訪問看護、「勝手にどんどん行くのではない」 ── 在宅医療の議論で池端副会長

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池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_2021年8月25日の中医協総会

 訪問看護について「コロナ禍で医科・歯科・調剤等がマイナスなのに二桁の伸び率。適切な訪問看護が行われているのか」と問題視する声があった厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「訪問看護が勝手にどんどん行っているというイメージはない。医師の立場から応援メッセージを出させていただく」と反論した。

 令和4年度の診療報酬改定に向けて、厚労省は8月25日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)の第486回総会をオンラインで開催し、当会からは池端副会長が診療側委員として出席した。

 この日の主なテーマは「在宅」と「入院」。厚労省は同日の総会に「在宅 (その1) 」「入院 (その1)」と題する資料で今後の課題や論点を提示。それを踏まえて各委員が意見を述べた。
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訪問看護は二桁の伸び率

 最初の議題「在宅」では、質疑の冒頭で診療側の城守国斗委員(日本医師会常任理事)が「質と量のベストバランス」という視点を提示。「拙速に量の拡大を目指すと在宅医療の質を低下させる危険性もあるので慎重であるべき」と述べた。

 一方、支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)も「どのように質を確保していくかが在宅の一番の本質だ」と質の確保に賛意を示しながらも、訪問看護の伸びを問題視。「コロナ禍において医科・歯科・調剤等のマイナスが続いている中においても訪問看護については二桁の伸び率をずっと続けている」と指摘した。

 その上で幸野委員は「今後、高齢化に伴って増加することは想定されている。これが全体の医療費や介護給付費に少なからず影響を及ぼしてくることは間違いない」と懸念した。
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適切な訪問看護が行われているのか

 厚労省が示した資料によると、訪問看護ステーションの利用者は介護保険、医療保険ともに増加傾向。介護保険では約54万人、医療保険では約29万人となっている。平成13年からの伸びは医療保険が介護保険を上回っている。
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P5_【総-1-2】在宅 (その1) 訪問看護について_2021年8月25日の中医協総会

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 幸野委員は、在宅ニーズの増加について「典型的な例が訪問看護」とし、「患者の状態に応じた適切な訪問看護が行われているのか、適切な職種が適切な頻度で行っているのか、エビデンスを出して議論していくことが必要だ」と指摘した。

 その上で、幸野委員は「より適切な訪問看護を提供し、医師が適切な指示を行うために、医師の指示書で訪問する職種を指定し、頻度も医師が指定するような仕組みを取り入れる必要があるのではないか」と提案した。
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全体で見れば良い効果が出る

 これに対し、日本看護協会常任理事の吉川久美子専門委員は「回数や計画の内容は医師にも報告しており、私どもとしては適切に行われていると考えている」と理解を求めた。

 池端副会長は「訪問看護ステーションが勝手にどんどん行きたいように回数を増やしているわけでは決してない。かかりつけ医が患者さんに聞き取り調査をして、訪問看護の必要性を把握している」と現場での対応状況などを説明した。

 池端副会長はまた、幸野委員が懸念した医療・介護費の増加について「病院や施設では在宅医療よりも高い金額が公的保険で支払われることになる」と指摘し、「訪問看護だけで見ないで、全体で見れば逆に良い効果が出る可能性も十分高い」との認識を示した。

 このほか、池端副会長は入院医療についても意見を述べ、「いざという時に役立つような病院・病床が必要である。急性期に限らず、回復期、慢性期等がそれぞれ役割分担しながら、今回のようなパンデミックに対応できるようにするために何ができるか」と問題提起した。

 池端副会長の主な発言要旨は以下のとおり。
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2021年8月25日の中医協総会

