このシンポジウム1では、5人のシンポジストの方々からご発表をいただく。座長は斉藤正身氏(医療法人真正会理事長)と、伊藤隆氏(医療法人渓仁会リハビリテーション統括部長)が務める。

特別講演3では、新型コロナウイルス感染症についてお話しいただく。タイトルは 「After CORONAの呼吸器リハ」である。「With CORONA」であっても、回復された後、呼吸器機能に影響を残す場合がある。神戸大学大学院の石川朗教授にお話しいただく。座長は、KKR札幌医療センター 呼吸器センター長の福家聡氏が務める。 

 シンポジウム2は「リハビリは終生」というタイトルで、いろいろな施設のアイデアと、実践されていることをお話しいただく。5人のシンポジストに登壇していただき、座長は札幌西円山病院名誉院長である峯廻攻守氏と、鶴巻温泉病院リハビリテーション部長の木村達氏にお願いしている。

 このようにシンポジウムを2つ、講演を5つ、そのほかに200に及ぶ一般演題もいただいている。コロナ禍で不自由な思いをしているが、どうぞご注目いただき、情報交換・発信の場として盛り上げていければと思っている。

[池端幸彦副会長]
 大変素晴らしいプログラムになっている。ぜひ、ご参加をお願いしたい。それでは、当協会の新年のごあいさつも兼ねて、武久会長からお話をさせていただく。

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03スライドー表紙_【資料】2022年1月13日の定例会見

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「慢性期救急」という考え方

[武久洋三会長]
 皆さん、あけましておめでとう。あちこちで大雪の情報があるが、今日の東京はいい天気だ。いよいよ、診療報酬改定が目の前に迫ってきた。本日の記者会見では、救急問題を中心に、当会の考えをお伝えしたいと思う。

 当会の会員病院には慢性期多機能病院が非常に多い。慢性期多機能病院は、地域の救急患者を担当すべきである。まず、これを宣言したい。

 実は、既に14年前、2005年11月に開催された日慢協学会において、学会長の安藤高夫先生が慢性期救急を提唱されている。当時から、慢性期の病院でも救急患者を担当すべきだという意欲が示されていた。

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04スライドーP3_【資料】2022年1月13日の定例会見

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 慢性期救急とは、「Post Acute Therapy」であり、慢性期療養中の患者が種々の原因により在宅や施設で急性増悪した場合に、治療をお引き受けする。

 例えば誤嚥性肺炎、尿路感染症、低栄養、脱水、褥瘡、その他の感染症等により非常に状態が悪くなっている患者を、緊急で施設および在宅からお受けするのは慢性期治療病棟ならではの仕事だと考えている。ただし、心筋梗塞、脳卒中発作、骨折、急性腹症、悪性新生物などについては急性期救急となる。

 現在、在宅や介護保険施設で療養中の患者が急性増悪した場合、その多くは高度急性期病院に救急車で搬送されている。

 しかし、このような病状をはたして高度急性期病院で治療する必要があるのだろうか。このような病状は、慢性期病院で治療したほうが適切ではないか。慢性期病床が受け持つことにより、高度急性期病院の負担を減らすことができる。

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重症患者は、わずか1割

 5ページを見てほしい。救急だからといって重症の患者が多いわけではない。

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05スライドーP5_【資料】2022年1月13日の定例会見

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 重症患者は、わずか1割である。軽症・中等症の人がほとんどであり、また高齢者の数が圧倒的に多い。高齢者では、「重症」10.2%に対し、「軽症」「中等症」が87.2%である。

 つまり、救急車を呼ぶ患者の多くは高齢者の軽症や中等症の患者であり、こういう人たちがみんな救急救命センターに押しかけてしまうと、救急現場では本当に困るわけである。

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高齢者の救急が増加している

 平成12年から令和2年までの救急・救助の現況に関する統計を見ていただきたい。搬送人員のうち、高齢者が37.3%から62.3%に増えている。逆に成人は、20年間で20%減っている。この傾向は、ますます強くなるだろう。この現実を見なければならない。

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06スライドーP7_【資料】2022年1月13日の定例会見

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 65歳以上の者のいる世帯数及び構成割合(世帯構造別)と全世帯に占める65歳以上の者がいる世帯の割合を見てみると、65歳以上の単独世帯、もしくは夫婦のみの世帯が61%を超えており、この割合が40年で2倍になっている。

 高齢者の免許返納が進んだこともあり、高齢者のみの世帯では、急病時でも自家用車で病院に連れていくことができない。それほど重い状態でなくても救急車を呼ぶということが、全国的に増えていると言える。今後も、高齢者の救急患者は増えることはあっても減ることはないだろう。

 一方で、前述したとおり高齢者の軽度救急患者が救命救急センターに押し寄せたら、重度救急患者の受け入れに影響を及ぼす。既に、各地でそのような問題が起こっている。

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療養病床は「救急医療管理加算」を取れない

 救急患者を受け入れた場合の評価について、診療報酬では「救急医療管理加算」がある。一般病床等では算定可能だが、療養病床は算定不可となっている。

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07スライドーP11_【資料】2022年1月13日の定例会見

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 「救急医療管理加算」は、救急搬送された重篤な患者を受け入れ、早期検査や治療が必要になる点を踏まえた入院基本料加算で、「加算1」と「加算2」がある。

 先ほど説明したような重症で運ばれる1割に満たない患者に対しては、このような加算が付くことになっている。しかし、「加算1」が取れる(ア)~(ケ)に該当するような重篤な患者は、高齢者ではそれほど多くない。

 救急医療管理加算は一般病床しか算定できないが、救急指定を受けている療養病床を中心とした地域多機能病院でも救急患者を多く受け入れている。しかし、療養病床では救急医療管理加算は一切算定できない。

