「介護サービスを集約化してはどうか」 ── 次期介護報酬改定に向け、武久会長

会長メッセージ 協会の活動等 審議会

20200827_介護給付費分科会

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は8月27日、令和3年度介護報酬改定に向けて審議した厚生労働省の会議で、「どの施設に入っても同じような状態の人は同じようなサービスを受けられる公平性を担保すべき」との考えを示した上で、「介護保険のサービスは入所、通所、訪問の3つに集約される。いろいろな事業体における同一サービスの集約化を考えてはどうか」と提言した。

 厚労省は同日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田中滋・埼玉県立大学理事長)の第183回会合をオンライン形式で開催した。

 この日の議題に入る前に、今後の介護保険サービスの在り方などをめぐり厚労省の見解を問う発言があった。

 厚労省老健局の土生栄二局長は「現場の実態を皆さまから教えていただき、その状況を把握して、さまざまな対応をしようと努力している」と理解を求めた上で、「制度、現場の努力、連携、地域の取組みなど重層的であり、わが国における非常に重要な課題として総力を挙げて取り組んでいく」との意向を示した。

 こうした発言を受け、武久会長は「2000年の時に比べてサービスが増えた」と切り出し、「基本的に介護保険のサービスは入所、通所、訪問の3つに全部、集約されるのだが、いろいろな施設ができて、施設によって条件が全く違う」と指摘した。

 その上で武久会長は「2000年から20年たった。もうそろそろ、広がったサービスを3つの基本的なサービスに集約し、それぞれのサービスは、ほとんど同じように公平にしていくような改革が必要だろう」と述べた。
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一般病床からの移行も進めて倍増を

 令和3年度改定に向けて、この日の分科会では介護医療院が議題に挙がった。委員からは、介護医療院への移行をさらに進める必要性を指摘する意見が多く出された。

 厚労省が同分科会に示した資料によると、2023年度末時点でも介護療養型医療施設にとどまる病床は12.2%、移行先が未定の病床は28.9%だった。

 武久会長は「厚労省の方々に最適な施設として介護医療院をつくっていただいた。介護医療院は増やしたほうがいい」との考えを示した上で、一般病床からの移行も進めていく必要性を指摘。「医療療養病床から介護医療院への移行が少なければ一般病床からの移行も受けていただき、現在の倍ぐらいに増やしていただくとありがたい」と述べた。

 武久会長の発言要旨は以下のとおり。

■ 今後の介護保険サービスについて
 介護保険制度が創設された2000年の時に比べて、サービスがたくさん増えた。しかも、それが全部小規模になってきている。小規模になれば非常に効率が悪いのは当然である。
 例えば、グループホームで9人に1人の当直であれば、それを老健にあてはめると100人に10人ぐらいの当直と同じ割合になる。当然のことながら、これでペイしていくこと、順調に運営していくことは非常に難しい。小規模多機能であれば、2~3人に一人の当直が必要になる。
 いろいろなサービスが新しくできて、しかも、ある一時期から小規模化がどんどん進んだ。小規模化することによって効率が悪くなり、人件費が大きくなり、収支が悪くなっている。
 基本的に介護保険のサービスというのは、入所、通所、訪問と、この3つに全部、集約される。この3つのサービスがそれぞれの施設なり、サービス事業の中に組み込まれているわけだが、その施設によっては、またサービスによっては、通所なら通所、訪問なら訪問、入所なら入所の条件がそれぞれ違う。いろいろな施設がつくられ、施設によって条件が全く違う。
 2000年から20年たった。もうそろそろ広がったサービスを、この3つの基本的なサービスに集約して、それぞれのサービスは、人員に対してもサービスに対しても同じように公平にしていくような改革というのが必要だろう。
 例えば、100名の特養であれば、認知症の人はたくさん入所しているし、同じように、老健にもグループホームにも認知症の人が入所している。しかし現実には、グループホームの認知症が、老健にいる認知症と比べて症状が重いということは示されていない。
 同じような状態の患者さんであれば、同じ日本にいれば、どの施設に入っても同じようなサービスを受けられる公平性というものを担保すべきではないか。それぞれの施設にいるスタッフに関しても統一していく時期ではないかと思う。
 大変ご苦労されていると思うが、2021年度の改定においては、3つの基本的な介護保険のサービスの中で、いろんな事業体に分かれた同一サービスについて集約化するということも考えてはどうか。