■ 訪問看護の伸びについて
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 先ほど幸野委員が訪問看護の伸びについて言及された点について、今、吉川委員からお答えいただいた。私からも医師の指示書を出す立場として補足したい点があるので手を挙げさせていただいた。
 資料「1-2」の5ページをご覧いただきたい。訪問看護は確かに伸びている。そして、令和2年度もさらに伸びていると私も実感をしている。
 ただ、訪問看護全体で見ると、介護保険の訪問看護利用者数が約54万人と圧倒的に多く、医療保険はその半分の約28万人の利用者数である。
 介護保険の訪問看護は基本的にケアマネージャーのサービス担当者会議で訪問看護の回数もきちんとそこで決める。会議で主治医のもとで計画を立ててきちんと実施しているので、介護保険の訪問看護が伸びることに対して、訪問看護ステーションが勝手にどんどん回数を増やしているわけでは決してない。
 それから、医療保険に関しても医療保険の訪問看護指示書が出ている場合には、かかりつけの先生が必ず、最低でも月に1回程度は往診に行っているはずである。そして、そこで患者さんに聞き取り調査をして、その訪問看護の必要性を把握している。
 頻回に行く場合は、がんの末期、あるいは特別指示書を出して2週間、点滴をしてほしいというような指示である。こういったときには、連日、訪問看護の指示を出すこともあるが、決して訪問看護が勝手にどんどん行っているというイメージは私自身はないので、医師の立場からも応援メッセージを出させていただいた。
 それと同時に、今回のコロナ禍で訪問看護や在宅医療は確かに伸びている。入院すると面会が全くできないので、「それくらいなら、ちょっとつらいけど、家でみます」という方々が非常に増えてきて、私どもでも在宅の看取りがすごく増えている。
 幸野委員はその伸びをご心配されているが、その方々がもし病院や施設に入ると、実は介護保険、医療保険とも、その在宅医療よりもかなり高い金額が公的保険で支払われることになる。そういう意味では、全体を見れば、訪問看護が伸びること自体だけで見なくても、全体の保険に関しては逆に良い効果が出る可能性も十分高いのではないか、そんな印象を持っているので補足させていただいた。

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■ 在宅医療について
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 在宅医療に関して城守委員がおっしゃったように、私もやはり、かかりつけ医が24時間365日対応ということに対してはどうしてもハードルが高くて、ニーズはあってもなかなか進まないというのが、やっぱり現状ではないかと思う。
 その中で、例えば夜間や週末、あるいは呼吸器管理や医療ニーズが高い患者さん等に関しては、少し大きな規模、例えば、在宅療養支援病院(在支病)等からの訪問診療と、そして一般のかかりつけの先生方がタッグを組んで、連携を組んでいくようなシステムをさらに広めていただく。継続診療加算等をさらに充実させて、強固な連携をできることで在宅医療を進めるということも1つの手ではないか。
 地域によっては本当に訪問診療をやっていただける先生がいなくて、在支病があれば、そこから直接出ていくこともあると思う。特に夜間、週末等に関しての連携ということも考えていただいてもいいと思っている。
 それから、先ほど何人かの委員の先生からお話があったように、医療的ケア児に対する在宅に関しては、ニーズもどんどん増えてきている。
 ただ一方で、一般の在宅以上に、これはかなり特殊性が高いものではないか。一般の在宅医に全てそこを担ってほしいというのはかなりハードルが高いという現実がある。
 そうした中で、福井県では取り組みを進めている。小児在宅を集中的に担う基幹病院、あるいは拠点となるような医療機関を設けて、そこと地域のかかりつけの先生が連携することによって、ある程度、在宅医同士の高度な在宅と、地域の在宅との連携によって一気に在宅が進んでいる地域もある。このように少し集約化して、小児在宅を専門に診る医療機関には一定程度インセンティブを与え、そこを拠点に、さらに面で広めていく。こうした取り組みに対する診療報酬上の何か仕掛けのようなものあっていいと思う。集約化とインセンティブということになるかと思う。これは私からの1つの提案である。

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■ 特定看護師について
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 今後、医療ニーズが高い訪問看護がさらに必要になってくる。現在、専門看護師との連携等に加算が付いているが、本日の資料によれば、訪問看護ステーションで就業しているのは特定行為研修を修了した「特定看護師」のうち、5%前後にとどまっている。
 特定看護師は慢性期や在宅でこれから非常に有用な看護師であると思う。特定行為ができる看護師の訪問看護が入れば、さらに高度な医療に対する訪問看護の技術も上がってきて、かかりつけ医とさらに連携しやすくなるのではないだろうか。そこで、訪問看護ステーションに対する何らかのインセンティブもそろそろ考えてもいいのではないか。これも提案したい。

