「コロナ禍で病院の脆弱性が顕著に」 ── 池端副会長、有事対応の必要性を指摘
今後の感染症対策や医療費の動向などが示された厚生労働省の会合で日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「有事とも言えるコロナ禍でリスク管理に対する病院の脆弱性が顕著になった」と厳しい現状を伝え、「有事に対応できるだけの余裕の部分も議論すべき」と提案した。
厚労省は6月25日、社会保障審議会(社保審)医療保険部会(部会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第143回会合を都内で開き、委員の多くはオンラインで参加した。当会からは池端副会長が出席した。
厚労省は同日の会合に、「骨太方針2021」の中から同部会の審議に関連する部分を抜粋して提示。「感染症を機に進める新たな仕組みの構築」などを紹介した。
.
.
今後どうあるべきかを
「骨太方針2021」では、「地域医療連携推進法人制度の活用等による病院の連携強化や機能強化・集約化の促進」などを通じて、「地域医療構想を推進する」などの方針が示されている。
.
2021年6月25日の医療保険部会「資料2」P2から抜粋
.
.
池端副会長はこうした方針に「決して反対するものではない」としながらも、「病院の連携強化や機能強化・集約化の促進がかなり前面に出ている」と危機感を表し、厳しい経営環境を説明。「今後どうあるべきかを考えていただきたい」と訴えた。
.
電子カルテの標準化を
池端副会長はデジタル化の推進にも触れ、「電子カルテの標準化を大きな柱の1つに考えていただきたい」と求めた。
「骨太方針2021」では、「医療機関・介護事業所における情報共有とそのための電子カルテ情報や介護情報の標準化の推進」が挙げられている。
.
2021年6月25日の医療保険部会「資料2」P4から抜粋
.
軽々には判断できない
この日の医療保険部会では、医療費の動向に関する議論もあった。今年1・2月の下げ幅が拡大した原因に関連して、「セルフメディケーション」の重要性を指摘する意見があった。
これに対し、池端副会長は「単純に、全ての感染症が手洗いとマスクで抑えられるとは限らない。経時的に見ていくべきであり、軽々には判断できないのではないか」と述べた。
.
2月の医療費は前年比マイナス4.4%
厚労省が同日公表した最近の医療費の動向(概算医療費)の令和2年度2月号によると、今年2月の医療費は3.4兆円で対前年同月比マイナス4.4%。昨年4月から今年2月までの医療費は38.3兆円で対前年同期比マイナス4.1%だった。
厚労省はこうした結果を同日の医療保険部会に提示。コロナの影響による受診動向の変化なども踏まえて厚労省の担当者が説明し、委員の意見を聴いた。
.
第3波やインフル非流行が要因
医療費の動向について厚労省保険局調査課の西岡隆課長はまず、昨年12月から今年2月までの対前年同月比の推移を紹介。「1月はマイナス4.7%、2月はマイナス4.4%となっており、1月、2月は再びマイナス幅が大きくなっている」と説明した。
その要因について西岡課長は「新型コロナの新規感染者が第3波で増加したことと、例年冬に流行するインフルエンザが流行しなかったことによるものと考えている」と述べた。
.
2021年6月25日の医療保険部会「資料4」P2から抜粋
.
セルフメディケーションには限界も
質疑で、藤井隆太委員(日本商工会議所社会保障専門委員会委員)は「コロナ対策に今後どれほどの医療費がかかるだろうか。コロナ以外でも新たな新薬の導入などがある」と医療費の増大を懸念した。
その上で、藤井委員は「この機会を逃さず、国民の間にセルフメディケーションの正しい理解を進めていくことが何よりも重要ではないか」との認識を示し、「自分自身で健康管理を行い、市販薬などを適切に使って健常な状態に治すという国民の意識向上につながるような取組や、そのために必要な施策の展開をお願いしたい」と要望した。
これに対し、池端副会長は「新型コロナ感染症以外の一般の感染症が非常に少なくなって、それが受診の減少につながっているのは事実」としながらも、セルフメディケーションには限界があることを説明。「経時的に見ていくべきであり、軽々には判断できないのではないか」と指摘した。
■「骨太方針2021」について
.
病院団体の立場から2点、お話しさせていただきたい。まず、骨太の方針の第3章「感染症で顕在化した課題等を克服する経済・財政一体改革」の中で、「感染症を機に進める新たな仕組みの構築」が挙げられ、「できるだけ早期に対応する」としている。もちろん、これに対して決して反対するものではない。
ただ、この中で「病院の連携強化や機能強化・集約化の促進」ということがかなり前面に出ているように思う。
今、日本で起きている有事とも言えるコロナ禍で、リスク管理に対する病院の脆弱性というものが顕著になったことも明らかである。高度急性期から慢性期に至るまで全ての病院といっていいと思うが、ぎりぎりのスタッフ配置で運営し、経営的にも余裕がない。
ご承知のとおり、たった数カ月で、患者が2~3割減少しただけで、たちまち賞与が出せない病院もある。これは一般診療所も含めてそうだが、こうした現状をご理解いただけるのではないか。
一方、民間の一部上場企業であれば、多くの内部留保で賄えることもある。病院がいかに脆弱であるか。内部留保はほとんどない状況である。
そして、わずか数%の利益率もなかなか認められない、ここ数年の診療報酬改定の在り方、これに対する問題提起にもなったのではないかと思う。
そのようなこともぜひご理解いただいて、今後どうあるべきかを考えていただきたい。私は決して診療報酬を過剰になるほど上げてほしいと言っているわけではない。今回のような有事に対応できるだけのゆとり、余裕の部分が求められている。これをどう考えるかということも、ぜひ議論していただきたい。これが1点目である。
2点目は、菅内閣が大きな旗印の1つに掲げるデジタル化の推進について。骨太の方針に「電子カルテ情報や介護情報の標準化の推進」が挙げられている。これは病院協会としても決して反対するものではなく、むしろ推進していただきたい。
ただ、現状は各病院がさまざまなベンダーに任せており、情報の共有化が難しいということでずっと据え置かれている。例えはどうかと思うが、これは麻薬のように、いったんそこに手を染めたらそこから抜け出せない状況で、数年に一度大きな更新をしなければいけない。病院は一生懸命に働いて、それにお金をつぎ込んでいるというのが現状である。
この際、少し大胆な計画を立てていただいて、例えば、一斉に1つのプログラムで電子カルテが動くようなシステムを構築する。一時的に費用がかかったとしても、いずれ、そのデータが全て利用できるデータになると考えれば非常に有用性が高いのではないかと考えている。
そこで、ぜひ電子カルテの標準化ということを大きな柱の1つに考えていただきたい。
以上の2点について、骨太方針の中で感じたこととして要望させていただく。
.
■ 医療費の下げ幅拡大について
.
藤井委員からお話があったが、私からも少しお話をさせていただきたいと思う。藤井委員がおっしゃったように、令和2年度に関しては新型コロナ感染症以外の一般の感染症が非常に少なくなって、それが受診の減少につながっているのは事実だと思う。
ただ一方で、今年度に関しては、例えばRSウイルスなどの感染症がこの1年間少なかったために免疫力が下がり、かえって増えてきているという疾患もある。単純に、全ての感染症が手洗いとマスクで抑えられるとは限らない。経時的に見ていくべきであり、軽々には判断できないのではないか。
(取材・執筆=新井裕充)
2021年6月26日