「鎮静剤の項目を加えるか、B項目を外すか」 ── 入院分科会で井川常任理事
入院患者の重症度を評価する基準の見直しが議論になった厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の井川誠一郎常任理事は「鎮静剤が入っている状態の患者もいる」と指摘した上で、「鎮静剤のあり・なしという項目を加えるか、またはB項目を外してしまうべきか」と問題提起した。厚労省の担当者は「(今後の)分析の視点としていただきたい」と述べた。
厚労省は8月27日、中央社会保険医療協議会(中医協)の診療報酬調査専門組織である「入院医療等の調査・評価分科会」の令和3年度第6回会合をオンライン開催し、当会からは井川常任理事が出席した。
この日の主なテーマは急性期医療。厚労省は同日の分科会に、学会などが推奨する各種の指標を用いた分析結果を詳細に示し、委員の意見を聴いた。
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B項目の関与が少なければA項目のみに
高度急性期・一般急性期のすみ分けを今後どのように進めていくのか。この日の会合で厚労省は、高度急性期について「特定集中治療室管理料等」、一般急性期については「救急医療管理加算」を議題に挙げ、詳細な分析結果を示した上で委員の意見を求めた。
質疑で牧野憲一委員(旭川赤十字病院院長)は、特定集中治療室の重症度、医療・看護必要度について「B項目がどの程度、該当患者割合に関与しているのか。B項目の関与が少なければA項目のみに変えてしまえば、働き方改革の観点からも大変いい」と述べた。
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「寝返り」と「移乗」の乖離は何か
井川常任理事は、特定集中治療室のB項目で多い「寝返り2点」が約8割であるのに対し、「移乗」が3割程度にとどまっている点を指摘。「寝返りが打てないのに移乗ができるのは非常におかしな話。この数字の乖離は何か」と尋ねた。
厚労省の担当者は「ご示唆があったように、患者さんの鎮静がかかっている状況など見なければいけない部分もあるかと思う」と答えた。
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2021年8月27日の中医協・入院分科会資料「入-2」P10から抜粋
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現在、特定集中治療室用の重症度、医療・看護必要度の評価票では、「寝返り」が「できない」2点、「何かにつかまればできる」が1点。「移乗」については、「全介助」が2点、「一部介助」が1点となっている。
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2021年8月27日の中医協・入院分科会資料「入-2」P5から抜粋
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急性期病院で重症時にCV
この日の会合では、次期改定に向けた同分科会の報告書につながる議論もあり、その中で中心静脈栄養をめぐる意見もあった。
継続の理由について委員から「現場の声を」と問われ、井川常任理事は「急性期病院で重症の時期にCV(中心静脈カテーテル)を入れられて、その途中からTPN(中心静脈栄養)が始まる場合が多い」と説明した。
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スタッフ不足は否めない
元千葉大病院院長の山本修一委員(地域医療機能推進機構理事)は「急性期側からすると、CVを入れたまま後方にお願いするのは当たり前。抜くか抜かないかは療養病床なりでご判断くださいとお願いしている」と述べ、抜去できない理由を「井川先生に」と尋ねた。
井川常任理事は、後方病院によって対応状況が異なる場合があると説明。「回復期リハビリテーション病院のように、STやリハビリ専門医などがしっかりいる病院であれば、VF(嚥下造影検査)でしっかり評価して経口訓練し、抜去できる可能性は高いが、療養病床ではそうしたスタッフ不足は否めない」と理解を求めた。
■ 中心静脈栄養継続の理由について
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「現場の声を」ということなので、慢性期医療の立場からお答えしたい。一番多いのは、急性期病院から継続して入っているケースである。恐らく重症の時期にCVを入れられて、その経過として、途中からTPN(中心静脈栄養)が始まる場合が多い。そして、そのまま胃瘻や経腸栄養の説明などをあまり受けられずに慢性期に来られる。すなわち、あまり話を聞かないまま来られる。マスコミが医療バッシングしたような影響もあり、胃瘻に対する知識がほとんどない。
そのため、われわれ慢性期のほうに来られてから胃瘻の説明をしっかりとして差し上げると、「え? 胃瘻って抜けるんですか?」とおっしゃる患者さん、ご家族が非常に多い。それでも、「もうこのまま、TPNでいってください」とおっしゃる方が多くいるという印象を受けている。
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■ 中心静脈カテーテルの抜去について