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■ 入院医療について
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 全般を通じて、少し大きな話をしたい。まず、コロナ禍の対応についての経過措置等については、包括支援金も継続されたことに鑑みると、基本的には急に打ち切りということは現実的に難しいかと思う。
 ただ一方で、やみくもにただ続けるのではないということ、幸野委員のおっしゃることも十分理解しているつもりなので、検証できるところはしっかり検証した上で、引き続き継続すべきところはしっかり継続するという大きな流れが必要かと思う。
 5疾病5事業に新興感染症が入った。これは第8次医療計画になるが、しかし、もう今からスタートさせないといけない。第8次医療計画を「よーいドン」ではスタートできないので、その辺も含めて少し先取りをして、次回の診療報酬改定では、そこも踏まえた上での議論も十分必要ではないかと感じている。
 その上で、急性期医療から回復期、慢性期、全てにわたって言うと、今回の感染症で感じたことは病院そのものに全く余裕がない。病床を持つ病院に余裕がない。
 資料「総-2」の12ページ(入院料別の病床稼働率の推移)をご覧いただきたい。高度急性期と言われている7対1でも病床稼働率が8割程度。逆に言えば、8割を超えないと経営的に厳しいという状況にある。療養病床等の慢性期病院は9割を超えていないと経営が成り立たない。こういう状況をどう考えるかということも一方で考えていかなければいけないのではないかと思う。
 いざという時に役立つような病院・病床が必要である。急性期に限らず、回復期、慢性期等がそれぞれ役割分担しながら、今回のようなパンデミックに対応できるようにするために何ができるかということも一方で考える。そのためには、どの病床種別でも、しっかりした医療機能を高める努力をする、そのインセンティブも必要ではないかと感じている。

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■ 慢性期入院医療について
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 前回改定では、慢性期について医療機能を高め、そして人員配置も高めるということで、療養病棟入院料1・2に関しては、20対1を基本にして、25対1は経過措置になっている。経過措置1は徐々に減少しており、来年度末で終了することになっているが、これについては丁寧な議論が必要である。個別の事情を情報収集するなどして、少なくとも現在入院されている患者さんの不利益にならないような対応を考えていただきたい。
 療養病棟では、DPCのデータ提出加算が前回改定から原則的に入った。現状、どの程度までこの加算を算定している慢性期病院があるのだろうか。すでに、ある程度の数になって信頼に耐えうるのであれば、そのデータをもとに慢性期医療のパフォーマンスが出せるかどうか、事務局に質問したい。

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【厚労省保険局医療課・井内努課長】
 データ提出加算については、今後も検証というふうに考えている。
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■ その他の課題について
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 感染防止対策加算は全病院が取れているわけではない。いろいろと施設基準が厳しいところもあるので、中小病院の全てがこの加算を取れるようにするのは非常に難しい。
 そのため、広く浅くでも結構なので、いずれは全病院がこの加算を取れるようにしてはどうか。現在、加算1と2があるが、新たに「加算3」を設けて、感染防止を広げていく手法も必要もコロナ禍では必要でないか。
 また、前回改定の時にも病院団体から提案させていただいたが、IT化に対するインセンティブも必要である。
 さらに、働き方改革やタスクシェア、タスクシフトに対するインセンティブについては、報酬だけではなく施設基準の緩和等も含め、さらに突っ込んだ議論をしながら、ご検討いただきたいと思っている。
 特に、多職種協働において病棟薬剤師の評価は喫緊の課題であると感じている。病棟の薬剤師に対する今後の必要性を鑑みて、病棟薬剤師の評価をどう考えるのか、じっくり議論していきたい。
 病院の食事料に関しても述べたい。ずっと以前から指摘されながら十数年間、据え置かれている。そろそろ一度検討してはどうか。現行の基準で今の患者さんに対応できているのかどうか。材料費等が高騰している中で、食事料をどう考えるか。しっかり検証していただきたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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