介護の質の評価、「できれば統一する方向で」 ── 次期介護報酬改定に向け、武久会長

会長メッセージ 協会の活動等 審議会

20200914_介護給付費分科会

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は9月14日、令和3年度の介護報酬改定に向けて審議した厚生労働省の会議で「介護の世界に医療が入り、医療と介護が密接になっている」との認識を示した上で、介護の質の評価方法について「できれば統一する方向でお願いしたい」と述べた。

 厚労省は同日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田中滋・埼玉県立大学理事長)の第185回会合をオンライン形式で開催した。

 この日のテーマは「自立支援・重度化防止の推進」で、資料は表紙を除いて133ページ。全体の構成は、冒頭でこれまでの意見を紹介した上で、①介護の質の評価と科学的介護の推進、②リハビリテーション・機能訓練等、③口腔・栄養、④重度化防止の推進等──の4項目を取り上げている。
 
 このうち①の「介護の質の評価と科学的介護の推進」については、「今後、VISIT・CHASE等により介護の質の評価と科学的介護を推進し、介護サービスの質の向上を図っていく」とした上で、「ケアの質の向上につなげる仕組み」「VISIT・CHASEの収集項目」などについて意見を求めた。
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032_【資料】自立支援・重度化防止の推進_20200914介護給付費分科会

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 また、②の「リハビリテーション・機能訓練等」については、「ADL維持等加算や社会参加支援加算等について、現状の取得状況や課題も踏まえながら、取組を進めていく上でどのような方策が考えられるか」などの論点を挙げた。
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071_【資料】自立支援・重度化防止の推進_20200914介護給付費分科会

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データ入力、「現場の負担が大きい」

 質疑で東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)は、VISITに入力する負担を指摘した上で「何らかの抜本的な改革を行わなければいけない」との考えを示し、「CHASEも現場の負担が少なく、速やかにデータが出せる方策を進める必要がある」と述べた。

 また、ADL維持等加算について「Barthel Indexの入力の負担が大きいというデータがある」と指摘したほか、「Barthel Indexは50数年前にできた評価指標であり認知症の項目が全く入っていない」「介護業界でほとんど使われておらず普及していない」などの課題を挙げ、「介護ソフトに入っていないものを使うことは現場の負担が大きい」と指摘した。
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要介護になる原因を改善すべき

 武久会長は、東委員の発言に触れながら「介護保険下ではリハビリの専門職もあまりいないので、Barthel Indexを使ったことは当時としては適切だと思う」としながらも、「介護の世界に医療が入り、医療と介護が密接になっているので、評価方法はできれば統一する方向でお願いしたい」と述べた。

 武久会長はまた、「介護サービスに入ってくる要介護者には低栄養の方が多く、そこが非常に重要な問題。要介護になった人の要介護度をいかに軽くするかというよりは、いかに要介護にしないかということに力を入れたほうがいい」と改めて強調した。

 その上で、急性期病院から低栄養や脱水の患者が多く紹介されてくる現状を説明し、「原因をつくっているところを改善するほうが要介護者が元から減って、介護保険の財政も非常に良くなる。介護保険の段階で対応するよりも、その原因となるところから改善していくほうがいい」と述べた。