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ご指名なので、お答えさせていただく。確かに、回復期リハビリテーション病院のように、STやリハビリ専門医などがいる病院であれば、VFをして、しっかりとした評価をした上で経口訓練をして抜去できる可能性は高い。
しかし、療養病床では、そうしたスタッフ数の不足はどうしても否めない。そのため、VFをしっかりやっておられる施設と、逆にほとんどされずに、そのまま経過していく施設というのが実態としてはあると考えている。
そこで、実際にVFなどを積極的にされておられる病院と、そうでない病院を分けて調べていただくと、IVHの抜去率というのは変わってくるのではないかという気はしている。
今後、そうしたデータが出てくれば、嚥下評価をしっかりして嚥下訓練をしていくことも進むだろう。
ただ、1つ申し上げると、30分という単位の摂食嚥下訓練はかなり限定されている。脳血管リハでも嚥下訓練はするのだが、20分単位で、そのほうが実は点数が高いので、療養病床では、そちらを取っていることのほうが結構多い。そうすると、嚥下リハはされているが、摂食嚥下訓練ではないため評価されてこないというのが入ってきている可能性はある。いずれにしても、嚥下の評価は全体の日数からすれば、やはり少ないという気はしている。
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■ 重症度、医療・看護必要度について
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資料10ページ(特定集中治療室の重症度、医療・看護必要度の詳細)のB項目について、特定集中治療室1・2では「寝返り2点」が85.4%と非常に高い値を示している。この全てが、例えば昏睡や麻痺があったとはとても思えないので、恐らく医師の指示による制限、すなわち鎮静剤を使ってこういう状況になっているのだろうと考えている。
そこで、鎮静剤投与によって実際にこうなっている患者さんの実数と言うか、割合と言うか、それを把握しているのであれば教えていただきたい。
さらに言うと、寝返りができない患者さんが85%いるのに対し、移乗ができない患者さんは、一部介助(1点)と全介助(2点)を両方合わせても35%程度にしかならない。寝返りが打てないのに移乗ができるのは非常におかしな話で、この数字の乖離は一体どういうふうにとればいいのか、もしわかれば、教えていただきたい。
B項目については、今、申し上げたようにセデーションがかかっている状態の患者がいる。一般病棟入院料のB項目というのは本来、患者の状態、すなわち介護状態を示す指標であったはずなのだが、鎮静剤が入っているかどうかを判断するために、例えば、鎮静剤の「あり」「なし」というような項目を加えるべきだろうか。
あるいは、牧野委員がおっしゃるように、B項目を外してしまってもいいのでないかという意見も出てくるかもしれない。
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【厚労省保険局医療課・金光一瑛課長補佐】
寝返りと移乗の数字がやや乖離しているのではないかという質問である。ご示唆があったように、患者さんの鎮静がかかっている状況など、見なければいけない部分もあるかと思う。牧野先生からご指摘のあった13ページ(特定集中治療室、救命救急入院料の重症度、医療・看護必要度の該当患者割合)で、「B項目の関与がどれくらいか」というところと関連した話かと思うので、分析の視点としていただきながら、さらに分析を加えてみたいと思う。
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■ 看護必要度の該当患者割合の表について
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13ページの表は、このままでは分かりにくいのでクロス集計表にしてはどうか。例えば、A項目とB項目を縦・横に並べ、それぞれの数を出していただければ、当然、B項目が少ない症例というのが出てくるので、そのほうがより具体的にはっきりするのではないだろうか。B項目を見た場合に、3点をどの程度下回るのかという評価もすぐにできると思う。
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2021年8月27日の中医協・入院分科会資料「入-2」P13から抜粋
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■ 特定集中治療室の算定日数について
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資料19ページで、小児の算定日数上限を延長した平成28年度改定での対応が示されている。20ページには、ICUの平均滞在日数や14日以上の処置に関するスライドが出ている。
このため、事務局側の意図としては、小児の算定日数上限を延長した平成28年度改定のように、疾患や病態別で算定日数の延長を諮りたいと考えているのだろう。
もともとICUの全体の平均滞在日数が3日程度しかないことから考えると、延長する分を除外した場合の平均滞在日数がどの程度なのか、分布図と合わせて、算定日数上限の14日が妥当であるかということも再検討されるべきだろう。
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(取材・執筆=新井裕充)
2021年8月28日