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■ 介護医療院について
 介護医療院へのスムーズな移行に当協会としても協力したいと思っている。調査によると、介護医療院への移行について態度を決めかねている病院が半数近くあり、2024年でも介護療養型医療施設に残るというアンケート結果が出ているのは残念である。
 われわれは、厚労省の方々に最適な施設として介護医療院をつくっていただいたと思っている。すなわち、看取りをするのは病院ではない。
 看取りは、本当に寿命が来ている場合で、栄養や水分を与えても受け付けなくなる時期に入ってから行われるものである。
 介護医療院は病院内にある。看取りの場所として最適であると思う。従来のように病院の一般病棟や療養病棟などで看取りをするよりも、介護医療院にシフトして、そこで看取るという形が一番いいと思う。
 令和2年6月末時点での介護医療院開設数はまだ3万2千床ぐらいである。寿命が尽きようとする方々に安定的で安らかな看取りをするために、当初の予定どおり10万床になればいい。スタッフもたくさんいる介護医療院での看取りが望ましい。
 10万床までいかなくても、3万2千床の倍ぐらいは必要である。というのは、特養でも看取りが行われているが、残念ながら特養の看護師は100人に3人しかいない。介護職員に全面的に看取りをしていただいており、気の毒な状況になっている。やはり最期は医師と看護師がいて看取ったほうがよいと思うので、介護医療院は増やしたほうがいい。病院の中にあって、医師がいて看護師がいて看取りをする。
 今回のアンケートでは、2024年でも態度を決めかねている病院が半分近くあるが、徐々に増えてくると思う。
 現在、一般病床から介護医療院にあまり移行できないような状況になっているが、一般病床のベッドが空いている。このコロナの状況でも40%ぐらい空いているので、医療療養病床から介護医療院への移行が少ないのであれば、一般病床からの移行も受けていただいて、今の倍ぐらいは介護医療院をつくっていただけるとありがたい。
 20対1の看護体制である医療療養病床では、医療区分の2・3が90%を占め非常に重い患者さんが入っている。現在の医療療養病床25対1や介護療養病床から、20対1の医療療養病床にシフトするのはかなり厳しいと思われる。
 患者さんが終末期の状態になってきたら、介護医療院に入っていただく。そこで栄養や水分を与えて良くなる人は退院していくが、そういう対応をしても回復が難しい場合には、介護医療院で手厚く看取るという体制を目指していただきたい。

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■ 特養のユニット推進等について
 一方、特養については、ユニットを推進しているわけだが、ユニットと多床室という2つの機能を持った100名の特養がある。このミックス型のタイプはほとんど赤字である。
 というのは、2つの施設は別々にきちんと人員を配置する基準があり、100ベッド全部がユニットの場合に比べて、非常に多くの人員が必要になる。このミックス型の特養をすべてユニットにしようと進められているが、残念ながら、ユニットは1人当たり月に15万円以上もかかるということもあり、なかなか厳しいものがある。こうしたことも検討して、運営できるようにしていただきたい。
 また、地方の過疎地にある特養の問題もある。確実にベッドが空いてきている。しかし、要介護度2や1の人は原則的には入所できない。いろいろな条件で入れるようにはなってきてはいるものの、現状は入れないということで、要介護度の軽い人は遠い町へ行かざるを得ない。
 しかし、その地方の特養は空いている。そういう状況の場合には、要介護度3以上でなければ特養に入れないという今の条件を少し緩和していただかないと、地域に密着した施設とはならないのではないか。
 それから、先ほども申し上げたが、何もかも小規模化してきて、小規模特養の30床は、ほとんど赤字になっている。東京都には200ベッド以上の特養などもある。同じ特養でも、都市部と過疎地によって、ものすごく大きな差がある。
 これを単純に1つのくくりの介護保険施設として、同一視して運営するようにしてもよいのかというと、少し問題が出てくると思う。この辺のところもご考慮いただいて改定していただければ幸いである。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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