ポリファーマシー対策、「回復期や慢性期で」 ── 令和4年度事業に向け、池端副会長
健康被害につながるような処方内容などを見直す「ポリファーマシー対策」の推進に向けて議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「高度急性期よりも回復期や慢性期のほうが時間的余裕もあるので対応しやすい」との認識を示し、モデル事業など今後の取り組みに期待を込めた。
厚労省は11月4日、高齢者医薬品適正使用検討会(座長=印南一路・慶應義塾大学総合政策学部教授)の第14回会合をオンライン形式で開き、当会から池端副会長が構成員として出席した。
厚労省は同日の会合に、令和4年度の方針を提示。「モデル地域において実際にポリファーマシー対策に取り組み、地域での取組みにおける課題抽出等を行うこととしてはどうか」と提案した。
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「病院内」から「地域」に焦点を
ポリファーマシー対策をめぐっては、これまでの会合を通じて指針や手順書などを策定。令和3年度は、医療現場で実際に使えるかなどを調べるモデル事業を大学病院などで実施した。
この日の会合では、モデル事業の対象に選定された3医療機関の担当者が院内での取り組み状況や今後の課題などを報告。その質疑応答の後、令和4年度事業の審議に入った。
厚労省は「病院内の取組みと地域の施設(診療所、薬局、介護施設等)間の取組みは、ポリファーマシー対策の基本的な考え方や課題は類似している」としながらも、「質的に異なる部分も多く、地域に焦点を当てた取組みが求められている」とし、これまでの「病院内」から「地域」へ広げていく意向を示した。
実施対象は、「地域の医師会、薬剤師会等が連携してポリファーマシー対策に取り組む地域」としている。
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回復期や慢性期でモデル事業を
質疑で、城守国斗構成員(日本医師会常任理事)は「基本的に事務局の提案に異論はない」と了承した上で、「各病院における取り組みに関する事業は継続したほうがいい」と指摘した。
城守構成員は「今年度の事業は急性期の病院を対象にしたので、慢性期や療養病棟など療養環境が違う所で(ポリファーマシー対策の)ツールの使いやすさや使いにくさなどの検討を継続してもいいように思う」と述べた。
厚労省の担当者は「今までの急性期以外の病院で、地域の医師会や薬剤師会等が連携してポリファーマシー対策に取り組む地域を、まずは対象施設として考えたい」と理解を求めた。
そこで池端副会長が発言。「城守委員と全く同じ意見」とし、急性期以外の回復期や慢性期の病院で「モデル事業をやっていただきたい」と提案した。
池端幸彦副会長はこのほか、モデル事業の中間報告をした3病院の担当者に、複数診療科の受診患者への対応や病院トップへの周知等、病院全体で取り組む上での課題などを質問した。
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■ 令和4年度の取り組みについて
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私も城守委員と全く同じ意見である。この検討会でずっと、これまでの議論にあったように、最もポリファーマシーに対応できるのは、高度急性期よりも回復期や慢性期であり、そのほうが少し時間的余裕もあるので対応しやすいという話もあった。ぜひ、モデル事業は別に実施していただきたいと私からもお願いしたい。
質問だが、実施対象について「地域の医師会、薬剤師会」とあるが、これは市町単位を考えておられるのか、都道府県単位でもOKなのか、いかがだろうか。
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【厚労省医薬・生活衛生局医薬安全対策課・道家由行主査】
市区町村も含めて考えている。
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■ 報告①(藤田医科大学病院)について
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入院患者の平均在院日数が短い中で、ポリファーマシー対策に取り組むのは非常に難しかったのではないか。ご発表に感謝を申し上げる。大学病院のように診療科が多い場合、複数の診療科を受診されていて、そのためにポリファーマシーになっていることが多いように思う。
地域の医療機関から見ると、急性期病院等で複数科受診をされているポリファーマシーに対して、なかなか手が出せない、変更できない面がある。入院を契機にポリファーマシー対策を進めていただけると非常にありがたい。
現在、貴院のポリファーマシー対策は3つの診療科に限定されているようだが、複数の診療科にまたがった患者に対応したケースはあったのだろうか。もしあれば、お聞かせいただきたい。
また、ポリファーマシー対策の手順書が非常に有用だったということで、ガイドライン等も参考にされたと思う。そこで、ガイドライン等について改善点など感想等があれば、お願いしたい。