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救急を2つに大きく分けてはどうか

 軽度から中度の救急患者の割合が9割にも及んでいる。急性期病院と慢性期多機能病院などが分担しなければ、救急の現場は大変なことになる。救急医療管理加算に該当する対象患者以外の患者でも、数多くの急変症状の患者が24時間365日、救急指定病院を受診している。

 重篤な状態の患者に対しては救急医療管理加算が取れるが、16ページを見ていただきたい。「コ その他の重症な状態」が60%以上になっている。一般的な病院では、このような患者が非常に多い。

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08スライドーP16_【資料】2022年1月13日の定例会見

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 そこで、日本慢性期医療協会では、新たな提案をしたい。救急を2つに大きく分けてはどうか。

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09スライドーP17_【資料】2022年1月13日の定例会見

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 「救急の2極分化に対処しよう」ということで、本来の重症緊急救急患者は高度急性期病院、すなわち救急救命センターが対応する。

 しかし、9割近い軽度・中度の緊急処置が必要でない患者や、手術や特殊な医療の必要がない患者は地域多機能病院、すなわち急性期多機能病院や慢性期多機能病院で対応できる。現実には救命救急士が判断して搬送先を決めているが、厚労省が制度として、はっきりと分けてはいかがだろうか。

 18ページの表を見ていただきたい。年間の救急搬送件数はこのように2極分化している。

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10スライドーP18_【資料】2022年1月13日の定例会見

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「年間2,000件以上」の要件緩和を

 現在、二次救急病院などで医師の長時間労働が懸念されている。「地域医療体制確保加算」は、適切な労務管理の実施を前提に、「年間2,000件以上の救急搬送患者の受け入れ」など、一定の実績を有する医療機関を評価する。

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11スライドーP19_【資料】2022年1月13日の定例会見

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 そのほか、「救急搬送看護体制加算1」では、年間1,000件以上の搬送件数が条件となっている。「救急搬送看護体制加算2」では、年間200件以上の受け入れで200点の加算が受けられる。

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12スライドーP20_【資料】2022年1月13日の定例会見

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 先ほど述べたような状況を踏まえて提案したい。地域医療体制確保加算の要件である「年間2,000件以上」の要件を緩和して、「1,000件以上」にしてはどうだろうか。

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軽中度の患者に対応する「慢性期多機能」

 地域の急性期病院への搬送は1日3件程度である。こうした「地域救急」の患者を受け入れる病院、すなわち病床規模が200床未満の中小病院を手厚く評価すべきではないか。そして、200床未満の中小病院では、軽症・中等症の救急患者を積極的に受け入れるべきである。

 軽症・中等症の患者が三次救急医療センターに押し寄せたら、緊急処置が必要な患者にセンターがきちんと対応できないことが起こり得る。

 日本慢性期医療協会としては、救急患者を2つに大きく分けることを提案し、軽症・中等症の救急患者は地域の慢性期多機能病院で分担して対応していきたい。日慢協の会員病院は「慢性期多機能病院」として、地域の高齢者や軽中度の急変患者に対応すべきである。

 以上、救急に関する日本慢性期医療協会のスタンスをお伝えした。積極的に地域医療に関わっていくこと、地域の軽度・中度の救急患者に関わっていくことについて、先ほどの理事会で皆さんからご承諾いただいた。

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病院の介護職員は危機的状況

 本日はもう1つ、緊急で皆さま方にお願いしたいことがある。今、病院の介護職員が危機的状況に陥っている。この現状をご理解いただきたい。

 病院に勤務している介護職員は、なぜか「看護補助者」と呼ばれている。国家資格者である介護福祉士も、「看護補助者」と呼ばれる。現実には、大学病院でも高齢患者が7割以上、民間の高度急性期病院では8割近い高齢化率になっているにもかかわらず、介護福祉士の専門性を認めていただけていないようなネーミングであると言える。介護職員を「看護補助者」と呼ばず、介護職員、介護福祉士と呼んでいただきたい。

 現在、介護保険施設に勤務する介護職員には、国から月に5万円から7万円の処遇改善給付金がいただける。ところが、病院に勤務した場合は処遇改善給付金がなく、給与面でも差別されていると言える。介護職員にとっては、病院に勤務したいという意欲が大きくそがれる制度である。

 その結果、医療現場では、既に介護職員が集まりにくくなっている。看護師がみなし看護補助者として介護業務に当たっており、非常に困っているという声を聞く。

 特に夜勤においては看護師が2人いても、夜中にトイレに行く人や、認知症患者も多くおり、中には、詰所の中で車いすに乗せたまま患者を看ざるを得ない病棟もある。

 介護職員を常勤とし、例えば40人の病棟に10人の介護職員を配置した場合を評価したり、またリハビリテーションについても同様に「基準リハビリ」を導入するなど、現在の制度を改善すれば介護職員やリハビリ職員の夜勤も可能になる。

 せっかく病気が治ったのに寝たきりになってしまうような現状がある。残念ながら、「看護補助者」という呼ばれ方で冷遇されている状況では、介護職員は介護保険施設に勤めたいと思うのは当然であり、このままでは病院に勤務する介護職員はいなくなる。それでは、日本の医療は成り立たない。

 いまや、病院の入院患者の多くは高齢者である。医療において総合診療医が必要であるように、看護・介護の現場でも介護職員およびリハビリテーション職員が常勤でいることを評価してもらえるようになれば、急性期病院から要介護者が後方病院に紹介される率は非常に低くなるだろう。

 看護師の給与、介護職員の給与を上げようということが中医協でも叫ばれている。もうすぐ診療報酬改定の大枠が発表される。この際、ぜひ病院の介護職員の立場に対してご理解をいただき、処遇改善の交付金等を検討していただけたらありがたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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