 これに厚労省の担当者は「医療と介護はよく連携しなければいけない。厚労省の内部でも、そうした連携を取らせていただきたい」とコメントした。

 武久会長の発言要旨は以下のとおり。

■ 武久会長の発言要旨
 今回、VISITとCHASEを大いに活用する、重視するという提案であり、これは非常に良いことだと思う。リハビリテーションと栄養はとても重要である。人間が生きていくためには栄養と水分がなければ生きていけない。
 介護サービスに入ってくる要介護者には低栄養の方が多く、そこが非常に重要な問題である。すなわち、要介護になった人の要介護度をいかに軽くするかというよりは、いかに要介護にしないかということに力を入れたほうがいい。
 ただ、厚労省老人保健課は、これまで主に要介護状態になった人に対応してきたように思うが、要介護にならないための予防というものが非常に重要だと思う。
 私は日本慢性期医療協会の会長をしており、医療現場の真っただ中にいる。要介護状態になる前に、その患者さんがどこにいたかと言えば、実は急性期病院に入院していたというケースが非常に多い。
 われわれは、急性期病院から送られてきた人たちを回復期や慢性期の病棟でお引き受けをして、一生懸命にリハビリや治療をするが、十分に良くならないこともある。そういう場合には、要介護状態の人を介護保険の施設などにお送りする。そのような中間的な仕事をしているので、状況をよく分かっている。
 急性期病院では、高齢者がこの20年ぐらいの間に非常に増え、今や入院患者の75%が高齢者である。ところが14年間、看護師の数は変わっていない。現場では手が回らないというのが現状である。
 今後の介護保険制度において、要介護状態になった人をただ受け入れるという状況から、要介護状態にならないようにする方向に動いてもいいのではないかと思う。
 高齢者の多くが認知症を伴っている。夜中にトイレに行く人もいる。20年前に比べて、現場の看護師は非常に大変で、音を上げている状況にある。
 そうした中で、急性期病院に高齢者が入院して要介護状態になる。こういった連鎖をなくすため、急性期病院でのリハビリ対策を充実させるなど、医療保険との関係について、もっと話し合いをしていただければ、要介護者が少し減るのでないかと思う。
 先ほど、東先生がBarthel Indexについて指摘された。現在、医療保険ではFIMを使っている。FIMとBarthel Indexには違いがある。FIMは7項目になっており、認知症の項目がある。一方、Barthel Indexには認知症の項目がない。しかし、運動項目はFIMとBarthel Indexはほとんど同じである。
 Barthel Indexは3段階ぐらいに分けてあり、FIMは7段階なので、FIMのほうが詳細である。介護保険下ではリハビリの専門職もあまりいないので、Barthel Indexを使ったというのは、当時としては適切だと思うが、介護の世界に医療が入り、医療と介護が密接になっているので、評価方法というのはできれば統一する方向でお願いしたいと思っている。こうした考えもあり、介護に栄養の重要性を入れていただいたことは非常にありがたい。
 新型コロナウイルス感染症の患者さんで、意識がほとんどなかったのにECMOで回復したという報道があった。しかし、体重は1か月で20キロ減ったという。私はびっくりした。体重60キロの人が40キロになったら、免疫力も抵抗力もないのではないか。この人は非常に運が良かったのだろうと思った。
 つまり、要介護状態になる前の治療の過程で、1日に必要な栄養分や水分がきちんと適正に投与されているかを考える必要がある。
 私は回復期や慢性期の病院を運営しているが、急性期病院から低栄養や脱水の患者さんが非常に多く紹介されてくる。やはり、このあたりを改善すべきである。原因をつくっているところを改善していくことで要介護者が減って介護保険の財政もよくなるだろう。
 介護保険側から、医療側にはなかなか言いにくいこともあるかもしれないが、私はちょうど医療・介護現場の真ん中にいるので、あえて言わせていただいた。
 低栄養や脱水の問題、そしてリハビリテーションなどについて、要介護者が介護保険に入ってきた段階で対応するよりは、その原因となるところから改善するほうがよいように思うので、ぜひ話し合いをしていただいて、良い方向に動いていただければありがたい。

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【厚労省老健局老人保健課・眞鍋馨課長】
 介護予防について武久委員からご指摘があった。そのとおりだと思っているが、老人保健課では介護予防も担当している。通常、在宅にいらっしゃる高齢者がそのまま元気でいていただけるようにという形での介護予防の介入が多く、いわゆる「通いの場」などを推進している。
 一方で、武久委員からご指摘があった、急性期や回復期の病院から介護施設に入所される際のADLの低下の状態をどのようにするか、どう考えるかであるが、ここは医療と介護がよく連携しなければいけないところだと思っている。
 前回改定でも、例えば、ケアマネジャーが入院前に関与し、そしてまた退院後にも関与するような連携の加算を設けるなど、工夫をしているところである。
 そういったことについて、介護からできることを始めていきたいと思っており、また厚労省の内部でも、そうした連携を取らせていただきたいと思っている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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