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【波多野正和氏(藤田医科大学医学部臨床薬剤科)】
大学病院内では複数診療科に受診しているケースも多い。今後の課題として、言葉が適切か分からないが、診療科同士の「忖度」があり、なかなか私たちのほうでうまく提案ができない場合もある。「他科の薬なので、今回はやめておきます」という返事も多く見受けられた。
一方、大学病院の急性期治療では、「治療上、これは減らさなければいけない」というケースもある。そういう状況下であれば、複数科にまたがっていても、意外とスムーズに減らせる場合もある。
むしろ、個人的に思うのは、大学病院内というよりは、院外の病院を複数受診されているケースのほうがポリファーマシーになっている場合が多いような印象である。この場合には、逆に「忖度」が働かないのか、主治医の先生にお伝えすると、すんなり薬を減らせるケースは多かったように思う。
ガイドラインに関しては、まず周知していただくところがスタートであると考えている。
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■ 報告②(国立がん研究センター中央病院)について
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多職種のチームを組んで取り組まれている。医師もチームに入っている。ポリファーマシー対策は病院全体で取り組まないと、進めていくことがなかなか難しい。この検討会でも、トップが理解しているかどうかが非常に大事だという議論があった。
そこで質問だが、診療科長、あるいは病院長なども含めてポリファーマシー対策について共有されているのか、何か情報提供されているのかをお聞かせいただきたい。
また、ポリファーマシー対策について、薬剤部の「薬歴管理室」が担当したという説明であった。貴院の薬歴管理室には「薬剤師外来」がある。全国から患者が集まってくる病院だと思うので、当然、いろんな地域の診療所や病院からの薬剤、薬歴を一括管理されているのだろうと思う。
そこで、明らかなポリファーマシーが見えれば、逆紹介のようなかたちで情報提供をしていただくことは可能であると思う。
今回は病棟での取り組みだが、今後、外来に対するポリファーマシー対策ということについて、何か取り組みの可能性があるかどうか、ご意見をお聞かせいただきたい。
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【橋本浩伸氏(国立がん研究センター中央病院副薬剤部長)】
今回、モデル医療機関として採択していただく際、事前に病院長に相談し、採択後にも病院長に報告した。その他の医師や全職員に対しては、今後の活動等についてアピールさせていただいた。
病院内の組織として「ポリファーマシー対策チーム」をつくる際には、診療科長に相談し、参加していただける医師を推薦してもらい、チームメンバー等について全職員に配信した。
また、外来について今後の業務展開としては、まずはやはり入院からだとは思っている。モデル病棟で展開しているチームがコアメンバーになるような体制にしたい。病棟や各診療科に薬剤師がいるので、コンサルト型にも順応できるようなチームにしていけたらいい。チームで検討した内容を各診療科に配置されている薬剤師を通じてカンファレンスで検討してもらう。そのような業務体制も今後は検討していきたい。
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■ 報告③(三豊総合病院)について
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かかりつけ医への普及啓発を進めるため、地域の診療所の先生方にアンケート調査を実施したとのこと。大変、興味深く拝聴させていただいた。各医療機関への調査はなかなか難しいと思うのだが、貴院と連携している医療機関を対象にアンケート調査を実施されたのか、それとも地域まんべんなく、全てに投げかけて調査されたのかを教えていただきたい。
調査に対して協力的な医療機関が多かったということなので、医師会として私も気を強くした。会員の先生方もそういうことを望んでいるのだと感じたので、医師会としても取り組みたいと思っている。そこで、調査を実施する際のポイントなどを差し支えない範囲で教えていただけるだろうか。
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【篠永浩氏(三豊総合病院薬剤部副薬剤部長)】
アンケート調査を依頼する際に、当院の病院長、総合内科医の名前、そして私の名前も入れて実施した。
当院は、三豊市・観音寺市の2市の中核拠点病院であるため、2市の医師会に対して、全ての先生方にアンケート調査をさせていただいた。
ご回答いただいた6割の先生方からは好意的なご意見をいただいた。対策を行った後の情報のフィードバックをきちんとしていただきたいとのご意見も多数いただいた。今後、サマリー等を通じた情報提供が非常に大事になると感じている。
(取材・執筆=新井裕充)
2021年11月5日