「第20回日本慢性期医療学会福井大会」のご報告(4) ─ シンポ1(慢性期近未来)

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シンポ1「慢性期医療の近未来」

 

■ パネルディスカッション
 

[武久氏]
座長・武久洋三会長 私から3人のシンポジストの先生方にご質問したい。まず高杉先生、在宅医療政策の推進に関する日本医師会の方針をお聞かせいただきたい。
 
[高杉氏]
 私が子どものころは、ちょっと熱を出すと開業医の先生が往診に来てくれた。そういう時代を思い出しながら今の医療を考えると、「待ちの医療」では駄目な時代が来るだろう。医療の原点に帰る必要がある。在宅医療の醍醐味を味わえば、若い先生方も変わってくるだろう。

 地域の医師会が医局になり、患者さん宅が病室になる。院内の回診と同じように訪問診療をする。そういう地域の安心づくりに地区医師会がしっかり関わっていくこと、これがキーワードになる。

[武久氏]
 ありがとうございます。堺先生にお尋ねしたい。「高度急性期」を「急性期病床群」として区分けしたら、その残りの部分はどうするか、その処方せんがないまま「急性期病床群」が出てきたような気がする。厚生労働省は、約100万床ある「一般病床」のうちの約50万床を「急性期病床群」と想定していると思うが、残りの50万床について、病院団体として何らかのご提案はあるか。
 
[堺氏]
 それは非常に大きな課題だが、急性期の立場から、その後のポストアキュートをどうするのか言いにくい。病院単位か病棟単位か、いろいろな議論があると思うが、軽々には言えない。

シンポジスト

[武久氏]
 急性期病院の中に、慢性期の患者さんがいる。厚労省も同じような考えを持っているだろう。ただ、「急性期病床群」に入れない病院が直ちに良質な慢性期病院になることは難しいと思う。

 何が「急性期」で、何が「慢性期」かについては議論があるところだが、いずれも診療の質が問われていることは確かだろう。

 大久保副会長にお尋ねしたい。「盃型」になっている「7対1」「10対1」について。「7対1入院基本料」が新設された2006年度以降、約15万人の看護師が移動しないと、このような形にはならない。

 一方、100万床のうち50万床が「急性期病床群」ではないと仮定すれば、看護師の再移動もあり得ると思うが、日本看護協会としてどのように考えているか。
 
[大久保氏]
 おっしゃるように、看護師の配置を「ツボ型」から「スルメ型」に変えていく必要がある。急性期と慢性期の機能が明確化されれば、看護師の配置も変わるだろう。

 診療報酬上で有利になるので「7対1入院基本料」を算定する病院が増えたと思うが、「10対1」でも決して損にならないような計算もある。今後、診療報酬上で何らかの手当てをして、看護師の配置を左右させていくことも必要になるだろう。
 
[武久氏]
 フロアーから、何かご質問はあるだろうか。

[池端幸彦氏(福井大会大会長)]
 大久保先生にお尋ねする。在宅医療の訪問看護師が不足しているので、「訪問看護推進協議会」で、その理由をいろいろ検討している。例えば、急性期病院ではOJTのトレーニングシステムが非常に発達しているが、訪問看護ではなかなか難しいという事情がある。そこで、訪問看護のOJTシステムについて、日本看護協会として何らかの取組みやお考えはあるか。

[大久保氏]
 日本看護協会でも、それを非常に重要視している。在宅医療に従事する看護師の確保や養成への取組みを進めている。訪問看護のOJTは行っているが、枠が少なかった。

 これまでは、命を助ける急性期医療にポイントが置かれていたため、急性期の教育システムは整っているが、今後は慢性期や在宅などを充実していく必要があると認識している。そういう動きが徐々に出てきているので、もう少しお待ちいただきたい。

[武久氏]
 大久保先生も講演の中で触れられたが、「特定看護師」の問題について、医師会や病院団体などの意見が違うと思う。特養に重症の患者さんが入所しても医師はいない、看護師の当直もない。そうすると、オンコールで看護師さんが来て、患者さんの状態を見る。そこで、「救急車を呼びなさい」とか「朝まで様子をみよう」ということを看護師が判断している。実際、現場はそうやって動いている。

 私は、特養や介護施設にいる看護師さんは、一番高いレベルが必要ではないかと思っている。「特定看護師」について、日本看護協会は急性期を想定しているのか、慢性期を想定しているのか。

[大久保氏]
 すべての分野に対応できればいいが、やはり一番求められているのは在宅や特養だと思う。試行事業では、特養で深夜に発熱した入所者に対し、医師が不在でも一定の対応をしている特定ナースがいる。入所者にも家族にも喜ばれているとの報告を聞いている。これからは、特養や訪問看護で「特定看護師」が特に必要とされるだろう。

[武久氏]
 現実には行われているが、法制化となると、高杉先生いかがだろうか。

[高杉氏]
 「特定看護師」の法制化は二重資格になるので、基本的には反対だ。ただし、がんや小児、在宅医療など、各分野に精通した認定看護師が能力を高めることは非常にいいことだと思う。その能力アップがなければ地域医療はもたない。

 かつて助産師問題があった。助産師がいないとお産に支障があるような、「その人がいなければその行為ができない」という資格をつくるべきではない。かえって不便になると考える。従って、在宅医療を専門とする看護師の養成を医療界は求めている。

[武久氏]
 医療は歴史的に、看護師と協調してやってきた。われわれも病院では看護師に頼っている部分が多く、在宅医療ではさらに、いろいろな指示をあらかじめ出しておくことが増えるだろう。これからの医師と看護師の関係について、急性期病院の立場からいかがだろうか。
 
[堺氏]
 「特定看護師」の問題は、救急や在宅医療など広範囲にわたって議論されている。すべておしなべて決めようとするとなかなか難しいが、1つひとつの場面では必ずしも難しい状況ではないと思う。

[武久氏]
 看護師は非常に頼りになる存在だと思っている。在宅医療を含め、地域包括ケアシステムは医療のサポートが強くないとなかなかうまくいかない。私は国の一大事だと思っている。各医療機関、各職種が己の利己的な考え方を捨てて、協調して準備していく必要がある。そのためには、医療団体の長である日本医師会のサポートが非常に重要である。高杉先生、日本医師会としての決意をお願いしたい。

[高杉氏]
 会長の代行としてこういう場に出ると非常に厳しいということを痛感している(笑)。

 2025年に向けて今回の診療報酬・介護報酬の同時改定があった。その中に読みとれるものがたくさんある。読みとって動かなければならないことも多い。日本医師会は先頭に立って、情報をくみ取って流し、あるいは各地での先駆的な取組みを紹介し、各地域に合った医療・介護体制の構築に努めていきたい。ナースを中心とした各医療関係の職種を巻き込んで、町づくりをしていきたい。

[武久氏]
 ありがとうございました。語り尽くせない部分もあったと思うが、これでシンポジウムを終わりたい。[→(5)はこちら]
 

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